4話「オタクと厄介オタク。そして、王を崇拝する執事」
ようやく街に辿り着いた俺達は、お互いの苦労を労い合いながら街に足を踏み入れる。
「ようやく、たどり着いたな~。イチズちゃんもお疲れ様」
「ほんと大変だったよ!!臨くんもお疲れ様」
たどり着いたその街は、高い外壁に囲まれており、色々な店が立ち並ぶ和製ヨーロッパのようなシックな町並みの向こうには、灰色の石を積み重ねて出来た立派な城とその城の屋根には5本ほどの青い塔がそびえ建っていた。
そんな、街並みを眺めながら歩みを進める俺達。
その時だった。多大なる歓声や称賛の声と共に街の人々が次々と集まってくるではないか。
「あ!このお方達が配信で見た!魔王軍の魔物達を倒してくれた勇者オタクの臨様とVTuberのイチズ様だ!」
「うわ!ほんとだ!!臨様とイチズ様!魔物を倒してくださりありがとうございます!感謝をしてもしきれません!」
まさかここまで名が広まるのが早いとは。と、この世界でのネットの影響の凄さに感心する。
「あ!どうも!勇者だなんて、恐れ多い。そんなに褒めて頂き、ありがとうございます!!」
俺は手で自分の頭を撫でながら、照れる。
やはり褒め称えられるのは気持ちがいい。だが、ここで天狗になるわけにはいけない。と自惚れそうになる気持ちを抑える。
そして、イチズはというと大勢に囲まれながら、先程の魔物との戦闘を身振り手振りを交えながら楽しそうに話していた。
「うわっ!凄い人の量。みんな配信見てくれてありがとうね!ほんと魔物がこ~んな!!多くてさ大変だったんだから!配信で見たとは思うけど!臨くんのオタ芸みたいなスキルも凄くてさ!あとね!あとね!ピコピコハンマーを使って次々と敵を吹き飛ばすの!ほんと爽快だったんだよ!あとは!あとは~…」
大変だった戦闘も後々、話のネタとして消化する所や明るく笑顔で話す姿にイチズらしさを感じて、素晴らしいなと心の底からそう思う。
「イチズちゃん!みんな配信見てくれたみたいで良かったね!きっと俺達を応援してくれてるんだよ!頑張ろうよ!!」
推しであるイチズのファンが増えそうな予感がするのも喜ばしい事だ。
だが、そう言いながらもこの異世界で、俺は古参である事に間違いない。と一人思う。
「だね!この人達のためにも皆に配信を届けて、魔王を倒して異世界を救わなきゃだね!」
称賛の声により、想いが高まり、より一層気合いが入る俺達
すると、その人々の称賛の声を遮るようにどこからか俺達の事を言っているであろう。低い男性の声が聞こえる。
「え?何でここにイチズちゃんが!?しかも隣にいるやつは誰なんだ!?ちょっとそこで待ってろ!話がある!」
俺達を知っているであろう、その声。
「なんか、俺達を呼んでない?お~い!誰なんだ~!」
「確かに!どこからか聞こえるよね! 私の姿と名前を知ってるってことはファンの子かな?どこいるの~?」
その呼び声に答える俺とイチズ
「ここにいるだろう!ここ!ここ!ちょっとすみません!!すみません!通ります」
人波をかき分け終わり、ようやく俺達の目の前に現れたそいつは誰なのかも分からず戸惑う俺とイチズ
年齢は18歳くらいで、俺よりも身長は少し高く、173cmくらいの痩せ型なイケメンの男で、格好いい容姿とは打って変わって、服装は黒い文字で、"推し"と刺繍された面白Tシャツを着ている普通の男性だ。
「君もイチズちゃんのファンの子?それともイチズちゃんを昔から知ってるという事は俺達と同じく転移者?」
「そうそう!現代から私の配信を見てて、知ってるファンの人?それとも、あなたも配信を見てファンになった子なの?」
この人もまた配信を見て好きになった、イチズのオタクだろうか。それとも、俺達と同じく異世界に転移した同志だろうか。
俺と同じく昔からイチズを知る同志なら魅力を語り合いたいと思い、手を差し伸べて握手を求めようとするが…。
「パンッ」
「え?」
握手を求めるその手は叩かれてしまった。
「君と馴れ合うつもりはないし、名乗るつもりもない。それよりもだ、なんで君なんかが、この可愛くて麗しき翠光に輝く乙女と一緒にいるんだ!」
出会って早々。なんて失礼なやつなんだ。と怒る俺に対してイチズはというと。
「可愛くて、麗しき。乙女だ!なんて。嬉しい」
こんな時でも、イチズは分かりやすく、照れて赤面した表情でそう言った。
「「可愛い」。」
嫌な事に、このオタクと一緒の事を思っていたようだ。
やはり、この率直な想いは同じイチズのオタクに違いないとその想いは確信に変わった。
「真似するんじゃない!」
「い~や!そっちこそだね!」
いがみ合うもどこか似ている俺達。
醜い争いだが、許してくれ。喧嘩を振ってきたのは相手からだと。自分に言い聞かせて、正当化する。
「は~?イケメンだからって調子に乗るなよ! もしかしてお前!あの現代でもいた厄介オタクか!?」
「はぁ~!!だれが厄介オタクだ!!私は、さっきのイチズの配信を見て!この翠光の乙女に一目惚れしたんだ!!こんな奴と一緒ではなくて、僕と契約をしないか?お嬢様さん」
いがみ合う俺とこの厄介オタク
「契約!?なんだそれ。なに、どさくさに紛れて勧誘しようとしてるんだ!?ダメに決まってるだろ」
どさくさに紛れてこの厄介オタクはイチズちゃんを勧誘しようとしてきた。
「え~!!気持ちは嬉しいけど、いきなり誘われてもな~!ごめん!無理かも!」
フラれて露骨に膝をつけて、悔しがる厄介オタク
「あ~あ!フられてやんの!!ざまぁ」
フラれて悔しそうな厄介オタクをさっきのお返しと言わんばかりに煽る俺
「ぐぬぬぬ…覚えてろよ!」
悔しそうな表情を見せて、名乗らないまま、喧嘩を売ってきた初対面で失礼な厄介オタクは雑魚ムーヴをかましながら去って行った。
「まったく、なんだったんだ。あの失礼なオタクは。名前も、転生者かどうかもわからなかったぞ!あ~それにしても!あの悔しがる姿は傑作だったな~!」
まだ怒りが消費しきれずにイライラが少し残るが、あの悔しがる姿を見れたのでまぁ良しとしようじゃないか。
「まぁ気持ちは分かるけど!あの言動は良くないよ!折角、勇者でかっこいいはずなのに!あの感じだと!皆に悪い感じにとらえられるでしょ!?気持ちはわかるけど抑えて!抑えて!ほら!ほら!気持ちを切り替えるよ!」
周りからの見え方も考量して、俺の態度に叱るイチズ
「うん。確かにそうだね」
相手の無礼さはあったものの、確かに俺も言いすぎた事はあったかも。と推しに正されて反省する。
そんな矢先だった。
「あ!!勇者・臨様とVTuberのイチズ様~!!ようやく見つけましたぞ!」
その声をする方を見てみると、そこに居たのはタキシードに身を包む、目立つ二本の白い髭が生えている紳士的な50代くらいの男性だった。
「次はどなたですか~?」
「次は一体、どんな用なんだ」
俺達はこの男性にそう問いかける
「申し遅れました。私、この国の王女であるセテウス様に遣えし執事のカエザと申します」
どうやら、カエザと名乗るこの人は、この国の王女であるセテウスに遣える執事らしい
「それで?カエザさん。俺達を探してたっぽいですけど何か用があるんですか?」
「それがですね!この国の王女しゃま…。ごほん!失礼。王女であるセテウス様が魔物を倒してくれた貴方にお礼がしたいとお呼びです!どうぞ、私について来てください」
「ん!?今、何か言いました?…。」
「今…王女しゃまって言おうと…もごもご」
「イチズちゃん!ダメだ!指摘しまったら」
突先に触れたらいけない事だと感じ取った俺は、指摘しようとするイチズの口を手てでおさえて耳元でイチズに指摘をする。
「モゴモゴモゴ(わかった)」
今のは聞かなかった事にしておこうと心の底にしまった。
「なるほど!お礼がしたいと!何のお礼が待ってるんだろうな!」
「だね!豪勢な料理や金銀財宝だったりするかな!!ワクワクだね!」
王、直々のお礼に胸を躍らせながら、国王が待つ城まで案内するカエザについていく俺達
その道中で会話をする事にした。
「勇者様達の配信を主であるセテウス様や他の者達と共に拝見しましたが、ほんと大変な旅路みたいでしたね」
「いや~!!ほんと大変だったんですよ!道を歩いてたらいきなり魔物が向かってきたんで驚きましたよ」
「ほんと!ほんと!めっちゃ大変だったんだから!推具とかいうのは使い方分からないし、魔物の量はめっちゃ多いし」
王女セテウスも俺達の配信を見てたらしい。
配信だったとはいえ、お気に召すほどの戦いが出来ていただろうかと少し不安になる
「それは!それは!本当にお疲れ様でした。苦労しながらもこの世界を救ってくださりありがとうございます」
すると突然、立ち止まりこちらを向きながら御礼を述べて深々と頭を下げるカエザ
「いえいえ!そんな!そんな!頭をお上げください!」
「うん!大丈夫だよ!頭を上げて!上げて!私達が善意でやってる事だから!」
こんな丁寧に御礼を言われたら、こちらまで謙遜してしまう。
「そう…ですか。でも、何か御礼をさせて頂くためにも引き続き、国王がいる城までご案内させて頂きます」
不服そうな様子のカエザ
そんなカエザと共に俺達は再び歩みを進める
すると。今まで気にも止めなかったが、すれ違う人々の隣には獣人やエルフ、はたまたアイドル衣装の男性や女性などの幅広い種族がいるのが目に止まる。
「あの~!一つ質問なんですけど、すれ違うこの街の人達って常に隣に獣人やエルフ、俺達と同じような人間まで一緒にいたり、隣にいる人を拝んでいたりするんですけど、何かあるんですか?」
何も知らない人が見れば、異様な光景だ。
だが、生憎。俺達はある程度はヒストールから聞かされているため。これがヒストールが言っていた魔王の企みにも繋がってくる"推し"の存在だろうかと憶測を立てながら質問をした。
「あ!勇者様はこの世界についてご存じなかったのですか!?それは失礼致しました。それでは、ご説明させて頂きます」
そう言うと、歩きながら推しとファンの契約についてカエザは話し始めた。
「まず、崇拝する対象を"推し"と崇拝する人を"ファン"と申します。推しのいない人々が、獣人やエルフなどの異種族と契約を交わす事で互いの右手に紋章が出てきて"推し"とファン"の関係となり、常に行動を共にする事になります。なお、契約を交わす推しは絶対に一人ではいけないという事では御座いませんので、何人でも契約を交わす事も可能ですし、契約を解除し、推しを変える"推し変"という事も可能では御座います。ですが、これに関しては心苦しい限りです…。」
「なるほど。やっぱり推し変というのは心苦しいですよね!」
「私も推し変されたら悲しいもん。」
自然なことなのだが、オタクとしてもファンとしても推し変といものは心苦しいものなのだ。
この世界だと、契約解除=パーティーからの脱退という事なのだからより一層辛い事だろう。
一通り話を聞いた俺は、疑問に思い、カエザに質問を投げ掛ける
「あの!質問なんですけど、推しとファンが契約を交わさない事でなにかデメリットはあるんですか?」
「それはもちろん!契約を交わさなければ、その関係は何も生まれない。例え、応援したり、貢いだとしても、ステータスに反映せず、こちらの想いは届かず、推しに貢献できないという無意味でとても切ない関係を迎えます。ですが、推しとファン契約を交わすことで、対等な関係となり、ファンは推しを応援する事で、幸福度や生きる糧というものがあり常に幸せで、しかも!ご存じかも知れませんが、推しと共に戦闘をして、各々のスキルを発動する事でオシポというスキルポイントが溜まる。冒険者にとってはたまらない得点を得れます。
「一方、推しはというと、直に相手の想いを受け止める事ができ、幸福度やモチベが増えて、成長する糧となり!応援される事で、同じくオシポが貯まることや共に行動をする事で戦闘時などに助けてあげる事ができます」
我々がいた世界の関係とは似て異なり、契約を交わすことで協力関係が生まれ、与える愛や想いを成長の糧にお互いに高め合えるパーティーの関係といった所だろうか。
「その推しとファンの契約って必ず結ばれるものなんですか?直ぐに結ばれるのなら周りに沢山の推しが居る人が居ても良さそうなのに。」
「確かに!見る感じ、みんなが皆推しがいるって訳でもなさそうだし!難しい感じ?」
「勇者様が仰る通り、この契約は絶対にということは御座いません。相手の想いを掴み、この人になら、推されても良いかもと推しの想いが動き、ファンとの想いが一致した時にのみ契約が結ばれます。ですので、私達にとって推しの存在はとても大切なものとなっているんです。ですので改めてですが、勇者様にはそんな我々の大切な関係を無慈悲に引き裂こうとする魔王軍を倒して欲しいのです!お願いします!」
ここまで話されたら嫌でも、同じオタクとしてかけがえのない推しの大切さが伝わり共感する。
「分かりました!俺も同じくオタクだからその想い、分かります!絶対に隣にいる推しのイチズちゃんと共にこの世界を救って見せますよ!」
「だね!私も今まで、ファンの人達に支えられてきたから世界は違うけどここで恩返ししなきゃだね!」
やはり、ヒストールから聞いた魔王の企みや自分の経験からも推しの存在の大切さは実感していたが、ここまで掛け替えのない存在になっていたとは。改めてこの世界での推しとファンとの関係の大切さを同じオタクの同志としても守りたいという決心はより深いものとなった。
一連の話を聞いて、俺とイチズの関係もそんな感じなのか。でも、契約をしてないしと、疑問を残しながらも後からヒストールに聞こうと一旦疑問を後回しにする。
「それはありがとうございます!今更ですが、この町に来られるのは初めてですし、この町についてご存じない感じですよね?」
「あ!そういえば!町に踏み入ってから突然人達が押し寄せてきてから色々あって、さっきの説明から推しとファンの関係については知れたけど、この町の名称とか歴史とか知らないや!」
「ほんとだ!私達。この町についてはあまり知らないかも!」
「では、次にこの街の名称と概要について説明をさせて頂きます」
この街の概要についてカエザが教えてくれるらしい
「まずこの街には名称が御座います、その名前というのが愛でる町・ヒュースといいます。この街は魔王の城までの距離は遠いものの推しを持つ、ファンの人口が多いことから狙われやすい町でもあるのですよ!そして、この国の王女というのが…」
話している途中で俺達は王女の城にまで辿り着いていた。
「たどり着いた事ですし、説明はここら辺で終いにさせて頂きます」
「ほんと!ご説明をありがとうございました」
「色々とこの世界や町について知れたよ!ありがとう!!」
灰色の石を積み重ねて出来た立派な城とそこにそびえ立つ何本もの青い塔はとても立派なものだ
「うわっ!美しくてすごい立派な城ですね…!?ん?誰か城の屋根に居るぞ!何が始まるんだろう?」
「早速おもてなしかな?ワクワクだね」
しばらく見ていると…
誰かが自分達に気づいたのか。4人くらいの兵士らしき人物が城の屋根に上り、"勇者・臨様とVTuber・イチズ様御一行ご歓迎"と文字が書かれた垂れ幕を掲げる作業をするのが俺達の目に留まった。
「ちょっと!?カエザさん!これって何なんです?」
「まって…!?なにこれ。さすがにこれは恥ずかしすぎるよ!!」
突然の事に動揺する俺とイチズ
「これと言われましても、勇者様をおもてなしするための垂れ幕に御座います!城の者達総出でおもてなしさせて頂いております。素晴らしいですよね?」
勇者様をもてなすならここまでしないとと、言わんばかりに当然の事のような感じのカエザ
「ちょっ!おもてなしはありがたいですが、さすがにこれは恥ずかしすぎます!イチズちゃんもそう思うよね?」
「うん!うん!気持ちは嬉しいけど、めっちゃ目立つし!さすがに恥ずかしいから下げてもらっても大丈夫かな!」
「あ…。そうですか。分かりました。そこの兵士達!勇者様達が垂れ幕を御下げしろとご命令だ。」
不服そうな表情でカエザはそう兵士に命令をした。
「「は!!分かりました!」」
そう、指示された兵士達は大きな声で返事をし、手際よく垂れ幕をしまっていく。
「こちらでよろしいでしょうか?勇者様のお気持ちも知らずに失礼致しました」
カエザは申し訳なさそうに俺達に軽く頭を下げて謝罪をしながらそう言った。
「いえいえ!!頭を上げてください!お気持ちは嬉しいので!ありがとうございます!」
歓迎されるのは嬉しいがここまで大々的にされるとこちらまで遠慮してしまう。
「ふぅ~!やっぱりこっちの方がいいよ!大々的にされると私達も恥ずかしいし、さっきみたいに城にファンが押し寄せて来ても迷惑がかかるからね!」
カエザ達の想いをくみ取りつつ、自分達にも城の者達にも迷惑をかけないようにとフォローを入れる。
ほんとこの町の人達には来てからといい、散々振り回されっぱなしで疲労感が募る俺達
「では、最初の歓迎も終わった事ですし、さぁさぁ中へお入りください!!」
案内され、城の大きく閉ざされた灰色の扉を開けた瞬間、俺達の目の前に広がったのは驚きの光景だった。
「え!なに!?これがこの国の王女!?王女というより姫じゃない!?」
あまりの驚きに大きな声が出てしまった。
「え!?まって…王女様ってメイド姿じゃん!?」
イチズも同様に驚いている。
それもそのはず、高い天井からは壮麗なシャンデリアが下がり、壁には歴史あるタペストリーが飾られている、その広大な空間の最奥、一段高くなった玉座。その玉座にはメイド服を着た年齢は20歳くらいの、髪色はピンク髪のロングヘアーで、緑色の美しい瞳に、猫耳のカチューシャを着けている女王が座っており、玉座の前のレッドカーペットが敷かれた場所には、色々な色彩の典型的なオタクを感じさせる"王女命"と書かれた法被を羽織っている、この国でいう所の騎士であろう四人が推光棒らしきものを腰の鞘に携えて、横並びになり王に向かって跪いていたのだから…。




