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第46話: 古き民の知恵と力vsゼノビア部隊の強襲

 神殿がにわかに騒がしくなる。『蛇』の組織の刺客、ゼノビア率いる部隊が「月の谷」の結界を破り、聖域に侵入しようとしている——その急報は、束の間の安堵に浸っていた私たちに差し迫った危機を突きつけた。


 大賢者ルミナリアの厳粛な宣言と共に、月の谷は一気に臨戦態勢へと移行した。


「もはや、隠れているだけでは我らの未来は守れぬ。

 今こそ、古き民の知恵と力を結集し

 迫りくる邪悪に立ち向かう時ぞ」


 ルミナリアは、私とイヴァールに対し向き直り「古き知恵」を伝える——そう言ってくれた。


「そなたらも、ともに戦ってくれるな?」


 そう改めて訊かれると私も、頷くしかなかった。


「よい。ならば——」


 まず、失われた魔術の断片。それは自然のエネルギーを利用し、敵の動きを封じたり、味方を守護したりする、防御と補助に特化した古代の魔法。


 攻撃的な力は少ないが、使い方次第ではゼノビアのような強敵に対しても有効な手段となり得るかもしれない。


 次にイヴァールの「魂の共鳴」の力を、より安全に、効果的に制御し、増幅するための具体的な訓練方法。


 精神集中だけでなく、自然との調和と他者への共感といった、古き民の精神文化に深く根ざしたものだった。


 賢者エルローンが、指導役を買って出てくれた。


「イヴァール殿、力を恐れるでない。

 それは汝自身の一部。

 そして我ら古き民の希望そのものだ。

 力を正しく導けば、

 世界を癒し、守る盾となるであろう」


 エルローンの厳しくも温かい言葉に、イヴァールは真剣な表情で頷き、力の制御訓練に励み始めた。


 最後に、組織の儀式を妨害し、封印するための特殊な「聖具・魂の鏡」について教えてくれた。


「これは『魂の鏡』と呼ばれ

 持ち主の魂の力を増幅し

 邪悪な魔力を打ち消す力を持つと言われておる。


 イヴァール殿の清らかな魂と

 『魂の共鳴』の力と合わせれば

 組織の儀式を阻止できるかもしれぬ」


 ルミナリアは古びた木箱の中から、月の光を宿したかのように白銀に輝く、美しいアミュレットを取り出し、イヴァールに手渡した。


「これが、魂の鏡——」


 イヴァールが丁寧に受け取ると、その手の中で静かに光を湛えている。


「うむ。そなたならば、

 きっと善き道へと導くことが出来るだろう——」


「イヴァール、わたくしもできることを頑張ります。

 あなたも、どうか心を強く」


 私は改めて【心の声を聞く者アンテナ・オブ・ソウル】の力を使い、出来ることを探した。


 古き民の人々の純粋な精神文化や、長年抱えてきた迫害の歴史、そして自然との深いつながりを、より深く理解しようと努めた。


 彼らの「心の声」は、素朴で力強く、どこか懐かしいような響きを持っていた。私が一度目の人生や、あるいは二度目の人生でこれまで宮廷で聞いてきた、嘘と欺瞞に満ちたノイズとは全く異なる、清らかな音楽のようだった。


 この地に暮らす人々への敬意と共感が、自分の心の中で静かに育っていくのを感じた。


(この人々を、この美しい谷を——

 絶対に守らなければならない。

 それが、私たちに託された使命なのだわ)


 だが感傷に浸っている時間はなかった。


「敵襲! 敵襲―ッ!

 『蛇』の刺客だ!

 結界が破られた!」


 見張りの切迫した声が、神殿に響き渡る。里は一気に緊迫した空気に包まれ、古き民の戦士たちは弓や槍を手に取り、長老たちの指示のもと、谷の入口へと続く道に防衛体制を敷き始めた。


 数では劣るかもしれないが、故郷を守るという強い意志と、谷の地形を熟知しているという地の利がある。


「ついに来たか……! 『蛇』の使いめ!」


 エルローンは苦々しげに吐き捨て、自らも古びた杖を手に取った。


「ロマンシア殿、イヴァール殿。

 我々も共に出陣する。

 この谷は我々自身の手で守り抜く。

 お前たちには、この力、見届けてもらうとしよう」


 その言葉には悲壮な覚悟と、私たち外部の者への信頼が込められているように感じられた。


 ドドドドド……!


 ほどなく、轟音が谷中に響いた。


(ついに——始まったのね)


 その音は谷の入口付近で、ゼノビア率いる刺客部隊と古き民の戦士たちの間で、激しい戦闘が始まったことを意味していた。


 ゼノビアが叫んでいる。


「かくれんぼは終わりよ、古き民の皆さん!

 その坊やを匿っていても、あなた方に利益はないわ!

 そんな部外者、大人しくこちらへ渡してちょうだい!


 万一、抵抗するなら——

 この美しい谷ごと、血祭りにあげてさしあげるわ!」


 ゼノビアの狂気に満ちた高笑いが谷間に木霊する。鞭がしなり、古き民の戦士の一人に直撃した。


「ぬあああああーっ!」


 悲鳴を上げて吹き飛ばされる。


「さあ、次は誰?」


 私も覚悟を決めた。


(——私たちも、行くしか……)


「お義母様!」


「イヴァール!」


 そう、イヴァールも覚悟を決めている。私は頷くと、前線の古き民の戦士たちと共に、ゼノビアの部隊に立ち向かった。


 私は、エレオノーラの日記と古き民から教わった自然の力を借りる補助魔法を使い、部隊の防御力を高めたり敵の動きを鈍らせたりして、支援に徹した。


(足手まといになってはいけない——

 ならば、これが最善手!)


 イヴァールも直接戦闘には加わらないものの、エルローンやルミナリアから教わった力の制御方法を実践し、後方から皆を支援した。


 「魂の共鳴」の力は味方の士気を高め、傷ついた者の痛みを和らげた。——と、その時。


『こちらが弱ってきている——左へ回るか』


『ガキはどこだ……?』


(そうよ、私にはこの力がある——!)


 私は【心の声を聞く者アンテナ・オブ・ソウル】を研ぎ澄ませた。


『後ろから別動隊に襲わせる——』


「もう一部隊来るわ! 皆、注意して!」


 私の呼びかけで古き民の戦士たちが態勢を変える。


『な、なにっ? 作戦が読まれた?』


(これで被害も最小に抑えられるわ……!)


 戦場の混乱の中で敵の配置や攻撃の意図を的確に読み取り、味方に指示を出すことで戦いを有利に進められる、そう確信した。そうと決まれば、私は速い。


「エルローン様。

 あそこの岩陰に敵の弓兵が潜んでいます!

 イヴァール。

 あなたの力で彼らの集中を乱せるかしら?」


「はい、お義母様! やってみます!」


 イヴァールがアミュレットを握りしめて精神を集中させると、岩陰に潜んでいた弓兵たちが突然、方向感覚を失ったかのようにふらつき、矢を放つことができなくなった。


「イヴァール。さすがだわ!」


「お義母様……!」



 戦いは一進一退の攻防となった。古き民の戦士たちは私たちの援護ともうまく連携しながら地の利を活かし、巧みな連携でゼノビアの部隊に抵抗する。


 だがゼノビア自身の戦闘能力は圧倒的で、彼女の鞭が振るわれるたびに、古き民の戦士たちが次々と倒れていく。


 一進一退に見えて、戦況は徐々に私たちにとって不利になりつつあった。犠牲者の数は増え続け、月の谷の美しい緑が、血の色に染まっていく。


 そしてついに、ゼノビアがイヴァールの位置に気づき、直接狙って突進してきた。


「見つけたわよ、お宝ちゃん!

 さあ、お姉さんのところへいらっしゃい!」


 彼女の赤い瞳が、狂気的な喜びの光を放つ。


「イヴァール殿、危ない!」


 エルローンがイヴァールを庇うように、立ちはだかった。ゼノビアの鞭は無慈悲にもエルローンの体を打ち据え、エルローンは苦悶の声を上げてその場に崩れ落ちた。


「エルローン様!」


「ぬう……」


 イヴァールの悲痛な叫び声が、谷に響き渡る。心の中で何かが激しく燃え上がったのを私も感じた。


「イヴァール!」


 しかしイヴァールの中で、悲しみ、怒り、仲間を守りたいという強い想いが、「魂の共鳴」の力をこれまでにないほど増幅させていく——


「うわああああああっ!」


 イヴァールの体から金色のオーラが激しく迸り、周囲の空気を震わせた。私は思わず叫んだ。


「イヴァール、あなたのその力ならば

 皆を守ることが出来るわ!」


 ゴゴゴゴゴゴ……


 静かにイヴァールの力が収束していく——

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