2話
俺の名前はアグラス。前世は山田隆夫、29歳。何のことはない。テンプレって奴だろう。最近はやりの異世界転生ってやつだ。俺も好きでライトノベルなんかを集めてたさ。
ただ、自分がそのテンプレに巻き込まれるとは思ってもみなかったが、巻き込まれてみてわかる。ただただ、不思議な感覚なのだ。焦るはずだ、困るはずだと読んでて思ったさ。俺は実際、焦ったし困ったが、それでも1日も掛からずに落ち着いた。
そして、今まで生きてきた今世と前世の混濁は思った以上になかったと言っておこう。今世だってしっかりと覚えている。アグラス、8歳。アーノルド辺境伯領の領都にある中堅畜産農家の次男が俺だ。父はマクレーン、母はゼティ、長男はテルモ、長女はラティアの5人家族だ。家業は養鶏だな。卵や鶏肉、あとは羽毛なんかを扱ってる。鶏の羽毛ってどうなんだって前世の知識ではあるんだが、こっちの鶏はなんか鴨みたいにふかふかな品種みたいなんだよな。冬に着る高級な服に詰め込まれてるんだと。ちなみに我が家は1人3着は持っているくらいには儲かっているといえる。生産者特権みたいな感じではあるが、それはそれ。俺の転生先が寒村の貧しい家じゃなくてよかったとしみじみ思う。
あとは、チートの類だが、これはあったといえばあったが、そこまでチートでもなかった。神様なんかに会って転生って訳でもなかったし、期待してたよりは残念な感じではあった。でも無いよりはよかったと思おう。俺の能力は『鑑定』と『水魔法』だ。『鑑定』はステータスが見える能力で、水魔法は読んで字のごとく、水魔法が使えるようになる。ようになるだけで、実際には訓練必須である。しかも才能の有無は訓練してみないと判らないというのだから殊更魔法使いは貴重なのだ。では『鑑定』はどうだったのかと言われれば、これも認識しないと使えない能力だった。
なんで認識できないのに使えたのかは、テンプレを知っている人なら考えることは一緒だ。とりあえず、「鑑定」やら「ステータス」やら唱えてみた訳だ。恥ずかしいやつ見たいだが、俺はそれで当たりを引いただけなのだ。『鑑定』のスキルを先天的に持っていただけに過ぎない。そしてこの『鑑定』のスキルも微妙に役に立たない。俺を鑑定した結果がこちら
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ステータス
名前:アグラス
年齢:8
レベル:1
ギフト:『』
先天技能:『鑑定』『水魔法』
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これだけしか表示されない。レベルもあるが何の役に立っているのかさえ分からないのだ。鑑定は先天技能が判るくらいの恩恵しか無かった。これをチートと呼べるのかと言われては無理だと回答したい。ただ、水魔法が使えると判ったのは大きいので、この方向で伸ばして行きたいと思う。何度も言うが、魔法使いは貴重なのだ。しかも水魔法は幼いながらにも知っているくらい有能な魔法で、回復魔法が使えるようになる(要:訓練)可能性があるのだ。これは頑張れば手に職を持てる程度には有能な技能を引いたといえるだろう。
因みに、ギフトについては判らないのではなく、空欄なのだ。理由としては、ギフトは12歳以上になって、教会に寄付をして儀式を行ってもらわなければ判らないのだ。判らないというよりかは、本当に持っていないのだ。現に家族の鑑定結果は以下の通りである。
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ステータス
名前:マクレーン
年齢:38
レベル:10
ギフト:『鳥獣理解』
先天技能:『天気予測』
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ステータス
名前:ゼティ
年齢:32
レベル:8
ギフト:『星詠』
先天技能:『植物理解』
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ステータス
名前:テルモ
年齢:15
レベル:2
ギフト:『獣医』
先天技能:『槍術』
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ステータス
名前:ラティア
年齢:12
レベル:2
ギフト:『』
先天技能:『方向感覚』『土魔法』
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以上が家族の鑑定結果である。…姉さんもギフトを持っていないのは、まだ儀式を行っていないので判らないのだ。というか、貴重な魔法使いでもある姉さんだが、本人が気づいていないため、魔法が使えないのだ。このように才能は在っても、きっかけがなければ魔法使いになれないのだから、何度も言うが本当に魔法使いは貴重なのである。
しかしながら、ギフトとは不思議なものである。畜産農家に『鳥獣理解』や『獣医』が来るのだ。何か神が見ているような気がするが、気がするだけなのだと思う。因みに父は喜び、跡取りは決まったと豪語している。次男の俺は強制的に家を出る羽目になるが、まあ、水魔法もあるし、ギフトガチャもあるし、問題ないだろう。4年のうちに水魔法を使えるようになっては置きたいが。
季節は冬が過ぎ春がやってきたころ。今日は姉さんの儀式の日である。儀式は簡単。教会に入り、まずい飲み物を飲み、神に祈る。ただそれだけなのだそうだ。(兄談)そうすると頭の中にギフトがもらえたと判る瞬間があるみたいで、それが来れば終わりなのだそうだ。まったくもってよくわからないが、時間としては10分も掛からないとのこと。一応家族で見守りに来ては居るが、親は教会への寄付を持ってきていた。なんと金貨1枚である。
日本の貨幣価値基準でいうところの100万円クラスだ。貨幣は下から銭貨→銅貨→大銅貨→銀貨→大銀貨→金貨→大金貨→白金貨→大白金貨とある。全部10進数である。農村なんかだと大銀貨ですらほぼ見ない。そんな金額をポンと出せるのだからうちは儲かっている部類である。金持ち万歳である。
そして、こちらの心配は他所に、姉が帰ってきた。
「ギフトもらったよ。『斧術』だって。斧なんか殆ど使わないのにね。残念。」
ちなみにステータスがこちら
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ステータス
名前:ラティア
年齢:12
レベル:2
ギフト:『斧術』
先天技能:『方向感覚』『土魔法』
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冒険者になりたいとかでなければ外れである。姉には薪割の仕事を頑張ってもらうのはどうだろう。秋口からやっていたが、重労働だった。疲れて倒れて転生となったわけで、なんというか、何だろうね。ともあれ、今世の姉の一大イベントはこうして幕を閉じたのである。