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僕は神様、君は人  作者: はんぺん
第1章 望まれぬ献身
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1話 予感はいつまで

序盤は少し短めの話が続きます。すみません。

 

 ボクの神様の一日は、だいたい同じことの繰り返しだ。


 だいたい同じ時間に起きてふわふわベットから身を起こし、色々と身支度を終えて、仕事の片手間に優雅に紅茶を飲む。仕事が一段落したら外で訓練している騎士達をぽけ~っと眺めて、己がいかに貧弱な体であるかを反芻するのだ。たまに使用人とお喋りやお茶会みたいなのをして、また、眠りにつく。


 神様になって100年らしいけど、特に新しく得るもののない時を繰り返し過ごしていた。


 神様としての仕事は、一部を除けば難しいものでは無い。たまに土砂崩れを元通りにしたり、騎士たちでは対処しきれないものをボクが手伝うってだけで。普段は渡される書類に目を通したり、名前を書くだけの簡単なお仕事だ。これなら、諸々の問題は置いといて子供でも出来るんじゃないだろうか。


 そんな、神様に選ばれてからは以前の生活とは比べ物にならないくらい、それはそれは気楽な日々を過ごしていた。でも、この日はボクの気持ちって面で、ちょっとだけ違ったんだ。



「ああ、憂鬱「バッサァ!!」……だ」



 窓の外で鳥が飛んで行ったようだった。後を歩く執事に聞こえるように零した愚痴を鳥の羽音がかき消した。


「ちゃんと聞こえてましたよ、ノマ様。せっかくのお祝いなのに、なんてことを言うんですか」


 ……ふぁー、空が広いやぁと円形の長い廊下を歩きながら現実逃避をする。


 ボクは本来、楽観的な性質の生き物だ。神様になっても、その性質は変わっていなかった。例えば、1日1回転ばないと気が済まない侍女が作った、砂糖と塩を間違えたクッキーもどきを食わされようとも


「美味しすぎて水が欲しくなるクッキーだね、安全確認(あじみ)の大切さを教えてくれてありがとう」


 と、感謝の意を込めてお返しに、侍女の口内の水分を吸収しまくるクッキー(小麦粉増量中)を食べさせたり。そして残酷な執事には


「筋肉がつかないのは体質です。生まれ変わりってご存じですか?」


 と言われても、遠回しに死ねって?違うよね?慰めてるんだよね?って感じの解釈が出来るくらいには。


 そんなボクは豪華な扉の前にいて、何故憂鬱なのか。それはボクが神様になって100年経ったお祝いをしようじゃないかと食事に誘われたことが関係してくる。別に食事をすること自体は憂鬱じゃないんだけど……なんかちょっと。



 トントン



「ノマ様をお連れ致しました」


「お、来きましたね。入って」


「失礼致します」



  ガチャ、キィィー



 執事が開けてくれた扉の心地よい音が響く。


 扉を開けた先、広い部屋のど真ん中にある円卓に座っているのは、予想通りの3人。相変わらず人数に対して円卓の大きさがあっていなかった。


「久しぶり、かな?」


「ええ、私は10年振りくらいですかね? あの時の流星群は見事でした」


「ほんとに綺麗だった、また一緒に見よう」


 涼し気な銀色の瞳を細めたカロル。彼との思い出を振り返る。カロルと一緒に見たあの時の空は忘れられない。そこそこの時を生きてきたけど、空って綺麗なんだなって初めて思った。


「俺は30年くらいかァ?たしかお前んとこの侍女が拾い食いして腹壊したやつ」


「それね、ほんとあの子は馬鹿だよ」


 黒髪を掻きながら言ったルシルの顔を横目に、ボクは侍女の事を思い出す。

 道端に落ちてた果実を美味しそうだからと食べてしまった愚かな侍女。食い意地のはった女だ。腹が痛いとうるさいから色々薬草を食べさせたんだけど、治らなかったからルシルに診てもらったんだっけな。あとから調べたらどうやらあの果実はどっかの悪い人が密輸入したものだったとか。


「おれは、んーーー、いつぶり?」


「んん、多分40年とかじゃない?なんか一緒に食べまくった日あったよね」


 幼げな顔をクシャリとしかめてから首を傾げるクラウス。なんかお腹いっぱい食べた日があった気がするんだけど


「君たちはラガルデア国の精霊祭に行ったと聞きましたよ。確か45年前が精霊祭の年だったかと」


 あ、そうだったそうだった。精霊祭だ。100年に1度行われる、ボク、長命種にとって大事なお祭り。森の恵みに感謝をし、森に住むと言われる大精霊を崇め讃えるという大それたお祭りだけど、今は街に出て皆でわいわい楽しいお祭りになっていた。


「ああ!屋台の肉うまかったなー!またいこうぜ、ノマ」


 金髪のくせっ毛を跳ねさせながらクラウスは言う。


「ボクもケセラ葉のおひたし、また食べたいな。次は55年後かな?覚えてたら誘うね」


「おう!」


 ボクの言葉に無邪気に笑うクラウス。ケセラの葉は結構えぐい味がするから苦手なんだけど、あのおじさんの作るおひたしはそんなことは無かった。おひたしを極めた者の味付けだった。残念ながらクラウスはお肉しか食べてないから、あの感動を分け合うことは出来なかったけど。ボクも料理できれば良いんだけど、下手なんだよなぁ。侍女のこと言ってられないかもしれない。



  ススッ



 執事が引いてくれた椅子に腰掛ける。これで、ボクの居る国、ラガルデアに、1つを除く他国の神様が揃った訳ことになる。ここにいる中で最長年のカロルが仕切り始めた。


「では、みなさん揃ったところで食事にしましょうか。ノマ君が神様になって100年のお祝いです、美味しい料理を準備しましたよ」


「おれもにく沢山もってきた!」


「俺は貧弱野郎(ノマ)のために栄養のあるものを持って来てやったが、役にたつかねェ?」


「ありがとう。でもルシル、ボクは別に貧弱じゃないよ?キミが筋肉つきすぎなだけで、」


「かしこまりました。それでは料理をお持ち致します」


 ボクの言葉を意地悪な執事が遮る。相変わらず憎いやつだ。


 こんな感じで皆仲が良いし、何なら国同士でも仲がいい。皆で食事をするというのはとても楽しいし、べつに嫌いじゃないんだけど、扉に入る前までは悪い予感がしてたんだ。


 今日はボクのお祝いってことで皆集まってくれたけど、それだけじゃない気がしたんだ。この時は。言い訳じゃないけど、まずはお腹をみたそうと思ったんだ。


 ボク達は美味しい料理を食べながら、それぞれの国の近況とか、やっぱりケセラ葉は料理の仕方が大事だとか、そんな世間話をしながら楽しい時間を過ごした。悪い予感なんて嘘みたいに、本当に幸せな1日だったんだ。






まだ、どうか


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