終末、駄文をしたためて
今から、世界が終わります! とテレビの中でニュースキャスターが嬉しげに話す様を見て、わたしは小さく拍手した。あら、これで終わりなの、と拍子抜けするくらいだった。
まずは軽快なタッチで世界が終わることに対しての皆の意見や信じておらずコラ画像に逃げる輩や、罵詈雑言を誰でもない人に投げつけるいつも通りのソーシャルネットワークサービスを流し見してから、特に見ようともせずに自分は自分のことを終わらせる作業に戻る。
昔から特にどこにも公表せずに、つらつらと書き溜めた自分の気持ちを誰にも見えない場所に保存していたメモリを開く。
案の定、いや自分の想像以上、開けば開くほど出てくる黒く目を塞ぎたくなる感情に改めて溜息を吐いた。
数年間延々と死にたいと嘆いていた。特に理由もなく、特に意味もなく、身を任せるように吐き溜めていたものをわたしは滑りの良いマウスに手を乗せ、カーソルを動かし、メモリ全てをゴミ箱に移動させる。
一括で削除されていく自分が認めて保存していたメモリを口を開けながら眺めていた。
今から全てこうやって溜めていった詩も、もどきを極めた小説も、自分も、遺書も全部無くなっていくのに、それなのに何をやっているのだろう、わたしは、と少しだけ口角をやるせない気持ちで上げる。
もし宇宙はるか先で地球以外の星の民が、わたしの作品を歴史の教科書や美術館に寄贈されたらたまったものじゃない。
消えていく自身に広がっていた世界を除いていく作業は実に簡単で、実に単調だった。
要するに死ぬまで暇なのだ。
今日一日、自分の視界の中で一番明るい電子画面の光に、目を細める。
ああ、死にたくない。
出来ることなら、素直になるならわたしはなんでもないそんなことを書きたかった。
いっそ書いてしまおうか。皮肉を駄文に認めて、死体になって、自分の文章にカラカラと笑ってやる。
そう、皆がいなくなった世界で独りきりで笑ってやる。
煌々と光るパソコンの画面を前に、椅子の上で小さく体育座りをしながら何度か人差し指の爪を三度噛んで、小さな手の平を油でぬめったキーボードの上に乗せる。
生きたかった今からを、書き残して置こう。
わたしは耳元の近くに轟音が鳴り響くまで生物の未来の夢を乱暴に書き殴ったのだった。
「終いにしよう」
一人緊張で水分が無くなり、 カラカラになった口で呟くように声に出した虚しくて空っぽでしか成り立たない僕は、 それがどうしてか楽しくて、 浮き足立つような気持ちで大通りに駆け出した。