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第56話: アスクレピオスの計画の終焉と再燃

 私が放った魂への直接攻撃と、意識共鳴での連携攻撃によって、アスクレピオスは精神的にも物理的にも完全に打ちのめされ、もはや抵抗する力も残っていないかのように見えた。


 しかしその異常なまでの執念はまだしぶとく燻り続けていた。


「まだだ……まだ終わらせん……!

 我が『主』の御名において……

 この世界に……裁きを下さねばならぬのだ……!」


 血反吐を吐きながらも最後の力を振り絞り、なおも不完全ながら儀式を成就させようと足掻き、祭壇の中央に手を伸ばし、僅かに残る邪悪なエネルギーを引き出そうとしていた。


 魔法陣は弱々しくも、まだ禍々しい光を放ち続けている。


「行かせないわ!」


「させるかあっ!」


 レオルガン、ミーアとライルもアスクレピオスを抑え込む。イヴァールは、さらに力を解放させようとしている。


(やはり、イヴァールの力が鍵になるんだわ)


 そう直感した私は、即座に全員に共鳴で伝えた。皆、体は既に限界を超えており、全力で攻撃してもアスクレピオスに致命的なダメージを与えることはできないかもしれない。


(でも、今は時間を稼がなくては——!)


 アスクレピオスの行動を少しでも止められれば——そう思い、私も自らの体を盾にして、アスクレピオスの脚に組み付き、無様でも確実に動きを止めに入った。


「イヴァール、今よ!

 あなたの魂の全てを『魂の鏡』に込めて!」


 イヴァールは皆の壮絶なまでの奮闘と、私の言葉を一身に受けとめ、心の奥底にあった最後の恐怖を完全に克服したようだった。


 緑の瞳は、もはやただの子供のものではなかった。自らの運命を受け入れて仲間と世界を守るために戦う、「一人の勇者」の瞳のようだった。


「みんなの想い……僕が、必ず受け止める!

 そしてこの世界を……僕の力で守るんだ!」


 イヴァールの体から、黄金色の神々しいまでのオーラが、一層光り輝き、太陽のように迸った。


(古き民の力——魂の共鳴が

 ついに覚醒したんだわ……!)


 イヴァールの背中には、まるで光で編まれたかのような美しい翼が現れた。


(すごい……輝きが、この禍々しい地下祭壇全体を

 聖なる光で照らし出しているかのようだわ)


 古き民から託された聖具「魂の鏡」もまた、イヴァールの覚醒した力に呼応し、これまでにないほどの眩い輝きを放ち、周囲の邪悪な気を浄化していった。


 その時——。イヴァールは神の啓示を受けたかのように、古代語で何かを詠唱し始めた。その声は幼いながらも不思議なほどの威厳と力を宿し、地下祭壇の隅々にまで響き渡っていく。


『光よ、闇を打ち破れ!

 生命よ、虚無を退けよ!

 真実の響きよ、偽りの呪いを砕け!


 我が魂の叫び、星々を動かし、天地を揺るがし、

 全ての邪悪なるものを、無に還さん!』


「イヴァール……!」


 レオルガン、ミーア、ライルも固唾を呑んでいる。


 イヴァールの詠唱と、聖具「魂の鏡」の聖なる力、そして「魂の共鳴」の増幅されたエネルギーが完璧に一つとなり、地下祭壇の邪悪なエネルギーを打ち払った。


 アスクレピオスが呼び出そうとしていた『主』なる存在を、強制的に根源から逆流させていく。


(——アスクレピオスの儀式が

 まるで内側から破壊し始めているようだわ)


 祭壇の魔法陣が、ガラスが砕け散るかのように甲高い音を立てて崩壊する。噴き出していた禍々しい赤黒いオーラは、イヴァールの放つ金色の聖なる光に飲み込まれ浄化され、霧散していく。


「なんてことをしてくれたんだ!

 ——もうおしまいだ……!」


 アスクレピオスが成就させようとしていた儀式は、完全に阻止された。呼び出そうとしていた「何か」も、その姿を現すことなく完全に消滅した。


「馬鹿な……ありえない……!

 我が『主』の計画が……こんな、小僧一人に……!

 うわあああああっ!」


 アスクレピオスは目の前で起こっている信じられない光景に、絶望と怒りの絶叫を上げた。


「やったわ……イヴァール……!

 あなたが……あなたが世界を救ったのよ……!」

 

 私は涙を浮かべながら、イヴァールの勇気と成長を心から称賛した。


 儀式を完全に破壊され、その力の源も、心の支えであった狂信的な信念すらも打ち砕かれたアスクレピオスは、魔力をほとんど失い完全に弱体化したようだった。


 もはや抵抗する気力も残っていないかのように、地面に膝をつき、力なく項垂れている。


「……終わりだ、アスクレピオス。

 これが、お前の犯した数々の罪に対する

 当然の報いだ」


 レオルガンは最後の力を振り絞り、アスクレピオスの前に立ちはだかった。レオルガンの剣は、アスクレピオスへの怒りとこれまでの全ての犠牲者への弔いの念を込めて、鋭い光を放っている。


「しかし——これから裁きを受けてもらう。

 命を奪うことは簡単だが

 そう易々とは償いとは認めんぞ」


 レオルガンは剣を収め、胸ぐらを掴んでそう言った。為政者として正しい判断だと、私は心の底から思った。


 アスクレピオスは短い呻き声を上げ、その場に泣き崩れた。地下祭壇は、イヴァールの放つ聖なる光に完全に包まれ、邪悪な気配を一片たりとも残さず、消え去っていた。


「これで、全て、終わったんだわ——」


 私は、レオルガン、ミーア、ライル、イヴァールと共に、満身創痍ながらも、ついに強大な敵を打ち破り、世界の危機を救ったのだ。


 互いに支え合い、安堵の表情を浮かべ、そして静かに涙を流した。


 だが、これで全てが終わったわけではなかった。泣き崩れたアスクレピオスが、私たちに新たな絶望をもたらしたのだ。


「『蛇』は不滅——! 『主』は必ずや降臨する!」

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