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8話

 季節はめぐり秋、冒険者にとっては稼ぎの季節がやってきた。スタンピードの季節である。何故だかわからないが、アーノルド辺境伯領の北側にある未開の森では、毎秋に1度スタンピードと言われる異常な数の魔物が都市に押し寄せてくる。近年は毎回オークキングが発生していて、そのせいでオークやオークの上位種が大量に森の中に発生する。それに追い出されるように魔物が一斉に都市へと向かってくるのだ。それを防ぐのが誰か、辺境伯領にいる貴族の私兵と冒険者だ。


 貴族の私兵で一番多いのはアーノルド辺境伯領軍だ。領軍の一部が毎度毎度一番奥まで行くのかといえば違う。むしろオークキングを討伐するのは高ランクの冒険者なのだ。むしろ領軍は城壁の守りを主としている。そうでないと、魔物の群れに領都が蹂躙されるからだ。辺境伯領の領壁は大型の魔道具となっていて、魔石を大量に消費する。昼夜を問わず襲い掛かる魔物すべてを領壁までに討伐するのは不可能だ。領壁が崩されない様に魔道具化してある領壁が、魔石の分だけ攻撃を耐えるのだ。その魔石を確保するために、日々冒険者が、領軍が、魔物を討伐している。最低ランクの魔石の買い取りが銀貨1枚と高額なのは、この日のためである。


 一方で、そんな魔物のスタンピードなのだが、辺境伯領の食料調達の観点から見ても大変重要なのだ。大量の魔物が襲い掛かってくるということは、大量のお肉がやってくることでもあるのだ。ここ最近はオークキングの関係で、大量のオーク肉が手に入っている。故に農村の特に寒村の食糧支援が容易になっていたといっても過言ではない。ゴブリンキングの様に食べられないスタンピードだと困る村々があったりするので、ぜひともオークであって欲しいという声もあったりする。


 逆に言えば、奴隷商的には食べられないスタンピードは冬の口減らしのための人身売買が頻繁に行われる奴隷パラダイスだといっても過言ではない。ここのところはオークキングばかりなので口減らしは少ない。少ないだけで無いわけではないが、少ないことは少ないのだ。奴隷商館運営にはオークキングは敵である。…心情的にはオークキングの方がいいし、胃袋的にもオークがいいのでスタンピードはオークキングでも何も問題ないのだが。


 ただ、まだ秋口。スタンピードは晩秋の時期だからまだ2,3か月は先の話だ。ただ、早くも動き始めた所がある。そう、冒険者ギルドだ。この時期になると他所からも冒険者が集まったり、麦仕事が終わった農村からの出稼ぎ組が来たり、この時期は冒険者ギルドにとっては、最も冒険者ギルドが忙しくなる時期なのだ。そしてその人数でもまだ足りないのがスタンピードなので、奴隷商館であるうちに依頼が来たのである。


「奴隷を魔物討伐に出してほしい?」


「そうです。この時期は冒険者や農民が集まりますが、それでもまだ足りないのです。そして少しでも人手が欲しい。そこで奴隷商館の奴隷たちです。幸いにもアグラス奴隷商館さんはランデル達を出している事から理解が得られやすいだろうということで、今回の依頼です。この際戦えるのであれば、12才より小さい子たちでも戦えるのであれば、冒険者ギルドとしては登録はできませんが、買い取り等はさせていただきます。なので少しでも戦える奴隷を出して欲しいのです。」


「…分かりました。戦える子は出しましょう。というより、うちのチビ達は全員出しましょう。全員武器の扱いは教えていますし、少ししか戦力にならないとは思いますが。森には入れないでもよろしいですね? ランデル達には引率をしてもらいましょう。それでもいいですよね? あとは、スタンピードが起こってから、オークだとは思いますが出始めたら、チビ達は引っ込めるが、それで構わないですよね?」


「それで問題ありません。領壁に近づく魔物を減らして欲しいとのご依頼なので、森に入る必要はございません。それにこの時期の森の中に入れる人たちは限られますので、それ自体を攻める事はしません。スタンピード中は仕方ないです。それで、人数は―――38人ですね。分かりました。お願いします。」


 ゴブリンやコボルトの相手ならチビ達でも袋叩きにすれば倒せる。才能を―先天技能を持っている子供たちはその武器を、無い子には槍を練習させている。最近の素振りは本物の武器を使わせているため、各人1つずつは武器を与えている。さらに魔法使いは8人うち回復魔法持ちは4人いる。無理をさせるつもりはないので、引率組が外せと言うようなら外す予定なのだ。その辺はランデル達と相談だな。


 裏庭で訓練を受ける子供たちを見る。一番小さい子は8歳だが、槍を振ること自体はできるようになっている。ゴブリン程度なら大丈夫だろう。今日は休暇ということで訓練を見てくれているランデル達に話をふる。


「ランデル、話がある。冒険者ギルドからの依頼でチビ達を少し早いが実践を経験させる。森の外でお前たちの引率ありきで4班。魔法使い2人ずつ、内回復魔法使い1人で班編成を頼む。期間はスタンピードが完全に起こるまでだ。任せるぞ。」


「へ? へい、それは大丈夫でやすが、冒険者ギルドからですかい。まあ、ゴブリン、コボルト程度でありゃあ問題無いでやす。班編成は槍持ちは槍持ちで2班作って、それ以外はある程度武器をかためて運営しやす。まあ、大丈夫でやしょう。」


「回復魔法持ちを各班に割り付けるんだ。滅多なことにはなるまい。一応、マジックバッグは追加で3つ購入する。各班に割り当てておけ。明日から稼働だ。2勤1休で行うように。―――お前らみんな怪我の無い様に。回復魔法を使える奴は、特に怪我をしない様に。お前らが、班の生命線だということを肝に銘じて行動するように。そして、今回の出動で、各々少しでも何か得るものがあればいいと俺は思っている。今後の奴隷生活に活かせるものを探すことも視野に入れておくように。もう一度言うが、一番は怪我をしないように行動することだ。日頃の訓練を思い出しながら戦うように。」


 ランデルに通達した後、子供たちに激励をとばす。第一は生き残るように、そして何か得るものがあればいいと思うように。怪我をすることは多少はあるだろうが、商品にならないような事態にはならない様にしてほしい。俺は奴隷商人だ、第一は奴隷のことだ。こう思うのも、仕方のないことなのだ。…あまりこの子たちに感情移入しすぎると、売るときに辛くなるから、なかなかに難しいものがあるが、商品だと、価値付加だと思うようにしよう。


 部隊に回復魔法持ちをつけるとするならば、治療院はまた俺一人で治療院を回さなければならないな。最近は水魔法持ちのピラール、リカルダ、ラモン、光魔法持ちのフィグネリアにも治療院で治療をさせていた。簡単な切り傷程度なら、皆問題なく治せるようになっている。今度は部隊で活躍させる事で、魔力の限界を覚えてもらえばいい。心配だが、ランデル達に任せたんだ。大丈夫だろう。そう考えを心配事から切り替えて、明日持たせるためのマジックバッグを3つ買いに行くのだった。


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