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Phantom Pain 1.6

「The Bookじゃと?」

 片目を吊り上げ、声を発したのはウェディングだった。

「そうだよ?」

 ミロクは頷く。

「お主は…お主はThe Bookが存在すると、言っておるのか」

「存在する。それは間違いないよ。だから、それを探し出さなければならないの。私の目的はそれだけ」

 ウェディングは納得いかない雰囲気で、ミロクから目をそらした。

「だが、それとお主の言う、この戦争を終わらせることに、何の関わりがあるのだ。所詮ただの下人どもの小競り合いじゃろ」

「なんだとおおおおおお!???」

 アシュラはまた大声をあげて、ウェディングを睨んだ。

「あなた、もしかして学習能力低い?まあ、いいけど。まずこの世界の戦争を終わらせる。それがThe Bookにたどり着くための唯一の道のりなの。」


 The Book。

 世界に一つだけのオリジナルしかないとされるその本のことは、俺も知っている。

 何故なら俺のいた地球も、その一冊の本を巡って争っていたのだ。

 俺は言った。

「全てが記された本。理想郷ユートピアへの道しるべ。誰もそれを見たことがないのに、誰も存在を疑わない。それがThe Bookだ。俺の世界での共通認識はそうだった。ただThe Bookの概念として誤りがあった。」

 ミロクは首を傾げた。

「誤り?」

「そう、誤りだ。つまり、The Bookが導く理想郷は、俺の知っている世界、地球に対してのみのものだと思っていた。」

 ウェディングが嘲笑いながら言った。

「ふん、思い上がりも甚だしいのう、下人よ」

「地球、ね。そうだね。その認識はそもそも間違ってるね。だけど無理もないよ。あなたのいた地球の人々は、地球のことしか知らなかったんだから。そもそも知らないものを想像することはできないもんね。」

 すると幾分大人しくなったアシュラが言った。

「俺も知らなかったぞ」

「そうだね、あなたの世界も一緒。そもそも他の世界を認識できるのは「天道」しかないから。だから、簡単に説明するね」

 そう言うと、ミロクは右手を頭の上の方に持っていき、それから人差し指で何か文字のようなものを描いた。すると、ミロクの前には6つの光の玉が現れた。

「細かい話は省くから、事実だけ言うね。この世界は、6つの世界に分かれている。」

 頭上の玉はぐるぐると円を描いて回転している。

「6つの世界とは、それぞれ「天道」「修羅道」「人間道」「畜生道」「餓鬼道」、そして「地獄道」のこと。ここにいるあなた達でいうと、ウェディングがいたのが「天道」、通称は天上世界「ヘーヴン」。次にトシオがいた世界が「人間道」、通称がないから「ザワールド」とでもしておこうかな。そして、アシュラ、あなたがいた世界が「修羅道」、通称「ブラアドシェド」。今は統一国家「アスク」となっているから、そちらのほうが馴染みやすいかな」

「つまり俺たちはその六つの別々の世界の住人達で、今の俺たちは「ブラアドシェド」に集められてるっつーことか?」

「そう。補足すると、あなた達は「元」住人達。今はどこの世界にも属していない。1つ認識を合わせておくけど、まずあなた達は元の世界で一度「死んだ」。そして、私の力で魂に肉体を付けて、今こうしてここに蘇らせた。」

 重要なことをさらりと言われた。

 やはり俺は死んでいたのだ。

 今わの際の記憶は全く無かったためにこれまで確証を得ることができていなかったが、こうして事実を告げられてしまっても、意外にも驚きはしなかった。

「ちょっと待てやあ!俺は死んだのか?」

「うん、そうだよ。そう言った。」

 アシュラは目を大きく見開いて驚いていた。

 アシュラも死の瞬間の記憶がないのだろうか。

「わしも…死んだということか…」

 意外にもウェディングもショックを隠せないでいるようだった。

 思っていた以上に俺だけ冷静である。

 するとふいにウェディングが顔を上げていった。

「ちょっと待て。死んだのならば、本来は「転生」するのではないのか?」

 ミロクは頷いて言う。

「うん、普通はそうだよ。」

 人間の世界でも「輪廻転生」という概念がある。それと同じことなのだろうか。

「でも、あなた達は今、その輪廻の輪から外れている。もうちょっと厳密に言うと、外されている、かな」

「外されている?何故外されているのだ?」

 するとミロクは即座に答えた。

「罪を犯したから」

 そこで俺が口を挟んだ。

「俺の知ってる輪廻転生では、罪を犯したら地獄道ってことになってる。地獄に行くんじゃねえのか?」

「地球ではそういう考え方があるみたいだね。でも実際はちょっと違うよ。まず、さっき言った6つの世界。そもそもこの6つには上下関係は無い。全て横並びの平行世界だと思ってもらったらいいよ。だから、罪を犯したから地獄!みたいな順位は存在しない。まあ、各々の世界の特色上、そう思いたくなるような面も多少あるのだけどね。それに、本来は「罪」の重さとそれに対する「罰」に転生という概念は全く関係が無いの。」

 確かに、そもそも罪を犯したから辛い世界に飛ばされることを罰とする合理的な理由は無い。

 ミロクは続けた。

「だから、通常は死んだら転生、簡単に言ったら生まれ変わってまた一から人生を歩み始めることになるんだけど、次どこの世界に生まれるかに人為的な思いは介在しないよ。ランダムってこと。ただし、例外はある。それが、この世界の理から反れるような大きな罪を犯した場合。」

 やはり、罪なのだ。

「それが、あなた達。理を外れた罪を犯した者たちは、世界の理から外される。つまり輪廻の輪から外されて永劫の眠りにつくことになる。でも私は別の方法を提案した。それが罪を償わせるということ。そしてどのように罪を償うかと言うと、The Bookにたどり着くための道程を供に過ごして、しっかり働いてもらうっていうこと」

 ミロクは淡々と喋り続けた。

「俺は…そんなに重い罪を犯したってのか?」

 ミロクはまたあっさりと頷いた。

「そうだよ」

「…なんだよ…それ」


 罪。

 俺が犯した罪。


 ミロクは言った。


 怠惰の大罪を犯したと。


 怠惰。


 俺は…


「何もわからねえええええ!」

 アシュラは叫んだ。

 怒りだ。

 アシュラは怒っている。

 まるで憤怒の念に憑りつかれたようだ。


「俺が死んだことも!納得しねえ!


 俺が罪を犯したってことも!覚えてねええええ!!!!


 だからてめえの指図通りにする気もさらさらねえ!!!


 でも」


 アシュラは真っすぐにミロクを睨みつけていた。


「この世界の戦争を終わらせることは、やる。


 それは生きていたときの俺ができなかったことだ。

 手を伸ばして、必死に食らいついて成し遂げようとしたが、できなかった。

 だがもう一度チャンスが巡ってきた。


 やってやろうじゃねえかよおおおおおおお!!!!!」


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