イリューストSide 始まり
「グルゥゥアァ・・・・・・!」
「うわぁっ!」
最悪だ!なんか知らない森に入り込んだと思ったら僕が知ってる中で最も狂暴な魔物の子供と出くわすなんて!
魔物は僕を狙い、爪を振り下ろしてくる。
僕、リュラとの約束も何一つ守れずにここで死ぬのかな?
目をギュッとつぶった時、バッサリと切られる音がした。
あれ・・・・・・痛く・・・・・・ない?
「ちょっと・・・・・・大丈夫?」
そこには髪の毛も目もこの森によく似合う深い緑色をしていて、一瞬森の妖精と見間違うほどの少女がいた。いや、実際そんな妖精に会ったことはないんだけど、きっとこんな感じなんじゃないかと思う。
だけど、その少女は“呆れながら”僕を見下ろしていたからああ、人間だと思った。
僕は以前彼女と同じ目をした人に沢山会ったことがある。
そう、“期待はずれ、出来損ない”っていう、絶望の目だ。
彼女もその類の目で今僕を見ているんだろう。
慣れてる・・・・・・というより、なれ過ぎて虚しい・・・・・・なんてね・・・・・・。
「あ、ありがとう。」
この森の住人なのかな?
なんか、僕より年上な感じがする・・・・・・けど僕も彼女の雰囲気につられてタメ口になる。
なんだろう、この気取らない感じ・・・・・・リュラに少し似てるかもしれない。
「あなた、こんなところで武器一つ持たずに何してるの?」
ハッとした。
そうだ。はたからみたら僕は何をしてるんだろうって感じだよな・・・・・・本当に。
「旅を・・・・・・しようと思ったんだ。」
「え!?」
彼女は僕を見てからすぐに顔をしかめた。
「・・・・・・その格好で?」
僕は最近起こったすべての事を話した。
リュラのことも、命を狙われたことも、親や町が全部燃えたことも、自分はその時隣町にいて、生き長らえていた事も。
「・・・・・・という、わけなんだ。旅をしたら何かがわかる気がして・・・・・・あ、助けてくれてありがとう。僕、イリュースト・アルバ。君は?」
「そう、あたしはミシェラ・ターク・・・・・・じゃなくて、ラーシャよ、そう!あたしの名前長いから、ラーシャって呼んで!」
何か慌てていたけど、誰にだって一つや二つ、触れられたくないことがあるだろうと思い、あえてそこには触れなかった。
例えば僕が弱いのに旅をしようとしていることに触れられたくないのと同じように。
ラーシャ・・・・・・?は僕の手を握ると、握手と一緒に僕を立たせた。
「ありがとう、ラーシャ。そうだ、よければここがどこだか教えてほしいんだけど。」
「残念だけど、あたしにもよくわからないのよ。ねぇ。イリュースト・・・・・・あなた、これから行き先は決まっているの?」
ラーシャもここがどこだかわからない、行き先もわからない。
そんな僕達が出会う確立って・・・・・・いったいどれだけの確率なんだろう。
「全然。どこに行こうにもどうすればいいかなんてわからない。」
「なら決まり!イリュースト、あたしを守って!」
唐突な言葉に思わず目を丸くした。
「はぁ!?」
ラーシャはなにを言いだすのだろう。
思わずどもりながら僕は続けた。
「僕が・・・・・・ラーシャを?魔物も倒せない僕が?」
するとラーシャはため息を吐いた。
「バカね、かくまってって話よ。あたしも追われる身なの。イリューストについて尋ねる人がいたらあたしは知らないフリするわ。だからあなたもあたしを探してる人にあったら知らないフリして。」
少しだけホッとした。
なんだ・・・・・・そーゆーことかって、あれ?
「僕ら、旅仲間になるってこと・・・・・・?」
「簡単な話、そうなるわね。じゃなきゃあなたみたいな弱そうな人に守って!なんて言わないわよ。だいたい魔物退治ならあたし一人で十分だもの。まぁ、強い方がいいに越したことはないんだけどね。」
「うっ・・・・・・。」
さっきっから痛いこと言うなぁ。
セリフから矢印が出て僕を貫いてるみたいだ・・・・・・。
「あら、どうかしたの?」
「い、いや、何も。」
ヨロヨロの笑顔で笑いかけるとラーシャも笑った。
「そう、じゃあ決まりね!よろしく、イリュースト!」
「あ、うん・・・・・・。」
ラーシャ、綺麗な顔立ちしてるんだなぁ・・・・・・。
するとラーシャが顔をしかめた。
「何、人の顔じろじろ見てるのよ?」
「あ、いや、その・・・・・・ラーシャって綺麗な顔立ちしてるなぁ、と。」
そう自分で言ってから真っ赤になった。
でも、ラーシャを見たらラーシャも僕に負けないくらい真っ赤だった。
それを見て、さらに顔を赤くした。
多分、これ以上僕の顔は赤くならないだろう。
「な、何顔赤くしてるのよ!こっちまで照れるじゃない!・・・・・・でも、ありがとう・・・・・・そーゆーのって社交辞令だと思ってたわ・・・・・・。」
ラーシャは唇を手の甲で押さえて、そっぽを向いていた。
思わずガン見をしていた。
「こ、ここでじっとしてても仕方ないのよ!?ほら、行くわよ!」
ラーシャは歩きだした。
「ちょ、行くってどこへ!?」
「そんなん知らないわよ!バカ!」
バカ・・・・・・バカ・・・・・・ひどいなぁ。
行く場所がわかんないことがバカなら、ラーシャもバカじゃないか・・・・・・。
「あ、あれ・・・・・・小屋・・・・・・かなぁ。」
「え?人はいる?」
ラーシャがとたんに食い付いた。
小屋の中に影が動いている。
まあ、多分人間だろうと思う。
「いる・・・・・・みたいだ。」
「小屋?どこにあるのよ?ちっとも見えないじゃない。どれだけ目、良いのよ?」
「えーっと、数百メートルくらい先の大木の横に・・・・・・。」
「木だらけで数百メートルも見えないわよ!あなた、これほどの洞察力があって何で弱い魔物から逃げ切れずに腰を抜かしてたわけ?」
また痛いとこつくし・・・・・・。
「いきなり近くの茂みから出てきて気付かなかったんだ!」
ちょっとムキになって言ってみてもラーシャは振り向きもしないで淡々と言った。
「そっか、灯台下暗しだったんだ?」
「は、ぐぅ!」
灯台下暗し・・・・・・灯台下暗し・・・・・・灯台下暗し・・・・・・言葉が僕の頭の中でエコーして何度も同じ言葉だけを繰り返している。
そーいや、昔リュラにも言われたよな。
『イリュは逃げてばっかだなぁ、そんで肝心の自分のまわりが見えてないのー。知ってる?そーゆーのって灯台下暗しって言うんだってー。ダメだよ?自分のまわりからしっかり固めてかなきゃ。でも大丈夫!リュラがちゃんとイリュのそばにいて、イリュのこと、悪い奴らから守ったげるから!』
当時は幼くて自分のことさえリュラと呼んでいた遠い昔の約束。
多分、本人は覚えてないだろうし、思い出したって仕方がないことだよな。
だってリュラはもう・・・・・・イナイ。
でも、リュラは最後の最後まで約束を守ってくれた。
僕の変わりに彼女は殺された。
僕は最後の最後までリュラに守られていた。
僕がもっと強ければ、あんなことにならずにすんだんだろうか?
僕は・・・・・・無力だ・・・・・・無力すぎる。
ギュッとこぶしを握ったらラーシャが僕の顔を覗き込んでいて、思わずギョッとして仰け反った。
「イリュースト、大丈夫なの?さっきっから立ち止まってるけど、嫌なことでも思い出した?」
僕は笑った。
「大丈夫だよ。」
「本当に?」
「ああ。」
「そう、なら急がなきゃ。じっとしてたら体が冷えて来ちゃう。」
フルッと小さくラーシャは震えると歩きだした。
そういえばこの森、ひんやりとしててじっとしてるには少し寒いかもしれない。
「イリューストってば!じっとしてないのっ!」
ラーシャはそういうと僕の右手をつかみ、歩きだした。
女子と手をつなぐなんて、生まれて初めてだー。
ラーシャの手、綺麗な肌だなー・・・・・・じゃなくて!
えぇぇえぇ!?何!手をつないじゃってます心境!?
何!握り返していいものなの!?
いいの!?ねえ、いいの!?
それで結構、手は握りかえせずに小屋に到着した。
その頃にはもうすっかり日は落ちて、小屋から出てきたお婆さんはとてもいい人で、僕達を泊めてくれると言った。
作「前回はよく無視してくれたな……。」
イ←イリュースト「へ?え?あ、嘘、初めまして……ですよね?何怒ってるんですか?」
作「何怒ってるんですか?じゃない!!」
イ「うわぁ!ごめんなさい!ごめんなさい!」
作「ま、仕方ないっちゃ仕方ないか……町というか故郷が焼き払われたんだし……。」
イ「な、何で知ってるんですか?」
作「知ってるから?」
イ「まさかあなたが僕の故郷を焼いたんじゃ……。」
作「うわぁぁあああ!!やめろー!違う!敵は違うから!!」
イ「なんで!だって、あそこに居たんでしょ!?居たから知ってるんでしょ!?当初の生存者は僕だけだ!僕以外に存在するならそれは敵じゃないか!!」
作「居ない!あの場所にはいないし、敵ならとっくにイリュースト殺してるから!」
イ「ああ……そっか……それもそうか……。」
作「まだこんなに無防備で警戒心のないイリュなんか簡単だしな~。」
イ「イリュ……今、イリュって、どうして僕の名前……。」
作「知っているから、以上。とりあえず今回はココまでってことで。じゃ!」
イ「ちょ!!」
ありがとうございました。