ラーシャSide 虫
あたしはイリューストが何をしようとしているのかが理解できなかった。
でも、イリューストの顔がすごく真剣だったから遊びじゃないんだなって事だけはわかったわ。
その後でダルキリは全く気にしていないようだけど・・・・・・。
イリューストはあたしにイリュースト自身に起こったことを話してくれた。
特別扱いされるイリューストに比べ、敵扱いされるあたし達。
この差ってなんなの?
あたしには理解しがたいわ。
どうして獣や精霊はイリューストに親切なのよ?
ダイヤモンド・アイがそこまで大きな影響力を持ってるとは思えないわ。
だってそんなに沢山仲間がいたなら何故ダイヤモンド・アイの民族は滅びたのよ?
もしかして・・・・・・ダイヤモンド・アイだってあたしが勝手に決め付けていただけで、実は違う民族なの?
水色の瞳を持つ、違う特殊能力をもつ民族?
も・・・・・・少なそうよね、何しろ水色の瞳はダイヤモンド・アイのせいでほとんど失われてしまっていて、生存しているかもわからないんだもの・・・・・・。
どちらにしろ、あたしは本物のダイヤモンド・アイは見たことないんだし、イリューストの瞳が本当にダイヤモンド・アイかなんて判断できないのよね・・・・・・。
「あのぉ・・・・・・ラーシャ・・・・・・?」
ハッとした。
あたしはまたイリューストの顔を両手で挟んでいた。
あたしは思わず口をあんぐりと開けた。
正直、自分でも驚くしかなかったのよ。
「ご、ごめんなさい!」
イリューストも慣れてきたのかそんなに慌ててないし、あたしもそんなに赤くはならない。
ただ、ダルキリだけが火に獣をかざしながら変な歌を歌っていて、「早く肉焼けねーかなぁ。」とか呟いてたのはなんとなく記憶に残っているけれど・・・・・・。
―――イリューストは一体何者なの?
そして、あたしのこのクセは一体いつになったらなおるのかしら?
わからないことだらけよ・・・・・・。
1人でため息を吐いたら何故か泣きたくなった。
たまに無性に悲しくなるときがある・・・・・・苦しくなる時も。
それがどうしてかはわからないのよね・・・・・・泣きたいならどこかに行って泣ければ良いのに、涙が出てこない。
それに最近、すこし疲れやすくて・・・・・・あら?
視界がぐらついた。
ドサッ!
「ラーシャ!!」
気付いたとき・・・・・・というか視界がはっきりした時、あたしはイリューストとダルキリに囲まれるような形で木にもたれながら座っていた。
「・・・・・・何かしら・・・・・・多分目眩よ。大丈夫だから二人してそんな顔しないでくれるかしら?」
何故か哀れまれているみたいではじめて二人に自分が見られているということが嫌だと思った。
「大丈夫なのかよ?毒抜きはちゃんとしたハズだけどまだ残ってたか?それとも包帯替えるか?」
ダルキリがあたしを覗き込んだ。
オレンジ色の髪の毛がなびいて綺麗だけど・・・・・・やっぱりはしゃぎまわる獣って感じよね。
その紫色のイリューストより小さくて細い目はあたしをしっかりとらえていて、その瞳にあたしがうつっていた。
きっとあたしの目にもダルキリが移っているのだろうと思った。
あたしはダルキリからうつむくようにして視線をそらすと突き放すようにダルキリの肩を強く押してあたしからダルキリを遠ざけた。
「大丈夫よ、本当に何でもないの。何でもないのよ。」
何故かあたしはダルキリの瞳に映る自分の姿を見るのが嫌だった。
すごく、思っている以上に、ちっぽけに見えて仕方なかった。
馬鹿みたい・・・・・・自分にどれだけの価値があるのだろうと1人で飛び出してきたけど、それさえも無力で意味がないものだったなんて。
あたしは、今はたまたまその機が向いてこないだけで、その機さえあれば自分の存在が、自分単体の存在がわかるのだと思っていた。
でも、どこまで行ってもきっと結果は同じなのだろう。
“あたしはここで何をしている?”
自分自身に疑問を問い掛ける。
少し前なら“自分の存在を、可能性を探しに行く。”と自信を持って答えられた答えさえも今は曖昧で、あやふやで・・・・・・わからない。
そうか、自分の存在を探すのは意味がないのかもしれないわね。
ダルキリなんて本能のままに生きてる感じだもの。
きっとあたしも、考えてはいけないことなんだわ。
「ラーシャ?」
ハッとした。
目の前には少し傷ついた顔のダルキリと、目を見開いて驚いているイリューストがいた。
「何よ?ほ、ほら、ダルキリ!またあなた、お肉焦がすわよ!?」
あたしは無理やり笑った。
この場を気まずくしたのはあたしだ。
あたしが何故不機嫌になるのかを当然二人は知らない。
だからちゃんと戻さなきゃ・・・・・・もとの雰囲気に・・・・・・。
「んな、何度も・・・・・・うわぁぁぁあ!焦げる寸前っ!!」
火の方向を見ながらダルキリが大きな声を上げたので、あたしは思わず吹き出した。
「あなた、失敗から何も学ばないタイプよね!」
「そんなハッキリ・・・・・・!」
イリューストがオロオロしていた。
きっとそんなはっきり言っちゃダメだよって言いたかったんだろうけど、そっちのほうもまた失礼だろうと思って口をつむいだんでしょう。
イリューストのことだもの。
「・・・・・・んなことねえよ?」
ダルキリはお肉を傾けながら言った。
「へえ?じゃあ一体何を学んだというの?教えてもらいましょうか。」
あたしは笑いながら座りなおすと、腕組をした。
「例えば?・・・・・・例えば・・・・・・そうだな。俺が何度か失敗したりとかするとラーシャが笑うこととか?案外それでラーシャがホッとしてるところとか。失敗っていうか、そーいうのも無駄じゃないんだと俺は思ってるけど。」
あたしは目を見開いた。
ダルキリ、あたしの表情なんて見てたのね。
しかも案外細かく・・・・・・。
「な、何言ってるのよ。大体それのどこが“失敗から学んだ事”なのよ?」
「んー?まず、わかりやすい。それにラーシャ、うそつけねータイプでしょ?俺は女の子とか良く見てるわけ!」
ダルキリはニヤリと笑った。
「軽いわね・・・・・・全く。あなた、女だったら誰でも良いんでしょ?」
「んなことないかもよ?」
ダルキリは、チラリと火から目線をはずし、あたしを見た。
顔は笑ってないけど、なんかダルキリに挑戦されてる気がする・・・・・・。
これって・・・・・・ああ、そういうことなのね。
あたしを相手に駆け引きを始めようというの?
受けて立とうじゃない!
あたしはそんな言葉でホイホイついていくようなやすい女じゃないわよ?
「どうかしら、あなたの言うことどこまでが冗談じゃないのかわからないものね?」
するとダルキリは笑いだした。
「ハハハッ!厳しいな!でも俺は一応中途半端は嫌だから一途なつもり。」
ダルキリはそう言ってまた笑ってから火に向き直った。
「一途っていうのはイリューストみたいなのを言うのよ。」
あたしは独り言のように呟くとイリューストがあたしを見た。
「ラーシャ?僕が一途って、どういう事!?」
「あら、違うの?」
「・・・・・・わからない・・・・・・。」
「一途よ、一途。」
「どうして本人にもわからないことが他人にわかるんだよー?」
「だってあなた、リュラ一筋じゃない。」
あたしは苦笑した。
イリューストにとって彼女は、幼なじみで特別で、同時に“永遠”になってしまった女の子・・・・・・。
「リュラ?以前にも仲間が?」
ダルキリもその話に少し興味があるらしい。
「だ、だから、何回言えば・・・・・・リュラはただの幼なじみだよっ!」
「あら、じゃあ恋もしたことがないの、可愛そうねえ~?」
あたしが冷やかすような目で見ると相当焦ったイリューストが瞳を輝かせながら言った。
「ないよ!もういいでしょ!その話はなし!大体そういうラーシャはあるの!?」
「あたし?」
思わぬとばっちりが飛んできてあたしは面食らった。
「あたしは・・・・・・ないわよ。」
だって恋愛している暇さえ与えられないもの。
「ラーシャだって人のこと言えないんじゃんか!」
「言えない・・・・・・かしらねえ?」
あたしはイリューストをからかって遊んでいた。
「女って好きだよなーそーゆー恋愛話みたいなの?聞いてると、くだらなく聞こえてくるのは俺だけか?」
ダルキリはお肉の見張り番をしながら小指で耳をほじっていた。
「ちょ、食物の前で汚いわよ!ダルキリッ!」
それに・・・・・・男の人って何考えてるのかわからないじゃない。
あたしは男じゃないんだし・・・・・・だから、素ではどんな事考えてるのかな~って少し興味が・・・・・・ないわけじゃないのよ。
でも、ダルキリは年中女体の想像をしてそうね。
あーやだやだ。
「ラーシャ、俺を見ながら嫌そうな顔をするのはやめてくんねーかな。」
ダルキリは苦笑した。
おっと・・・・・・あたしってばついつい思っていたことが顔に出てしまったみたいね。
「そうね、気を付けるわ。そうだ、ダルキリあなた、イリューストに剣技を教えてよ!あたしももちろん教えるわ。だけとイリューストってば剣も握った事なさそうなんだもの。あたしの技よりあなたのほうがわかりやすいと思うのよ。あたしが知ってるのは剣だけじゃないから、変な技とか教えかねないし。」
あたしはそういいながら手を一回叩いた。
「いやいや、平和な場所に剣はいらないよ?手にととったことがないのは当然じゃないの!?というかむしろなんでラーシャは剣技覚えたの!?ダルキリは知ってるけど。」
「なんでダルキリは知ってるのよ?」
「仲間になった時聞いたんだ・・・・・・。」
「ふーん?あたしはあれよ。格好見ればわかるでしょ?そーゆー“有名な”場所から出てきたのよ。剣技もすべてがマニュアル化して、いつか自分もなくなって、自分がマニュアルみたいになるんじゃないかと思ったら・・・・・・どうしてか全てを投げ出したくなっちゃったのよね!」
あたしはアハハッと笑った。
「ああ、そうなんだ・・・・・・それで王様からお呼びがかかってラーシャが呼ばれたはいいけどラーシャが失踪したから王様は焦って呼び戻そうと必死なんだね。無傷っていうのはまた城で働かせるってことなのかな。相当信頼されてるんだね。ある意味大罪かもしれないけど、僕はラーシャを死刑とか罪とかは与えないと思うよ?」
「・・・・・・そうかしら?そうだといいわね。」
あたしは微かに笑った。
「何それ!俺初耳なんだけど!?」
ダルキリがお肉をいい色になるように調整しながら言った。
それからイリューストがあたしをチラリと見てから「あたしは言わないわよ。」と言ったら渋々あたしの賞金首の話をしだした。
ダルキリなら大丈夫、まだ脅せるわ。
だけど正直少し怖いわね。
二人して何か企みだしたら・・・・・・あたしはかなわないかもしれないもの・・・・・・。
「ええっ!ラーシャ、逃亡者!?かっこいー!つーか、おいイリュースト!おまえラーシャのこと知らないんじゃなかったかよ!?」
「う・・・・・・僕だってあの後に聞いたんだよ!だいたい、ラーシャの事を知らないんじゃなくてラーシャの素性を知らないってだけだろ!」
「うるせー、んなもんどーでもいいだろ、気にすんなよ!」
「気にするよ!だってだいぶ意味違うじゃないか!」
「通じりゃいいんだよ!通じりゃ!」
永遠に続きそうな馬鹿げた会話に終止符を打つため、あたしは咳払いをしてから大きく息を吸った。
「こらっ!いい加減にしなさいよね!二人してどうでもいいことで喧嘩しないの!あたし達はある意味逃亡者で、目立っちゃいけないのよ!?分かってる!?」
二人が目を丸くしてあたしを見た。
「ラーシャが一番でかい声だから目立ってると俺は思うぞ・・・・・・。」
「ラーシャまでどうでもいいって言った・・・・・・言葉は重要な情報で、少し間違えると全く違う意味を持つのに・・・・・・。」
「・・・・・・うるさいわよ・・・・・・二人とも、殴られたいの?」
あたしは二人を順番に睨むと二人は頭を横に振った。
「滅相もございません。」
「よろしい。それよりダルキリ、だからお肉・・・・・・。」
あたしは冷ややかに今にもこげそうなお肉を指差した。
どうして男って一つのものばかりに集中しやすいのかしらね。
まわりがどうでも良くなっちゃうようなダルキリみたいなタイプだと本当に困るわ・・・・・・。
「おおっ!いい感じじゃんか!」
というか・・・・・・ダルキリと過ごしてたらあたし、絶対栄養バランス偏るし、太るわ!
「あたしはいらないから二人で食べてよね!」
あたしの前に差し出されるお肉をあわてて断ると、私は採取してきた実や花を食べた。
花びらを食べるなんて・・・・・・いつぶりかしら?
サラダにのってたのを食べた以来よね・・・・・・。
蜜がすごいあまいのと、そうでないのがあったりして・・・・・・。
そう思いながら実に手をのばしかけたとたん、蠢く虫発見・・・・・・!?
「イヤァァァァアッ!!」
あたしは剣を抜き取ると、虫を殺していた。
「ラーシャ!?」
「何があったんだ!?」
ダルキリとイリューストが構えたのを見て、あたしはあたしが叫んだという事実に顔を真っ赤にした。
「な・・・・・・なんでもない・・・・・・わよ・・・・・・。」
ラ「ちょっと作者!でてきなさいよ!」
作「なんだよ、その○○、ちょっと面かせよ、みたいなのは……。」
ラ「はぁ?何よ、それ?」
作「で?作者に何のようだい?」
ラ「あたし、いつまで花びら食べてないといけない時期が続くのかしら……(ため息)」
作「さぁ?多分わりと長く続くと思うよ。」
ラ「うう、パンがほしいわ……。」
作「まぁまぁ、しばらくの辛抱だと思ってさ。」
ラ「他人事だからそんな風にいえるのよ!!」
作「うん、だって、まんま他人事だし。」
ラ「(……プチッ!)」
(無言で首絞め。)
作「ちょ、じぬぅ~!!人後路地(人殺しといいたい。)~!!」
ラ「まったく……。こうなったらさっさと先に進んでいくしかないわね。」
作「……。(作者KO)」
ラ「あら……?手加減してあげたのに伸びちゃってるわ。ま、次回くらいには復活してるでしょ。」
(作者の放置決定。)
ラ「というわけで、今回はココまでよ。無駄すぎるくらい無駄なところだけど、読んでくれてありがとう。じゃああたしは帰るわね。」
(ラーシャ退散中)
ラ「……ダルキリに今度、お肉以外にも取ってって頼んでみようかしら……は!でも、ろくでもないのとってきたら困るわ!ここはイリューストに頼むべきかしらね……ブツブツ……。」