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Phantom Pain 1.2

 風が吹いている。

 ちょうど秋頃に吹く、少し肌寒さを感じつつも心地の良い風だった。

 俺はまた倒れていた。

 だが、身体に痛みは無かった。記憶の最後にこびりついていたのは、身体中が裂け、内臓という内臓が削ぎ落とされたような痛みだった。

 今はそんな抉るような痛みは全く無い。

 身体中の感覚を研ぎ澄ませるに、どうやら俺はどこかの草むらの上に倒れているらしい。風が吹く度に15センチばかりの雑草が頬を撫でるのを感じた。

 俺は恐る恐る身体をお越し、見回した。どうやら、生前と同じ身体らしい。また生前と同じ、いつものヨレヨレのパーカーを着ていた。

 いや、そもそも生前という表現が間違っているのかもしれない。そもそも俺は死んでなんかいなかったという可能性もあるのだ。

 だが、目の前の光景には全く記憶がなかった。

 見覚えのない光景が広がっている以上、少なくとも記憶を消失している間に見ず知らずの場所に来てしまっていることは確かなようだ。

 俺はひとまず立ち上がってみることにした。

 広大な平野が広がっている。所々雑草が生えている。整備のされていない、自然平原だろう。

 なぜ、こんなところに立っているのか。

 ここはどこなのか。

 疑問ばかりが頭をよぎる。

 なんにせよ、このままここにいてもしょうがない。

 向かうあては無いが、動かないわけにもいかないため、ひとまず歩きだして見るしかないようだ。

 どちらの方角に向かおうか考えていると、後ろの方から風が吹き、頬を撫でた。

 その瞬間、鼻につんと来るような、嫌な匂いも風に乗ってくるのを感じた。金属が焼け爛れたような匂いだ。

 俺は匂いの方角に振り向いた。

「なんだ、これ……」


 黒い。

 真っ黒だ。

 俺が始めに向いていた方角とは反対方向、そこは真っ黒に焦げていた。

 地面に生えていたと思われる雑草は灰塵と化している。木々は折れ、所々から煙が立ち上ぼり、片面の空を黒く染めていた。

 遠くの方には建物が見えた。いや、建物だったもの、か。

建物からは同じように黒煙が立ち上ぼっている。

「何が起こってんだよ…」

 黒々と焼け焦げた景色を見渡したが、人の姿は見当たらなかった。建物の形状を見るに、かつては小さな集落だったのかもしれない。煙は上がっているものの火が燃え盛っている様子はなく、火の手があがってからしばらく経っているようだ。

 行く宛もない俺は、ひとまず集落のほうに歩いていった。

 近付いてみるといよいよ全てが黒に染まっていた。ほのかに香っているだけだった黒煙の匂いは色濃く周囲を取り囲み、息をするだけでむせかえりそうになる。

 歩いていると何軒か家だったものは見られたが、やはり人の気配は感じられなかった。

 誰もいない、黒焦げの集落。突如としてそこに降り立った俺自身。何か因果関係があるのだろうか。考えても何も思い浮かばなかった。

 しばらく歩くと、黒焦げの集落の反対側までたどり着き、ようやく嫌な匂いのする空間から抜け出した。

 不思議なもので、あたりの平原は特に燃えたような跡は無く、集落だけが焼け焦げているようだ。

「さて、と。どうしたものか」

 見渡す限り燃え落ちた集落以外に何もなく、行く宛も無ければ今日の寝床も無さそうだ。そしてそれ以上に

「…腹へったな」

 察するにこれは所謂異世界転生なるものではないのだろうか。そう考えるのが今のところ最も非現実なアイデアの中では現実的である。

 それなのに、周りには人の姿はまるでなく、このままでは飢え死にである。転生した先でそのまま飢え死になんて話は聞いたことがない。

 せめてなにか食べ物が無いか、探して歩いてみるしかない。今はこの元集落から離れるべきなのだろう。

 そう思い歩きだそうとした瞬間、唐突に声が聞こえた。


「見つけました!」


 また、とても透き通った声だった。その透き通った声は、頭上から聞こえた。

 俺は上を見上げた。

 そこには、先ほど(この表現が正しいかはわからないが)不思議な空間で目撃した、真っ白な女の子が宙に浮いていた。大きなローブをはためかせ、腕を組んでこちらを見下ろしているのだ。

「お前は、誰なんだ?てかなんで浮いてるんだ?」

「あれ?自己紹介しませんでしたっけ?私はミロクです。そして私は神通力を使って浮いています。」

 そういえば、その名を語っていたような気もする。

「ここはどこなんだ?なんで俺はここにいるんだ?そもそも俺は生きてるのか?死んでるのか?てか…」

「あー、もう!そう次々と質問しないでくださいよ!私は人々の声全てに耳を傾けることはできますが、口は一つなんです。」

 ミロクは空中をクルクルと舞いながら、そう言った。

 そして続けた。

「心配しなくても、一個一個順を追って説明しますから。わかりますよ、何も説明もなく連れてきてしまったのは私なので。まあ、大罪人のあなたに説明する義務って、本当は無いのですけどね。それよりもまずは、あなたのお仲間のところに戻りましょう。」

「お仲間?仲間ってなんだ?俺にそんなやつは」

 そこまで言ったところで、大きな爆発音が轟いた。

 音の方角に目を向けると、100メートルくらい先で爆煙が上がっているのが見える。

 ミロクもそちらのほうを見て、眉間にシワを寄せた。

「あー、もう!あなたのお仲間、喧嘩はじめちゃいましたよ!ひとまず止めに入りましょう」

 ミロクはそう言って、宙を浮いたまま爆煙に向かって飛んでいった。

「ったく、まじで何なんだよ!」

 俺は叫んで、ミロクを追いかけた。

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