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Eyes of diamond and Escape  作者: 空と色
72/75

ラーシャSide 発光?

自分のからだが・・・・・・発光している!?

信じられない事実に驚きながらも、あの憎悪の感情に逆らったイリューストをあたしは見た。

「イリュースト・・・・・・?」

憎ければ、憎めばいいのに、そうできない・・・・・・。

そうしてでも無理やりあの感情に逆らったのは・・・・・・あたしも・・・・・・大切な仲間だと思ってくれているから?

イリュースト・・・・・・あなたの心が知りたいわ・・・・・・知りたいの・・・・・・。

あたしを、仲間だと、認めてくれるの?

緑の悪魔とまで蔑まされたあたしを?

あたしに流れる血ごと、受け入れてくれるの?

イリューストに触れたとき、トクンと、何かが伝わってきた。

それは温かく、せなつなく、どこか苦しげな感情のようだった。

あたしは、何故か身の危険を感じて、上からくると思われる攻撃に備えた。

何故そうしたかはわからない。

でも、この場を離れてはいけない気がした。

自分一人で後ろに下がったほうが早かった。

だけど、何となく狙いはあたしだけではない気がしたの。







ドゴォッ!







「ん・・・・・・!く、うぅ!」

鎧をしているにも関わらず、腕が折れそうだった。

上から落ちてくるように来た少年はそのまま軽やかに地面に降り立つと、舌を出して見せた。

「あーぁ!ふざけんなヨ!もう!」

それは、昨日見た少年だった。

「あな・・・・・・たは・・・・・・。」

痛む腕や肩を押さえながら立ち上がると、少年を見た。

「マジ緑のネェチャン使えねぇ!そりゃあ?そっちの覚醒はなんとかなりましたヨ!?けど、一回覚醒をといたってもう一回操られたらお終い!くだらない仲間意識のせいで自分の責任が増えたじゃねえかヨ!!こっちはただでさえ緑の取り逃がしたタヤっていうののしりぬぐいをさせられてんのに・・・・・・厄介ごと増やしやがって・・・・・・マジ、ふざけんな、ヨ!!」

叫びながら、風のように走り抜けてきた少年をあたしは見ていた。

変だ。

昨日は全然少年の動きが見切れなかったのに・・・・・・・今は、見切れる・・・・・・?

「んっ!!」

お腹目がけて飛んできた足を、また腕でガードして止めた。

「てめぇも・・・・・・覚醒してんじゃねぇ・・・・・・ヨ!」

次の左からきた蹴りに反応し切れずに私は蹴り飛ばされた。

覚醒!?

覚醒って、どういうことなのかしら?

崩れる壁の中から立ち上がりながら考えはじめた。

これは、鎧を着ていなければ死んでたかもしれないわね・・・・・・。

ゾッとしながらもまた上からきたかかとおとしを避けると、弓矢で攻撃した。

弓矢は少年の肩や手にかすり傷を追わせるだけで致命傷にはできない。

剣に持ちかえると、少年の二重蹴りがきて、剣で跳ねとばして避けた。

が、それだけではダメだったらしく、拳が飛んできて、私の頭に命中した。

頭が割れたように思った。

「ラーシャ!?」

回る世界と、どこからか響く声。

「あ・・・・・・ぇ・・・・・・?」

「青のニィチャン殺したら、次は緑のネェチャン・・・・・・あんただヨ。」

顔に息が吹き掛けられたのを感じた。

相手はすぐそばにいるらしい。

「ゃっ・・・・・・!やめて!」

動かそうとした体は動かない。

イリューストが・・・・・・イリューストが、危ないのにっ!

「ラーシャ。」

不意に後ろから呼ばれたような気がして、体が宙に浮いた感覚を味わった。

イリュースト?イリューストは、無事なの?

視界がはっきりしたとき、私はダルキリに抱き抱えられていた。

「ダルキリ・・・・・・?」

「おう、ようやく意識がはっきりしてきたか。さっきは目を見開いたまま死んだように座ってんだもん、驚くよな。」

「イリュースト・・・・・・イリューストはっ!?」

私がダルキリから離れ、飛び降りようとしたとき、ダルキリが痛むような歪んだ表情を見せた。

「ダルキリ・・・・・・?」

ダルキリの右肩を見ると、赤く腫れていた。

そっと触れると、とても熱いことがわかった。

「熱い・・・・・・ダルキリ、あなた・・・・・・大丈夫なの?とりあえず、下ろして!あたしは、平気だから。」

ダルキリは少しだけ考えるように顔をそらすと、あたしをおろしてくれた。

「ありが・・・・・・あら?」

あたしの足は地面に踏ん張るどころかヨロヨロと座り込んでしまった。

「やっぱりな・・・・・・脳を攻撃されたせいで意識は戻っても足の感覚はまだ戻らねぇんだろ。」

「・・・・・・ねぇ、あの後、どうなったの?」

体から緑色の光は発してはいないものの、ルキィルやイリューストが見当たらない。

何がどうなってあの少年から逃れることができたのかもわからない。

「ラーシャが緑色に光った後、見えない早さでの戦闘が始まって、ラーシャが脳震盪を起こしたのか、座り込んで動かなくなった。その時には緑色の光は消えてて、あのガキがイリューストを捕らえようとしたとき、意識がないはずのイリューストが、あのガキを吹っ飛ばしたんだ。その後、俺が今だと思って炎を使って逃げた。その時、炎を使いすぎたらしくてな・・・・・・全身が今やあちぃんだ。とりあえず遠くまできたから、全員下ろすと、歩けるルキィルを歩かせて、先に意識がないイリューストを運んでそこの木陰に休ませてる。そんで、次はラーシャ。」

つまり、あたし達三人を抱えて、フルパワーで炎を使い、使いすぎて身を滅ぼしそうになった。

それで、途中で皆を下ろすと、このボロボロの体で重傷者を運び、ルキィルに今はイリューストを見てもらっている・・・・・・という感じなのかしらね。

「とりあえず、全員無事なのね?」

「怪我や意識が飛んでいるのを覗けば、な。」

「よかった・・・・・・さ、行きましょ!」

「おいおい、歩けないラーシャがどこに行くって?」

ダルキリは苦笑してあたしに手をのばしてきたけど、あたしはそれをはねのけた。

「馬鹿にしないで。匍匐(ほふく)前進くらいできるわ!それにそんなに体が傷んでしまっているあなたに頼れないわよ。さらに体を傷めるかもしれないじゃない。」

「匍匐前進って・・・・・・あの這うやつか?」

「そうよ?何か文句でもある?」

「大有りだな、後で全身についた泥を落とすために俺たちが歩き回って湖か川か、とりあえずなんかしら探さなきゃならなくなる。」

「わ、わかったわよ、泥だらけになっても我慢するわ・・・・・・。」

あたしが少しムッとして口を少しだけ尖らせると、ダルキリはあたしを抱き抱えて、「おとなしくここにいりゃあいいんだよ。じゃなかったら、丸太みてぇに担ぐぞ?」と言った。

「だ、ダメよ!あなたの体が危ないのよ!?わかってる!?」

「わかってる、わかってる。」

あたしが本気で心配しているのにダルキリは興味なさそうに頷くばかり。

「嘘つき!わかってないわよ!」

「わーってるよ!じゃあ、肩に手、置いてくれ。」

「手?」

あたしは自分の手をダルキリの肩に手を置いた。

すると、ダルキリがほんの少しだけ笑って、「ラーシャの手はつめてぇな。」と言った。

どうやらあたしの手は氷や水の代わりらしい。

「・・・・・・馬鹿ね、こんなのじゃ、すぐに温かくなって使えなくなっちゃうわよ。」

するとダルキリが腕を少し上げて、自分の肩にあたしの顔を押し付けた。

「じゃあ、こうすりゃいい。」

あたしは少しだけ呆れてから、ダルキリの腕についている無数の傷を目にして、黙ってしまった。

そして、そのまま特に話すでもなくダルキリに寄りかかっていた。

ここにルキィルがいたなら、ルキィルの力でダルキリを癒せたのに・・・・・・。

あたしももっと強くならなければ・・・・・・仲間にこんなに、無茶をさせないように・・・・・・。

ルキィルは力を使いすぎて失神してしまったこともあるし、今回はダルキリが体を傷めてしまった。

強く・・・・・・強くならなくちゃ、自分のためにじゃなくて・・・・・・仲間のために・・・・・・。

木陰とやらにつくと、ぐったりしているイリューストと、看病しているルキィルがいた。

あぁ、あぁ、なんて二人は・・・・・・お似合いなのだろう。

イリューストには、慎ましやかなルキィルみたいな子が似合うのよね、きっと・・・・・・。

「ダルキリ、ありがとう。」

あたしはポンッとダルキリの肩に触れてからおろしてもらった。

「ルキィル、ダルキリに氷を出してもらえないかしら?」

「わかった・・・・・・。」

ルキィルはコクンと頷いてからダルキリに氷を渡した。

「っ!」

ダルキリが痛そうに顔をしかめたが、無理やり氷を肩に押しあてた。

「・・・・・・肩?・・・・・・熱い・・・・・・。」

ルキィルはそっと触れ、ダルキリのおでこにも触れた。

ダルキリは顔をそらすと、「何でもねぇよ・・・・・・。」と呟いた。

相変わらずひねくれた態度を取るんだから。

「・・・・・・何でも、なく・・・・・・ない。」

ルキィルはそう呟いて、氷をダルキリの頭に押しつけると、そのまま走り、あたしの方へ来た。

「いってぇな!何しやがる!ルキィル!」

ダルキリが氷を握りしめながら叫ぶと、ルキィルはあたしの背中に隠れながら、「私の・・・・・・こと、嫌いなのは・・・・・・ダルキリ・・・・・・!私に・・・・・・心配、されたくないなら・・・・・・そう言えばいい・・・・・・!」 と言い返した。

「あ!?・・・・・・別に、嫌いじゃ・・・・・・ねぇよ。」

ダルキリはそういうと、座りなおして、「クソッ!」と呟いた。

「まぁまぁ、とりあえず、喧嘩しないでよ、ね?二人とも。お互いに嫌いじゃないなら、そんなつっけんどんな態度をとらないの。」

あたしがルキィルの頭を撫でながら苦笑すると、ルキィルがあたしにしか聞こえないような小さな声で話しはじめた。

「私だって・・・・・・仲良くなれるなら・・・・・・なりたい・・・・・・でも・・・・・・あんな態度とられたら・・・・・・どうしたらいいか・・・・・・わからない・・・・・・。」

「そうね・・・・・・。」

多分ダルキリは、ルキィルのような女の子にどう接したらいいのかがわからずにいるのだろう。

でも、いい感じだったのだけど・・・・・・。

「ん・・・・・・ん?」

イリューストが起きたらしい。

「イリュースト・・・・・・。」

あたしはイリューストに近寄るべきか、近寄らぬべきか戸惑ってから、イリューストに少しだけ近づいた。

そろそろ足がうごきそうだ。

足の感覚がある。

「みんな・・・・・・ウッ!?ガ、カハッ!?」

イリューストは自分の喉や胸を押さえ付けると、苦しむ様子を見せた。

「イリュースト!?」

あたしが手をのばしたとき、イリューストの瞳があたしをとらえた。

「・・・・・・ラーシャ・・・・・・?」

その目は、あたしがいつか見た、ダイヤモンド・アイの目だけと同じだった。

あの、憎悪に見開かれた、キラキラと輝く、美しく、恐ろしい目・・・・・・。

「う、ぁ!クッ!憎い・・・・・・どうして・・・・・・緑の・・・・・・化け物・・・・・・ガッ!」

あたしは目を見開いた。

緑の、化け物・・・・・・?

それから目を閉じた。

自分でも肩が震えているのがわかる。

周りが必死にイリューストを宥めようとしている声すら、あたしの耳には入らなかった。

「いい加減にしねぇか!イリュースト!それはラーシャがしたことじゃねぇだろ!」

ダルキリの喝であたしはハッとした。

でもイリューストはまだもがいている。

「わ、かって・・・・・・る!ラーシャが・・・・・・悪いんじゃ・・・・・・ない・・・・・・でも!誰かの感情が、流れ込んで・・・・・・来るんだっ!ラーシャを見ると・・・・・・何かが暴れるんだよっ!!」

あたしを・・・・・・見てる、と?

あたしは無理やり立ち上がった。

よかった、どうやら歩けるらしい。

あたしは、もがくイリューストを見下ろした。

「憎いでしょ?当然よね?あたしの民族はあなたの民族を滅ぼした。遠くても、あたしはあなたの民族を滅ぼした誰かと必ず血が繋がっている。だからイリューストは、あたしを見るとあたしを殺したい衝動に狩られる。ねぇ、イリュースト、あたしのこと、殺したい?あなたの、この手で・・・・・・。」

あたしはイリューストの前に両膝をつき、四つんばいになるように片手をつくと、開いた片手をイリューストの手を掴んで、あたしの首もとに持っていった。

目は、イリューストの目をまっすぐ見据えた。

イリューストの手に変な力が入っていた。

「やめて・・・・・・やめてよ、ラーシャ・・・・・・。」

「何、考えてんだよ?」

混乱しているルキィルに、困惑したダルキリにあたしは、「二人は黙ってて。」と冷たく言い放った。

いや、冷たく言ったつもりはなかった。

でも、自分でもびっくりするくらい冷たい声だった。

「憎い・・・・・・どうして、殺されなければならなかったのか、わからない・・・・・・だけど、ラーシャを・・・・・・殺すのは、違うんだよっ!」

荒い息を吐き出しながら、イリューストは、やっとのように言った。

「でも、あたしは“緑の化け物”の血縁者よ?あたしを殺さなかったら、誰を殺すの?」

イリューストの手に力が入る。

それでも、あたしを絞め殺すには不十分な力だ。

あたしは、苦しくさえならない。

仮にイリューストが首をこのまま締めあげても、それでもいいと思った。

神、テオクレテミスやルージュのような存在を憧れとし、近づきたいと思っていたものが砕かれ、イリューストからは殺したいと願われ、あたしには何も残されてはいなかった。

国に戻っても、残されているのは熾烈な権力争い。

イリューストの手で殺されるなら、それもまた本望だと思ったのだ。

ついにイリューストの腕はブルブルと震えだした。

変な所に力を入れているせいだ。

殺したい、でも殺せない。殺しちゃいけない。

だから、あたしの首をしめようとする力が、しめてはいけないと反発する力によっていらない場所の筋肉まで使って痙攣して震えているのだろう。

イリューストは、黙ったままだった。

きっと答えが出せないのだろう。

これ以上問い掛けても、イリューストから答えを得ることはできない。

そう判断したあたしは、殺される事も、仲間に戻る事もままならないのなら、離れようと決心した。

フッとイリューストから離れ、歩きだした。

「ラーシャ、どこへ・・・・・・?」

ブルブルと怒りか、恨み、はたまた別の感情かで震えるイリューストを宥めながらルキィルがあたしに尋ねた。

あたしはルキィルを振り返らずに、「散歩に・・・・・・。」とだけ言った。

ダルキリは、あたしの手をつかんで自分に顔を向けさせると、いつもより低い声で「本当かよ?」と聞いてきた。

あたしは、「自殺でもしそうに見える?」とだけ言ってダルキリから解放された。

ヨロヨロの足を踏張って歩き続けた。

どこか遠くへ行かなくては・・・・・・もう、あの三人のところには戻れない。

懐かしい日々を思い出してしまうから。

たった一人でも、大丈夫よ。

あたしなら。

魔物だって倒せるもの・・・・・・。

しばらくしてあたしは木に座り込んで、そのまま眠りについてしまった。

あたしが起きた時はすでに星が空に瞬いていた。

しかも、どこからか、「ラーシャァァァアア!?」という声がする。

足音はどんどん近づいてくる。

あたしは息を潜めて辺りを見渡した。

いろんな方向から足音がする。

一番最初にあたしの近くにあらわれたのは、イリューストだった。

次にダルキリがきて、「いたか?」と確認をとっている。

「まだ・・・・・・でもおかしいなぁ、誰かが僕らは引き合うって言ってた気がするんだけど・・・・・・。」

それは、少年がイリューストとあたし達が戦っていたときに言ってた事だった。

イリューストも、うつつではありながら、聞いていたのね・・・・・・。

「生きてりゃ、な・・・・・・。」

「生きてるさ、僕にはわかる。」

あたしは、何故だか少しだけ泣きそうになった。

イリュースト達は翌朝、どこかに行った。

あたしはそれを見送ってから、彼らとは正反対の方向へ歩きだした。

どこか、港へ・・・・・・船に乗ってしまえば、こっちのものよ・・・・・・きっとイリュースト達がこの世界に止まり続けることはない。

あの独特なトンネルを抜けて別の国に行って、時間すらこえてしまう。

そうすれば、会うことも、もうない。

「ふっ・・・・・・ははっ・・・・・・あははははははっ!」

笑いたいのに涙しか出ない。

何故?

何故なの?

これでいいと望んだのはあたしなのに。

虚しい。

馬鹿馬鹿しいくらい、こんなにもあたしは、仲間を必要としていたんだ。

何が一人でも大丈夫、よ。

馬鹿じゃないの!?

どこかの黒いトンネルを抜けて、歩き続けた。

崖の上に出て、ずっと遠くの方に海が見えた。

「わぁ・・・・・・キラキラしてるわ・・・・・・。」

眩しかったので目を細めたが、それに答えてくれる人は誰一人としていなかった。

まぁ、当然なのだけれど・・・・・・。

あたしは身を翻し、崖を降りていった。

そもそも、一人で旅をする予定だった。

ただ、お父様に、“あなたの思い通りにはならい”とあたしの意志を伝えるだけのくだらない旅。

それがイリューストと出会って、あたしの毎日が変わって、馬鹿なことばかりするダルキリとも仲間になれて、ルキィルとも出会えた。

あたしにとって、この上なく大切で大事な仲間であり、友達だった。

きっと、これからも・・・・・・。

そんな事を考えていると、涙がポロリとこぼれた。

「やだ、もう!どれだけ泣き虫になったのよ?あたしは・・・・・・。」

苦笑してフードをかぶると、また颯爽と歩きだした。

何日もかけて人里に下り、闇市場に宝石を2つほど高値で売り飛ばすと、そのまま宿屋に直行し、体を洗い、着替えを済ませると、寝た。

翌朝、船乗り場に行き、適当な券を買うと、船に乗り込んだ。

船は5時間程で別の大陸に移動すると、たくさんの荷物と、たくさんの人を下ろした。

あたしはどこへ向かうでもなく歩き続け、小さな村に入って休んだりもした。

誰もあたしを緑の悪魔と蔑んだり、化け物と言ったりはしなかった。

それだけがあたしの唯一の救いだった。

不思議な楽器の音色が響いてきた。

それを遠くで聞きながら歌を歌ったりした。

そんな生活が数日続いたある日、「あれ?変だな、こっちからなんか声が聞こえたと思ったのに。」とたくさんの人をかきわけてこちらに近づいてこようとする人影を見つけた。

・・・・・・青い髪。

「おまえ達の気のせいじゃないのか?」

・・・・・・オレンジの髪。

「私も、聞いた・・・・・似てる・・・・・・。」

・・・・・・水色のフワリとした長い髪・・・・・・。

あたしは必死に見つからないように逃げていた。

ばかな、何で!?

どうして!?

もう彼らはこの世界にはいないはずなのに!

「いってぇな!」

「ごめんなさい!急いでるの!」

あたしは必死に走り抜けた。

とある酒場までくると、じっと息を潜めて座った。

お酒ではなく、ちょっとした食べ物を頼むと、ただひたすらに彼らが来ないことを願った。

あたしがいては、できる旅もダメになってしまう。

イリューストのそばに、あたしがいることは、許されない。

すると、酒場にきたのは彼らではなく、さっきぶつかったと思われるおじさんだった。

何とも下品な顔つきでお店のお姉さんに絡んで嫌がられている。

そして、こちらに気付くと指をさして大声を上げた。

「あぁっ!さっきぶつかってきた女じゃねぇか!」

あたしが無視しているとその人はあたしの手をつかんできた。

「何するのよ!」

あたしが手を払い除けると、その人はいやらしく笑い、「やっぱりあの時の女だ。性格はキツそうだが、顔だけは良いもんな。いい女ってのは一発で覚えるもんだ。へへっ・・・・・・さぁ、ごめんなさいって言ったよなぁ?どう償ってもらおうか・・・・・・とりあえず一日おじさんの面倒見てもらおうかなぁ?」

すでにお酒を飲んでいるのだろうか?

息が臭い。

それでも無視しようとするあたしの顔を掴んだ。

「汚い手で触らないで!」

あたしが我慢できずに押し倒すと、その人は目を見開いて、「ふざけんな、くそ海女!俺様を誰だと思ってやがる!?一日奉仕程度で許してやろうという俺様の気がわからんのか!?」とわめきはじめた。

よくわからないがそれなりの地位にいる人らしい。

だからこんな下品な奴なのに店に堂々と入ってこれたのね。

あたしは腰にぶら下げていた券を抜くと、その人に突き付けた。

「誰だろうが何だろうが、あたしに何かしようものならあなたをこの店ごと破壊してあたしは逃げるわ!」

「な、なな・・・・・・!」

その人は真っ青になり、ブルブル震えはじめた。

店にいる全員が息を呑んであたしを見ているのがわかる。

あたしはそのまま逃げると、剣を鞘に収めて走りだした。

その走りだしたあたしの背後で「いつか調べあげて捕まえてやるからな!この、緑のくそ女ー!」と叫んでいた。

まずい・・・・・・緑の女と叫ばれたせいで彼らが来るかもしれない・・・・・・。

さっきの鼻歌さえ聞き分けたイリュースト達が・・・・・・!

あたしは店の裏口を突っ切るとそのまま山の上を駆け上がり、ずいぶん上まで来たところで座った。

すっかり息が上がっていた。

落ち着いたらまた上へ登ってみよう。

切り開かれているからなにかしらあるはずだわ。

道かもしれないけれど。

しばらくすると歩き始めた。

上にあったのは牧場だった。

たくさんの牛が囲いのなかにいて、のんびり草を食べていた。

「な!?」

あたしは驚きさえしたものの、町が見下ろせる場所に座り、冷静に町の様子を観察した。

下の街は栄えていて、たくさんの人であふれかえっている。

そこに見慣れた頭髪の三人が辺りを見渡していた。

無意識にお互いを引き寄せあうあたしとイリューストは、お互いから離れようとしても、できないってことなのかしら?

それなら、こんな力、いらなかったのに・・・・・・。

そうしたら、テオクレテミスもルージュも人殺しにはならなかったのに・・・・・・。

でも、そうしなければ二人が出会うことも、二人が神になることも、初代国王になることも、あたしがイリューストと会うこともなく、あたしが生まれることもなかった。

あぁ、何と悲しき運命か(トォルビックシークスラィ)・・・・・・。

ため息をつくと、後ろから声をかけられた。

「あれ?どなたです?」

「旅をしている者なの。」

あたしがニコリと笑って返すと、「あぁ、それで町に・・・・・・お疲れなら、休まれていきます?」と言われたので、あたしは「遠慮しておくわ・・・・・・追われる身なものだから・・・・・・ありがとう、ごめんなさいね。」と言った。

ふと町に視線を戻すと、三人の姿が見当たらない。

もしかしたらこの山も見つかったかもしれない。

あわてて降りて、宿屋で休んだら早朝にここを出ましょう。

そしたら、東の森にでも行きましょうかね・・・・・・。

ふとそう思いつくと、崖に近い山を一気にすべり下りた。

酒場から離れた位置に降り立つと、早足で宿屋を探し、宿屋で休むと、早朝というにはまだ早い、深夜に近い時間にあたしは宿屋を後にした。

東の森は何日かかるかしら。

この分だと一週間はかかりそう・・・・・・。

足がパンパンになっちゃいそうだわ。

あたしは静かに苦笑をもらした。


作「……独り。」

ラ「……何よ。」

作「どうしてこういう考えにいたった?」

ラ「あたしが、一緒にいては、いけないと思ったから……よ。」

作「捜してるじゃないか。ルキィルの気持ちは考えなかったの?彼女は、自分の力を全て失ってもでもラーシャを捜したのに。」

ラ「……わかったようなこと言わないでよ……こうするしかないって思ったのよ!あたしの気持ちを、本当は知ってるんでしょ!?知っててそんなことをいうの!?そんなにあたしを惨めにさせたい!?あたしが惨めだってことくらい、言われなくたってわかってるわよ!本当はこんなことになるはずじゃなかった。できるならあたしだって戻りたいわ!でももう、戻れない!戻りたくないのではなくて……戻れないのよ!!」

作「なんでよ?捜してるでしょ。一緒に乗り越えていけばいいじゃんか。」

ラ「やめて!!やめてよ!これしか方法がなかったのよ!!もう、いいでしょ!!あたしをこれ以上惨めにしないで!」

作「自分を惨めにしてるのは、自分自身だ。そのことにいつになったら気がつけるだろうね?今回はココまでです。ありがとうございました。次回もよろしくお願いします。」

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