13話
晩冬真っ盛りの最中、明日から新年祭が始まる。治療院の前の中通りも屋台やらの出店がところどころに並んでいる。食べ物だけではなく、装飾品や日用品なんかも並んでいる。奴隷の購入だけでなく、出店を回るだけでも楽しそうだ。一応南区を一通り歩いてみたが、何処も準備で忙しそうで、奴隷を売っているところはまだなかった。明日からが本番だから、フライング気味の人たちがいないか探したのだが、いなかった。うちは出店をやらないから、準備は必要ないし、準備に奴隷を貸して欲しいという依頼もない。
明日一日だけはチビ達にも楽しませてやろうかな。ランデル達にまた面倒を見てもらおう。冒険者ギルドの依頼があったときの様に4班に分けて1日遊ばせてやろう。ランデル達は2日目、3日目はフリーにしてあげれば、1日目くらい面倒を見ても楽しめるだろう。1日目は飲酒は禁止だが、子供たちの面倒を見るんだし仕方ないだろう。
実はこの世界、飲酒は12才以上であればOKなのだ。だから俺も飲める年齢なのだが、温いエールというものが、我慢できなかった。理解できなかった人は、缶ビールを常温で炭酸を抜いて飲んでみるといい。何とも言えない味になるから。俺は我慢できなかった。まあ、前世でも酒は好んで飲んでいるわけでは無かったから、別に未練なんてものはないけれど。
治療院も今日もそこそこ忙しい。明日から3日間は休みにするが、今日は開けている。冒険者が明日使う金を稼いでいるのだ。そんなことをするのなら、普段から儲けを出すぐらい働けばいいのに。精神をすり減らすから毎日は辛いと聞いたことがあるが、ランデル達は5勤1休でも文句は言ってこない。文句を言われても余り変える気は無いのだが、負傷率が高くなるようなら2勤1休くらいにまでは緩和する構えでいたのだが、特に大きな負傷もないし、酒も遠慮しなくていいと言ってある為、本当に何も言ってこないのだ。奴隷になっても酒が飲めるとは思わなかったとは言われたが、奴隷のモチベーションが上がるなら、多少の贅沢ぐらいは寛容に構えるべきだろう。
チビ達にだって酒は無理だが、甘いものやお菓子を振舞ったりしているのだ。作るのはソフィアたちとチビたちなのだが、美味しいものは娯楽だし、まじめに勉強しているご褒美なのだ。それくらいは治療院や冒険者業で儲かっているので問題ない。運営を任せているヘルガからも、お咎めはないのだし、多少の食費ぐらいは大丈夫だろう。うちのグループ全体の儲けから考えると、あと100人くらい奴隷を抱えたってびくともしない経営状況なのだ。
まあ、そんなことを考えながら、治療院に待機してるのだが、オークが出てこなくなって農民の出稼ぎ組の大きな負傷も少なくなってきている。今年は魔法使いの治療があるから毎日討伐に行けて儲けさせてもらったと笑っていたが、農民強い。本当に毎日の様に打撲骨折なんでもござれの状態で治療院にやってくるのだ。跡取り息子に加護の儀式を受けさせるためだとか、老後の貯えを確保しておくためだとか色々な理由があるそうだが、こういう無茶が聞くのも若いうちだもんな。農民は先の先まで考えて生活しているようだ。
どっちかというと、冒険者が後先考えなさすぎなだけだ。森に入れない大体の奴は、スラムで燻っているうちに亡くなるんだとか。計画的にやっている奴や森に入れるほどの実力の奴は、身持ちを崩さない限り、老後の資金はあるだろう。身持ちを崩す奴はやっぱりスラムで亡くなるコース行きだ。それよりも討伐の失敗で死ぬ方がよほど多いとの情報は入ってきている。冒険者の平均寿命はどちらにしても短いものなのだそうだ。ランデル達やルイ達はもう元を取ったが、今後もしっかりと働いてもらう予定なので無理せず頑張って欲しい。
明日はどのような奴隷と出会えるだろうか。俺が買った奴隷は、解放されない限りずっと奴隷だが、不便はさせないつもりだし、働けなくなったとしても売りはしても捨てる気はない。そのつもりで始めからこの商売を始めたつもりだ。生まれは選べないが、関わった以上はなるべく幸せになって欲しい。…多分前世の記憶がそういう性格だったというのも大きいかもしれない。奴隷商には向いていない性格かも知れないが、こんな奴隷商がいたっていいではないか。只々甘いだけではなくて、ちゃんと利益は出す予定だし、全てを助ける聖人君子ではない。…それでも、スラムで凍えて亡くなるなんて生活を奴隷たちに強いるつもりは毛頭ない。そんな甘い考えでやれるだけやってやろうではないか。




