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Phantom Pain 1.8

 俺は恐る恐る、戦いを繰り広げる両陣営に近づいており、いつの間にか互いの様子がはっきりと見える場所まで来てしまっていた。

 アシュラが寮の手の二本の刀で両陣営の大将と思しき者達の攻撃を受け止めてから、攻防はより一層激しくなっていた。

 両陣営の大将はそれぞれ独特の風貌をしていた。

 まず戦っている雑兵についてだが、近くまで来てみるとはっきりわかったことがある。それぞれの軍勢は甲冑のどこかしらにトレードマークのようなものが付いていた。向かって左側の陣営は青い魚のようなマークが付いており、向かって左側の陣営には赤い本を象ったマークが付いていた。ざっくり赤軍、青軍といったところか。

 赤軍の大将は若々しい青年だった。他の軍勢は人間なみの身長だが、その男の身長は3メートル近いと見え、頭一つどころか胴一つ分他の者達よりも大きい。そしてアシュラと同様、右腕は肘より先が刀になっていた。

 一方で青軍の大将は当人が大きいわけではなく、近くで見たらひと際大きな黒い馬に乗った老人のようだった。老人と言っても皺の寄った顔からは想像がつかない筋肉隆々な体をしており、年齢が全く読めない。そして青軍の大将も同じように左腕が刀になっていた。

 アシュラは両腕ともに刀だが、二人はどうやら片方の腕だけらしい。

 大将同士は一度アシュラに刀を受け止められて以降も、その攻撃の手を緩めることはしなかった。

「てめえらやめろって言ってんだろうがよおおおおお!」

 その中央でアシュラは二人の刀を受け止めながら叫んだ。

 二人はあくまで大将同士で戦おうと刀を振るっており、その度にアシュラが二人の攻撃を受け止める何とも滑稽な状態になっている。

 周りの雑兵も、急な乱入に一瞬は動揺したものの、すぐに戦いを再開し、互いの命を削り合っていた。

 少なくとも、アシュラのやり方では意味がなさそうだ。

 そしてまたアシュラは叫んだ。

「ヴェルダン!!メルセン!!!!やめろおおおお!」

 その瞬間、両軍の大将は驚いた表情を見せて攻撃の手を緩めた。

「お前、何故俺の名前を知っている?」

 巨大な青年は低い声でアシュラに尋ねた。

 すると、意外にもアシュラ自身、二人の反応に驚いているようだった。

「ヴェルダン!てめえ、俺のこと忘れたのかあ!??」

「忘れた?私はお前のことなど知らない。そのような赤い髪を靡かせた男、一度目にしようものなら忘れるはずもない」

「なんだとおおおお!?」

 そしてアシュラはもう一人の老人、恐らくメルセンというのだろう。そちらの方に振り返った。

「わしもお前のような男は知らぬ。お前は誰だ、清き戦いに水を差す愚か者。」

 メルセンも至極冷静な表情でアシュラに反応した。

 アシュラは目を見開いていた。

「本当に…覚えていないのか??」

「あー、そうだった、言い忘れてた。」

 頭上から声がしたため見上げると、空中を泳ぐミロクがそこにいた。

 いつの間にか俺のもとに追い付いてきたらしい。

 よく見るとそのさらに上の方には翼を広げて光景を眺めるウェディングの姿もあった。

「あなた達は、今を生きている人々の記憶から忘れられているんだよね。」

「そうなのか?」

「厳密には、あなた達のことを認識できない、と言ったほうが正しいかな。例えばあそこにいる二人にとってアシュラが生前知り合いだったとするよね。彼らには生前のアシュラの記憶はある。でも目の前にいるアシュラと、生前のアシュラを結びつけることができないの。目の前にいるのは彼らにとっては生前知り合いだったアシュラではなく、別の何かにしか見えないってことね」

「まじかよ…てことはアシュラは一方的に記憶があって名前呼んでるが、二人からしたら知らない奴から声かけられているだけってことか」

「そういうことだね。」

 悲しいことにそんな俺とミロクの会話はアシュラには届いておらず、アシュラはただただ同様していた。

「おい、どういうことだよおおお!ヴェルダン、俺ぁまだてめえが自分の名前も呼べねえ小せえ頃から知ってるぞ。おてめえは俺のことを兄ちゃんっつって慕ってくれてたじゃねえかよおお!!」

「何のことだ?」

「メルセン!てめえは俺が餓鬼だった頃から知ってるだろうがよおおおお!餓鬼の俺が悪さするのを見てよくこの赤いど頭ひっぱたいてくれてたじゃねえかよおおおお!!」

 メルセンも、全くぴんと来ていない様子だった。

「…まあ良い。お前が誰かは知らぬがこの戦いを邪魔するというのであれば容赦はせぬ。まずはお前からこの刀「オーディン」で切り裂いてくれるわ」

 メルセンはそう言うと、刀を振りかざした。すると黒々とした鈍い光を放っていたメルセンの刀は真っ赤なオーラを放ち始めた。

 ヴェルダンは言った。

「メルセン、それはさすがに早すぎではないか?しょうがない、私も本気を出すとしよう。」

 そう言ったヴェルダンの刀もまた青いオーラを放ち始めた。

 つまり二人は、本気を出してアシュラのことを殺しにかかろうとしているのだろう。

 アシュラは刀を下ろしていた。

「なんでだよ…

 なんで覚えてねえんだ…

 俺は…

 俺はよおおお」


 その時だった。

 アシュラの両手に生えた刀も同じように光輝きはじめた。

 ただ、二人の刀とは全く違う、金色の輝きだった。

 光はみるみるうちに大きくなり、周囲を飲み込んでいった。

 するとメルセンが叫んだ。

「馬鹿な!その光は、王族だけのもの…!」

 周囲の雑兵も光に驚き、両陣営互いに後ずさった。


「俺はあああああああああ!!!!」


 金色の光は最高潮に達して、激しい地鳴りと轟音が鳴り響いた。

 まるでアシュラの怒りで地が揺れているようだった。


 そして、アシュラの放った光から大きな衝撃波が発生し、雑兵達は紙切れのように十数メートル近い距離を飛ばされた。

 両大将はさすがと言ったところか何とか金色の光の中で持ちこたえているようだった。

「このような凄まじい力を出せるのは王族の中でも…」

 ヴェルダンは呟くように言った。


「俺は!!!!!アシュラだよおおおおおおおお!!!!!!」


 叫び声とともに、金色の光はさらに大きさを増していった。

 すると、その様子を眺めていたミロクが囁いた。

「そろそろだね」

「…おい、ミロクまさか」


 次の瞬間、

 これまで聞いたことのない、その日一番の叫び声がその地に響いた。


「全軍!いったん退け!立て直すぞ!」

 メルセンとヴェルダンは互いに自らの軍勢に指令を出し、そして足早に反対方向に向かって退いていった。


 あっという間の出来事だった。

 激しく金色に輝いていた光は無くなり、目が慣れてくると、そこには先ほどまで戦場に立っていた両陣営の戦士達はいなかった。

 幸いというべきか、両陣営に死者はいなかったようで、怪我した者達は無事な者達の馬に乗せられて去っていったようだった。


 そして、戦いがあったその場所の中心には、

 痛みに耐えかね意識を失ったアシュラが一人、倒れていた。


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