20話
夏の終わりを麦が教えてくれる頃。治療院では、人でごった返しになっていた。来てくれる時間が疎らなら楽なんだが、大体が終わる時間が被る。そして終わる時間が被ると治療院に来る時間も被るのだ。お前らもうちょっと時間をずらして治療院に来てくれ。ただ、治療院にも戦力は増えたので、そのチビ達にも毎日魔力が切れるまで治療を行わせている。ピラール、リカルダ、フィグネリア、ラモン達4人とフョードル、ヴィオラ、マリーア、テレンティア、アレクシューの5人、計9人で治療院を回している。新人5人は午前中にリタイアするが、残りの4人は冒険者のピークに対応できている。さすがは去年の秋を乗り切っただけはある。
今年も農民の出稼ぎ組がやってくる季節に近づいているが、新人5人はまだそこまでの戦力になってない。もう少しガッツをと思わないでもないが、先輩4人も同じような感じだったし、仕方ないだろう。長い目で見て行きましょう。
秋になると何時ものスタンピードの話になってくるが、冒険者組からの報告だと、平原にも森の魔物が出始めたようだ。普段森の外周で戦っている冒険者たちも、平原に戻るパーティーも増えているようで、平原での狩りをしっかりとこなしているようだ。
冒険者へのパーティー相談もまだ、治療院で行っている。最近羽振りの良い冒険者が増えてきて、なんでなんだとうちの治療院で愚痴っているパーティーに詳しい話をしていると、その冒険者も真面目に冒険者業をやろうという行動を起こした。そんな冒険者が本当に増えている。森の外周にいた組も、マジックバッグを持つようになってから、森の中に行く冒険者が増えてきたようで、大きな怪我をポーションで直して来るような奴らも増えてきた。おかげで治療院の儲けは去年の5倍は堅い。冒険者が儲かっているから取っぱぐれもないし、良いことだ。忙しいのはどうにかしたいが、魔法の治療院はうちだけだし、もう一つの薬を主にしている治療院にも客が増えているらしい。休み前に行くならあっちの方が安いからな。そんな訳で、嬉しい悲鳴をあげながらも治療を行っている。
うちの冒険者組も合流して、13人で森の中を探索させている。森の中にはオークも普通にいるらしく、肉の代金が大きいとの報告をヘルガから受け取っている。森の奥はまだまだ危険なので、行けていないらしいのだが、ギフト持ちだけなら短時間の探索であればできそうだと報告を受けている。そこまでして冒険者業で稼げというつもりはないので、敵がオーク程度の深度で引き返すように指示を出しているが、そのうちオークキングの討伐をうちの冒険者組が行えるような時期が来るのかもしれない。
奴隷商館の方も順調に稼働中だ。売れてはいないが、新年祭組の教育がほぼほぼ終わったといっていい。ギフトは持っていないが、売りに出しても問題ないくらいには教育がいき渡っている。後は貴族との渡りを付けたいんだが、辺境伯の領兵には治療の際に少しだけ話してはある。ただし、辺境伯領軍の規模的に辺境伯の耳には入らなさそうだ。だから、狙いは冬の社交に出てくる貴族、それもそこまで大きくない子爵や男爵辺りをターゲットにしようと思う。それなら1人かそこら引っかかるんじゃないかと睨んでいる。そこから伯爵、辺境伯と話が大きくなってくれればいい。まずは入りからだ。今年に仕掛けて、来年に期待だ。今年の秋のスタンピードの際に大きな針を仕掛けるのだ。




