タイムリープを探して!
この世界にはタイムリープという現象が存在する。そう小説に書いてあった。なんでも花の匂いを嗅ぐと能力に目覚めるらしい。
うん、つまり人生をやりなおせるということね。
この世界にはタイムリープという現象が存在する。そう小説に書いてあった。なんでも花の匂いを嗅ぐと能力に目覚めるらしい。
うん、つまり人生をやりなおせるということね。
そう、なんとしても私は過去に戻ってやり直さないといけない。そのためだったら、なんだってするんだ。そう改めて決意を固める。
「莉愛、さっきからなんの本を読んでるの?」
これよ!と本の背表紙を彩花に見せつける。
「タイム?リプ?」
「タイムリープよ」
彩花のギャグに付き合ってる余裕はない。こちとら真剣なのだ。
「また面白い本読んでるわね」
「面白くないわよ!」
何度も言うようだが真剣に読んでるのだ、勉強してる時以上に。苦しいことはあっても楽しいことも面白いこともなにもない。
「ならなんで読んでるの?」
「タイムリープするためよ」
それ以外にこんな本、読むわけないでしょ。
「そのタイムリープってなに?」
「えぇ、タイムリープ知らないの?」
「うん」
「タイムリープとは時間跳躍と呼ばれて、自分の過去に戻れるのよ!タイムスリップとの違いは、タイムリープは自分の意思で戻れる点でタイムスリップは自分の意思とは反して過去又は未来に戻るのよ。具体的にはタイムスリップは階段から落ちて過去に行くような感じよ。ちなみにタイムトラベルとの違いはタイムマシン的なもの差よ!」
「めっちゃ早口じゃん……」
なんなのこいつ、聞いといて酷くない?
「それでなんでそのタイムリープってやつをしたいわけ?」
「それは……」
いくら親友の彩花といえ言うべきか。才色兼備、秀外恵中。全校のアイドルの私がこんなことを他人に話すべきなのか……
「うーん、やっぱりいいや」
「え、いいの?」
私がこんなに迷ってるのにいいってどう言うことなのか、少し問い詰めたくなる。
「どうせ猫かぶりの莉愛のことだからどうしようもないことなんでしょ?」
どうしようもないこと!何を言ってるのか!これは私の一大事。タイムリープでもして過去を改変しないと私としての尊厳が!
「ちょっと待って、猫かぶりってなによ」
その前に引っかかった言葉が気になった。
「いやだって、猫かぶって真面目ぶってない?小学生の時の莉愛はそんな感じじゃなかったじゃん」
「そりゃ私も高校生よ。小学生の時のままなわけないじゃない」
「クラスの男子と取っ組み合いの喧嘩してた時の莉愛が懐かしいわ」
「その話はやめて」
小学生の子どもはそれぐらいお転婆なほうがいいじゃない。
「まあ今の莉愛も好きよ。お淑やかで勉強も運動できて。その裏の努力も知ってるからさ」
彩花って男だったら絶対モテる。根拠はないけどそう思う。
「あ!部活行ってくる!タイムリープ頑張ってね!」
人の気も知らないでそういって去っていった。
さてこれからどうしようか。いつもなら図書館で勉強して帰るところだけど今日はそうはいかない。なんといってもタイムリープをしなければいけないんだから。とりあえず花の匂いは一通り試したけどどれも効果はなかった。次なる資料を探しに行こうか……
あぁ、それにしてもあの時の私が憎い。あの時、あんな失敗さえしなければこんなことにはならなかったのに。完璧なはずの私があんな姿をよりにもよって男子にみられるなんてそんな、もうお嫁にいけない。
なんとしてもよ!なんとしてもタイムリープして過去を変えないと!そう何度も世界線を越えて必ずたどり着いてみせる。あのミスがなかった世界線へ!
結局、今日もタイムリープの手段はみつからなかった。とりあえず、玉を投げてみてもタイムリープは起こらないし、もう手立てがない。やはり特殊能力がないと過去には戻れないのか。それとも戦争に巻き込まれるべきか……
まあどれも現実的じゃないわね。そもそもタイムリープが現実ではないのでは疑問に思えるがそれは考えないことにする。考えたところでタイムリープしか私には手段がないのだから。なんとしてもするぞ!タイムリープ。
今日も今日とてタイムリープ。資料を読んだ。なんでも特殊能力があれば同じ二週間を繰り返すことができるらしい。でもそんな特殊能力持ち合わせてない。やっぱり昨日考えたとおり、特殊能力は無理。いかに才色兼備の私といえどもそんな特殊能力は身につけられない。頼みの綱の花の匂いも試してみたけどやっぱり効果なし。タイムリープはやっぱり無理なのかな……
「そりゃ無理でしょ」
彩花はまた元も子もないことを言う。
「そこまでして、なんでタイムリープしたいの?」
「過去を変えたいの」
「そりゃ私も変えたい過去の一つや二つあるけどさぁ。そんなに重要なの?」
そりゃ重要でしょ。ここまで頑張ったんだ。テストでいい点をとるために必死に勉強したし、可愛くなるために美容の勉強もした。運動もできるように特に部活に入ってるわけでもないのにトレーニングは欠かさない。子どもっぽい性格も少しずつ治していった。自分でも自分が才色兼備な女性だと自負がある。今の自分のアイデンティティは才色兼備の四文字なのだ。次点で秀外恵中。
そんな私にミスは許されない!
気づけば期末テストの時期になっていた。
テストのためにタイムリープから遠ざかる生活。遅れた分も勉強に費やした。成績はもちろん学年トップ。実際はぎりぎりでなんとか維持できたので今回は危なかった。やはり普段の勉強時間をタイムリープについて調べてる分、勉強時間の確保に苦しんでいる。そろそろ決着をつけないといけないと感じる。そりゃ私も本気でタイムリープなんかできると思ってない。
色々考えた、ミスをなかったことにする方法を。1つはそのままスルーする。ここまでミスが広まってないんだ。なかったことになってるのではと思う。ただ万が一、彼がどこかで話したらと思うと気が気でない。こんな時、どうしたらいいんだろうか。今の私では答えが出ない……
気づけば彼を呼び出していた。こんな大胆なこと絶対にしないと思っていたのに以外にもお転婆な自分がいた気がする。
「あの、ごめんね、急に呼び出したりして……」
ただやっぱり恥ずかしい。そもそも簡単に言えるならこんな苦労はしてなかったんだ。言葉にできない思いをどう言葉にしようか悩んでいた。
「うん、なんとなくわかってる。あのことだよね?」
彼は申し訳なさそうにそう言った。もしかして彼は彼で悩んでいたのかな。
「完璧な福嶋さんの意外な一面見ちゃった気がして、なんか申し訳なくて」
「いや、違うんだ。君は何も悪くないよ。ただただ、私のミスだから……」
思い出すだけで恥ずかしい。どうしようもなく恥ずかしい。
「あの、誰にも言わないから安心して!」
彼はそう言い、絶対に言わないからと念押しで私に伝えてくれた。
よかった。彼が優しい人で。
私は彼にありがとうとだけ伝えてお互いの気まずい雰囲気を払しょくするためにペラペラと話をした。
何を話したのかはあんまり覚えていない。ただ、ここ最近ずっと考えていたタイムループの話ばかりをしていた気がする。彼は嫌がる素振りを見せずに相槌を打ってくれた。
「ごめんね、なんかどうでもいい話たくさんしちゃって……」
「ううん、なんかまた意外な一面みれちゃって楽しかったよ。」
そう言い、彼は恥ずかしそうに部活に行かないと、と小走りで去っていった。
こうして私のタイムリープを探す旅は終わりを告げた。結局、タイムリープのやり方は見つからなかったけど、今の私にはもういらない。だって私の未来はもう書きかわったのだから―――