23話
スタンピードも終わり、冬がやってきた。今年のスタンピードも例の『英雄』殿がオークキングを倒してくれた。全く持って化物級の強さである。しかし、まだまだオークが平原に出てくる始末で、農民の出稼ぎ組は益々怪我を押して狩りを続けている。治療院の行列ももはや恒例の行事となり、軽傷ラインと重症ラインとで2列に分ける程度の工夫しかできてはいない。軽傷の奴は、最近になって覚えたのであろう、銀貨1枚を持って列に並ぶようになった。毎度待たされれば、客の方が工夫をし始めたのだ。これは良い傾向だ。それももうすぐ解消されるようになると思えば寂しいものだが。そんな訳で、治療院はまだまだ繁盛しているのである。
貴族の私兵も朝方に治療に来ている。そこにこれまでとは違い、営業を掛けていたのだが、いかんせん貴族の爵位が分からん。家紋が彫ってあるようなものがあるのは爵位が高いところだろうというのは見当が付くが、無いところの方が多い。よって、総当たりの営業となっている。うちの治療院では、魔法で治療をしているが、実はこの子たちは奴隷なのだとか。俺は、実は本業が奴隷商人なのだとか。他にも魔法を使える子供たちを確保しているのだとか。来る私兵に延々と語って語って語った。話を聞いてくれたばかりではない。殆どが、話を聞いてくれていない。治療だけをして帰る。これの繰り返しだ。食いつく人さえもいなかった。だが、少しは実って欲しいと思う。男爵や準男爵程度なら、私兵と話をする貴族だっていると思う。この冬でなくとも、来年の冬に1件でも良いから貴族との取引の実績が欲しい。そうすれば、密かに知れ渡っていくのではないかとの期待を込めているが、足がかりが無いとどうしようもないからな。
後は、クランの設立の仕込みだが、案の定、頭打ちで今後どうしようかという相談を受けた。相談を受ける実績はあるからな。ここいらで大きな仕込みといきますか。俺は、クランという物の説明を彼らにした。大きなパーティー2,3個で作る寄合のような物で、皆で金を出し合い拠点を買うのだ。そこで皆一緒に生活をする。そうすれば連絡なんかがやりやすい訳だ。それに、パーティーが大きくなるということは、それだけ森の奥に行きやすくなる。まずは、ナイトウルフの生息域で野営の練習をしながら、森の奥で戦う準備をするのだ。そのためには、マジックバッグなんかも大量に要る。食料は森で肉を確保できるから良いとして、寝るための敷物や、夜起きている準備も必要だ。森の奥に入るってことは実入りが良いが、準備がいる。多くの仲間がいる。そのためのクランだ。
ただ、組織が大きくなれば、それを管理する人間が必要だ。読み書き計算ができる人間だな。大丈夫、それは俺の所の奴隷を売ってやる。少し値は張るが、クランを運営するなら絶対に読み書き計算ができる奴が必要だ。値段も、森の外周で安定して稼げるなら出せない額じゃない。そして、クランを結成して重要なのは、ギフトの儀式を受ける事だ。ギフトの儀式を受ければギフトが手に入る。そうすればもっと強くなれる奴が出てくるはずだ。そして、職業に就きやすくなるギフトも出るはずだ。そういうやつは、商業ギルドに行って職業を紹介してもらえ。そうすれば戦う以外にも仕事に就ける奴が出てくるはずだ。
そうすれば戦う人数が減るだろう? そしたらまた違うところのパーティーを引き込んでって組織を大きくしていくんだ。そうして拠点を大きくしていき、クランを大きく自分たちが活躍しやすい様にしていくんだ。生活をクランを通して行うようにすれば、家は別に持ってもいい。結婚したって良い。孤児たちもクランに入れたっていいんだ。まあ、孤児たちは年齢的に冒険者になれないからポーション草の収集を仕事としてやってもらうことになるだろうが。そして、お前たちに絶対に必要なのが、読み書き計算を覚えることだ。始めは俺が売る奴隷でいいが、クランが大きくなっていくとそれだけ管理ができる奴が必要だ。…俺からまた奴隷を買ってもいいが、暇ができたら読み書き計算ができるようになっておけ。そうすれば、冒険者をやめないといけない時になっても、クランで働けるだろう? だから読み書き計算は重要なんだ。後は、クランで常に新人を募集することだ。これは冒険者ギルドにクランメンバーを募集しますって言って掲示板を貸してもらえ。…ほら読み書き計算が必要になってくるだろう? 読めない人用にクランの事をギルドの人に口でギルドの事も説明しないといけないが、面倒でもそれはしておけ。クランってものを冒険者ギルドも知らない可能性がある。後で要約するから、それを覚えてもらうだけでもいい。ともかく、新人を絶やさないことだ。お前らだけでもいいが、用は、下っ端をどんどん雇わないと2,3パーティーだけじゃ絶対に数が足らなくなってくる。場合によっては、クラン同士の合併って話も出てくるはずだ。最初はよくても、新人がいなけりゃ後が大変だからそれは覚えておくように。
いいか、クランを運営するにあたって、重要なことは3つだ。1つ目は読み書き計算をできるようになること。これは始めは奴隷で解決するんだ。2つ目はギフトの儀式を受けることだ。冒険者以外で仕事ができそうなギフトなら商業ギルドで職業を探してもらえばいい。3つ目は、新人を募集し続けることだ。新人がいないと先細りだからな。できうる限り、人員は募集するんだ。
自由に生きていいってことだ。結婚したいなら結婚してもいい。商売したいなら商売すればいい。…場合によってはクランを抜けたっていいんだ。分かったか? 少しでも、自分たちの良い様に、良い様になることを思ってクランを立ち上げるんだ。クランは3つも4つもできるだろう。場合によっては対立したりもするだろう。だが、クランはお前らの生活で無くてはならないものになるだろうし、今後の孤児たちにも、生きやすい土壌をお前らが作ってやるんだ。
…まあ、こんな感じでクランについて力説しておいた。多少話した内容が違ったり、省いたとこもあるが、ほぼほぼこんなことを頭打ちだと悩んでた奴らに言ってやった。そのうちにクランがいくつかできて、奴隷を買いに来るだろう。それは多分春が過ぎた頃だと思う。どれだけ早くても、それくらいまでは、拠点を買ったり、奴隷を買う費用を貯めたりで、時間がかかるだろうからな。俺の方も次の21人をギフト持ちにして、そいつらを売ってやりたいからな、春になってくれる方が助かる。というか、今年は21人もいるんだよな。早く奴隷商としての仕事もしたい。