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Phantom Pain 1.7

 その時だった。

 遠くの方で法螺貝が鳴り響いた。

 まるでアシュラの高揚する思いに呼応するかのようだった。

「始まったね」

 ミロクは音が鳴り響いた方を見た。

 今、俺たちがいる場所は平原の最中、陥落した村のほとりである。

 法螺貝の音がどれほど遠くまで鳴り響くものなのかは検討もつかないが、それでもそう遠くまで届くようなものでもないだろう。

 俺も音の方に目を向け、目を凝らした。

 遠くの平原に対立する黒々とした塊が見えた。

 おそらく1キロメートルくらい距離が離れている。個々人を判別できるほどではないが、数百人規模の軍勢同士が向かい合っているような状態なのだろう。

「今から、戦いが起ころうとしてるってことか?」

 ミロクは頷く。

「うん、そうだね。ただ、見たところ両陣営とも大将はいないみたい」

「なるほどな。前線同士の衝突ってとこか。んで?俺たちはどうすりゃいい?」

「ふん、そんなもの簡単な話じゃろう。お主、ミロクと言ったかの。ミロクがわしらに言うたのは、戦争を終わらせるということ。ならば話は早い。皆殺しにすればいい。所詮下人どもじゃ」

「なんだとおおおおおおお!???」

 ウェディングの言葉にまたアシュラが食ってかかる。

「お前は人の命を何だと思ってやがるんだよおおおおお!!!」

「ふん、人の命じゃと?そもそもわしらにはもうその命すら無いのじゃ。他人の命など興味ないわ」

「おい、ちょっと落ち着けアシュラ。…ミロク、ウェディングの提案、その、戦争を終わらせる方法として、例えばこの世界の人々を全員皆殺しにするというのは有効なのか?」

「ほう、人間道の下人、お主少しはものわかりが良いではないか。そうすれば一番効率が良い」

 ミロクは首を横に振った。

「否、だよ。The Bookはそのような方法を求めていない。」

「The Bookが求めていない…それは誰かがそう言ったのか?」

「わかるの。…まあいいや。それに、ウェディングが言った提案。それは不可能だよ。」

「何故じゃ?」

「あなた達は、人を殺すことはできない。何故ならこれは罪滅ぼしの巡業だから」

「なんだ…とおおお??人を傷つけることはできねえってことかあ?」

「いいえ、それはちょっと違う。あなた達は戦うことはできる。そしてある程度、相手方を制圧することもできる。ただ、あなた達が誰かを殺めようとしたとき、頭に光るキンコジがそれを止める。」

 アシュラ、そしてミロクは同じように顔をゆがませて、キンコジを手で握った。

「ふん、つまらんことしよるわ。」

 ウェディングは吐き捨てるように言った。

「この頭に付いた拘束具さえなけりゃあ、俺はてめえをぶっ殺してたぞおおおお」

「つまり、俺たちは非暴力不服従的な精神で、戦争を止める必要があるってことか」

「まあ、人間的な言い方でいう、そういうやり方も一つの手だね。

 …さて。どうする?」

 ミロクは俺たち三人に尋ねた。

「わかんねえ…相変わらずわかんねえよお!だが、やるしかねえんだろお。」

 アシュラは体を翻し、霞む軍団の方に目を向けた。

 そして、一歩ずつ今から戦おうとしている陣営の方に歩いて行った。

「さすが、自らの故郷なだけはあるね」

「それは、あいつがこの世界、ブラ…なんだっけ。ここの世界出身だってことを言ってるのか?」

「ブラアドシェドね。うん、それもある。でもそれ以上に、もっと近しい意味での故郷。追々わかることだけど、この世界は他のどの世界よりも前に進んでるの。」

「天道より進んでるとでも言うのか?」

「ある意味ね。何故なら、ブラアドシェドはすでに一つの国家で成り立っている。統一国家の基礎ができているの。」

「統一国家?つまり一人の王が、この世界を支配してるってことか?」

「そう。それこそが世界の到達点。目指すべき姿。

 ブラアドシェドは古より戦いの絶えない世界だった。

 戦って、

 戦って、

 争い、淘汰し、数を減らしながら少しずつ世界を統一してきた。

 そして完全な統一国家が完成する手前まで来てる」

「手前?どういうことじゃ」

「「最後の戦い」、通称「ウォルフ・スモーク」がこれから巻き起ころうとしているの。」

 最後の戦い。それは誰と誰が争っているのだろうか。

 少なくとも目の前には対立する二つの組織がある。

 統一国家にも関わらず、だ。

「なるほど、シンプルじゃのう。わしらはいきなりクライマックスにおるわけじゃ」

 ミロクは口元に笑みをこぼした。

「そういうこと。それで?トシオ、ウェディング、あなた達はどうする?」

「ふん、わしはひとまず、前線に向かって策も労さず突き進む馬鹿な下人を見守るとするかのう」

「そう。まあ、一先ずはいいよ。何かあったら無理やりにでも駆り出すし。」

 絶対的な主導権を持っている者だけが言えるセリフである。

「トシオは?」

「俺か?俺は」

 何かすべきだろうか。

 正直、現時点では全ての情報が足りていない。

 ミロクの言う「戦争を終わらせる」ための正解がわからない。

 だが、現時点で選択できる行動パターンが少ないのも事実だ。

「まずは…アシュラをサポートする」

「…いいんじゃないかな。お仲間っぽくて。でも一個注意。巻き込み事故で死なないようにね。アシュラは相当強いから。あ、というか、もう死んでるか。死なないけどそれ相応の「痛み」はあるから気を付けてね」

 こいつは冗談を言っているのだろうか。全く笑いどころが分からない。

 俺は何にも策を労していないだろうアシュラの後ろを歩いてついていくことにした。

 確かにアシュラは相当の戦闘力を備えているのは間違いないだろう。それはアシュラとウェディングの争いの様子を見ても明らかだった。

 両の手に刀を備える姿はまさに戦の化身だった。

 遠くに見える両陣営は、いつの間にか戦いを始めていた。

 少し近付いたことで、どのような状態かはわかってきた。

 まず、この世界は人間世界でいうところの中世くらいの文明なのだろう。

 ぱっと見たところ、互いに重火器は持っておらず鎧を着て剣や槍で戦っている。

 互いに甲冑を着て、馬に乗っている姿はまさに中世の戦争を彷彿させた。

 逆に言うと、ほとんど地球の人間と同じ姿をしているとみても問題なさそうだ。

 ではアシュラの姿は何なのだろうか?


 「ウォオオおおおおおお!!!」

 ふいにアシュラが雄たけびを上げ、そして戦いの最中に向かって走った。

 俺はその先を目で追うと、そこには明らかに他の軍勢とは違う、大きな影が二つあった。

 剣や槍で戦う最中、ひと際大きな体を持つ二人が刀を交えていた。そしてその刀は正にアシュラと同様、手から直接生えていた。

 大きな音を立てて、刀を弾き合う音が、未だ数百メートル離れた場所を歩く俺のところまで聞こえた。

 そしてアシュラはその二人に向かってまっすぐに走っていった。

「戦いを!!!!やめろおおおおお!!」

 アシュラは二人の間に割って入り、そして振るわれる刀を同じく二本の刀で受け止めた。

 ギンと鈍い音が響きわたり、一瞬戦っていた者達も急な横やりにあっけにとられて静まりかえった。

「俺がこの戦いを止めてやるよおおおおおお!!!」

 またアシュラが叫び声をあげた。

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