6話
あれから3か月が過ぎ、夏が始まったところだ。奴隷商館には客は何人も来ている。実は教育するのは子供だけなのだが、労働奴隷の需要が3週に1,2件は来るのだ。それだけ労働奴隷の需要が高いのだということが分かった。始めは西区の奴隷商館を紹介していたのだが、先天技能関係なしに売れるのだからと、西区からも東区からもそれなりの年齢の奴隷も仕入れることにしたのだ。東区からは多めかつ強気の交渉で買い取って入るのだが、問題はないだろう。西区は奴隷紋を全員に書いてしまったので、多めに買いつつも、なるべく新規に仕入れた奴隷を買うようにしている。
…奴隷需要がこんなにあるとは思ってもみなかったが、豪農なんかが麦畑をまだまだ広げているようだ。開墾用に20代の男性奴隷が結構な割合で求められる。1面麦畑なのに、あれ以上麦畑を開墾していくのだから豪農の儲けへの追求は凄いものだ。…使えなくなった奴隷、40代になった奴隷は、東の開拓村に送られるというから、損もしない内に若い奴隷に買い換えているのだという。開拓村にはどのような人手でも欲しいのだろう。安く奴隷を転売しているのだ。逆に奴隷商館からは東の開拓村には奴隷は売れない。というより、買いに来ないから売れないという側面が大きい。わざわざ豪農から奴隷を安く買って、開拓村に奴隷を売りに行っているような行商人がいるのだ。それで、東の開拓の邪魔になった魔物素材なんかを奴隷の代わりに仕入れて帰ってくる。そんな商魂たくましい商人もいるのだと思うと、さすがは領都といった所なのだろう。
因みに子供の奴隷たちはまだ商品価値が付ききっていないので売りに出していない。しかしながら、魔法使いたちはみな順当に魔法を使えるようになっていた。奴隷館の裏庭で魔法の練習をさせているのだが、最近は魔法の威力が上がっているようで、裏庭一帯を石造りの魔法耐性を持たせた素材に作り変えてもらっていたりもする。順調に商品価値も上がっているのだ。特に目をかけているのが、水魔法持ちのピラール、リカルダ、ラモン、光魔法持ちのフィグネリアだ。この4人には回復魔法を教えている。まだ誰も使えないのだが、ランデル達が帰ってきたら毎日のように試し打ちさせているし、そのうち使えるようになるだろう。使えるようになったら治療院で魔力を使わせてレベルを上げさせる予定だ。俺の負担も減って、一石二鳥の考えだ。
ランデル達冒険者組も順調に稼働している。最近は森に入っているようで、飲み代を抜いて大銀貨10枚程の稼ぎとなっている。飲み代は必要経費だ。何度か大けがもあり、ポーションを使ったこともあったが、基本的に1日の最後に回復魔法をかけているので、5勤1休のペースは守らせている。その影響か、新人の冒険者が最近、うちのランデル達の活動をみて真面目に討伐に行く回数が増えたと冒険者ギルドからお礼を言われたそうだ、ランデル達が。それでも1勤1休程度のペースなので、本当に儲かっているのだろうかとは思わなくもない。治療院に来てくれる回数が多くなったので、その分うちも儲かってはいるのだが、冒険者なんて長く続けられないのだから、稼げるときに稼いでおかないと、後々困ると思うのだが、後々を考えるものが冒険者なんて危ない仕事を受ける訳がないと思い直しながら治療を続ける日々を送っていたのだった。
チビ達の教育についても順調だ。魔法については先述したとおりだが、武術についてもしっかりと行わせている。木剣や木斧なんかだが、やはり先天技能持ちとそうでない者では、習熟のレベルが違う。体幹や筋力では説明が付かないような動きだったりが違うとランデル達からの言葉があった。ランデル達には先天技能のことは話していないが、あいつは才能があるとかの言葉を聞いているからそうなのだろう。12才になったら教会で儀式を受けさせたのち、冒険者活動をさせる予定だからこのままどんどん訓練をさせる予定ではある。そのうち武器の手入れの訓練もさせよう。ランデルもあまり得意ではないみたいなことを言いつつ、手際よくやっていたから教えるのはできると思っている。
また、読み書き計算も簡単なものなら殆どの子供たちが覚えてしまった。子供の成長は早い。今は難しい計算や書類なんかの書き方を教えているらしい。ラザールとニクラスも元商家の出自だったとのことで、書類の書き方なんかもできるのだとかで教えている。価値が上がるのであればどんどん上げて行って貰いたい。対貴族の応対の方はまだまだとはヘルガが言っていたが、見どころのある子たちもいるとのことで、一部の女の子は準男爵や騎士爵程度の家ならば使ってもらえるだろうとの事を言っていた。家事手伝いも一生懸命頑張ってくれている。最近は貴族に売られてもいいようにベッドメイクなんかも教えているが、体が小さいせいでまだうまくできない子たちもいるが、ソフィアが頑張って面倒を見てくれているようだ。彼女は奴隷商館の館長もついでに任命したので、大変そうにはしている。がんばれ。
そんな訳で、今日も治療院の受付で待機である。小さい手傷なんかを受付ですぐに治療して、銀貨1枚で即帰宅してもらうを繰り返している。破傷風は怖い、その教育の賜物だ。ギルドの教育もしっかりしているのか、腕や膝を擦りむいただけでも治療院に来る。魔物の血を返り血に浴びると1週間もしない内に傷口から腐っていくと聞いた。この世界の破傷風怖すぎである。魔法なしの治療院も儲かるわけだし、ポーションなんかもよく売れる訳である。そしてそれ以上に魔法は万能だ。
うちの子たちにもしっかりと破傷風の怖さを教えておかないといけないな。そんな事を思いながら夕方遅くだし、そろそろ閉めることを考えるかと受付でうとうとしていると、外が騒がしくなり、どたばたと荷車がうちの前で止まった。大けがの冒険者が2人、重症1人、軽傷1人、そしてその冒険者を運んできたベテラン冒険者と思われるのが1,2組か。3台の荷車がうちの前で止まった。大けがの冒険者2人は腕を嚙みちぎられている。幸いにも腕は回収されているので、くっ付けるだけだが、こいつは酷い。
「中にベッドがある。運び込んでくれ。誰か状況を教えてくれ。ポーションなんかの消耗品の代金の支払いもあるだろう。そちらを先にやる。」
「すまない、みんな運び込んでやれ。ナイトウルフの群れに 喧嘩を売られたらしくてな、運よく通りかかったから助けられた腕なんかも全部持ってこれたはずだ。消耗品についてはハイポーションやその他の代金は金貨4枚と大銀貨8枚だ。どうする予定だ?」
「状況は把握した。これなら治療は何とかなる。消耗品はこっちが立て替えて支払いは彼らにしてもらう。―――これで間違いないか確かめてくれ。」
「…彼らは、払えなければ奴隷落ちか。―――間違いない。支払いは確かに受け取った。それよりも早く治してやってくれ。」
金を受け取りそう言うと、運び込んでくれた冒険者たちと一緒に帰っていった。さて、俺は治療に移る。ポーションで初期治療は終わっているから軽傷者から、とはいっても意識はないが、治療を行っていく。後学のため、水魔法持ちのピラール、リカルダ、ラモン、光魔法持ちのフィグネリアを呼び、授業をしながら治療していく。重症者も、腕のとれた2人も治療し、腕のとれた2人の方は包帯を巻いて激しく動かせない様に固定しておく。そうしておかなければ後々動かして中の筋肉が千切れても困る。治療のし直しだ。何もなければ3日はこのまま入院して回復魔法を何回か掛けなおしだな。
すると、軽傷の男がううっと言いながら目を覚ます。左右を見ながらほっとした様に力を抜いた。
「気が付いたか。」
「はい。あの、ここは…どこですか?」
「ここは治療院だ。ナイトウルフとの戦闘中に他の冒険者に助けられたようだ。覚えているか?」
「はい。…ここにいるということは、助かったんですね。っみんなは⁉―――よかった…」
話の途中で突然飛び起き、パーティーメンバーを探してみんな無事だと知ると、再びベッドに横になった。すると、見る見るうちに顔色が悪くなっていき、こちらに質問をしてきた。
「あの、ち、治療費は幾らになりますか?」
「治療費と入院費、それから立て替えてあるポーション代なんかを含めて金貨13枚だ。腕の千切れていた2人は金貨4枚、重症の奴は銀貨15枚、軽傷のお前は銀貨5枚。立て替え費用大銀貨48枚。これが大まかな内訳だ。入院はみんな一律3日の予定だ。」
「…すみませんが、払えません。そこまでのお金は持ってないです。…こういう場合はどうなりますか?」
「なら、奴隷落ちだな。正しく借金奴隷だ。…命があるだけよかったじゃないか。普通なら死んでたんだ。ほら、もう一度寝とけ。詳しくは皆が目を覚ましてからだ。」
「分かりました。……っうぅ、っくうぅ―――」
すすり泣く男を置いて、4人の子供を連れて奴隷商館の方に戻り、子供たちに授業の結果を伝えた。
「いいか? お前たちの授かった魔法は、今日みたいな怪我の奴でも助けることができる。とれた腕だってくっ付けることができる。一生懸命訓練しなさい。そうすれば、俺と同じことぐらいはできるようになる。分かったら、今日の授業は終わりだ。しっかりと励むように。」
そういって、また治療院の受付に戻ってかすり傷を回復する仕事に戻った。もうこれ以上はベッドがないので、重症者が来ませんようにと祈りながら、すすり泣く声が聞こえる治療院で座っていた。
ま、どうせ俺が買うのだ。どっちにしろ冒険者として働かせるのだから、泣いていたって関係ないのだが、今日の奴らは運がよかった。一応鑑定はしておいたが、見たところ新人だ。村から出てきて北の森に入ってしまったんだろうなあ。かわいそうにとは思わない。冒険者ギルドで散々注意はされたはずだ。それを実力を誤って北の森に行き、引き際を間違えて今回のような事になったんだろう。恐怖が残るのであれば別のことを考えないといけないが、それ以外であれば冒険者業務だ。ランデルには追加で面倒を見てもらわないとな。スタンピードまでに間に合えばいいが。鑑定の結果は以下に残しておく。
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ステータス
名前:ルイ
年齢:17
レベル:9
ギフト:『』
先天技能:『槍術』
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ステータス
名前:ダニー
年齢:17
レベル:9
ギフト:『』
先天技能:『怪力』
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ステータス
名前:ハインツ
年齢:17
レベル:8
ギフト:『』
先天技能:『彫金士』
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ステータス
名前:ロジオン
年齢:17
レベル:7
ギフト:『』
先天技能:『御者』『染物士』
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翌朝になって、治療院に行くとすでに4人とも起きて話をしていたようで、落ち込んだようにベッドに座っていた。落ち込みたくなるのは分かるが、そんな暗い雰囲気を出して、この世の終わりだと思われるような顔をしていないでほしい。奴隷のイメージが悪いのは知っているし、よーくわかるが、死ぬよりはましなのだ。
「さて、状況は把握しているとは思うが、君たちには金貨13枚の治療費が掛かっている。払えないということも確認済みだ。そして、そのことで借金奴隷に落ちてもらう。俺は奴隷商もしているからそのまま俺に買われることになる。それに文句があるならば声を上げろ。…ないな、ならばこれから奴隷紋を書くから背中をこちらに向けるように。」
おとなしくこちらに背中を向けてくる4人。逃げても犯罪奴隷になるだけなのだ。冒険者もやっていけない。昨日のうちに連絡が入っているだろう。あきらめるしかない、そんな気持ちで背中を向けていることだろう。そんな4人に何の容赦も猶予もなく奴隷紋を書き込んでいく。そして、書き込んだ後に回復魔法をかけて奴隷商館の方に連れていき朝飯を食わせる。食わなきゃ栄養が足りなくて治りが遅くなってしまう。遅くなれば遅くなるほど俺が損をするのだから、遠慮なく食べてもらう。そしてとっとと冒険者組に合流させたい。
朝飯を終えて治療院の方にもどってきた4人に今後の予定を話す。回復したら冒険者を続けてもらうという話だ。彼らも驚いていたが、そうしないと農奴隷になるしかないだろうと言うと、冒険者を続けるとの回答を貰った。どうせ寒村の出だろうと思っていたが、やっぱりそうで、畑仕事が嫌で飛び出してきたのに農奴隷は嫌だと言うのだ。ならばしっかり冒険者をしてもらおう。今日休みのランデルを呼び武器を買いに行かせる。昨日のうちに今日は冒険者業は休みと伝えてあったため、サビーノ、イェンス、アルドーも一緒に行かせた。8人でパーティーを組むのだ。なるべく仲良くやってもらいたいものだ。