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僕は神様、君は人  作者: はんぺん
第1章 望まれぬ献身
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5話 刻むべき忠告

 

 楽しい時間を終えて、ついにセリファリア国に行く時間が訪れる。ボクは王宮にあるボクの部屋で、装飾された椅子にすわり執事と共に荷物の最終確認をしていた。


「それで全部?お金とノート、替えの服、連絡用の魔術具にナイフ、傷薬、魔力塊」


「はい、そうでございます」


そういって執事は机に並べられた物を肩掛け鞄に入れ、ボクに手渡した。


 受け取ったこの鞄は見た目は普通だけど、中に術式が施されており沢山ものが入れられる。荷物を入れると予め別に用意した空間、ボク以外には開くことの出来ない部屋みたいなものに保存される。空間を大きくすればするほど大容量の鞄となるのだ。大きすると消費魔力量も増えるけど、今回は中くらいだしボクにとっては微々たるものだ。バルバドナ探しと題した旅にしては少ない気はするけど


「まあ、こんなもんだよねぇ」


 あくまで手掛かりがあるか確認するだけだし、そんな大装備じゃなくても平気でしょ。


 トントントン


「ノマ様、こちらの準備は整いました。ノマ様はいかがでしょうか」


 扉の向こうから聞こえてきた声に端的に返す。


「今できた、すぐ行くよ」


「かしこまりました。伝えておきます」


 部屋の中を眺めながら遠ざかる足音を聞く。しばらくこの部屋とお別れか、窓辺にある花も次来る時は別の花になっているんだろうね。毎日お世話になってたふわふわのベットは主の帰りを待っていてくれるだろう。さよならふわふわベット、また会おう。


「どうしました?ベットを見つめて」


「な、なんでもないよ、行こうか」



 外套を持った執事の問いかけに誤魔化す。こんなやり取りもしばらくないと思うと寂しいものだ。渡された外套をいそいそと着ながら部屋を出る。


 目的地である『神様の梯子』が使える大聖堂は、王宮を出てすぐの所にある。といっても王宮は広い。加えて今3は階に居るからそこそこの距離を歩かねばならない。円形の長い廊下を歩き、階段を降りながらこれから去る王宮に思いを耽ける。


 たしか、1階は舞踏会やお祝いの場に使われる大広間や噴水のある中庭、そして応接室などがあって、昨日の100年のお祝いも大広間でやったんだっけ。騎士たちは王宮とは別のところに住んでるけど、中庭でよく訓練してるからボクの部屋からもよく見える。


 2階には役職についてる者やその使用人部屋が連なってて、要領がよく頭のいい人ばかりが住んでいる。3階にはボクの部屋とボクのお付の執事や侍女らの部屋、そして書架で満ちた部屋などがあって、よくボクは入り浸ってたなぁ。本は好きだ。ちょっと薄暗い書庫で膝を抱えながらひっそり読むのは楽しい。行儀悪いですよってよく怒られたっけ。


 そして4階に王族やその血縁者の部屋がある。王族しか入れない場所とかもたしか4階だったきがする。4階とか階段だるそうだよね。安全面なのかわからないけど出入りする人がちょっと可哀想だ。……3階で良かった。



 廊下に飾られた風景画を横目にそんなことを考え歩いていたら中庭が見えてきた。


「あれ、ノマ様じゃないですか!これから大聖堂ですか?」


 ボクと仲良くしてくれてる騎士のハロルドが中庭の端っこから駆けてくる。相変わらず金髪と笑顔が眩しい、ふっている腕の筋肉も絶好調だね。


「そうそう、しばらく会えなくなるね。訓練頑張って。怪我しないようにね」


「はい!ノマ様もお体に気をつけてお仕事頑張ってください!俺も邪魔が入らないように大聖堂ちゃんと守るんで!」


 ああ、守りたいこの笑顔。今日ボクは魔物の増加の原因を調査する体で大聖堂を使う。バリバラナが居ないから探してきますなんて大々的には言えないからね。


 ハロルドに別れを告げて再び歩きはじめる。執事は相変わらず静かにボクに付いてきていた。


 また暫く歩くと大聖堂の大きな扉が目に入る。トコトコと扉に近づくと、すすっとボクの前にきた執事がゆっくりと開けてくれた。



 ギギィー



ふわぁ、と淡い光が零れてきて、その美しさに目を細める。


 そとはもう日が暮れ始めている。正面にある大きなステンドグラスから夕暮れの柔らかな光があふれ、大聖堂の中を静謐な空間にしていた。ただ、綺麗だった。


 大聖堂の中に人は居ない。梯子は大聖堂の地下で繋げるから、先に地下にいるはずだ。ステンドクラスの方に向かって歩き、講壇の下にある出っ張りをぽちっと推す。



 ドゴゴゴゴゴ ドンッ



 大袈裟な音を大聖堂に響かせながら石畳の床がズレて、下に続く階段があらわれた。一応、術式で登録した人しか開けれないような仕組みになってる。



「よし、行こっか、ロイ」


「はい、参りましょう、ノマ様」


 照明用の魔術具で明るくなった階段を降りる。



 カツカツカツ



 静かな空間に二人分の足音が響き渡る。二人分のはずなんだけど執事の足音が殆ど聞こえない。さすが執事、なのか?



しばらく下るとまた大きな扉が目に入り、その扉を開けてもらう。



 ギギギィィ



 大聖堂の扉よりも錆び付いた音が耳に届く。普段あまり使わないからね、仕方ない。静かに中に入って、けっこう広い地下を見渡す。ぼんやりと明かりがついてるけどちょっと暗いな。


 薄暗い地下には何人か居るようだ。えっと、たしか外務大臣と法務大臣だ。あとはその部下と、部屋までボクを呼びに来た侍女がいる。今頃、騎士たちは大聖堂の入口を守っていることだろう。頑張ってくれハロルド、ボクも頑張るから。


「お久しぶりですな、ノマ様」


「ああ、久しぶり、ランドール。ネマリも久しぶりだね」


「ええ、お久しぶりです、ノマ様」


 ランドールもネマリはそれぞれ外務大臣、法務大臣という重役についてるため中々会うことは無い。これから此処を去る身のボクが会うことはしばらく無いだろう。


「ノマ様、失礼します」


「ああそうだった、ありがとう」


 ロイがボクの外套を脱がしてボクに手渡す。梯子の先はセラルファナの大聖堂の中だからね。忘れてた。


ボクは外套を鞄にかける。本当にこれから行くんだなぁ……



 すー、はー



 深呼吸してみんなの顔を見る。侍女がなんか緊張してるけど、どうしたんだろう。……ん?ロイがじっとこちらを見ている。


「ノマ様、1つ助言を」


「え?なに、お別れの言葉じゃなくて?」


「違います」


「え、あ、ごめん……」


ちょっとなんだか寂しい。


「今から貴方は、セラルファナの集落に行かれます」


一呼吸置いて、ロイは続けた。


「これから先、御心を乱される事もあるでしょう。しかし、その時はどうかお気を確かに。分からぬことは分からぬ。知らぬ事は知らぬと。その時までは、それで良いのです。ただ、決して開き直ってはいけません。どんなに理不尽であろうとも、決して」


そして、しっかりとボクを見てから



「それを、お忘れなきよう」



 そう言ってロイは床に片膝をつき顔を伏せ、右手を胸に、左手は下げた最敬礼をした。それにならって他の大臣や侍女でさえも膝をついた。


 急なことに何も言えず、しーんと静かな時間が続く。あの、えっと、



「ちょ、やめてよそんな。それって君たちがやるようなものじゃないよね?」



ボクの言葉に皆は静かに顔を上げ立ち上がり、悪戯げにロイが言う。



「心を込めた最初で最後の最敬礼ですよ、ノマ様」



「そ、それはそれでなんだかなぁ」


 びっくりしたけどこれが最後なのはちょっと勿体ない気がする。かっこいいし、なんか神様って感じするねぇ。たまーにやってもらいたい。


「ロイの言いたいことはよく分からなかったけど、これから大変だけど頑張ってね?ってことだよね」



「━━そんな感じです。重く考える必要はありません。貴方の御心のままに」



 目をふせながらロイは言った。やっぱりよく分からないけど、ロイなりのお別れの仕方なのかな。


「ん、わかった。じゃあ始めるね、みんな離れてて」


 皆がある程度離れたことを確認して『神様の梯子』を繋げようと試みる。うん、あっちも準備万端のようだね。よし、


「名をノマ・ラガルデア、梯子を降ろせ!」


 ボクは高らかに声を上げた。


 あっという間に薄暗かった地下にキラキラと光が満ちる。外からの光は入らないはずだから梯子がちゃんと繋がったってことだ。良かった。


 光が落ち着いていき少し明るい程度になった。斜め上に続く光の梯子が見え、その先には楕円状の入口が光の雲みたいにがぼや~としていた。



「じゃあ、行ってきます!」



「「「「行ってらっしゃいませ、ノマ様」」」」



 腰を折って礼をするみんなを一目見て、斜めにかかった梯子の上を歩き、1番上までたどり着く。そのまま後ろは振り返らずに雲の中に入り、ふっと思う。


 やっぱりサリアナは変な顔してたなぁ、真剣な顔をしていた執事を見習って欲しい。食い意地張ったところと料理以外は出来る子だけど、サリアナの作った美味しいクッキーをいつか食べてみたいな。大臣らも真面目だったし。真面目はいい事だ、うんうん。


 なんて考えながら雲の中を歩くと、今度は正面楕円状の出口が見えてきたから躊躇なく入る。



 すっ、とひらいた視界の下にはクラウスや、恐らくセリファリア国の大臣等だろう、出てきたボクを見上げてくる。


「おー!きたかノマ!元気にしてたか?」


「元気も何も、昨日あったばかりじゃない、元気だよ」


「そりゃよかった。」


 梯子を下りきって相変わらずくせっ毛のクラウスと昨日ぶりの会話をする。大臣らは無言で片手を胸にあて簡易礼をした姿勢で整然としている。


「よし、さっそくこれからのことを話そう。ついてきてくれ」


 ボクの背中をトンっと叩いてからクラウスは歩き始めた。近づいてきたセリファリアの人に荷物を渡してからボクもついて行く。どんな話をするんだろう、集落の行き方とか教えてくれるのかなぁ。



 じーっ



不安とすこしの期待を抱いてクラウスの背中を見つめる。








 ま、何とかなるか!


 ボクは考えるのをやめた、脳筋がうつったかもしれない。






羽があったら、遠くまで

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