終わりの始まり
多分連載します。
面白くできそうなら
今日もチャイムが鳴った。
終わりと始まりを司るチャイム。
ある時は生命の始まりを、示唆しある時は生命の終わりを、示唆する。
これは僕が彼女と出会い、終わる、モノガタリ
1話 ハジマリ
* 「敦いぃぃぃ飯だぞぉぉぉぉぉ」
下の階からまるで拡声器でも使っているのではないかと思うくらいデカい声。 俺はヤンキーな母とヤンキーな父親の間に生まれた。 当然、俺もヤンキー...ではなく、ていうかヤンキーでは無いと思いたい。てかヤンキーって言葉古くね?
「今行くからちょっと待ってくれ...」
母は5年前に亡くなってしまった。 それからというもの、父は必死に家事を覚えてくれた。態度が悪いのは相変わらずだが。 俺は今の生活に満足している。 5分で朝飯を済ませた。父はその間俺のことをずっと罵ってくるがまあ慣れたことだ。
「行ってくるよ。」
「気ぃ付けろよぉぉぉぉ」
中学時代に何百回と繰り返した会話。およそ1ヶ月ぶりに聞いた。 今日から俺は高校生。始業式の開始があと5分後。つまり遅刻だ。
* 「最悪のスタートダッシュだ...」
本日入学の新1年生、田中敦は放課後の一人残された教室で悶えていた。 敦は校長の長ったるい話の途中で体育館の鍵が掛かった扉をぶち破り、 「すいませんん、遅れましたァ」 なんて体育館中に響き渡る声で言ってしまったため、クラス中にはもうなにか噂になってしまっていた。
本来、入学式後のクラスなんてのは緊張も相まって話題がなくしん…としている場合がほとんどだろう。 しかし、遅刻して扉を破壊し、父親譲りのデスボイスを体育館中に公開披露してしまった敦は、 初対面同士の話題のタネとなってしまったのだ。 もう既に「笑顔で人殺してた!..」だとか、「朝のニュースで見なかった?」だとかよく分からな い噂が広まっている。
違うのだ...と訂正したくても今、彼を擁護する者はいないだろう。 そもそも初対面な上、その根も葉もない噂に充分匹敵する要素を、敦は持っているからだ。 「恨むぜ...遺伝!!」
彼は性格がいい、本当に。天の声的存在である私が保証しよう。 道端に枯れかけた花があれば自宅から肥料やら水やら持ってきて見事再生させるし。 電車で席に座れない老婆がいれば、迷わず席をゆずれる。
「ギャップでヤンキーが良く見える現象でしょ?」て思ってるそこのお前!違うぞ!彼は 根っからの善人なのだ。
しかし、凶暴な人面、拡声器でも使ったかのよう声、そして異常なくらいに腕っぷしが強い。 この豪華3点セットのせいで彼は中学時代、誤解され続け、見事「孤高の狼」なんてあだ名を付けられ、最強のヤンキーと恐れられてしまった。
「好きで孤高じゃねーんだよォォォォォ」
無意識的に敦は叫んでいた。 ハッ!いかんいかん。こういう所を見られるからヤンキーだと勘違いされるんだ。 でもまあ誰もいなくて良かった。良かっ
「きゃぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁあ」
「ぅん!」
そこには教室を覗き込むようにしてたのか、しかし力が抜けて倒れ込んでしまった女の子がい た。
「ち、違うんだ!まず話を...」
「ヒィィ 来ないでえぇぇぇ」
彼女は走って教室を出た。
「ちぃ!まずは彼女を捕まえて記憶を消さねぇと!」
自然と口に出していた言葉を頭で認識して、確実に自分にはヤンキーの血が遺伝しているのだと強 く思った敦だった。
* 彼女が逃げ込んだ先は体育館裏の倉庫が集まった場所だった。 つまり行き止まりだ。入学してすぐだから彼女はこの学校の地理が分からなかったのだろう。 袋のネズミというやつだ。決して自分が誘導した訳では無い。本当に。
「こっこないでくださいぃぃ」
まるで俺が行き止まりに追い込んで取って食おうとしているみたいではないか。違うんだ。本当に。そうだと信じてる。
「ちょっと話を聞いてくれ...!」
一歩、二歩と彼女に近づいた。そうすると彼女の涙はだんだん引いてきて、少しは誤解が解けた のか? そう思った。
でも、敦は見た。中学時代に見た。何度も見た。その瞬間。 人が闘おうとする目、この目を見る時は大抵誤解からだか、それでも見覚えのある目だ。 そう思っていた時、いや、そう思った瞬間だろうか。敦は空を見ていた。 綺麗な空だと思った。それに自分はまるで空中にいるような。夢を見ているのか。そう感じた。 空飛ぶ夢なんて、すてきだ…
ダンッ
自分の後方からまるでトンカチで鉄を思いっきり叩いたかのような鈍い音が聞こえた。 気が付けば自分は彼女が背にしていたはずの体育倉庫にのされていた。 心無しか背中の方がヒリヒリしている。まさか、あの一瞬で背後にたたれそのまま吹き飛ばされ たというのか。
そう思っていた矢先、今度は視界が暗転した。
あぁまた夢か。
どうやら今度はなかなか覚めなさそうだ。
* 敦は、見覚えのない天井を見た。
なんだまだ夢の
「オイ」
声のある方向を向くと先程自分を吹き飛ばした奴がいた。
足をだらしなく組んで口元にはタバコ...と思ったが違う。あれ、お菓子のやつだ!
「あんた、孤高の狼だな?」
ギクッ
「入学式のとき扉壊してたよな?あれ、鉄製だぜ?。そんで持ってその狂気を孕んだ顔面、人一人 ショック死させられそうな殺人ボイス。この3つが揃ってたら孤高の狼しかいねえ。そうだろ?住 む場所と雰囲気変えたようだがわかるやつにはわかる。それに、少しばかし目立ちすぎたな。」
......まさか初日でバレてしまうとは。そりゃいつかはバレるだろうと思ったがバレる前にクラスメイトの誰かと仲良くなってしまえば、後は時間が解決してくれる。...と思っていたのに。
彼女に口を割らせてはいけない。しかし、戦っても勝てないだろう。なぜなら強打を背後に食らわされた時、姿形 すらとらえることができなかったのだ。力量の差は歴然だ。 だが敦には聞いておかねばならないことがあった。
「お前は誰だ?」
そう、何度も死線をくぐり抜けてきた敦には相手の力量をだいたいではあるが測ることが出来た。
少なくとも教室から叫んで逃げ出した彼女は全くもって強くなかった。 敦を倒す程の力量なんて持ち合わせていなかったし、むしろ一般的な女子高生よりも貧弱そうに見えた。 しかし、今、目の前にいる彼女は見た目こそ同じであるがまるで勝てるイメージが湧かない。 とても同一人物とは思えなかった。
「やっぱ気付いたか。うんそうだよ。あんたが追ってた女と私は違う。私は久遠寺咲の第二の人格なんだ。」
敦は初めて聞いた彼女の名前を反復しながら、当然の質問を口にする。
「それがお前ともう1人のお前の名前か?それで、第二の人格様が俺に何の用だ?」
以外にも俺は落ち着いていた。嫌、女子にケンカで負けた。という事実が、俺にとって衝撃で。 なぜか安心した。なぜかは分からない。
「あんた、めちゃくちゃ物分りいいな...ちょっとは驚け。まあいいや、単刀直入に言うよ。もう1 人の私をあんたに守って貰いたい。」
「お前が守ればいいじゃないか。俺より強いんだし。それに、なにからアンタを守ればいいん だ?」
「それは直にわかるようになる。とにかくあなたは咲を、私を守って欲しい。」
……当然、穏やかな話では無さそうだからお断りしよう。なるべく相手を怒らせない口実を頭で考えて口を開いた。
「わかった。やるよ。」
うん...自分の優しさをこころから憎もう。なぜ神は凶悪面にふさわしい性格をこの男にあたえな かったのか 「そう」
...彼女がかすかに口を開いたと思った途端急に目を閉じた。再び目を覚ますと
「ふえぇここはどこぉ?」
そうかこれが一つ目の人格か。うん、弱そう
「あなたはだあれ?」
「俺は田中敦。」
そしてもう知っている答えをもう一度聞きたくて聞いた。
「お前は誰だ?」
「私ぃ?私はねぇ久遠寺咲っていうの!」
下校時刻のチャイムが鳴った。
チャイムの音が僕と彼女の出会いだった。
こんな53読んでくれてありがとう。評価してくれたら次話の励みになります。