第7章 バスティア決戦No.16
ーーー峠のキバ。
広い会議室で、一人座って「ブツブツ」と呟いていた。その男の名を【ローレンス・グリ】。
以前、ローレンスはこの峠のキバでトップを取ろうと野心に燃えたが、いざやってみると判断が難しく途中で投げ出したくなる…が、そういう訳にはいかない!
まぁ、譲って欲しいと言われれば直ぐにでも譲るのだが…。
難題をクリアすれば、すぐに難題がやってくる。今、難題なのは江上軍の動向である。
江上軍は国境を境に大軍を押し寄せてきていた。裏の取引によると2万人程の大軍で10日程、予行演習をするらしい…まぁ、9割がた嘘だと思うのだが本人は予行演習と言っているのであれば予行演習なのだろう。
ドンドン!!
会議室のドアを激しく叩く。
なんだか焦っているような感じだ…すんげぇ、嫌な予感がする。
「入れ」
鎧をつけた兵士が汗だくでこちら方に走る。
「やっと見つけましたよローレンス王!ったく分かった場所に居て欲しいものですね…ハァハァハァ」
肩で呼吸をした兵士は天井を仰いだ。
「分かった、分かった、それでマクロス。何の用だ」
マクロスはやっと息が整ったのか真剣に応える。
「何やら江上軍の様子がおかしいです。あと、江上軍とおぼしき人が【ローレンス王に渡して欲しい。江上軍のものと言えば分かる】とのことです。怪しい人なので思わず切り落とそうかな?と思ったのですが、とりあえずローレンス王に聞いてみてその後は考えようと思って…」
ローレンス王は白い目で見る。
何だこの発言。マクロスは峠のキバではトップクラスでの常識人ではあるが、世間一般的には非常識にあたる。本当に先が思いやられる…
ローレンス王は頭を抱えてしまった。
「ん?どうしたんですか?」
マクロスは怪訝そうな顔をしていた。ローレンス王はというとため息をついて頭の切り替えをした。
「いや、大丈夫だ。江上軍とおぼしき人物が持ってきた親書を渡してくれ」
「了解しました。確かこの辺で見たような…あった!」
ローレンス王は、またもや白い目で見る。
あぁ、そうだった。みんなでいると冷静沈着で淡々としているが二人になると、どうも気が緩んでしまっているなぁ…
「どうぞ」
ローレンス王はマクロスから渡された親書を開ける。そしてプルプル震えだし、ため息をついた。
「……マクロス、すぐに全部隊を呼んでくれ」
「はっ!今すぐに!」
ローレンス王は顔を引き締めて窓の外を見た。そしてマクロスはその王を前に気を引き締めて、深々と会釈をし全部隊を召集令状を出した。
ーーーー数分後
ようやく峠のキバの全部隊が出そろった。全部隊と共に「これから全面戦争だ!」と興奮と不安で高揚感が増していた。
「ローレンス王、全部隊到着しました」
ローレンス王は「うむ」と頷き立ち上がる。そして目の前をゆっくり見渡す。
「こんな戦いの最中に申し訳ない」
ローレンス王は深々と会釈をした。そして、ローレンス王がお辞儀の姿を見て慌てていた。
「ローレンス王、そんなこと言わないで下さいよ!ローレンス王と峠のキバは、いわば一心同体じゃないですか!ローレンス王が着いていくことは僕と同じなので着いていきますよ!」
峠のキバ全員が「そうだ!そうだ!」声を上げた。
「ありがとう。けどな…今やろうとしてることは江上軍を味方にして峠のキバを明け渡すことだ。それは峠のキバとしてできないだろ?だったら、ローレンス王を解任して次期王に引き継ぐか?それともゴタゴタを表して黙って明け渡すか?の2つしか選択肢はない。まぁ、解任は避けられないから一人で行くよ。まだ、死にたくないのでな」
峠のキバ全員が「まるで時が止まったかのように「シーン」と静まりかえってしまった。
そして、ローレンス王は「ハハハ…」と乾いた声で笑い、あとにしょうとした。
「待って下さい!」
ローレンス王を遮ったのは【マクロス】その人である。
「待って下さい!ローレンス王!アナタが斜め上の発言したから混乱しただけです」
マクロスは真剣な顔で深々と頭を下げて言った。
「ローレンス王!アナタが火の中、水の中だろうが黙っていようがついて行きますよ!だから、そんなこと言わないで下さい!」
そして、峠のキバの隊長【バックス】が立ち上がった。
「水臭いですよ!俺らはローレンス王と共に従いますよ!なぁ、みんな!」
そして次々と立ち上がり、歓声と共に「やってやろうぜ!」「従いますよ!」など声は荒げた。
「ありがとう!みんな!本当に感謝しかない!」
ローレンス王は涙をこらえて周りを見渡す。
「だったら、峠のキバの軍は決まった!すぐに伝達を出すぞ!すぐに全部隊に伝えてくれ!」
峠のキバ全員が一斉に「はっ!」と会釈し、足早に帰って言った。そしてローレンス王一人になってしまった。
「想定外だよなぁ…」
ローレンス王は「ボリボリ」と頭を掻き呟く。
信頼されているのは正直嬉しい。そして、峠のキバの全員が一癖二癖もあるが凄く好きだ。しかし、トップは俺以外に退任して欲しいと思う。今が一番のチャンスだ!
チャンスを掴むためにしてきたことなのに…とため息をついた。
「あ〜あ、親書のようになった感じか?」と思い、証拠隠滅のため燃やしてしまった。