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刻印士の奴隷商生活  作者: ルケア


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15話

 新年祭が終わって1週間、都市は静けさを取り戻してはいなかった。地方貴族たちが自分の領地に戻っていくための行列が凄かった。来るときは散発的に来ていたが、帰るときは皆一斉になのだ。大通りが渋滞を起こすし、雪で馬がこけるなどのトラブルも多く出ていた。こんな時期に帰るんじゃないよ、もっと暖かくなってから帰ればいいものを。まあ、貴族にも理由があるのだろう。


 そして、帰るときの規模は日に日に大きくなっていく。それは貴族の爵位の問題だ。先に帰るのは身軽な爵位の低いものからだ。爵位の低いものは私兵の規模も大きくない。その代わり貴族の数がいる。爵位の高いものは少ない。その代わり、私兵の規模が大きい。そんなわけで、門の前で手続きが長いほど、渋滞が長くなり、都市の物流も止まる。冒険者組もこの貴族の渋滞の所為で休みにしようかと思ったが、新しく買ったバルトロとヴィクトールとの連携も確認させたかったので、裏道を通って北門に送り出していた。北門から帰る貴族はいないからな。


 冒険者業も通常営業だ。オークが森の中から出てこなくなったから、慣らしで平原で軽く戦ってから森の中に潜るらしい。バルトロとヴィクトールも元傭兵であったが、対人戦が多かったらしく、対魔物の陣形や、新たな仲間との連携をしっかりと確認したようだった。ギフト持ちなんだし、心配ないと思ってたんだが、人と魔物では結構違いがあるらしく、間合いのとり方や差し込みのタイミング、警戒範囲の拡大と色々なところでの差異があったようだ。しかし、それも慣れるまでで慣れればギフト持ちである分戦力としては申し分ないとのことだった。


 治療院も稼ぎはかなり減った。農民の出稼ぎ組は貴族たちが帰る前にとっととお暇したらしく、冒険者組がぼちぼちと言った感じだ。治療院のボーナスタイムは終了した感じだ。その代わり、辺境伯領兵にもこの治療院のことが広まったらしく、朝の早い時間に少しずつだが来るようになった。新たな客層が来ることは良いことである。


 それと同時に何故か冒険者の人生相談というかペース相談というかパーティー相談を受けるようになった。というのも、ランデル達奴隷冒険者のことが新人にも広まって来たらしく、治療院も魔法で即完治するようになったため、暇な時間が増えたんだが、どうしたらいいか? なんかを俺に治療の傍ら聞くようになってきた。なんで俺に聞くんだと思ったんだが、もうすでにランデル達に聞いていたそうだ。それで、うちの冒険者の管理は俺がやっているという話になり、そんなら俺に聞いてみようという運びになったそうだ。


 てなわけで、最近はパーティー相談のようなこともやっている。まず初めに言ったのは、新人たちの出動頻度だ。平原で戦っているだけの奴らで、1勤5休の奴らもいたので、休みが単純に長すぎることを指摘した。強くなりたければそれだけの回数戦わなければならない。最低でも1勤1休にしろとの指示を出した。そして、ペースが問題なければ2勤3勤と増やしていけともアドバイスを出した。森に入っている奴らはそんなペースで狩りをしていないぞと言っていたが、森での活動と平原での活動を一緒にするなと一喝しておいた。森での警戒度の疲労は平原のそれとは違うのだと。


 見通しのいい平原にいる冒険者と見通しの悪い森にいる冒険者の疲労度は全然違うと伝えると、彼らは驚いていた。そのくらいは気付けよと言いたかったが、そこは飲み込んだ。こういう冒険者はもともと孤児出身だったりが多いのだそうだ。孤児たちとスラムで屯している冒険者なんかは完全に失敗者だ。その失敗者の話を聞いていたら失敗者になるだけだ。なるべくなら成功させてやりたいし、頻繁に治療院を利用してくれれば儲けにもなる。俺の損は無いのだ。


 そして、5勤1休になるまで平原で頑張ることを伝えた。ランデル達は最初から5勤1休だったが、それはランデルという引率者がいたからだ。引率者がいない彼らは休憩の時間の作り方から体力的に無理だと思った所での撤退の判断ができないだろう。だから1勤ずつ増やしていって、体力を付けさせるのだ。休日も武器を振っての鍛錬を忘れないこと。そして、5勤1休を目指してやっていくのだ。


 そこまでやったら次の課題だ。次の課題はパーティーを拡大することだ。孤児たちのパーティーは、自売りのグループで構成されているようで、2~4人パーティーばかりだった。それでは森に入るには少なすぎる。ランデル達は4人でも森に入っていると言っていたが、実際は森になる付近で戦っていた。幾らマジックバッグを持たせていたからと言って、森に深入りはしない様に伝えてあった。ランデル達が森で本格稼働し始めたのは、ルイたちが加わって8人パーティーになってからだ。そこまでの人数でないと森は危険だとランデルと話し合っていたことだった。


 という訳で、5勤1休に耐えられる体力をつけ、そして8~12人パーティーを作って初めて森に挑戦だ。そして森に挑戦といっても、森と平原の境目付近で戦闘をすることを心がける。いざとなれば平原に逃げられるように、安全マージンをとることを教えた。そして一番大事なことは、荷車を買うことだ。荷車はそんなに高くないし、マジックバッグを買うことに比べたら安いものだ。それくらいならば平原でも金を貯められる。


 荷車を平原と森の境目に置いておき、狩った獲物を荷車に乗せてを繰り返し、いっぱいになったら冒険者ギルドに帰る。それを繰り返す。余裕があれば荷車を増やして稼ぎを増やしていく。もし大きな負傷をしても大丈夫なようにポーションは何本か買っておくとして、そうしてその稼ぎで1ランク上の武器を買いなおすのだ。そうすれば狩りの効率も上がってくる。


 ただし、ナイトウルフの活動前には必ず帰ってくることを心がけることが大切だ。ナイトウルフとは戦わない、これは遵守することだ。戦えば、勝てるだろうが、夜というのは慣れないとそれだけで難易度が上がる。足元も見えづらくなるし、ナイトウルフも陰に擬態して襲ってくるから、そんな事態にならない様に退散することが大切だ。これは絶対だということを教え込む。


 そうして金を貯めたら、マジックバッグを買う。荷車は持っていける数に限りがあるが、マジックバッグは別だ。荷車にも積めるし、肩掛け用を買ってもいい。そうして森の付近で戦うことに慣れるまではそんな感じでいい。もちろんそれ以上のことも教えてもいいのだが、そこまで行くのに1年はかかるだろう。まずは下地を作ることが大切だ。孤児でも冒険者であればある程度出世できるのだということをしっかりと教えることにしている。


 ここまでのことを何組かの冒険者に教えた。教えた冒険者たちはこの教えを守るのだろうか? 守るのであれば冒険者という職業で食っていけるだろう。今回教えたことだけでも、スラムで屯しているような冒険者にはならないはずだ。…ランデルも説明できただろうに、俺に説明を丸投げした感じ面倒だったんだろうな。自分も後輩の指導中だし、そもそもランデル自身も森の奥にいけるだけの強さは持ち合わせていないからな。


 …春の教会での儀式が終われば、ランデルはチビたちの世話係に戻るので、面倒だなんて言わせないが。傭兵組が加入してランデルが抜けて9人パーティー、教会での儀式が済んだら、そろそろ森の奥も解禁で良いかもしれないな。泊りがけはまだ早い気がするから、なるべく日帰りでやらせる予定ではあるが、ナイトウルフの相手もさせてみよう。まずはそこからだな。


 そんなこんなで、治療院は業務外での仕事が増えていた。駆け込み寺じゃ無いんだからとは思うが、孤児たちの冒険者ってところが引っかかるんだよな。冒険者ギルドも最低限の注意喚起なんかは積極的に行ってくれるけれど、冒険者の儲けについてはあまり考えていないっぽい。…孤児出身の冒険者はいっぱいいるもんな。それ全部に教えていてはキリがないし、毎年教えなければならないのも辛いところだろうな。うちの業務でも無いような気がしないでもないが。


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