断罪イベント365ー第15回 王妃再び
断罪イベントで365編の短編が書けるか、実験中。
婚約破棄・ざまぁの王道テンプレから始まり、
断罪の先にどこまで広げられるか挑戦しています。
「……つまり、浮気というのは、
真に人を愛しているからこそ生まれる感情であり――」
壇上に立つ王子の声が、大広間に高らかに響く。
「心が揺れ動くこと、それ自体が“愛の証”である!」
観衆「……」
観衆「……前回と同じ意味不明理論。」
どこかでため息が漏れた。
数日前、婚約者アイリスにトンチンカンな
“浮気理論”を展開して自爆したばかりの王子だったが、
まったく懲りていない様子で、今日も壇上に立っていた。
「父上も言っていた!『浮気しない男など存在しない。
だからこそ文学に描かれるのだ』と!」
観衆の間に、軽いざわめきが広がる。
誰もが「理論が破綻・・」と思っていた。
今日の断罪対象は、新たな婚約者候補・マリア・ド・ルフェール嬢。
王子の語る“罪状”は、前回と似たようなものだった。
「お茶会で隣の男性と笑い合っていた」
「猫を褒めた時の声色が、俺の時と違った」
「俺よりも紅茶を先に選んだ」
観衆
観衆(これは断罪というよりポエム)
黒幕令嬢エルミナが頷きながら加勢する。
「殿下のお心がどれだけ傷ついたか、
マリア様はご理解されておられないようですわ」
マリアは微笑みながら静かに一礼した。
「私は殿下の心の繊細さに感服しております」
皮肉だと気づかない王子は、得意げにうなずいた。
「よろしい。ではこれより、断罪を――」
そのときだった。
**バン――ッ!**
威厳ある足音が壇上に響いた。
会場の全員がそちらを振り向く。
玉座の階段を、優雅に、しかし鋭く降りてくる女性――
王妃、エレオノーラ・グランシェールである。
観衆「……王妃陛下……!」
王子の顔が引きつる。
「お、お母上? なぜこちらに――」
王妃は答えず、ただゆっくりと王子の正面に立った。
背筋を伸ばし、まっすぐ息子を見据える。
「また、その話をしているのね」
その声は、静かでありながら刃のように鋭かった。
王子は笑ってごまかそうとした。
「い、いえ、これはその、前回の理論の延長でして……
つまり、愛情とは不安定なものであり――」
王妃「延長ではありません。**暴走**です」
ぴたりと空気が止まった。
王妃は一歩前に出て、声を強めた。
「あなたの口から語られる“愛情”とやらは、
他者を傷つけてもよいという理屈にすり替えられている。
それはただの“免罪符”でしかありません」
観衆が息を呑む。
黒幕令嬢が小さく後退する。
王子はなおも抗弁しようとする。
「で、ですが! 父上も同じような――」
王妃「**だから何!?**」
その一喝は、雷鳴のように会場を揺らした。
「あなたの父君が何を語ったとしても、
それが正しいとは限らない。
私がどれだけ、父君の浮気と言い訳と詩に耐えてきたか……
わたくしがどんなに苦労したとお思い?」
観衆(出た……名台詞……)
「わたくしは“王妃”である前に、あなたの“母”です。
今ここで、あなたに教えておきます――
**誠実であることは、恥ではありません。
揺れずに愛することこそが、最も強い心なのです。**」
王子は、言葉を失っていた。
王妃は最後にマリアの前へと歩み出て、深く頭を下げた。
「わたくしの息子が、あなたに恥をかかせたことを、
母としてお詫び申し上げます」
マリアは驚きながらも、静かに微笑んだ。
「そのお言葉をいただければ、私はもう十分でございます」
観衆の中に拍手が広がり、
それはやがて全体へと波紋のように広がっていった。
その日、断罪されるべきだったのは――
浮ついた愛を“理論”でごまかした、未熟な王子の方だった。
コンサル雇った方が良さそう・・
王妃の名台詞「わたくしがどんなに苦労したとお思い?」
が市民の流行語に。2025年、流行語大賞かも。
読んで頂き、ありがとうございますm(_ _)m