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ガルシア戦記  作者: 千山一
第1巻 バスティアの魔族
35/213

第7章 バスティア決戦No.7

「先程は失礼しました」


リックは黙って会釈をする。

なんだか、冷たい目が刺さる。そして、歩いていき広い円卓の前に立つ。


「では、僕は藩上の誰も知らない店で、僕と江上軍のトップである【リナ・アンダーソン】、No.2である【ベルドナルド・クルーズ】の3人で交渉しました。

結論から言います。

【アナタ方は勘違いをしている。予行演習に来ているのだと。予行演習は10日前後には終わるので、待って欲しい】とのことでした」


リックはそう言い終えると、ある男が立ち上がった。【バックス・ローレンス】だ。

バックスはいつも陽気だが、戦場では一番に目立ちだかりで気がついたら一人孤独ということが度々あるぐらいの困った男である。けれど、峠のキバ唯一の信頼できる人である。まぁ、空気が読めないのが玉に傷ではあるが…


「転倒さんに質問です。江上軍の話、真に受けるんですか?」

「…リックだ。受けるわけねーだろ!だいたい、そんな話【はいそうですか】って言ったら交渉もくそもないわ!」


リックとバックスはお互い睨み合いをした。


「リック!バックス!おめー達は親方…もとい王の前だぞ!いい加減しろよ!」


リックとバックスは「ハッ!」と気づき、ローレンス王に謝罪をした。


「いや、いいよ。若者はヤンチャで一番いい」


その男は声を荒げてしまった。


「ですが、王に示しがつかないですよ!」

「ロッド、もういいよ」


そう呼ばれた人物の名は【ロッド・アニス】。

ロッドは何か言いたそうではあるが、我慢して席に座った。


「では、リック。少し聞きたいのだが、二人で来たのだな?」


ローレンス王はにこやかに言った。


「はい。二人です」


リックは「何故、そのようなことを聞くのだろう?」と思ったが、この答えは真実を知ることになる。


「うん、二人だな。では、その女、何か言ったか?」

「そうですね…最初のうちは、小声で言っていましたけど、後からは言っていなかったですね」


リックは頭の中で振り返る。

確か、そのトップの右腕…ベルドナルドって言ったかな?そのベルドナルドが独占して喋ったような…。


「では、もう一度聞く。その男は一方的に言ってたかな?まるで、その女が影武者と無意識に認識しているように…」


リックは「ハッ」と血の気が引いた。

確かに、ベルドナルドは無意識に影武者としてフォローしていたかもしれない。

では、何故影武者だったのか…?


「もし、トップが影武者だったとしょう。そうなると、ロマーノ王国に入っているだろうね」


リックは「なんて事をしてしまったのだろうか?」と落ち込んでしまった。

確かに、峠のキバは厳重に警備しているのだが、江上軍が大量に押し寄せていた為、峠のキバの強化を図るようにしているはずだ。よって、峠のキバの周辺は手薄になる…いや、フリーになってしまい誰にでも通れるはずだ!


「リック、アナタのせいではないですよ。もし、強化しなければ攻めていたし、どちみち結果論ですよ」


ローレンス王は「ニッコリ」と微笑んだ。


「では、なぜ江上軍が立ち止まっているのか?分かったんだから意味ないでしょ?

早速攻めますか?」


と発言したのが第3騎兵隊【セルク・バス】だ。

セルクはワクワクしながら目を輝いている。

リックは「そんな訳あるか!」と心の中でツッコミを入れた。


「セルク。残念ながらそれは出来ないよ。江上軍も予行演習って言っているし、峠のキバも圧倒的に戦力差がある。今は温存しつつ、もし攻めてきたらすぐに戦争になるように準備するのが得策だね」


峠のキバ部隊長達は明らかな不満を漏らした。しかし、それしかないのだ。あの時の交渉もあるし…ローレンス王は胃の方が「キリキリ」して痛んでいた。

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