大激怒
安定の更新遅れ すみません!!!
頭が痛い。二重の意味で。小戸森のアレは告白みたいなものだと受け取って
良いんだよな? そうだよな?
「俺の好きな相手、俺の好きの定義、か」
今日はもう部活を休もう。本当に体調が優れない。ストレスで自律神経かなんかが
狂ったみたいだ。そう思いながら放課後の廊下を歩いていると、見慣れた銀髪が
見えた。丁度、良い。幻中に休みの連絡を頼もう。何か、朝、不機嫌だったが
あれからかなり時間経ってるし、大丈夫だよな。うん。きっと、大丈夫だ。
「おーい、まもな......」
バンッ、と鈍い音が聞こえた。
「アンタ最近、調子乗ってるでしょ」
苛立った様子の女の声が聞こえ、俺は咄嗟に隠れてしまった。
「そうそう。なんか、生意気になったっていうか、ムカつくのよねえ」
「・・・そうですか」
「チッ。挑戦的な目をするようになったわねアナタ。昔みたいに人生に絶望したような
気持ち悪い目をしてなさいよ!」
幻中の顔を一人の女がリュックで殴り、またも鈍い音が響く。俺が危惧していた通りだ。
有馬が幾ら、虐めを悪とする空気を校内全体に流してくれてもこういう自分達の独立した
空気を持っている連中には効かない。俺は溜め息を吐きながら助けに行こうとするが
「・・・もう、私に関わらないで下さい」
「はあっ!? だから、調子に乗んなよ!」
女は幻中の頬を力強く手で叩いた。
「言っとくけど、このことを上里とか教師に言ったらアンタも上里もタダでは
済まないから」
その言葉を聞き、踏み出した足を元の位置に戻してしまった。
「え、何々? どうしたの?」
「私さあ、玲奈と上里のヤバい写真、持ってるんだよね。見て。上里が玲奈の
マンションに入っていく写真。この前、目撃したから撮っちゃったんだあ」
......この前、ということは幻中が自殺を試みた後に相談に乗るため、彼女の家に
行った時だろうか。何にせよ、不味いことになった。
「・・・これは」
「ふふ。これをさあ、ウチの学年のクラスチャットにバラ撒いたらどうなると
思う? ふふふふふっ」
「ぷっ、アンタ性格悪すぎでしょ。絶対、変な噂立てられるじゃん」
「玲奈と上里が付き合ってる、くらいで済んだら良いけどねえ? 噂って怖いのよ?
上里が玲奈に金払ってヤってるとかあ? 玲奈が裏ではクソビッチだとかあ?
そんくらいは覚悟しといた方が良いわねえ。多分、もっと酷いことになると
思うけど? ふふっ」
気持ちの悪いただただ不快な声が俺の耳にまとわり付く。幻中を今にでも助けたいのは
山々なのだが今の話を聞いてしまうと中々、助けに行けない。彼女に迷惑を掛けるのは
不本意だ。
「アンタ、玲奈を虐めるとき何時も上里を人質みたいにするよね。ホントクズだわ」
「だってこの子、上里に危害を加えるって言ったら何時も素直に従うんだもん。
さいっこうにキモいわよね。偽善者って言うの?」
......何時も、俺を人質に? キモい? 偽善者? 誰が?
「何か言いなさいよこのクズ! じゃないと、写真晒すわよ! 上里に迷惑が」
気付くと俺は幻中を殴ろうと、女が上げた手を掴んでいた。
「ふっふっふっふっふっふっ、くっくっくっくっくっ、かっかっかっ。俺があ?
何だってえ?」
喉が痙攣を起こしたように震え、感情の高ぶりのせいか、可笑しな笑い声が出て
しまった。俺はそのまま女の腕を握りつぶす勢いで握る。
「ひっ、きゃあっ! やめてっ!」
「何黄色声出してんだよ、腹黒クソアマが」
「た、たすけっ......!」
俺はもう一人の女の手も掴んだ。
「逃げんな。潰すぞ」
「いや、えっ、あのっ......うっ」
「泣きたいのは幻中なんだよ。ざけんな。言っとくけど俺はまだ優しい方だからな。
マジで。お前は幻中の顔を今日だけでも二回は確実にリュックでぶったんだから。
幻中の肌に傷が付いたら責任取れんのお前?」
「ア、アナタってこんな暴力的な人間だったのね! グループチャットて晒してやる!」
「俺だって普段はこんな暴力的な人間じゃねえよ。上里さんは頭脳派。暴力なんて
野蛮なことは嫌いなんだよ、本来はなっ!」
更にギュウッと女二人の手に圧を加える。正直言って普段の俺であれば余裕で
抜け出されていただろうが、今の俺の握力はかなり高いらしく、二人は必死に
暴れるが全く拘束から抜け出せそうにない。
「誰か! 助けてえええ!」
「誰も来ねえよ。だって、此処、放課後には人通りがほぼ消える東校舎の三階だもん。
一回、此処で後輩が虐められてるのを見て以来、確かめるようにしてたから俺は
来たけどな。お前らもだからこそ、此処を選んだんだろ? なあ? 幻中を虐めて
いるのを他の誰かに見られたくないから此処に居たんだろお?」
「うっうっ、えぐっ、ううっ」
「泣くなよ。泣く前にやることがあるだろ。おお? 後、俺の知り合いに前科部に
入っても尚、お前らよりも皆からの信頼が厚い有馬ってチート野郎がいるのよ。
だから、ネット虐めとかいう現代社会を生きる者としてモラルに欠けすぎた行為を
やっても有馬に誤解を秒で解かれてお前らが白い目で見られるだけだからな」
そのことに気づいたからこそ、俺はこうやってこのクソアマの前に堂々と出ていくことが
出来たのだ。こんなに本気でキレたのは何年振りだろうか。後悔はしていない。幻中に
偽善者と罵られたとしても。何故なら、これは単なる俺の自己満足に過ぎないのだから。
「そ、そんなあ」
「ひぐっ、ひぐっ、ごめんなさい」
そう言いながら泣き崩れる女二人を見て、少し、冷静さを取り戻した。
「何か、幻中に言うことあるだろ」
「玲奈あ、ごめんなさい」
「私もごめんなさい。ひぐっ。二度とアナタに近づかないから、許して」
女二人は泣きながら幻中に謝罪した。
「・・・私は別に、構いません」
「幻中が良いなら、俺は別に良い。次は無いぞ」
俺のその言葉に二人は顔を青くしながら、走り去っていった。後々、問題に
ならないと良いが。
「・・・あの、上里君」
「おう?」
「・・・少し、怯えてしまいました」
「ごめんなさい」
俺自身、さっきのは少しやり過ぎだった気がしている。だが、あの時は怒りで頭が
どうにかなりそうで仕方がなかったのだ。
「・・・貴方もあんな風に怒ることはあるのですね」
「数年に一度だけどな。本当に悪かった」
幻中の優しさにつけこみ、俺に危害を加えるという脅しをすることで幻中を従わせていた
アイツらは流石に許せなかったのだ。しかし、そんなただの俺の正義感のせいで幻中には
迷惑をかけてしまった。反省しなければ。
「・・・ありがとうございます」
だが、彼女から返ってきた言葉は意外なものだった。
「え?」
「・・・何時も感情を中々、表に出さない貴方が私のためにあれほどまで感情的に
なってくれて、嬉しかったです。……だから」
そう言うと、幻中は俺の右手と左手を両手でぎゅっと合わせるように握って
「本当にありがとうございました」
と、プルプルと震えた笑顔で言ってきた。
「ま、まも......」
「すみません。普段、笑わないもので」
初めて見た彼女の笑顔は眩しくて、綺麗で、可愛くて、下手くそで涙が
出そうなくらいに可愛かった。
「いや、その、凄く、良かったと、思います」
頭の中が幻中のことでいっぱいになる。ずっと、彼女にはこんな笑顔を
していて欲しいと心から思った。......あ、これ、完全に惚れたわ。幻中に。




