ラーシャSide 図星
イリューストがどうやったらダイヤモンド・アイだと確証できるかについてあたしは考え込んでいた。
リベアさんに本をもらって尚更だ。
それに彼女は、あそこにある本の中であたしたちが読めて、必要とするものなら、それはあたし達に読まれるために存在するのだと言った。
―――それがどこかでずっと突っ掛かっているのよ。
リベアさんは、ダイヤモンド・アイを知っているの?
ダイヤモンド・アイの歴史を?
そもそも、何で外国語の本があんなにあるのかしら。
こんなにダイヤモンド・アイについて詳しく書いてある歴史書も、何で存在するのかしら。
どの歴史書にも、“ダイヤモンド・アイは神出鬼没でなぞの民族である”と記されているのに・・・・・・。
そんな事を考えていると、イリューストが頼まれ事をしていた。
翌朝は、朝食も食べずに戦い、疲れていて、正直乗り気ではなかったものの頷いた。
―――もちろん、乗り気じゃない理由はこれだけじゃないわよ?
たくさんあるうちの一番乗り気ではない理由は、顔を知られるのはよろしくないから。
ここみたいにあからさまに外部から来る人間を嫌っていれば、顔をまじまじ見られたり、勇者扱いされないけれど、今回ばかりは勇者扱いになりそうね・・・・・・。
確かに同じ過ちを繰り返すのは、馬鹿馬鹿しい。
だけど、自分達の都合で、ほっといて眺めているだけでは、同じ過ちを踏んでいるも同じ。
関わって、知ってしまったからにはもう引き下がれない。
新しい犠牲者が出る前に魔物を倒して、勇者扱いされる前にこの村を去れば良いかしら。
そんな事を考えていたらイリューストが謝ってきた。
「ごめん、ラーシャ。あんまり顔知られたくないよね。だけど・・・・・・やっぱり、同じ過ちを繰り返すのを見て見ぬ振りをするのは違う気がしたんだ。」
「・・・・・・そうね、その考えはあたしも同感よ。それにあたしの顔が知られるのがまずいというよりも、あなたの顔が知られる方が危険だと思うわ。だから、勇者や英雄扱いされる前にこの村を去りましょ。魔物を倒したらすぐよ。報告しなくていいわ。」
すると、イリューストは怪訝そうな顔をした。
「え?でも、そんなことしたら、村人達はいつ魔物が死んだかわからなくて怯えながら生活することになるし、もし魔物がいなくなったとわかっても僕らの姿がなくなってたら、死んだと思われるよ?」
「・・・・・・それでいいのよ。村人達が怯えてる間にあたし達はちゃっちゃと用を済まして引き上げましょう。そして死んだと思われる事で行方を眩ませる事ができるわ。これで少しは時間稼ぎができるし、本当に勇者様っぽいでしょ?“自分達の命と引き換えに、村や村人を守った”なんて。」
そう言ってあたしは笑った。
勇者は、相討ちが美しいのよ。
結構倒して帰ってきても持て囃されるのは一瞬だけ。
そのうち態度が大きいと、鬱陶しく思われるようになる。
相手に負ければ勇者であっても英雄ではないし、ただの一般人と変わらないだろう。
だからこそあたしは勇者になるつもりも英雄になるつもりもないけれど、人々はどこかで英雄や勇者を望んでいる。
だから・・・・・・物語でも勇者物語とか多いのよね。
「その発想ちょっと怖いよ、ラーシャ。」
イリューストがそう言って苦笑した。
すると、今まで黙っていたルキィルが口を開いた。
「ラーシャ・・・・・・私・・・・・・この国の言葉・・・・・・わからない・・・・・・何が、起こったの・・・・・・?」
え?とあたしは思った。
だってリベアさんとは話してたはずだし、いきなり言葉が変わるなんてある?
それに、ルキィルにはわからないのにあたし達にはわかるって・・・・・・どういう事なのかしら?
考えても全くわからないわね・・・・・・。
「今度はここで魔物討伐をすることになったのよ。それで魔物を倒したら即引き上げね?」
それだけ簡潔に言うと、ルキィルは頷いた。
「魔物・・・・・・悪い奴・・・・・・私の国も一度だけ・・・・・・荒らされたことがある・・・・・・姫巫女の力が弱まった時に・・・・・・。」
「へぇ・・・・・・そうなの・・・・・・。」
考える事がたくさん有りすぎて、今のあたしの頭では考えきれない。
イリューストがダイヤモンド・アイだという確証は、どこから得れば良いのかしら・・・・・・ただ瞳がキラキラしていただけかも知れないのに・・・・・・それ以外には?水色の瞳?
ごく少ない水色の瞳の民だって生存しているかもしれないのに?
本物が見れたら確証もできるかもしれないけれど・・・・・・そう簡単に見れるはずもないわね。
リベアさんの所にあったこのダイヤモンド・アイに関する歴史書も不思議だし、何故この本はあたしの国の言葉で書かれているのかもわからない。
さらにはイリューストも、あたしも、ダルキリも、ルキィルも、みんな異民族の異国民なのに仲間の内で言葉が通じないという障害が起こらないかもわからない。
なのにいきなりルキィルだけが、ここの言葉がわからないという・・・・・・。
不思議なことはそれだけじゃないわ。
あの不気味なトンネルも、ダイヤモンド・アイの歴史も、ダルキリやルキィルが操っている“魔法”も、聞いたことはあっても見たことは無いものだったのに、少数派民族と呼ばれる彼らにあたし達は会っている。
・・・・・・ちょっと行っただけで出会えるなら・・・・・・みんな出会うはずだし、彼らの使う“属性武器”を“魔法”だなんて呼ばなくなるはずだわ。
だって、珍しいから魔法だなんて言うのでしょう?
みんな会ってたら、その“魔法”が当たり前になるのだから、この一つの属性にしか対応できない武器に、魔法だなんて名前付けないはずよね?
だってはじめ、ダルキリも言っていたもの。
“魔法ではない”と。
ルキィルもダルキリも、使える属性は限られている。
人を癒すことも、人に力を与えることもできない。
それなのに、それを一概に魔法と呼ぶのは・・・・・・何だか違う気がするのは・・・・・・あたしだけなのかしら。
あたしが考え込んでいると、ルキィルが近寄ってきた。
「ラーシャ・・・・・・さっきっから・・・・・・何考えてる、の・・・・・・?」
「え?ああ、何でもないわよ。」
あたしがそう言って笑うとルキィルがあたしの手を握ってきた。
「うそ・・・・・・私・・・・・・わかる・・・・・・暗やみの中で抜け出せなくなって・・・・・・一人で苦しむ苦しみを・・・・・・でも・・・・・・そんな時、私が一人じゃないって・・・・・・教えてくれたのは・・・・・・ラーシャだった・・・・・・・ラーシャもそう・・・・・・ラーシャも・・・・・・一人じゃ・・・・・・ない・・・・・・私・・・・・・・何もできないかもしれないけど・・・・・・・ラーシャも・・・・・・一人じゃない・・・・・・。」
一生懸命伝えようとしてくれたのだろう。
ルキィルは、少し赤くなって俯いてしまった。
・・・・・・あぁもう、可愛いわね。
あたしは、ルキィルの頭を優しく触れると、ルキィルの頭の上にあたしの顔を寄せた。
ルキィルは、あたしより背が小さかったので、あたしの肩にルキィルの頭が乗り、その上にあたしの頭が乗っているような状態だった。
「ありがとう。優しいわね、ルキィルは・・・・・・あたしは大丈夫よ。ちょっと考え事が多くなってしまっただけなの・・・・・・でも、それがあなたにとって不安になったり、心配になるなら・・・・・・そうね、あなたにも少し相談させてもらってもいいかしら?」
ルキィルは、こくりと小さく頷いた。
「ありがとう。でも今は魔物を倒す方が先だから、後で聞いてもらうわね。」
ルキィルから離れ、ニコリと笑うと、ルキィルは、驚いたような顔をしてから、引き締まった顔になり、頷いた。
そんな光景をポカーンと見ていた男二名のうちの一名が口を開いた。
「ラーシャ・・・・・・男勝りだったんだね!」
「え?いきなり何を言うのよ?」
「ラーシャ、男だったらモテたんじゃないの?」
そのセリフに、あたしはピキ、っと来た。
「イリュースト・・・・・・あなたが何を言いたいのか良くわかったわ・・・・・・つまり、あたしは女らしくないと言いたいのね?」
「え!いや、別にそういうわけじゃ!」
いまさら慌てて違うなんて言っても、もう遅いのよ!
「仕方ないじゃない!自分の身くらい自分で守らなくちゃいけないように育ったんだもの!どうせあたしは、可愛く守られてる女の子とは違うわよ!」
そう言い残すとあたしはイリューストに背を向けて歩きだした。
その後を誰かついてくる音がしたので、「ついてこないで!」と言って後ろを向いた先にいたのは、ダルキリだった。
え?
え・・・・・・ちょっと待って?
なんでダルキリがここにいるのよ?
こういう場合、イリューストが来るんじゃないの?
だけどまぁ、いいわ・・・・・・追い掛けてきたのがルキィルではないなら・・・・・・。
さっきの言葉はルキィルに言うにはキツすぎたもの・・・・・・。
「ダルキリ?何でダルキリがいるのよ?」
「別に?多分、イリューストは悪気があった訳じゃないと思うぜ・・・・・・と、言いに来たわけではねえよ。」
いや、言ってるわよ?・・・・・・と静かに思ったけれど、ダルキリがまだ何か続けそうだったのでそこは突っ込まないでおいた。
「俺はラーシャに聞きに来たんだ。」
「何を?」
「そう急かすなよ。ラーシャは、“守られたいのか?”ってな。」
「・・・・・・守るよりも守られたいわ。当然じゃない?だって・・・・・・誰も守ってくれないなんて寂しいもの。あたしは自分の身を自分で守るように教え込まれてきた。そして他人を守ることも身につけたわ。あたしは強さを求めて強くなった。努力に見合うだけの成果を手に入れたわ。だけど・・・・・・時々思うのよ。“あたし、本当は一人なんじゃないか”って・・・・・・本当はずっと、あの頃のまま、変わってはいないんじゃないかって・・・・・・・。」
「あの頃?」
「・・・・・・なんでもないわ。ただ、あたしが権力や地位に守られていたときの話よ。だけど、その時守られていたのは“あたし自身”ではなかったのよ。だから・・・・・・人を守ることはできても、誰があたしを守ってくれるんだろう・・・・・・なーんてバカなこと考えちゃったりしたのよ!あたし、本当にバカね!こんなことダルキリに言ったって良くわからないわよね!」
そう言って笑うと、ダルキリは、「守ってやろーか?」と言った。
「・・・・・・え?」
「だから、俺が守ってやろーか?ってんだよ。」
「いいわよ、結構。ダルキリに守られたらダルキリの本能ありのままにつき合わされなくちゃならなくなるわ。例えば魔物狩りとかね。」
「・・・・・・んなわけねーだろ!でもさ、強がんのも良いけど、たまには本心出さないと、誰も気付かなくてラーシャから離れていくのは当たり前だと思うぜ?わかるわけねーよ。言わなきゃわかんねーことだらけだろ。」
「・・・・・・ダルキリは、言ってもわからない事のほうが多いわよね?」
「なにぉう!?俺の事、馬鹿にしてんのか!?」
「別に?ありのままを言っただけよ?」
あたしが意地悪に笑うと、ダルキリは、何か言おうとしてから、口を閉じ、「戻るぞ。」とだけ言って、あたしに背を向けた。
「・・・・・・なによ、ダルキリのクセに・・・・・・。」
“強がんのも良いけど、たまには本心出さないと、誰も気付かなくてラーシャから離れていくのは当たり前だと思うぜ?”
その通りよ。
あたしも本当はわかってる。
だけど・・・・・・やっぱり強がっちゃうのよ。
そうしているのが当たり前だったから・・・・・・。
だから、ダルキリが言ったことはあまりにも正しくて、悔しくて・・・・・・あたしは、その先を茶化してしまった。
「・・・・・・でも・・・・・・ダルキリ、ありがとう・・・・・・。」
そう小声で呟くと、ダルキリが振り向いた。
「なんか言ったか?」
「いいえ、何にも。」
そう言って笑うと、ダルキリは、「ふーん」と言ってまた歩きだした。
何だか、ダルキリに正しいことを言われたのが悔しくて・・・・・・いつも茶化すような態度をとるダルキリにお礼を言うのが照れくさかった。
素直じゃないのかしらね、あたしも・・・・・・。
「あ、ラーシャ!」
イリューストがあたしを見てすぐにあたしの名を呼んだ。
「その、ごめん。ラーシャが女らしくないとかそう言いたかったわけじゃなくて、ただ、ちょっと勇ましく見たえたんだ。僕には・・・・・・。」
「もういいわよ・・・・・・ダルキリにあまり言われたくないこと言われちゃったしね。」
すると、ダルキリが眉をしかめた。
「いつラーシャが言われたくねーことなんか言った?」
「・・・・・・・言われたことが的を射ていたのよ、本人に言わせないでよ。恥ずかしいわね。」
「は?的を射ていた?だから、何がだよ?」
「あぁもうっ!図星だったのよ!図星!」
「へー、何の台詞が?」
「ちょっと!あなたそこまで本人に言わせるつもりなの!?」
「ラーシャが話をややこしくしてるんだろ!」
そう言い切るダルキリに、呆れてため息をつきながらイリューストに助けを求めた。
「もういや・・・・・・・イリュースト、話を変えてよ。」
「え?え?あの、僕、何が起こったのか全くわからないんだけど・・・・・・。」
しばらくすると、あたしは少しイラッとする事を思い出した。
「・・・・・・・そういえば、あなたあたしのこと追ってこなかったわよね?なんでダルキリがあたしの後を追ってきてたのかしら?少しも弁解する気、なかったの?」
あたしが半笑いするとイリューストは慌てだした。
「え!いや、その、追い掛けて弁解しようとしても余計こじれるんじゃないかと思って!一人にしてほしい時ってあるじゃないか!それだと思ったんだけど・・・・・・。」
あまりにも焦って、本当にあたふたしているイリューストがおかしくて、ついつい笑ってしまった。
「だからその・・・・・・何で笑ってるんだよ・・・・・・。」
「だって、あなたの手振り身振りが変な踊りを踊っているようにしか見えないんだもの!怒る気力も無くなるわよ!」
そう言って、お腹を抱えて笑うと、イリューストはむくれてしまった。
「・・・・・・ラーシャの悪魔・・・・・・。」
「イリューストの天使ちゃん。」
あたしも言い返すと、イリューストは「天使ちゃんはやめて。」と言った。
イリューストとあたしで話していたが、その間、やはりルキィルとダルキリは、話す素振りも見せなかった。
―――あたしは、仲間なんだからみんな仲良くなれば良いと思うのに・・・・・・その考えは、甘いのかしら?
作「くぁあああ!ねむ……。」
ラ「最初の挨拶が眠いとは、ずいぶん失礼ね?」
作「別に今回は説明することもないからここで終わりでいいよね?」
イ「ラーシャー!!僕は男なんだよ!?天使ちゃんなんて言われたくないんだけど!!」
作「うわ!?いきなり乱入してくんなよ!?」
ラ「……あら、あたしはただ、ありのままを言ったまでよ?」
イ「それと、僕のことからかうの、やめてくれない!?」
ラ「……やめられないと思うわ。フフッ。」
イ「笑い事じゃないよ!」
ラ「あなたの反応、いちいち新鮮で面白いのよ!」
ダ「お~、楽しそうだな。俺も混ぜてくれよ。」
作「ギャー!?くんな!これ以上くんな!終わんなくなるだろ!?」
ダ「おいおい、そりゃねーよ!それより俺Sideは!?俺Side!!」
作「ん~ダルキリSidehaはっきり言って、作りたくねーんだよ。主役食うだろうからな。」
イ「僕、食べられちゃうの!?」
作「ああ、うん……まぁ、ダルキリのほうが個性的だからな。キャラとしては。」
ダ「ならいいじゃねえか!主役交代!俺が主役のダルキリ物語!とか、ダルキリ伝説!!なんてどうだ!?」
作「……インパクトあるよ。」
ダ「だろ!?」
作「ダサくてな……。」
イ&ラ「ブッ!!!(噴出した。)」
ダ「なにぉう!?つか、二人して笑ってんじゃねー!!」
作「それに、ダルキリは深く考えないだろ。物事を。ダルキリの考えで文章構成なんかしてみろ。ただの箇条書きとか、出来事日記みたいになっちまうぞ。」
ダ「ひでぇなおい!つか、そんなんならねぇよ!!」
作「あ~はいはい、そーでっか。今回はココまでです。ありがとうございました。次回もよろしくお願いします!!」