誰かのプロローグへ
読んでしまった、私は知ってしまった。
なんて悲しい話なのだろう、どうしてこんな終わりなのだろう。もしも幼い頃にこの本を読んでいたなら、愚かな私はよくある物語だと受け取っただろう。だが現実は違う、私は成長しきれないまま、だけど、それなりの大人になってしまった。どこかでわたしは間違えてしまったのだろうか。
……ああ、違う。べつに正しい人生を歩みたい訳じゃない。私の人生は人並みに辛いものであったが、今の私が私たる所以はそのおかげでもあるのだから。今の私に不満は全くない。ただ、私の人生に値するとは思えないこの不思議な現状が理解出来ない。
……理解は出来ない。出来ないけれども、そう、君のように理解出来てしまう日が来るのだろう。君は本当に凄いよ、本というのはこんなにも訴えかけてくるものなんだね。
誰もが必死に生きて、笑って、泣いて、足掻いていた。
そして誰もが傲慢で、強欲で、堕落していた。
私もそう。だからこの本に出会ってしまったんだ。出会う権利は誰しもあったはずで、私よりも相応しい人がいるのではないか。そんな思いが静かに生まれるけれど、いずれ分かる事だから、面倒だし今は置いておこう。
━━もう、本は閉じよう。
さすり、さすりと本の表紙を撫でながら、なんとなく、考えることを放棄したらこの本の内容もよくあるものだなと思った。
悲しみとか別れとか出会いとか裏切り、生と死とか命とか、神様とか。この本に書かれているものは確かにありふれたものだった。
なればこそ、君と私の成れの果ても、長い目でみればありふれたものなのだろう。
目を閉じて、己の人生を振り返る。色々と、でも多分ありふれた人生だった。
ゆっくりと目を開き、ただ本を眺める。本は何も言ってくれないけれど、確かに受け取った。
表紙をやさしく撫でて、何故か、笑みがこぼれた。
ああ、これから私は……
視界が白く、広がっていく。
その途中、私はただ次を願う。
私と君が会う機会なんて二度とないと思う。それでも奇跡が起きて、もし会えたなら、お疲れ様でしたって、言ってあげたい。
いつの間にか、あの本は残滓すら残さず消えていた。もう、私の手には何も無かった。
私は旨の前で指を組み、天を仰ぎながら呟く。もう、名前も知らない君へ伝えたい。何を伝えたかったのかも、もう曖昧だけれど。
『見ていて━━━━、』
涙を滲ませたその声は、誰の元にも届かず、掻き消えていった。
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