015 腐果の駆除、双子花のゆりかご
深い森の奥。
木漏れ日が差し込むささやかな一軒家で、エルフの双子であるミナとリナは、母親と共にひっそりと暮らしていました。
エルフの双子は『凶兆』とされ、彼女たちは実の父親に捨てられ、里を追われた過去を持っています。それでも母親だけは二人を見捨てず、世間の目から隠れるようにして、この森で愛を注いで育ててきました。
しかし、そのささやかな幸福は、唐突に破壊されました。
怪しげな薬で正気を失った野盗たちが、森の奥深くへと迷い込んできたのです。
「逃げて、ミナ、リナ! 振り返らないで!」
母親は双子を逃がすため自らが囮となり、野盗たちの暴力と下劣な慰みを一身に受けました。
双子はボロボロと涙をこぼしながら、茨に手足を引っ掻かれ、必死に森を走ります。
「お母さんっ……!」
「リナ、走って! 捕まっちゃダメっ!」
ですが、幼い子供の足で逃げ切れるはずもありません。
下卑た笑い声を上げながら追いかけてきた野盗たちに、とうとう追いつかれてしまいました。
◇
一方その頃。
私は日課の散歩として、森の木々を縫うように歩いていました。
「おや?」
ふと、風に乗って流れてきた匂いに足を止めます。
血と泥の臭い。そして何より、純度一〇〇%の『悲痛な絶望』の香り。
「……なんだか甘くて、どっしりとした重たい香りがしますね。これは、極上の基材の予感です」
私は香りの源へと、軽やかに歩みを進めました。
◇
「ひひっ、捕まえたぜぇ。エルフのガキなんて高く売れるぞ」
「痛いっ! やめて、離してぇっ!」
「嫌ぁぁッ! 誰か、助けてっ!」
野盗たちが双子の腕を掴み、欲望を剥き出しにしたその瞬間。
私はふわりと、彼らの目の前に降り立ちました。
「おやおや。美しい森に、ひどく汚らしい害虫が入り込んでいるようですね」
突然現れた私を見て、野盗たちは薬の勢いそのままに襲いかかってこようとしました。
ですが、私は指先一つ動かしません。
ただ、静かに微笑みを深め、ほんの少しだけ『神威(絶対的な神の威圧)』を解放しました。
「あ、アガッ……!?」
生物としての根源的な恐怖。
次元の違うプレッシャーに当てられ、野盗たちは武器を取り落とし、白目を剥いて口から泡を吹き、地面を転げ回り始めました。
私は彼らの頭上から、恐怖で熟れきったドス黒い『感情の果実』をポンッと抜き取ります。
そして鼻先へ持っていき、不快そうに眉をひそめました。
「……薬のせいなのか、中身まで全部腐っていますね。これでは使い物になりません」
私はゴミでも捨てるように、その果実を地面に捨てました。
そして、足の裏で『ぐしゃっ』と無慈悲に踏み潰します。
精神の根源たる果実を潰された野盗たちは、ピクリとも動かなくなり、完全に廃人と化しました。
「あ、あの……」
「お姉ちゃん……私たち、助けて……もらえたの……?」
地面にへたり込んだまま、ミナとリナが震える声で私を見上げます。
その瞳には、恐怖と、神に対するような畏敬の念が混じっていました。
「ええ。もう怖い虫はいなくなりましたよ」
「そうだ! お母さん!」
双子は弾かれたように立ち上がり、来た道を駆け出しました。
◇
双子は急いで荒らされた一軒家へと戻り、私も彼女たちの後を追いかけました。
そこには、既に死んでいた野盗と息も絶え絶えの母親の姿がありました。
私の魔法を使えば治せたかもしれませんが、あえて「手遅れですね」と首を振りました。
「あぁ……どうか、この子たちを……」
母親は最後の力を振り絞り、血に染まった手で私のドレスの裾を掴み、双子を託して事切れました。
「お母さん……? ねえ、嘘でしょ……やだ、目を開けて!」
「うわぁぁぁんッ! お母さぁん! 私たちを置いていかないでぇっ!」
目の前で自分たちを愛してくれた、たった一人の肉親を失った双子。
世界で完全に孤立した彼女たちの頭上に、ドロドロに重たい『絶望』と『孤独』の蕾が、一気に花開きました。
(素晴らしい……!)
私は内心で打ち震えるほどの歓喜を覚えながら、とびきり優しく、慈母のような笑顔で、泣き叫ぶ双子をきつく抱きしめました。
「うぅ、あぁぁんっ……怖いよぉ……っ」
「私たち、これからどうしたら……っ」
「可哀想に。もう大丈夫ですよ。これからは、私が貴女たちのお母様代わりです」
◇
その後、私は魔法を使い、森のさらに奥深く――誰にも見つからない絶対安全な場所に、立派な丸太小屋を一瞬で建築しました。
双子をそこへ保護し、フカフカのベッドに寝かせ、温かくて甘いスープを飲ませ、そして無限の「優しさ」を与えました。
外の世界は恐ろしい野盗や、自分たちを迫害する者ばかり。
でも、このお姉様(私)だけは、自分たちの存在を全肯定して、絶対に守ってくれる。
双子は互いに身を寄せ合いながら、私という圧倒的な光に、完全に依存していきました。
夜。
双子が泥のように深い眠りについた後。
私はベッドの脇に立ち、彼女たちの無防備な寝顔から立ち昇る、重たくて甘い『依存』の蜜を、ガラス製のストロー(魔導具)でチューチューと吸い上げました。
「あぁ……なんという芳醇で、重たい香り……」
私は吸い上げた香りを肺の底まで満たし、恍惚とした吐息を漏らしました。
「これさえあれば、どんな尖った香りもまとめ上げる、最高の基材になります。
……ここは、貴女たちだけの安全なプランターですよ。外の厳しい風に当たる必要はありません。ずっと、ずーっと、私だけを頼って、その甘い蜜を出し続けてくださいね」
世界から完全に隔離された箱庭。
そこで自発的に「飼われること」を選んだ美しい双子と、その依存を極上の養分として啜る私。
この温室は、しばらくの間、私にとって最高の憩いの場になりそうです。




