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僕は神様、君は人  作者: はんぺん
第1章 望まれぬ献身
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15話 残されたもの

 

 両思いだった2人。けれどお互いその思いを伝えられず、分かたれた。リグルの両親は彼の思いを知っていた。彼はその事を知らずに恋心を隠し続け、1人で泉に行ってしまった。そしてリアナも、自分の気持ちに気づくのが遅かった。行き違いと勘違いと、色々な事が重なってしまった。



 手紙には滲んだ所が複数あった。涙しながら書いたのだろうか。文字がかすれないように優しく手紙を撫でる。


 2人とも、子供だったんだ。もっと周りが見えていたなら、もしかしたら思いは通じあったのかもしれない。きっと違う未来があった。




 ━━━その結末が幸せだったかどうかは分からないけど、思わずにはいられない。




「リアナ……さん」




 とても悲しい手紙だったけれど、知れてよかった。彼女がリグルの居たリドリー家に嫁いだこと。少し複雑な思いも有るけれど、でもリグルと関係のある家で家庭を築いてくれたのが嬉しい。リグルの住んでいた家にリアナ住んだんだ。きっとリグルが見ていた物をリアナは見ることが出来た。

 そしてあの花畑のこと。リグル以外と結ばれたけれど、リグルの事は忘れないでいてくれた。



 でも、我儘をいえば、ボクは重荷になるくらいなら忘れて欲しいと思った。どこかで、笑ってくれていれば。



「……ん?」



 ふと、自分の考えに違和感を感じた。ボクは果たしてこんなことを考える奴だっただろうか。王宮にいた頃はここまで感情移入することはあまりなかった気がするんだけど……。

 まあ、王宮ではこんな悲しいことには出会わないから、こういうのを知るのは良い事だと思った。


 ゆっくり目を閉じて、手を組んで心からの祈りを捧げる。


 居るかは分からないけど、本当の神様。2人は悪い子じゃないから、きっと巡り会わせてあげて下さい。





「どうか、来世では幸せに」




 目を開けて、もう一度手紙を眺める。



「気になるのは、最後の文だよね」



 すごく気になる終わり方だ。続きがある筈だけど手紙は1枚しか入っていない。フォトナさんが入れ忘れたか、そもそも無いか。



「んー、この1枚で分かることは」



 リアナはバリバラナの事は知らない。夢のお告げをしたのが誰かは分からないけれど、夢には綺麗な女性が現れた。そして確かに花弁を食むことで助かった。果実ではなく、花弁。また、突如お墓を囲うように花が咲いたこと。


 色々あるけど、少し気になったのはリグルのお墓がリドリー家で作られなかったこと。手紙の内容的に嫌われているわけでは無さそうだったけれど、実際はどうだったのか。それと言い伝えの始まりは何なのか。そもそも、これはいつ頃の話なのか。



「うむ、まずは他に遺書が無いか聞いてみないと」



 ボクは席を立ち部屋を出た。するとその音を聞きつけたのか、以前ボクを案内した女性がボクにどうしたのか尋ねてきたから、遺書について聞いた。



「確認してきます。部屋の中でお待ちください」



 そう言って早足でどこかへ向かっていった。また部屋の中に戻り、ぼーっとする。そういえば、リグルもこの家に住んでたんだよな。何か無いか調べてみたいけど、流石にもう部屋は片付けられてるだろうか。



「ノマ、私よ。入るわよ」



「あ、どうぞ!」



 引き戸を開けて、何も持たずに現れたフォトナさん。ボクの正面に座って話し始めた。



「遺書のことだけど、見せられるのはそれしかないの」



「ってことは、一応続きはあるんですね?」



「ええ。でも遺言でリドリー家以外の人に見せるのは禁じられていて、石を持つ貴方でも見せれないの」



 フォトナさんは目を伏せて謝った。


 石を持つ、という言葉がどれだけの意味を持つのかボクには分からないけれど、フォトナさん達にとっては大きな事だと、今までの事で予想できる。それなのに遺書の続きは見せれない。 そもそもだ、そんな事を言い始めたのは誰なのか。何故、今も伝わっているのか。



「他に遺書について聞きたいことある?」



「あ、少し。ここにある『兄の墓は誰も作ろうとしなかった』というのは、何故ですか?」



「ごめんなさい、それはよく分かってないの。リドリー家が禁止したってことは分かるんだけど、それ以上は」



 リドリー家が禁止……?リグルは弟のアウリに慕われていたようだし、アウリは結婚の説得にリグルの恋心を使うぐらいだ。両親も嫌ってはいなかったはず。



「じゃあ、言い伝えの始まりって何なのですか? あと、リグルさんとリアナさんがいつ頃の人なのかも知りたいです」



「言い伝えは、曖昧なの。誰が言い始めたのかも分からないし、果実を実際に見つけた人はいないわ。


 2人については、約200年前に病に罹るひとが出たらしいから、その少し前くらいかしら」



「200年と少し、か」



 ボクが神様になる100年前くらいに2人は居たんだ。そう考えると、なんてボクはぬるま湯の日々を暮らしていたのだろう。優しい父と母に守られながら、何不自由ない生活だった。もう両親は死んでしまったけれど、もっと感謝の言葉を言っておけばよかった。



「それと……」



「それと?」



 何か言い淀んだ様子で、じっと机を見つめるフォトナさん。すこし口を開いたり、また閉じたりを繰り返して、やっとの事で言う。



「その、耳飾りの石のことよ」



「これですか?」



「そう、それよ」



 フォトナさんの目線がボクの左耳に向けられた。耳から取り外して机の上に置く。



「この石は、リグルが当時の行商人から買った物と言われているの」



「……え!?」



「実物を見たことは無かったけど、直ぐにわかったわ。私の目の色と似ているでしょう? リアナさんもこの色をしていたそうよ」



 石の色と瞳の色。確かにボクも似ているなと思っていた。だけど、リグルはなんのために? いや、そうだ、分かりきったことじゃないか。リグルは、リアナが好きだったんだから。でもこの石は本当にそうなのか。



「これはクラウス、様から頂いたものです。何かの間違いじゃ」



「いいえ。……いえ、そうね。そう、そうかもしれない。でも」



 ボクの言葉を強く遮って、だけど曖昧な響きでフォトナさんは言う。



「これはきっと、その石なの」



「……そう、ですか」



 石と同じ色の瞳がボクを見つめる。その強さにボクは反論なんて出来なかった。



「……話は変わるんだけど。ノマ、リグルさんの部屋、見てみたい?」



「え? あるんですか!」



「えぇ、当時のままになるべく保存しているの。見る?」



「是非!」



 驚きだ、まさか本当にあるなんて。しかも当時のままとは……どのくらい当時のままかは分からないけど、きっと精一杯守ってきたのだろう。



「じゃあ着いてきて」



 フォトナさんは遺書を手に持って歩き出した。ボクも机の上からピアスを拾ってついて行った。











 ✳











 2階への階段を上り、少し右に進んだところにある部屋。その前でフォトナさんは歩みをとめた。




「ここよ、今開けるわ」




 ガチャ ガラガラガラ





 重たい音を響かせて開かれた引き戸。過ぎた時間を感じさせる音だった。



「また、私は離れるわね。なにかあったら同じように誰かを呼んで」



 そう言ってまたフォトナさんは居なくなった。ボクは返事もしないまま部屋の中に入った。



 そこは、時間が止まったような部屋だった。



 埃なんてない、窓にも汚れなんてない。床には足跡ひとつ無かった。これだけなら新品の家の一部だろう。でも、所々にある物。木で作られたベッドに机。その上にある布団や、散らばった本たち。

 清潔に保ちながらも、リグルの痕跡は消さないように。そんな思いを感じさせた。



「……」



 ふら、と窓の外がきになり、近寄る。そこから見えた景色は、王宮から見えるのに比べれば、なんてことないものだった。それでも美しかった。


 遠くには緑に染まる山々。そしてその手前にある集落。ここは少し高いところにあるからだろう、よく見える。




 ━━━ああ、リアナと見れたなら




「っ!」




 なにを、思ったボクは。何を考えた、ボクは。




「っは、はぁ」




 息が荒くなる。胸が苦しくなる。これは、誰だ。誰の声、なの。




『渡したかった』




 不意に聞こえた、リグルの悲しい声。無意識にボクは真似をしていた。




「……わたしたかった」




 その時思ったのは、耳飾りのこと。そっと耳から取り外して眺める。




『こうじゃなかった』




 その声が聞こえた時、ふっ、と目線が机の横並びの引き出しに向いた。ボクはゆっくりと机に近づいて、右の引き出しを開ける。




 ガラガラ





「なにも、ない?」




 そこには何も無かった。何かあるはず、と思って引き出しを調べる。すると引き出しの奥の板が取れた。そしてその奥に、光るものが見えた。




「……これは」




 たぶん装飾品。雲みたいな、でも少し透き通った白い石。それが散りばめられたいた。そして、少し大きな穴が1つ。



 自然と手が、空色の石を、そこに嵌める。





「ああ、綺麗だ」





 静かな部屋の中に落とされる、ボクの声。まるで羽のような形をした装飾品。白い石に囲まれた空色の石。装飾品自体はなにかを挟む構造になっていた。





 ボクはそれを持って部屋を出た。





まるで、そのためかのように



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