27話
春も終わりを迎え、夏になる頃。何時もの様に治療院に詰めている。今は昼時、客が来ても精々新人たちがかすり傷の治療にやってくるばかりだ。チビ達に対応と治療をさせている。もうすでにチビ達だけでも十分に回していけそうなもんだが、まだ重症者を治せるようになっていない。もうそろそろ魔力量も足りてきていると思うんだけど、大量に使用することに慣れてないんだろうな。練習はランデル達冒険者組に試している。冒険者組も、クランの設立用に奴隷を売ったから、今現在、27人に減ってしまっているが、稼働自体は問題なくやっていけている。
クランもあれから6人の奴隷が売れたから、総勢7つ以上にはなっているだろう。もう2,3人売れても良かったと思うんだが、奴隷を買わずに立ち上げたって良いのだ。そうした奴らもいるんじゃなかろうか。読み書き計算の重要性を知らん奴らには、初期の苦しみがあるだろうが、運用していくだけなら読み書き計算が出来なくても、なんとなくで出来てしまうからな。まあ、長続きするかは別として、計画性とカリスマだけでクラン運営をしようと思えばできるからな。次代に続くかは分からないが、1代限りのクランとしてはやっていけるだろう。
クラン結成後の冒険者の動きもランデル達に報告させている。森の外周や少し奥まったところで野営をしようと準備している冒険者が出てきたそうだ。夜通しの狩りをするのであれば、マジックバッグはかなりいるだろうが、儲けもそれ以上に出るだろう。森の奥にはオークもいるし、良い値段になるはずだ。…最も、それだけ怪我の重症度も大きくなるが、今のところ、そこまでの重症の患者は見ていない、上手くやっている証拠だ。
クランの運営については、偶にだが相談を受けている。積立金の量がどのくらいなら適正なのかや、冒険者見習いとして面倒を見ることになった孤児たちの訓練や教育方法、教会でのギフトの儀式の申し込み方と色々と相談に乗っている。俺だってクランを運営したことなんてないのだから、答えは無いんだが、それでも真摯に相談に乗っているつもりだ。大抵のことは、奴隷商館の運営と似たり寄ったりだから、そのようにすればいいとアドバイスを送っているし、自炊などをクランで一括にするなら、それ専用に奴隷を買うことを勧めたりしておいた。うちから買うと最低金貨20枚飛んでいくが、安く済ませるなら、西区にあるオズマンド奴隷商館を紹介しておいた。東区の奴隷商館だと買い方が、分からないだろうからな。北区の方はよくわからんから推薦のしようがないし。
そして最近になって、冒険者の間で、魔法を使う冒険者がいるとの噂が立っていると治療院で耳にした。多分、うちの冒険者組の事だと思う。去年は1人だけだったが、今年は6人の魔法使いが冒険者として仕事をしている。今はまだ、平原で狩りをしていると思うが、それを見たんだと思う。…うちの冒険者組じゃないかもしれないが、それならそれでよしだ。冒険者で魔法を使うやつがいるって情報が大事だからな。うちのじゃないってだけで些細な事だ。どっちにしろ貴族の耳に入らなければ一緒なのだ。耳に入ったなら、冒険者ギルドにでも探りを入れるだろう。
それで、噂をしていた冒険者の方にも、誰にでも魔法が使える可能性があることだけは伝えておく。実際は先天技能持ちしか使えない訳だが、訓練すれば自分は使えるかどうか分かるそうだ。奴隷たちから聞き取ると、先天技能持ちでない子たちは、魔力が動くことまではできるが、体から放出しようとすると、急に出来なくなるそうだ。逆に出来る子たちは魔力を動かしさえできれば、何かしらの魔法を使えるようになるのだとか。
そのあたり独学の俺の感覚も、魔力を知覚できた段階で、水魔法を使えたのだから、そうなのだろう。クラン用に奴隷を買った所には、俺が教育した奴隷たちがいるので、魔力の知覚の訓練は出来るはずだ。魔法使いは売らなかったので、知覚までだが、先天技能持ちであれば魔法が使えるようになる。冒険者にも一定数先天技能持ちが居るので、もしかしたら、うちの子たち以外に魔法使いが誕生するかもしれない。それならそれで、辺境伯領の冒険者には魔法使いが多くいるとの噂が立てば良いかなとは思っている。
水属性や光属性の魔法使いがたくさん出てこられても、治療院が繁盛しないので困るが、治療魔法にしたって、訓練が必要だし、それよりも先に攻撃魔法が使えれば、攻撃に使ってくれるだろう。それにどうせ大きな怪我を治せるのはうち位しか今のところないのだ。アドバンテージは十分にある。これからも治療院に通ってくれるだろうさ。
…太陽が林に隠れんとする頃、大勢の足音が聞こえてくる。そろそろ、大所帯の所も帰ってくるころか。ゆっくりと腰をあげながら伸びをする。魔法を使うだけなのだが、気合を込めて体をめいっぱい伸ばす。そうでもしないとこれからは息がつけないような事態になるのだ。さてさて、今日はどれだけお客が来るだろうか。半笑いしながら、治療院の椅子に座りなおした。




