ラーシャSide からかう
謝ってうつむいたイリュースト。
うん、なんか・・・・・・いじりがいがあるわね。
ハッとした。
あたし、いつまでイリューストの手、握ってるのかしら!?
ぱっと手を離すと、イリューストは自分の手をまじまじと見ていた。
「も、もう暖かくなったからいいと思って。」
何赤くなってるのよ!あたし!
思わず本棚を見た。
「あ・・・・・・うん。その、ありがとう。」
イリューストを見ると、イリューストも真っ赤になってあたしを見ようとしなかった。
あたしはようやくあたしがいた事の重大さを思い知る。
「ち、違うの!ただ、風邪引いたらいけないと思って、そう!それだけよ!イリューストに恥をかかせるつもりはちっとも――……。」
「え?」
あたしを見上げたイリューストの目が綺麗に光を透していて、あたしは思わず言葉を失った。
そう言えば以前、聞いたことがある。
この世界では水色の瞳は珍しくて、ガラスのように透き通る水色の瞳は・・・・・・ある一部の民しか持っていない。
その瞳がなにかしらで興奮するとき、すごくよく光を透すし光が屈折して、輝くと。
それはダイヤモンドより綺麗だとか――……。
でもどうして?
イリューストは聞くかぎり一般人だし、ずいぶん昔にその民族は全滅したんじゃ・・・・・・。
いや、その前に今、イリューストはプチ興奮状態ってこと!?
あたしはさらに顔が真っ赤になった。
ああ、あたしは何たる事を・・・・・・。
いや・・・・・・違う。
その前にイリューストがその民なのかもわらないんだった。
もしかしたら、ごく少ないただの水色の瞳を持つ青年なのかも。
これは調べる価値がありそうだわ・・・・・・。
「ラーシャ?」
呼ばれてハッとすると、すごく真っ赤になったイリューストがあたしを見ていた。
あ、あれ?あたしいつイリューストの顔挟んで・・・・・・。
真っ赤になってイリューストを離した。
「わぁっ!ごめんなさいっ!」
イリューストは目を泳がせていた。
「その、そのっ!違うのよ!青い瞳ってめずらしいなって思って・・・・・・思って・・・・・・。」
思ったからってあたしはイリューストの顔をマジマジ見ていたというの?
ああっ!恥ずかしすぎるわ!
どっかに穴でも掘って隠れたいくらい!
それに、あたし、今言ったこと間違ってるわよ!青い瞳はあまり珍しくない。
だけど水色の瞳は珍しいの。
こんな些細なことも間違えるなんて・・・・・・!
「そうかな・・・・・・僕はラーシャの緑の瞳がめずらしいなって思ってたよ。」
真っ赤になってしゃがみこむあたしにちょっと照れたように笑うイリュースト。
少しむかつくわね・・・・・・あたしはこんなに恥ずかしいのにイリューストは余裕なんて。
まぁいいわ、これからからかってやれば。
「緑の瞳は別にめずらしくも何ともないのよ。ただ、髪の毛と瞳のセットで緑は確かに少し珍しいかもね。」
肩を少しすくめながら笑った。
「へぇ・・・・・・。」
「二人ともーおいでー。朝ご飯ができたわよー。」
ウソッ!?
いっけない。朝のお手伝いをしようと思ってたのに、もうそんな時間!?
「・・・・・・それもこれも、イリューストのせいだからねっ!」
「え?わけわかんないよー。」
そうよ。
イリューストのせい。
水色と青の瞳。
たまに凄くキラキラしてる綺麗な目。
失われているはずの民族の証。
でもイリューストがもしその事を何も知らないというのなら、まだ言わない方がいいのかもしれない。
育ちの故郷も生まれの故郷もないなんて何だか・・・・・・可哀相すぎるもの。
それに本当にそうかはもっと確かめてみなきゃ。
にしても、どうしてこんな重要な話、最初に見たとき、思い出さなかったのかしら。
「あの、ラーシャ?」
呼ばれたときあたしは再びイリューストの顔を挟んでまじまじと見ていた。
「はぅっ!ご、ごめんなさいっ!つい!」
自分でもこんな声が出せるんだと思うような声を出して真っ赤になった。
ああ、昔から欲しいものとか気になるものは考えるより先に手が出ていたから、今になってこんなタチの悪いクセになっちゃったんだわ。
何とか治らないかしら?
「ため息ばっかりついてるけど・・・・・・大丈夫?」
ちょっとキラキラしている瞳があたしを見ている。
焦っているときとかも興奮状態に近い状態にあるんだったけ・・・・・・。
そんなことをうすぼんやり考えていた。
「綺麗ね・・・・・・瞳。」
何となく口が動いていた。
イリューストは驚いてて、あたし自身も驚いてて、ああ、後はもうどうなったのかわからないわ。
頭の中真っ白になっちゃったのよ。
気付いたらお婆さんが微笑んでて、あたしに「あらあら、仲良いんだねぇ・・・・・・。」と言ったのよね。
で、ハッとしたの。
あたしがイリューストの手を取っていたことにようやく気付いたのよ。
何だか、うん、無意識って怖すぎるにも程があるわ。
「ぃぃいやぁぁぁぁああ~!」
恥ずかしさのあまり、奇声を発しながら蹲ったあたしを見て、イリューストはおろおろするし、お婆さんは「あら、照れなくて良いんだからねぇ。」と言うし。
違うの!違うのよ!
ただ、本当になんかもう、考え事してて、それだけなのよ!
イリューストに恥をかかせるつもりはちっともなかったし、あたし自身もこんなにイリューストにベタベタ触るとは思ってなくて、一番驚いてるのはあたし自身なのよ!
本当よ!信じて!
で、落ち着きを取り戻して朝食をいただいています。
「ラーシャって、感情表現豊かだよね。」
思わずスープを吹き出しそうになり、むせながらイリューストを見た。
感情表現豊か?言われたことないわ。
むしろもっと感情表現豊かにしろって怒られたもの。
あたしのもっぱらの噂は無表情女。
いつもつまらなさそうに宙を眺めている・・・・・・と。
ああ、でもそれはあたしが“閉じ込められていた”時のことだったわ・・・・・・。
「あ、あれ?悪い言葉じゃないって教わったんだけどな・・・・・・。」
イリューストが頭をパリパリと人差し指でかきながら困り顔をしている。
「あたしが・・・・・・感情表現・・・・・・豊か?」
「え、あ、うん。多分・・・・・・。」
「ならそれはあなたがかえたのね。何故だかあたし、あなたの困り顔を見てるともっと困らせたくなるのよ。」
ニヤっと笑うとイリューストは引きつった笑い方をした。
「リュラにも言われたことあるよ・・・・・・。」
「またリュラー?そんな好きならどうして彼女をあなたの彼女にしなかったの?自分の命にかえてまであなたを助けてくれたんでしょ?彼女は絶対あなたのこと好きだったと思うわよ?」
「え!なに言って!リュラは幼なじみだよ?家族みたいな存在なんだ!・・・・・・ゴホゲホッ!」
どうやら頬張ったパンがむせたらしい。
イリューストの瞳がまたキラキラしている。
あたしの言葉に焦ったらしい。
ふーん。つまりは彼女の片思いで、イリューストが気付くのが遅いから死んじゃったってわけ・・・・・・。
あ、パンにチーズが入ってる。
どれだけ鈍いのよ?イリューストは。
「・・・・・・バカね。」
「なっ、エホエホ・・・・・・。」
相変わらずむせているイリューストを見て何故だか冷静になったあたしはようやく食物の味がわかりだした。
ひき肉のスープ、なんだかさっぱりしてて美味しいわ。
決め手はやっぱりスープの中に入ってるダルトバッティア(丸くて直径1ミリにもみたないような赤い粒味は調味料として使うため、こしょうと酸っぱい何かが交ざったような味)かしら。
「バカって何がだよー。」
「何でもない奴のために自分の命なんてかけられるわけないじゃない。例えばそれが家族ぐるみの付き合いである幼なじみだとしても。好きだから、一番大事だと思えたからその子は命をかけてもいいと思ったんでしょ。」
黙々と食物を平らげると、お皿を片付けた。
「ごちそうさまでした、美味しかったわ。リベアさん。」
「あら、そう。よかった。」
お婆さんはのんきに編み物をしていた。
食事も見ていたところ、あまりもう入らないようだ。
「それで、お聞きしたいことがあるのですが、ここら辺で一番町に近い道ってありますか?」
「近い・・・・・・国?だったかなぁ・・・・・・確かこの小屋の出入口の裏に回ってこの小屋を背にまっすぐ行くと・・・・・・」
あたしは必死になって頭にたたき込んだ。
教えてもらった事を忘れないように。
ラ「作者ぁぁあああああああ!!!」
作「うわ!?」
(グーパンチ、左頬に直撃)
作「いたたたたた……何する!この暴力女!」
ラ「何する!じゃないわよ!何よ前回のあの終わり方!イリューストとあたしが何で結婚しなきゃいけないのよ!」
作「暴力反対!」
(首を締め上げられて瀕死状態 By作者)
ラ「ほら、今すぐごめんなさい……は?」
作「ギブギブギブ!!」
ラ「ほら、イリューストも何か言ってやりなさいよ!」
イ「あ……うん……(そんなに否定しなくても……そんなに僕と結婚っていうのが嫌なのかなぁ……。)」
(やっとラーシャから離して貰いました。By作者)
作「じ……じぬ(死ぬ)……。」
ラ「ほら、ちゃんと読者様の誤解を解いて!」
作「あい……二人が結婚するというのは、嘘でつ……。」
ラ「ちょっと!ふざけてんの!?」
イ「ら、ラーシャ、やめなよ。本当に死にかけて息が切れてるんだよ。」
作「ああ……イリュが……天使に見える……。」
ラ「イリューストまでこの人の方持つの!?あんな散々なデマを流されたのよ?あたしたち!」
イ「僕は……別に……そんなに嫌じゃなかったから……。」
ラ「え?何言ってるの!?聞こえないわ!死に掛け作者の息遣いがうるさくて!」
イ「う、ううん!なんでもない!」
ラ「そう……じゃ、とりあえず謝ってね?」
作「あい……エイプリルフールってことで先ほどのネタが上がりました。最終回、どうなるかは決めていますが、二人が結婚することはありません。」
ラ&イ『え!?最終回!?』
イ「決まってるの!?」
ラ「どんなふうになるのよ!?」
作「秘密です。それよりも、ほら、ラーシャ、スープの調味料として使われてた実のこと教えてよ!」
ラ「納得いかないけど、ネタばれはさせないってことね……で?何?ダルトバッティアのこと?」
作「そう!それ!」
ラ「この世界での調味料よ。赤い実は酸っぱくてこう……パンチが効くの。あなたの世界にはないの?」
作「酢とコショウなら……。」
ラ「ようはないのね。」
イ「でも不思議だよね、他の実とかは熟すと甘くなるんだけど、ダルトバッティアだけは、ま逆なんだ。」
ラ「そうね。緑色の時の味は甘酸っぱい感じ……だから調味料の種類としてもかわってくるのよ。」
イ「だから名前がたしか、ダルトバッティーア。」
ラ「そう!イリュースト、あなた、やけに詳しいわね。もしかして料理とか好き?」
イ「薬草学だよ?それよりラーシャはどうして知ってるの?たしか調味料として別けてるってとこまで知ってるってことは結構な高級食材食べてるってことだよね?あれ、結構高いし……。」
ラ「え?あ、そーだったかしら?でもほら、あのスープの中にだって入ってたじゃない!」
イ「あそこは山だから野生化したのがいくつかあったよ。」
(ラーシャ、冷や汗だらだら。)
ラ「と、とりあえずここでおしまーい!」
イ「え!」
ラ「ほら、作者も寝ちゃってるわよ!」
イ「(いや、これはむしろ気絶……。)」