ルキィルSide あきらめたくない
朝、のどかに過ぎる鳥の声で目が覚めた。
そっか・・・・・・全部夢だったんだ・・・・・・イリューストが敵になるなんて・・・・・・そんなの有り得ないよね・・・・・・。
ラーシャとイリューストは凄く仲が良くて・・・・・・私が入れる隙間なんてどこにもなかったし・・・・・・。
横を見ればいつだってラーシャがいて、私に「おはよう、ルキィル。」って言ってくれる。
だから今日も・・・・・・。
私が横を見たとき、私の目に入ったのは呪縛に縛られ、瀕死状態にあるダルキリの姿だった。
「ヒッ!」
卑屈な声をあげ、後退ると、ダルキリの首に巻き付き、絞め殺そうとしている精霊を払おうと必死に手をバタバタさせた。
・・・・・・ラーシャもイリューストもいない。
私が1人で寝てて、ここにはあの“弾”で死にかけてるダルキリがいる。
・・・・・・夢じゃ・・・・・・ないんだね・・・・・・ラーシャの民族が・・・・・・イリューストの民族を惨殺したんだね・・・・・・じゃあ、イリューストも敵になって・・・・・・ラーシャとイリューストは・・・・・・敵対するもの同士になっちゃったんだね・・・・・・。
呪縛霊は私の手がダルキリに近づくたびに私に乗り移って私の手を締めあげようとしていた。
こんなとき・・・・・・どうすれば・・・・・・お祓い用具も、お祓い札も持ってきてないのに・・・・・・!
「だ、ダルキリ・・・・・・!起きて・・・・・・起きて、ダルキリ・・・・・・!」
呼び掛けても当然起きない。
こうなったら・・・・・・もうアレしか方法は・・・・・・!
私はダルキリに抱きついた。
悪霊達はうようよと私の体を蝕んでいく。
私も蝕まれていくところが焼けただれるように痛い。
それでも我慢をしなければ・・・・・・!
後少し・・・・・・我慢しててね、ダルキリ。
私は今できる力を振り絞って歌を歌った。
成功するかわからない。
この身を犠牲に相手の体を解放させ、歌で除霊に似た効果で悪事を働く精霊を払っていくというものだったから。
精霊の力が強ければ強いほど私の体に止まるし、すべて成功しても私の体に何も負担がかかってこないとは、とてもではないけど言えないのだ。
それでも、殺すわけにはいかない・・・・・・!
ダルキリは、私の大事な旅仲間なんだからっ・・・・・・!
全身に力を入れ、瞳をかたく閉じた。
・・・・・・何時間、そうしていただろう?
全身が痛くて、体が引きちぎられるようだった。
ダルキリはようやく正常な呼吸をしはじめ、微かに動き始めた。
精霊も後少しで清らかな本来の姿に変わる。
でも私は・・・・・・汚れた精霊たちの呪いをもろに受けたせいでこれ以上体が耐えられないかもしれない。
でも最後まであきらめるものか・・・・・・例えこの身が引きちぎられようとも、高熱にうなされようとも、あきらめるわけにはいかないっ・・・・・・!
パンッ!という手を叩いたような音がすると、最後の一匹だった精霊は飛びだっていった。
ダルキリが目を開いたのと同時に私はダルキリから離れ、崩れ落ちるようにベッドに横になった。
痛い・・・・・・痛い・・・・・・痛いッ!
体が、焼け付くように痛い!
このままじゃただれ死んでしまう、いっそ首を切って一思いに殺してほしい。
「ルキィル?ルキィル!しっかりしろ!どうしたんだよ!?オイッ!」
私はそう遠くでダルキリの声を聞いた気がした。
「ラーシャァァァアアアア!!」
ダルキリが叫んでいるのだろうか?
ボワンとして何もかもよくわからない。
今何時?何分頃?私、ちゃんとベッドの上にいる?
頭は、どっち向いてる?
目が・・・・・・回ってるの?
呼吸はちゃんと出来てる?
だんだん痛みが遠退いて、全てが白くなった。
「ルキィルッ!」
懐かしいとすら思うその一声で私は目覚めた。
「・・・・・・ラー・・・・・・シャ・・・・・・?」
「そうよっ!あたしよ!どうしたのよ!?」
私に触れようとしたラーシャの手に、体が拒否反応を起こした。
「・・・・・・あ・・・・・・ちが・・・・・・ラーシャ・・・・・・。」
一瞬、怖いと思ってしまった。
血塗られた手の残像と、たくさんの憎悪、消えていった人たちの怨念・・・・・・。
「じゃああたし、出るわね。」
ラーシャは強気にニヤリと歯を見せて笑うと、部屋を後にした。
ダルキリが私を見ると、「それは、ラーシャがしたことか?」と言った。
「・・・・・・え・・・・・・?」
「確かにラーシャの民はイリューストんとこ滅ぼしたかもしれねぇけど、今怖いと思ったことはラーシャがした事なのかよ?俺たちと旅したラーシャが何かしたか!?過去だろ?違うのかよ!?」
言われて、初めてその通りだと思った。
だけど、代々血を受け継いできた私にとって血縁者に大罪を犯した者がいるというのはつらい。
精霊に見放されかねない。
精霊のご加護を受け、生きている私にとって、精霊を敵に回すのは死に等しい。
でも、それでも・・・・・・。
「・・・・・・ありがとう、ダルキリ・・・・・・行って来る・・・・・・!」
私は走りだした。
焼け付くように痛い肌は相変わらず痛いままだったけど、引き契られるような、もぎ取られていくような痛さはマシになっていた。
きっとラーシャが看病してくれたんだろう。
私だって精霊のご加護を受け、代々受け継がれゆく血縁者に選ばれたのは嫌だと何度も思った。
仲間が欲しいと、理解者か欲しいと、何度も願った。
そこに手を伸ばして、今の楽しい生活に導いてくれたのはラーシャだった。
ラーシャがいなければ私もお母様のようになっていた。
手を伸ばせば届くものもきっとあきらめていた。
今は、あきらめたくない。
精霊を敵に回しても、ラーシャには仲間でいてほしい。
今、手を伸ばして捕まえられるなら・・・・・・戻ってくるのなら、神様・・・・・・あぁどうか神様。
これきり私を見放してくださってかまいませんから、ラーシャと私を会わせてください。
深く傷ついた、ラーシャの心を癒してください。
お願い・・・・・・!
体がどれだけ痛もうと関係なかった。
きっとこんな私の体の痛みより、ずっとラーシャの方が傷ついたって知ってるから。
いつかは癒える体の傷より、深く根付いたラーシャの心の傷の方がずっと痛い。
きっと私よりもずっとつらい。
だからお願い、ラーシャ、出てきてっ!
やっとの思いで草木を掻き分けた先にラーシャが膝を抱えて座っていた。
「・・・・・・ラーシャ・・・・・・いた・・・・・・。」
「・・・・・・ルキィル?」
ラーシャは目を見開いていたが、その目に涙がたまっていた様子はなかった。
本当は、泣きたいのではないかと思う。
「ごめん・・・・・・ごめんね・・・・・・ラーシャ・・・・・・怖いなんて・・・・・・思って・・・・・・。」
「な、何言ってるのよ?そんなの、当然じゃない。誰だって怖いと思うわよ!人を惨殺することができる民族なんて!それに、ルキィルは寝てなきゃダメでしょう?ほら、早く帰りなさい?」
ラーシャは、私に触れようとした手を引っ込めてしまった。
「ラーシャ、私・・・・・・私、失いたくない・・・・・・ラーシャも、イリューストも・・・・・・あきらめたくない・・・・・・!だから、ラーシャも・・・・・・あきらめないで・・・・・・私じゃ・・・・・・力になれない・・・・・・?」
ラーシャはは困惑したような表情を見せた。
「ラーシャ・・・・・・泣いて、いい・・・・・・泣いても・・・・・・いい、我慢する・・・・・・必要なんか、どこにも・・・・・・。」
口下手な自分が嫌になる。
うまく、言えない。
本当は、泣いてもいいんだって、我慢する必要なんてどこにもないんだって、そう言いたいのに・・・・・・!
すると、ラーシャは私を抱き締めた。
「ありがとう、ありがとう・・・・・・ルキィル。」
微かにラーシャの声が震えていた。
ラーシャはいつも不器用な私の言葉をちゃんと聞き取ってくれる。
そんなラーシャだから私もあきらめて、手放してしまう事をしたくなかったのだろうと思う。
私もラーシャを抱き締め返すと、ラーシャの背中をポンポンと軽く叩いた。
その瞬間、ラーシャの中で我慢していたものが弾けたのだろう。
ラーシャは嗚咽を盛らしながら泣きはじめた。
「・・・・・・うっ、うぅ・・・・・・も・・・う、ダメ・・・・・・なの?」
「ラーシャ・・・・・・落ち着いて・・・・・・何が・・・・・・あった・・・・・・?」
「・・・・・・たし、どうしたら・・・・・・いいか、わから・・・・・・なくて、イリューストは・・・・・・もう、戻って・・・・・・来ないの?もう、もとには・・・・・・戻れない?何も・・・・・・知らなかった頃には・・・・・・戻れない?」
私は少しばかり考えてしまった。
知ってしまった以上は戻れないだろう。
時間を戻してやり直すことはできない。
でも、だからといって今の仲間が全員離れていくかと言ったらそれは違う。
「・・・・・・たぶん・・・・・・戻れ、ない。だけど・・・・・・それを乗り越える・・・・・・ことができる。私達、なら・・・・・・。」
言葉につまりながらそう伝えると、ラーシャは「・・・・・・でも、ダメなの・・・・・・許して・・・・・・もらえる自信が・・・・・・ないわ・・・・・・ここで野宿してた時ね・・・・・・言われたの・・・・・・緑の悪魔!あっちにいけ!って・・・・・・子供が、泣き叫びながら・・・・・・石を投げ付けてくるのよ・・・・・・それくらい恐怖を、他の村にも・・・・・・植え付けてしまった・・・・・・ましてや、イリューストの故郷よ!?緑髪、緑目ってだけで・・・・・・きっと、殺意を抱くわ・・・・・・自我を失って・・・・・・切り掛かってくるかもしれない・・・・・・それで、もとのイリューストに戻るなら・・・・・・いい・・・・・・でも、戻れないわ・・・・・・きっと・・・・・・人殺しの過去なんか背負って、戻れるはず・・・・・・ないもの!それに・・・・・・言われたのよ・・・・・・生きてるだけで罪だって・・・・・・それなら・・・・・・どうやって罪を償えばいいのよ?わから・・・・・・ないわ・・・・・・死ねって事なの・・・・・・?そう考えだしたら・・・・・・止まらなくて・・・・・・泣くわけにはいかないって・・・・・・思ってたのに・・・・・・あたし・・・・・・。」しゃくりあげながらこぼす言葉の合間合間に何分と長い時間が流れる。
すべてを吐き出したのか、ラーシャは少しずつ落ち着いてきた。
簡単に言ってしまうと、ラーシャはイリューストに許して貰えるかわからない。
イリューストはラーシャを見ただけで殺しにかかるかもしれない。
もし乗り越えて仲間に戻れたとしても、何も知らずに旅をしていた頃には戻れない。
だけど、戻れないと知っていても、戻りたい。
そんなことを考えているとこの町の子供たちがラーシャを緑の悪魔と蔑んできた。
そして誰からか“お前は生きているだけで罪だ”と言われ、ラーシャは自分が死ねば丸く収まるのだろうかと考えている・・・・・・と言ったところだろうか?
よくわからないけど、その解釈の仕方でいいなら・・・・・・。
「ラーシャは・・・・・・死んではダメ・・・・・・私が、悲しい・・・・・・きっと、ダルキリも・・・・・・ラーシャは・・・・・・悪魔なんかじゃ・・・・・・ない、気にしない方が・・・・・・いい。」
「・・・・・・でも・・・・・・あたしの・・・・・・あたしの本当の姿は・・・・・・」
強い突風がふき、ラーシャが口を動かしているのだけが見えた。
「・・・・・・え・・・・・・?」
ラーシャは哀しそうに微笑み、「わかったでしょ?許してもらえるはずがないの・・・・・・ずっと、自分の出身を曖昧にしていたせいね・・・・・・まぁ、罪の重さは言っても言わなくても、あたしの中では変わらない。だけど、後から告げられた人は・・・・・・先に告げられるよりもその罪が重く感じるのよね・・・・・・。」
ラーシャは両腕を抱き抱えるように腕を組み、キュッと口の端をほんの少し上げた。
何を言ったのか、ラーシャがどんな存在なのか、私には聞き取れなかった。
そして、もう一度聞き直す空気もその場にはなく、私はラーシャが何者かなのかを知る機会は訪れなかった。
ただ、はかなげなラーシャが、妖精より神々しく見えたのは勘違いではないと思いたい。
「ラーシャ・・・・・・私・・・・・・。」
ふらりときてそのままラーシャに寄り掛かった。
「キャー!?やだ、ルキィル、すごい熱!は、早く戻らなくちゃ!ごめんなさい、あたしったら自分の事で一杯一杯になってしまっていて!」
いつもどおりのラーシャの口調に安心して私はそのまま瞳を閉じた。
次に目を開けたときには、イリューストがいればもっといいのに・・・・・・。
そう願わずにはいられなかった。
私だけのためではなく、みんなのためにも。
まだイリューストの魂があるならば・・・・・・帰っておいでと、ラーシャのように伝えたい。
ラーシャはいつも、温かく私達を受け入れてくれるから、私もそんな人間になりたい。
・・・・・・が、次に目が覚めたときは旅が始まり、廃棄に戻ってくると、またイリューストと戦わなければならなくなっていた。
ラーシャにもダルキリにも迷いはなかった。
・・・・・・あぁ、戦うんだね・・・・・・やっぱり戦わなくちゃ・・・・・・いけないんだね・・・・・・。
イリューストなのに・・・・・・旅仲間なのに・・・・・・それでも、二人は戦えるって言うんだね。
私も、強くならなくちゃ・・・・・・いけないね。
今いるのは魂をなくしたイリュースト・・・・・・そこに見えるのはイリューストの体だけ。
割り切らなくちゃ・・・・・・。
〔死にに戻ってきたか・・・・・・。〕
魔物の声にあてられ、くらりとする。
なんて殺気のこもった恨みがましい声を出すんだろう。
魔物の声が聞こえるときはいつもそうだ。
「イリュースト・・・・・・。」
つぶやいた言葉を風にのせ、吹き飛ばすと、私は強く、強くイリューストを睨み付けた。
・・・・・・起きて。
起きてよ、イリュースト・・・・・・そんな小箱に閉じこもってないで起きてきて。
鎖は私達がといてみせるから。
「行くぞっ!」
力強くダルキリが声を発し、ラーシャがその声に微かに体を震わせた。
私は頷いて、ダルキリが走りだすのと同時に攻撃するための氷を精製した。
腕の一振りでイリューストを攻撃した。
だけど、どの攻撃も当たることはなく、私は全ての攻撃を避けてきたイリューストの手によって首を捕まれた。
「ウクッ・・・・・・!?」
私は手に鋭い氷を握るとイリューストの首もとに突き付けた。
だが、それも呆気なくイリューストの手に振り払われ、手から離れてしまった。
このまま顔面に拳が来たら・・・・・・助からないっ!
固く目を閉じたとき、グサッ!っという音と、ビィィンという音が響いた。
そっと目を開けると、片手を弓矢に貫かれたイリューストがどこか横を見ている。
・・・・・・弓、矢・・・・・・?
だ、れ・・・・・・?
イリューストが見ている先にいたのは弓矢を構えたラーシャだった。
「・・・・・・離しなさいよ。イリュースト!」
ラーシャの目に、かすかな戸惑いが揺らいだ。
手を射ぬくだけの決心があっても、それでもまだイリューストが敵だってことを信じたくないのかもしれない。
私はイリューストの手からボタリと崩れ落ち、咳き込んでいる間に射ぬかれた手を引き抜き、ラーシャの方へ走りだした。
ラーシャが危ない!
直感的にそう感じた私はラーシャの前に氷の壁を精製したけど、それはあまり意味がなかったらしい。
ガキィィイン!と刃物がぶつかる音がした。
ラーシャの前にダルキリがいて、ダルキリがニヤリと笑った。
「あの魔物・・・・・・消えやがって、ずいぶんと腰抜けみてぇだな。イリュースト・・・・・・てめぇの相手は俺だっ!龍仟・河流撃打ッ!!」
「陰影千龍・・・・・・。」
勢い良く剣を振り下ろしたダルキリと、剣を軽く上げただけのイリュースト。
以前仲間だったとは思えないほどの実力差がついてしまっていることを痛感した。
「ミィハガ ダゥテン パイレン(千本の矢)!」
何事かと思ったら私の方に飛んできていた石に見事に命中し、私に当たることなく全て弾きとんだ。
ラーシャは走って私に駆け寄ってくると、「ルキィル、大丈夫!?」と尋ねてきた。
「大、丈夫・・・・・・それよりも、ラーシャ・・・・・・いつ、弓矢に・・・・・・?」
「え?あぁ、マントで顔を隠して買ったのよ・・・・・・ルキィル、あなたが寝ている間に。」
ガコンッ!という音が響いて、ダルキリが壁にぶちあたり、壁が崩れていくのを見た。
「ダルキリッ!!」
ラーシャが跳ね上がるように立ち上がった。
私は身の危険を感じて氷の壁を精製すると、思った通り、ラーシャの体の中心にあたる部分の氷に拳が、私の胸のあたりにあたる部分には足があった。
「なっ!?」
ラーシャが立ちすくんでいた。
・・・・・・何て早いのだろう。
そう思ったのもつかの間、後ろに回り込まれ、ラーシャは蹴飛ばされ、精製されていた氷の壁に当たって、そのまま床に崩れ落ちた。
私は首を再びイリューストに捕まれ、「一番弱く、一番厄介な奴・・・・・・。」とつぶやかれた。
「やめ・・・・・・。」
「やめて!イリューストッ・・・・・・!」
私が叫ぶより早く、ラーシャがイリューストの背中に抱きついた。
不意をつかれたイリューストは、私を落とすと、ラーシャのわき腹を肘で殴り、足を蹴飛ばした。
だけど、背中はやはり死角。
なかなかあたらないうえに必死にしがみついているラーシャを振り落とす事はできない。
すると、イリューストは一瞬にして背中にいるラーシャごと自分を壁に叩きつけた。
『ラーシャ!!』
私とダルキリの声はほぼ同時だった。
それでもラーシャは離れなかったらしく、そのまま壁を五枚ほど打ちぬいていく。
「もう・・・・・・やめて・・・・・・やめて、ラーシャァア!このままじゃ・・・・・・このままじゃラーシャが、死んじゃう・・・・・・!」
私が叫ぶと、ダルキリがすごい勢いでラーシャ達が飛んでいった方向へ飛んでいった。
ダルキリも相当無茶してるはずなのに・・・・・・。
「・・・・・・でも・・・・・・あきらめきれないのよっ!あたしは、あたしの血が許されなくても、イリューストがあたしを殺してもいいっ!だけど、このままは嫌なの!このままなら、イリューストは・・・・・・ルキィルもダルキリも殺しかねないでしょ!?あたしは・・・・・・イリューストにただの殺人兵器になってほしくは、ないのよっ!!」
怪我人とは思えないようなお腹から強く出された声が、ブァッと何かの周波のように通り過ぎた。
「何だ!?」
私がヨタヨタと走りだすと、ダルキリは不意をつかれたように止まり、イリューストの動きがピタリと止まっていた。
ラーシャから緑色の光のようなものが一定の周波のように周りに広がっていく。
「・・・・・・え?何?何が起きたの・・・・・・?」
ラーシャ自身、何が起こったのかわかっていない様子で辺りを見渡した。
「・・・・・・ラーシャ・・・・・・?」
イリューストがピクリと反応したと思ったら口を開いた。
「イリュースト・・・・・・?イリュースト、わかるの?あたし達が・・・・・・わかる?」
イリューストはぼやけた調子のまま、「ルキィルに・・・・・・ダルキリ?みんな、何してる・・・・・・うぁっ!」途中まで言い掛けて、イリューストは頭を抱え込んだ。
「イリュースト!」
ラーシャが慌ててイリューストを支えようとした。
その時だった。
ラーシャが伸ばした手をイリューストは払い除けた。
「やめろ、近づくな!憎い・・・・・・憎い・・・・・・緑が、緑の悪魔が憎い・・・・・・!」
左手を額につけたまま、イリューストは自分と他人との記憶とで葛藤していた。
他人の感情を埋め込まれ、乗っ取られていたイリューストにとって、今のあやふやな状態では他人の記憶が自分の記憶なのか、自分の記憶が他人の記憶なのかがわからなくなっているのだろう。
ラーシャは静かに手を下ろすと、悲しそうに笑った。それから、「そうよ!あたしの民族は、あなたの民族を滅ぼし、あなたの両親を殺した!あたしが憎いのでしょう、イリュースト!あたしだけが、憎いのでしょう!?今のあなたなら、敵と仲間の区別がつくはずよ!憎いなら、あたしだけを憎めばいいわ!殺すなら、あたしだけを殺して、元に戻るのね!あなたの・・・・・・旅仲間の元へ。」
ラーシャはまた寂しげに笑った。
「ラーシャ、何・・・・・・言ってるの・・・・・・?」
意味がわからない。
いや、わかってる。
緑が憎いと恨む反面で、仲間の事が認識できている今のイリューストなら、その憎い対象だけが消されれば、苦しむこともなくなり、解消されて、別人の記憶に翻弄されずに私達の元に戻ってくることができる。
ただし、それはラーシャを失って・・・・・・。
後にはどちらにしろ相手を殺したという虚しさだけが残るだろう。
そんなのはおかしい・・・・・・!
「ラーシャ・・・・・・ガハッ!・・・・・・憎い・・・・・・違う・・・・・・違うだろ・・・・・・違ってはいない・・・・・・ダメだ・・・・・・ラーシャを殺しちゃ・・・・・・ダメなんだっ!!」
イリューストは、バチリッと体内から音を発して倒れた。
「イリュースト・・・・・・?」
ラーシャが体から緑の光を発したまま倒れたイリューストに触れた。
作「悲しいなぁ。」
ル「私は……信じてる。イリューストも、ラーシャも、戦わないで一緒にいられる時間がおとずれると……。」
作「今回は、ナイスルキィルファイトだったよ。お疲れ様。」
ル「ラーシャの傷までは……癒せなかった。」
作「いや、捜したってだけでも十分でしょ。君は精霊の加護がなくなったら、そこらへんの魔法使えないただの人間になっちゃうわけだし。」
ル「そしたら、みんなの足を引っ張ることになる……私に、何かできることがあればいいのに……。」
作「いや、十分だよ。ねぇ、ラーシャ。」
ラ「そう……ね。」
作「まだ引きずってるのか。」
ラ「なんでもないわ。気にしないで。」
ル「ラーシャ、また、自分は独りみたいに……笑ってる。」
ラ「そんなことないわ。普通よ。いたって普通。ね?」
ル「……。」
ラ「何よう、普通じゃない。ねぇ?」
作「……あんま、無茶しないほうがいいんじゃない?仲間なんだし、一緒にいるんだから、そういうところ、敏感にわかるんだと思うよ。」
ラ「何よ、あたしが何かたくらんでるみたいな言い方しないでほしいわ。」
作「……今回はココまでです。ありがとうございました。次回もよろしくお願いいたします。更新日が3/3なんですけど、ひな祭りの日にこんなくらい話がきてしまってごめんなさい。」
ル「ひな祭り……?」
作「あぁ、気にしなくていいよ。作者の世界の話さ。3/3の、3時ぞろ目~。」