俺の青春は
「おはよう」
篠原さんも通学中に一緒になった。けど、この時間に見かけることは今まで一度もなかった。
「あれ? 篠原さんもこの時間?」
「えっと、少しだけ待ってたかな」
「待ってた?」
「うん。ほんの少しだけね。昨日の事もあるし、少し心配で。朝も一緒に行こうかと。いいかな?」
綾乃の目が少しだけ獣の目になっている。俺は何か変なことしたのか?
「百合。文也は朝、私と一緒に行くから平気だよ。心配してくれてありがとう」
「でも、もしかしてってことあるでしょ? 一人よりも二人の方が安心だよね? ね、条君」
「俺はどっちでもいいかな……」
なんとなく綾乃からは赤いオーラ。篠原さんからは青いオーラが出ているように見えてしまった。
昨日の一件依頼、彼女たちの中で何かが変わったのだろうか……。
※ ※ ※
昼休み。楽しい楽しいお昼の時間。になると思っていた。
「二人よりも三人で食べた方がおいしいわよね?」
「私は一条君と二人でも問題はないのですけど……」
「えっと、俺はどっちでも……」
「「黙って食べてて」」
せっかく屋上に来て、ゆっくりとお昼の時間が過ごせると思っていたのに……。
この二人は何を考えているのだろう。
「(一条君の容態に変わりは?)」
「(朝一で観察にしにいったけど、変わりなかったわ。寝顔がちょっとカワイイかった)」
「(なにしてるんでしすか! それで、写真は撮ったのですか?)」
「(もちろん。後で送るわね)」
「(一条君に怪しまれないように、治療をしないと)」
「(本人が自分の意志で青春するって、結構難しいわね)」
「(頑張りましょ。私たちにしか、できないこと)」
「(だね。百合、教室でしっかりと見ててね)」
「(うん、任せて。あ、美衣ちゃんから連絡が)」
『昨夜寝た後に、体をこっそりチェックしたけど変わりはなかったです』
持参した弁当を食べながら二人を見ている。スマホを見たあたりから、二人の目がきつくなった。
いたずらメールでも届いたのだろうか。
「(こっそりと)」
「(体をちぇっくですか)」
「(異常がないならいいけど、なんだか)」
「(なんだかですね。それぞれ、できる範囲で頑張りましょう)」
「(文也、治るかな……)」
「(治しましょう。私たちの手で)」
二人の目が、さっきとは違って優しい目つきになった。解決でもしたのか?
「文也、明日のお弁当は私が作ってあげる」
「え? 別にいいよ」
「私はクッキーでも持ってきますね」
午後の昼下がり。今までふいていなかった風が、ゆっくりと吹き始める。
そして、動いていなかった心の風車が少しづつ動き始めた。
そんな気がした。
「いい風ですね……」
「本当、雲一つない。真っ青な空! 文也もにも何か感じる?」
雲一つない、空を見上げた。
「青春って、こんな感じなのか?」
二人の視線が俺に向く。
「かもね。青春って何だろ? 百合は青春って何だと思う?」
「私ですか? 私の思う青春……」
篠原さんは頬を赤くし、目を閉じて一言つぶやく。
「好きな人との恋、かな」
青春。俺には好きな人がいない。部活もやってないし、勉強にも打ち込んでいない。
毎日だらだら過ごしているだけ。こんな過ごし方でいいのか?
「私は何事にも一生懸命取り組む! だから、今は青春している!」
「綾乃のやりたいことってなんだ?」
部活? 委員会? こいつに好きな奴っていたっけ?
「文也には秘密! そのうち教えてあげるよ」
「ケチだな」
「ケチで結構。私も今、青春真っただ中だからさ」
「私も、いま青春していると思うよ」
「俺も二人みたいに、青春できるのか……」
「「できるよ」」
二人の笑顔が、俺に向けられる。きっと、俺も青春することができる。
そんな気がした。
─────
青春はやろうと思ってやるものではない。
気が付いたら青春しているものだ。
恋。
部活。
委員会。
課外活動。
何かを感じる。
何かに打ち込む。
いつ、どこで、どんな時に。
でも、それは、人それぞれ。
もしかしたら十代ではなく、二十代、三十代なのかもしれない。
あとになって思い返す。
あの時が青春だったんだなと。
だから、今を一生懸命。
目標に向かって進んでもいい。
たまに道を間違ってもいい。
気が付いたとき、それが青春だと思うのだから。
───
ん? メール?
『お兄ちゃん! 今夜久しぶりに一緒にお風呂に入ろうか!』
『はいるか!』
『恥ずかしいの?』
『いいから、一人で入れ!』
『はーい』
俺の青春はきっとこれからくる、はず?
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