3話
あれから2年経った。10才になった俺は、今日も今日とて日夜家業の手伝いの合間に水魔法の訓練を行っている。最初は散々だった。まず、魔力を認識するところから始まり、それを魔法へと練り上げていく作業がある。これを会得するだけでも2か月の時間を要した。まあその甲斐あってか、水魔法の方はかなり上達したと言っていい。鶏の水やりの作業が、井戸を何回も往復するところを、魔法でできるようになったのだから。家族からも驚きの声があったし、褒めてもらえもした。純粋にうれしかったし、何よりも独立に際しての不安もない。魔法使いは貴重なのだ。もしかしたら貴族様のお抱えなんてことも考えられるくらいの出世もあり得るのだ。辺境伯家や、その寄子の貴族家のお抱えになれたら食いっぱぐれる事もない。
そんなことを夢想しながら、何時もの様に訓練に勤しむ。最近は、足の調子が悪い鶏や、羽をケガした鶏に対して、回復魔法を使用している。鶏の骨折くらいなら治せるようになったし、一部の部位欠損ならば時間をかければ治せそうだということが分かってきた。これは、おそらく転生前の知識のおかげだろう。部位の構造や、骨や筋肉の在り方など、前世の理科や保健体育で習ってなければ、どのように復元すればいいかなど判ったものではない。判らないけど治るのが魔法なのだろうが、判っていればそのように魔力を操作すればいいのだから間違いない。
…指くらいの欠損であれば、1か月で完治できるだろう。それだけの技量を手には入れたのだ。間違っても腕の欠損を一瞬でなんてことはできない。何よりも魔力の絶対値が足りなさすぎる。魔法を使い続けることで、レベルは上がっているし、1日に使える魔力量も大分増えてはきた。独立する頃になれば、かなりの事ができるようになっていると思いたい。
そして、つい最近冒険者ギルドにて、小遣い稼ぎを始めた。家業の手伝いを終えた自由時間に冒険者ギルドで治療院のようなことをしている。切り傷や簡単な解毒は銀貨1枚から、骨折や大けがなんかの止血には大銀貨1枚からで行っている。冒険者は魔物の討伐やギルドの依頼にて結構な額を稼いでいる。そんな人たちだからこそ、切った張ったの傷が絶えない。なれば、そこで治療院をやればある程度は儲かるのではないかと考えたのだ。
父に言ったときは、是非に頑張れと言われて送り込まれた。これで独立資金を貯めるつもりである。7日程やってみたが、1日平均銀貨50~60枚といったところだ。なかなかに儲かる。月に金貨15枚強いくかどうかというものだ。年に金貨180枚、魔法使いはやはりぼろ儲けである。家業の方だってこんなにも稼ぎはよくない。よくて食費税金込々の純利益で年に金貨50枚である。因みに6日で1週間、30日で1か月、12か月で1年である。1日が何時間かは時計がないのでわからない。
あと2年で教会でギフトを貰う儀式を執り行って、ギフト次第ではあるが、何かしらの仕事に就いて独立するのだ。ギフトがパッとしなければ、このまま治療院を開けばいいのだし、その辺は心配していないが、何をするにしても金が要る。今のうちに資金をどんどん稼ぐのだ。
因みにだが、冒険者を鑑定し続けて来たが、鑑定する項目が増えたりはしなかったことを考えると、鑑定は育たないのだろうと思う。もっと使い続ければ判らないが、別段困ったこともないため、育てばいいなー程度の感覚である。なお、鑑定で判ったが、この世界には魔法使いの才能だけならそこらへんに転がっているということが判った。20人に1人か2人くらいの割合で魔法の才能があるのだ。
…当然教えたりはしない。儲けにならないし、何より鑑定がバレる方がよほど面倒な事になる。ただ、駆け出しの様な冒険者には、『剣術』持ちなのに弓を使っている人や、『槍術』持ちなのに剣を使っているような人が多くいたので、それとなく言ったりはしてみた。その方が稼ぎがよくなって、治療に来る回数も増えるだろうって算段だが、これが当たるのかどうかは、正直なところ判らんとしか言いようがない。精々、治療されに来てくれることを祈っている。
俺が冒険者ギルドに出張治療院をやり始めてしばらくしたころ、兄のテルモが家業の養鶏を仕切るようになっていっていた。父もまだまだ現役だが、早いに越したことはないと言いつつ、業務の殆どを兄に任せるようになってきていた。またそれに伴って、嫁探しに苦労する父を見ていると、結婚するには早すぎるだろうと前世の知識から俺は思っていた。まだ17才なのだ。それなのにって感じてはいるが、この世界だと早いのか遅いのか判らない。
母が兄を生んだのが17才の時だから、もしかしたら普通なのか、母が早すぎたのかは判らないが、なかなかに見つからないとのことだ。兄の方も、特段女性に縁が無いらしく、せかせかと仕事はしているが、どうなんだろうか。畜産仲間にでもいないものなのだろうか。…俺も付き合いは冒険者くらいしかいないので分からないが、幼馴染なんかもいなかったし、家族で付き合いのあるところも無かったから、どうなることやらだ。