10話 哀の声
「ああ、ノマ、良かった。どうだったんだい?」
「あ、ダグラスにバロン! 探す許可、得たよ!」
「そりゃよかった、まさかこんなに簡単にいくとはな」
どれだけ話していたのだろう、バロンも門の前に来てくれていた。
『条件がある』
そうオシグルさんは言った。条件と言うからどんな難しいことを言われるのかと思ったら、『集落の外を探す際はフォトナさんと共に行動すること』と言われた。しかも気が済むまでユグルに居て良いと。
確かに好きに行動できない点ではやりにくいけど、逆に大事な娘さんをこんなボクと行動させていいんですか?って聞きたい。まあ、聞けないし、変なことをするつもりもないけど。
家の中でオシグルさん達と話した経緯を2人にも伝える。2人ともピアスの件は怪訝な顔をして聞いていたけど、条件を聞いてから驚いた顔になった。
「私のときはもっと渋られたんで、驚きですねぇ……」
「そのピアス、クラウス様から貰ったんだって?そのおかげか」
「元々はダグラスから買ったって聞いたよ? それをくれたクラウス様には感謝しないと」
「……それは初耳だね。クラウス様にそれを売った覚えはないよ」
「え、薦められたって聞いたけど」
あれ、聞き間違えたかな。たしか買ったって聞いたんだけど。
「……進めた覚えはないがそのピアス、いや、その石、どこかで見たことがある気がするねぇ」
「どこかでって、どこだよ」
何処だったかなぁと悩むダグラス。話が違うぞ、と後で詳しくクラウスに聞かないとな。どんなつもりでダグラスから買ったってボクに言ったのか。
まあ、このピアスに助けられたことは変わらない。旅のお守りとして貰ったけど、違う意味で助かった。これはお土産を豪華にしなければ。
門から離れながら、セリスファナ王宮へお土産を持ち帰った時のクラウスの喜ぶ顔を思い浮かべた。
※
無事に話し合いを終えたボクは、いつも2人が泊めてもらっているという家に泊めてもらえることになった。
「じゃあ、いつも通り食材はダグラスさんの物を使わせてもらうわね」
「はい、今回は1人多いですが、また大体2週間程度です、よろしくお願いしますね」
「えぇ、勿論。ダグラスさんの持ってくる物は何でも美味しいからねぇ。料理しがいがあるってもんよ」
恰幅の良いおばさんが朗らかに笑う。実はおばさんの先祖が大家族だったらしく部屋を増築したはいいものの、今は部屋が余ってるらしい。そしてその部屋をダグラス達に部屋を貸す代わりに、泊まる間の食材をおばさんの分も提供している。だからダグラスは衣料品類の他に沢山の食料を毎回持ってきていると言っていた。
おばさんと挨拶を終え、ボクらはそれぞれ荷物を部屋に置くことになり、それぞれの部屋に向かう。ボクの部屋は階段を上った2階の右端、バロンが隣で、そのまた隣がダグラスの部屋だった。
「ふぅ、つかれたー」
荷台から持ち帰った鞄を机の上に置き、椅子に身体を預ける。今日は知らない人に囲まれたり怖いお爺さんに睨まれたり、色々大変だった。
「……空色、似てたな」
左耳のピアスを取り外して眺める。やっぱり彼女の瞳の色と似ていた。そこてボクは思い出す。
「アトニアさんの瞳も、こんな色だった気が……遺伝かな」
アトニアさんの瞳は、石の色よりもうちょっと青みがかってたけど、アトニアさんの両親から引き継がれたものなのだろうか。
コロコロと手の中でピアスを転がしていると
『これじゃない』
急に、前触れもなく、そんな言葉が頭に過ぎった。
「━━━なにか、ちがう……?」
自分が自分じゃないような、そんな違和感。
『こうじゃない』
頭に響く声は、とても悲しくて、寂しくて。
「なにが、違うの……」
繰り返し、声はボクに訴えかける。
『こうじゃなかった』
悲しい、悔しい、もどかしい……怒り。色んな感情が、ボクを襲う。
「……やめて、ボクは、ボクには、分からないよ」
響く声に拒絶の言葉を返す。椅子から落ちそうなくらいにボクは前屈みになり、頭を抱えていた。
カランカラン
ピアスは床に落ちてしまい、視界に映らないように、見ないようにしていたら声は聞こえなくなった。
「な、んだったんだ、いまのは……」
集落に来てからというものの、何か変なことが続いている。見たことも無い風景なのに懐かしくなったり、初めて会うはずなのに知ってる気がしたり、声が聞こえたり……。
「ああ!もう、わかんない!」
頭をふって思考を止める。そうだ、ロイも言ってたじゃないか。分からないことは分からなくて良いって。まずは、手がかりだ。バリバラナの手がかりを探そう。ああ、何なんだ、ほんとに。
トントントントン
「どうした、ノマ。声が聞こえたが」
はっ、と現実に戻る。声、隣だったから聞こえたのかな。そんな大きな声になってしまってたか。
……ボク、何やってんだか。石を見てたら変な声が聞こえたなんて言えないよね。
「ご、ごめんねバロン! 虫が居て!」
「……はぁ?おいおい!虫ごときで何ビビってんだよ!声デカすぎだろ!」
ガッハッハ、とこれまた大きな声で笑うバロン。その声にダグラスも来たのだろう。
「騒がしいねぇ、何してるんだい」
「聞いてくれよ! ノマの野郎、虫にびびったんだってよ!ハッハッハッハッ!」
扉の向こうで笑う2人の声が聞こえる。こ、これ以上笑われるのは沽券に関わる。ボクは止めるべく扉をあけた。
※
荷物を部屋に置いたあとは、特に3人でする事はないから夕食まで自由時間となった。集落の中なら1人でも行動して良いって言われてるからボクは遠慮なく外へ出た。
集落に着いたのはお昼頃だったけど、もうそろそろ日が沈む頃になっていた。オシグルさん達と交渉してもらったり、ボクが交渉したりしたから、あっという間に時間が過ぎていた。1時間くらいは探索できるだろう。
おばさんの家を出たら、小さいけど家々が道に並んでるのが目に入った。集落と言っても、ここは人数が多い方なんじゃないかなって思った。麓にも近いし、なにより子供も若い人そこそこ居る。これなら農作業や魔物の対処もしやすいだろう。
オシグルさんの家とは反対方向に、道に並ぶ家々や話し込んでる住民達を眺めながら道を進む。道に沿って進んでいくと、密集していた家がだんだんとチラホラとしか存在しなくなり、ゆっくり歩いて30分くらいで集落の端まで来てしまった。
「あの、集落はここで最後ですか?」
集落の見張り役なのだろう、男の若者が2人で外からくる魔物を警戒しているようだった。2人に確認をとるとやはりここで集落は終わりらしい。頑張ってください、と一言告げて来た道をもどる。日の傾きを見て時間が結構経っっていることに気づき、早歩きで戻る。
彼らがいた先、まだ行けるとこがありそうだなと思い返す。確かに正面には遠くに森が見えたけど、左にそれた道があり、それは丘に続いていた。道があるのにどうしてあの場所で集落を切ったのか。あの先に別の集落があるのかもしれないけど、別の何かがあるかもしれない。
それに、
「なんか、気になるんだよね」
なんとなくあの丘に行ってみたかった。フォトナさんの都合が良い時に行ってみよう。彼女には子供が二人いるみたいで、ボクと会ってくれた日は預かってもらってたらしい。子供なんてボクには無縁だから凄いなぁっておもう。
フォトナさんは獣混種だから見た目通り30歳半ばくらいかな、もうちょっと若いかもしれない。弟さんも1人子供がいるらしいし、いつか2人の子供も見てみたいな。きっとそれぞれの色を引き継ぐに違いない。
そんなことを考えながら帰り道を急いだ。
※
ガラガラガラ
「おや、ちょうどいい時に来たね。もうすぐ夕食ができるよ」
家の扉を開けたらおばさんがそう言って料理場に向かった。危ない、ギリギリだったみたいだ。ダグラスもバロンももう居間にいるようだったから、部屋に荷物を置いてからボクも居間に向かった。
「お、来たなノマ。どこ行ってたんだ?」
「ん? ああ、家を出て右にずっと進んで行って集落の端までいってたんだ」
「おや、そんな所まで行ってたのかい。何も無かっただろう」
確かに集落の端には何も無かったけど、その先に何かあるかもしれない。2人なら、何か知ってるだろうか。
「建物とかは無かったけど、なんか丘に続く道があったんだよね。あの先って別の集落があるとか?」
「いや、地図上にはないね。実際に行ったことはないから分からないが」
「あの道は集落の奴も使用禁止なんだとよ」
「使用禁止? 誰が、もしかしてオシグルさん達が禁止してるの?」
まさか集落の人も通ってはいけないなんて、ほんとにあの丘には何かあるのかもしれない。
「そうさ、オシグルさんらが入るなって言うんだよ」
料理を持って来たおばさんがそう言った。やはり集落の決まりとしてオシグルさん達が禁止してたんだ。
「美味しそうですね、ありがとうございます。
……という事は、誰もあの道の先に行ったこと無いんですか?」
「そうさねぇ、わたしが生まれる前はそんな決まりはなかったらしいけど、決まりが出来てからは誰も行ってないんじゃないかねぇ」
「へー、理由って知ってるのか?」
「恐ろしい魔物が住んでるとか、二度と帰って来れないとか呪われるとか言われてるよ」
「おいおい、ガキじゃねえんだからよ」
おばさんが言うには、あの道はオシグルさんの親族達が一日中見張りをしているらしくて、誰も通ったことがないらしい。あの見張り役の2人は親族の人だったのか。魔物の警戒かと思ってたけど、道への侵入者も警戒していたのかもしれない。
んー、フォトナさんとでもあの先には行けなそうだな。仕方ない、ダメって言われたら夜中にでもバレないように行ってしまおう。オシグルさんに最初に断られた時には失念してたけどボクには魔法があるんだ、見張りなんて関係ない。
明日はフォトナさんにいつなら一緒に行動できるか聞いてみよう。あと、ピアスについて何か知ってる様子だったから聞いてみたい。
ボクは左手でピアスを弄りながら、並べられる料理を眺めた。
その声は、ずっと深くから




