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Phantom Pain 1.1

 目を焼くような眩い光が俺を包み込んでいた。

 記憶が混濁している。

 俺は買い物から家に向かって歩いていた。いつもと何も変わらない、なんの変哲も無い日常を歩んでいたはずだ。

 だが、道を歩いていた記憶はあるが、家に辿り着いた記憶が微塵も無い。道程のどこから記憶が無いのかもわからない。

思い出そうと記憶を振り絞ろうとすると、途端に靄がかかってしまったように真っ白になってしまうのだ。


 というか今さら気がついたが、そもそも今の俺には身体すら見当たらない。目で見ていると感じているこの白い靄がかった世界も多分、感じているだけなのだろう。

 まあしかし、これは何となく察することができる展開である。

 

 ようは、俺は死んでしまったのだろう。


 悲しもうにもひどく混乱状態のため、感情の浮き沈みを感じることもできない。

 これが死後の状態とでもいうのか。

 まるで虚無ではないか。

 俺は今、精神、いや魂とでも言うべきか、ただそれだけの存在になってしまっているということなのか。

 ここが死後の世界というのならば絶望と言う他無い。

 意識は確かにここにあるのに、身体を司るものは何も無い。ある意味肉体からは解放されているとも言えるがちっとも解放的ではない。


 何もすることもなく、できもせず光に包まれていると、ふと何か強い引力のようなものを感じた。

 身体は無いが身体が強く引っ張られるような感覚で、確かにどこかに向かって進んでいるようだった。

 みるみるうちにその力は強くなり、慣性も加わって摩擦の無い世界を超高速で駆け抜けていった。

 そして、光が強い方向にどんどんと引き寄せられていった。

 なんだろう、さながらイカロスのような感じだろうか。

 今から俺は魂すら焼かれて消えて無くなるのだろうか。本当の無に、近づいているのだろうか。

 魂が光速を越えたかに思えたその瞬間、急にずっしりと重たいものを背負わされたような感覚に襲われた。

 そしてそれと同時に身体中に痛みを感じた。

 文字通り身体中である。

 つまり、急にまた身体を手に入れたのである。とんでもないスピードの最中から投げ出された身体は慣性の赴くままに地面を転がったのである。

 ようやく身体の回転が終わりを迎え、あまりの痛みに轢かれた小動物のようにうずくまった。

 痛い。身体中の骨という骨が折れてしまっている。

 立ち上がることはおろか、声をあげることもできない。

 また身体を手に入れた俺は、その身体を粉々にしてしまったらしい。

 かろうじて空いている目に映る光景を考えるに、そこはただっ広い宮殿のようなだった。

 冷たい大理石の上にいるようだった。顔を自らの血の海に沈めながらも、なんとか首を傾けて周囲を見回した。

 目の前には、真っ白で果てしなく続く階段がある。階段の入り口にはこれまた真っ白で、そしてとてつもない大きさの鳥井があった。

 寺?神社?建物は見当たらない。ただ鳥井はぱっと見ても高さが50メートル、柱の直径は5メートル近くあるように見え、人間が建てたものとは到底思えなかった。

 上空は薄い虹色に染まっており、少なくとも地球ではなさそうだ。

 ここは、天国なのだろうか。いや、それにしては出迎えが手痛過ぎる。では、地獄か。

「…にしろ、最悪…だ」

 諦めのため息を吐いたとき、急に上の方から声がした。

 階段だ。階段に何者かが立っていた。


「大罪人達。あなた方は選ばれました。」


 透き通った高い声だった。余りの透明感に、小鳥のさえずりさえ聞こえそうなものだ。


 俺は何とかして声の方に顔を向けた。

 階段は白く輝いており、目が痛かった。

 だが、階段に立つその女は、それ以上に白かった。

 真っ白の肌。

 真っ白の髪。

 睫毛や眉毛まで白い。

 そして身に纏うローブもまた純白だった。

 ただ胸に煌めく大きな宝石だけが赤々と輝いていた。


 肺から空気が漏れていく痛みを堪えながら、何とか声を発した。


「お前は…だ…れだ」

 女はこちらを見て、そして言った。

「私はミロク。あなた方を、導く者です。」


 女は「あなた方」と言った。

 つまり、一人ではない。

 俺はまた無理やり体勢を変えて、周りを見渡した。

 するとそこには、俺と同じように血を滴らせながら倒れる者達が他にもいた。


 数えたところ、いたのは5人。

 見た限り俺を含めて六人ここにこうして倒れている。


「あなた方は現世で罪を犯しました。そしてその罪は償わねばなりません。でも、私はあなた方を救いたい。救いたいのです。」

 大事なことだから、二回言ったのだろうか。

 女は続けた。 

「ひとまず説明は後にしましょう。あなた方をそうして横たわらせ続けたくないのです。まずは、あなた方をとある世界に送ります。そして、そこであなた方には…」

 女はそこで少しタメを作った。

 そんなことしなくていい。こっちは痛みで今にも意識が無くなりそうなのだ。

 女は言った。


「世界を救ってもらいます。」


 女が言った瞬間、周囲が虹色に輝き、そしてその輝きは広がり全てを包み込んだ。

 身体は宙に投げ出された、ぐるぐると回転しながら上昇する。


「さあ、行きましょう。大罪人達。


 天道で傲慢の罪に問われし者 ウェディング・ミカ・ハピネス


 修羅道で憤怒の罪に問われし者 アシュラ


 畜生道で暴食の罪に問われし者 アレクサンドロス・ティガ


 餓鬼道で強欲の罪に問われし者 モモ


 地獄道で色欲の罪に問われし者 ストロベリー・ホワイト・シュガー


 人間道で怠惰の罪に問われし者 サトウ・トシオ


 私とともに、世界を救いに行くのです……!」

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