ウルフマン(その一)
少年は、名を藤崎藤村といった。この名前には親の遊び心のようなものがあり、小さい頃から周囲にからかわれて育つ。
もっとも、健全な交友関係の中で時折、少し変わった名前をからかわれる程度なら良かったのだが、彼が先天的に持つ「卑屈さ」や「性格の歪み」というものは幼少時から名前を馬鹿にされ続けてきた事で増幅し、結果、今のひねくれた性格が形成される。
すると、中学校に入った頃からそれが原因でいじめを受けるようになり、藤村の性格はますます歪んだものになってゆく。殴る、蹴る……。まあ、いちいちここに書くまでもないようなイジメの王道を受け続けてきたが、そんな中、意外にも藤村の心は折れなかった。
「お前らは俺よりも下。だから集団で俺をイジメるんだ。勉強もスポーツもろくに出来なくてやさぐれる気持ちも分かるが、お前らのストレス発散に付き合ってやってる俺の身にもなれよ」
身を屈め、脚やホウキによる暴行を背に受けながら、藤村は心の中でそう念じ続けた。どんな状況になっても「あくまでも俺はお前らより上」、そう信じていられる自身の性格が藤村を救った。
そんな中で発現した能力が、藤村の『ウルフマン』である。
藤村は、自身の常識では測り切れぬそれを「超能力」と表現した。事実、そう表現するのが最もベターであったし、「自分は超能力を持っている」、その紛れの無い現象が、自身をイジメグループよりも上に格付けする揺ぎ無い根拠となった。
結局、藤村はこの「ウルフマン」でイジメグループを壊滅させ、藤村は完全にイジメグループの上に立った。
***
「やあ……お兄さん。今朝はどうも」
夕暮れ時、将吾が今朝と同じ道を通るのを藤村は待っていた。
「おお、朝のヤツか。さっきは悪かったな」
将吾は、陽気に手を挙げた。
藤村はそれに対して何か反応を見せることはなく、ただジッ……と不気味な表情を浮かべていた。
「そう言えば……今日はこの後大雨だってね。お兄さん、早く家に帰った方が良いかもよ」
藤村は空を見上げて言った。
「マジ? 傘なんて持ってきてねーよ。サンキューな」
将吾はそう言って、さっさと家の方へと走り出そうとした。「朝と比べてやけに温厚な口調である」、それが藤村はもう怒っていないと将吾が判断する理由であった。
「おっと……、そっちは今工事中だぜ。四丁目から帰った方が良いよ」
「えっ?」
「俺も今、工事にぶつかっちまってやけに回り道してきたんだよ。……ま、一応忠告さ」
「マジかよ〜、じゃあますます急がなきゃなあ。色々と悪いな」
「いや、全然……」
――藤村の『ウルフマン』は、藤村が対象者に「3つのウソをつく」事で発現する能力である。
ただし、それら3つの嘘は「本当に嘘である」事が絶対条件であり、また、藤村が対象者に嘘をついてから30秒以内にそれが嘘だとバレてしまうと能力発動の為の3つのカウントはリセットされる。
「それじゃ、色々サンキューな」
将吾が再び走り出した、その時――。
「あっ……そういえば」
「ん?」
将吾はまたも後ろを振り返った。
「僕の名前……『山内英太』っていうんだ……。また何かあるかもしれないし、一応覚えといて欲しいなと思って……」
将吾は、一瞬戸惑ったような顔をしたが……。
「お、おお。俺は芥川将吾ってんだ」
そう、互いに一言だけ交わすと藤村は満足気に笑みを浮かべ――。
「うん、わかった。何度も引き止めてゴメンね。それじゃ」
「いや、助かったぜ。サンキューな」
将吾の走り去る様を見ながら、藤村は不気味に笑みを浮かべた。
(25秒、26秒、27秒――)