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前科部!  作者: 蛇猫
進み始める日々と不安
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むずむず


「ハロー、幻中。昨日は色々とありがとうな」


翌日も俺は何時ものように自分の席に座って、幻中に話し掛けた。


「・・・おはようございます。どういたしまして」


「で、だ。今日も俺の『好き』を探そうと思うんだが、何か良い案は無いか?」


「・・・少しは自分でお考えになっては?」


幻中は溜め息を吐いて俺をジト目で見つめてきた。


「いや、俺も色々考えたんだぞ? 甘酸っぱい恋には恥じらいが付き物だから

 突然、抱き付いて最も恥ずかしかった人が俺の好きな人なんじゃないかとか

 よく分からない考えにしか及ばなかったけどさ」


「・・・それを皆さんにやってこれば良いのでは?」


幻中がぶっきらぼうにそんなことを言う。つまり、まもまもは俺に抱きつかれても

良いという認識でオケ?


「出来る訳ないジャマイカ。一応、思考実験だけはしたけどさ」


「・・・その結果、どうなりましたか?」


「雪加は全く恥ずかしくない、小戸森は結構恥ずかしい、調月はかなり恥ずかしい

 先輩は滅茶苦茶恥ずかしい、って感じになった」


因みに井上と有馬は論外だ、と俺が付け加えると幻中はまたもやジト目を向けてきた。


「・・・もしかして、わざとですか?」


そして、彼女が言ってきた言葉は中々に意味不明だった。何がわざと、なのだろうか。


「はい?」


「・・・いえ、もう良いです。後、勘解由小路さんが貴方への思いを明かしたのなら

 最早、私を頼る必要はない筈です。恋愛相談なら彼女を頼ってください」


少し、怒った様子の幻中はそういい残すと席を立って何処かに教室の扉に向かって

歩き出した。


「お、おい、何処に行くんだ?」


「昨日、部室に忘れ物をしたのでそれを取りに」


幻中は俺の質問に間を開けることなく答えると、そそくさとその場から去って

いってしまった。何か気に触るようなことをしてしまっただろうか。


「恋愛相談は雪加に、か」


「呼んだ?」


俺がそう呟くと、背後からそんな声が聞こえた。


「便利だなお前」


名前を呟くだけで現れる彼女に俺は苦笑しながら言った。


「何か用?」


「ああ。結局、俺は誰のことが好きなんだろうな、って」


「私」


「ええ......」


いや、そうなのかもしれないけど。幾らなんでも即答し過ぎではないだろうか。


「そもそも、祐也は中学校の頃、私に惚れていたじゃない」


「気付いてたのかよ」


「祐也の専門家ですから」


「さいですか」


今更、言われたところで別に恥ずかしくも何ともないけどな。


「私じゃ、不足? 成績は玲奈にこそ負けたけど悪くないし、祐也のことなら何でも

 知っているし、自分で言うのもあれだけど私はかなり尽くすタイプよ?」


「いや、不足とかそういうのじゃなくてだな。分からないんだよ。好きって感覚が。

 いや、分からなくなった......が正しいな。前まではお前のことが確実に好きだったし

 二次元にガチ恋もしてたし、ラブコメも好きだったのに、お前の気持ちに気付いた

 辺りから好きって感情がゲシュタルト崩壊を起こしたと言いますか、何と言いますか」


「それを普通、本人に言う?」


「幼馴染みだし」


あれ、幼馴染みって何だっけ。


「私としての意見を言うと、何をもって『好き』と言うかは人によって違うから

 一概には言えないと思う。例えば、付き合いが長くて波長が合う人のことを

 祐也が好きだと思うならそれは間違いなく私だろうし」


「何か幻中も似たようなことを言ってたな」


「私から言えるのはそれくらい。他に言えることが有るとすればそれは恋人に

 するなら、私がオススメってことだけ」


雪加の言葉に俺は軽く笑った。其処まで俺のことを想ってくれているなら......

という気もするが。



「疲れた」


「わざわざ、食堂で席を確保して待っていた後輩に一番に言うことがそれですか」


「最近、悩み事が多いんだよ」


「というと?」


「……あー。言っていいのかなこれ」


俺は頭を掻きながら言った。


「言ってくださいよ」


「それなら言うけど、俺の好きな人が誰なのかが分からない」


少し、奮発して購入したペットボトルの烏龍茶を一口飲みながら俺は気だるげに言う。


「は?」


すると、彼女は顔をしかめた。


「いやまあ、幻中や雪加にも相談したことなんだけどな? 好きっていう感情が

 何なのかよく分からなくなったんだよ」


「何を漫画みたいなことを言ってるんですか」


「いやいや、こっちとしてはそれで結構悩んでいるわけでして」


小戸森は『ふーん......』と言いながら俺にジト目を向けてきた。幻中にも向けられたし

今日はジト目の日なのか? だったら、嬉しいな。ジト目好きだし。


「で? 何で幻中さんや勘解由小路先輩には相談しているのにボクにはさっき言うのを

 渋ってたんですか?」


「うっ。いや、それはほら、ね?」


「ね? とか言われても分かりませんよ何なんですか」


察してくれよおおおおおお。言える訳ないだろ。『お前、俺のことを好きみたいだから

そんなお前に言うのはいかがなものかと思って』なんて。もし、勘違いだったらそれこそ

本当に死ねるしな。


「いや、小戸森は後輩な訳だし、先輩である俺が後輩に相談をするのはどうかと思って」


苦し紛れに出た言い訳のクオリティは上々。


「ふうん? ふう~~~ん? そうですか、そうですか。へえ? あの先輩が?」


しかし、相手が悪かったようだ。


「何だよ」


「いや、先輩としての威厳もプライドもなくて今まで散々、後輩であるボクの前で

 痴態をさらし続けてきた先輩が『後輩に相談するのはどうかと思って』ですか。

 ふうん? へえ~? ああそうですか」


あ、絶対に嘘だってバレてるわこれ。それに滅茶苦茶露骨に圧力かけてくるし。

こわ。こわあ、めぐめぐ。


「流石に言い過ぎじゃないですかね小戸森さん!?」


「事実だから仕方ないですよ」


「グホオッ」


ナチュラルに傷付いている俺を横目に彼女は


「......ま、今回は先輩の言い分を信じてあげますよ」


と、言った。


「あ、ありがとうございます。めぐめぐ様」


「その代わりではないですけど、先輩」


「おう?」


「これ、食べて感想聞かせて下さい」


そう言って小戸森が渡してきたのは小さなタッパーだった。俺は首を傾げながらも

それを受け取って蓋を外す。


「お、大学芋じゃん。作ったのか?」


「はい。先輩に教わったレシピで作ってみました。はい、あーん」


そう言うと、小戸森は箸でスティック状の大学芋をつまんで俺の口元に運んできた。


「え?」


「あーんですよ、あーん。この前、先輩にやられたのでその仕返しです」


小戸森は勝ち誇ったような表情で俺にそう告げた。そう言われると弱い。


「……あーん」


恥ずかしさを噛み殺しながら、俺はそれを食べた。


「どうですか?」


「恥ずかしくて味が分からん」


「ええ~……。まあ、昨日のボクの気持ちが分かって貰えたなら良いですけど」


「悪い悪い。今度は味わうからもう一本くれ」


「どうぞ」


再び口元へと運ばれたその大学芋を俺は食べ、その味を楽しんだ。何と言うか

俺が作る大学芋を完全再現した感じである。


「普通に美味い」


俺はうんうんと頷きながら小戸森に感想を伝える。


「宜しい」


すると、彼女は俺の言葉に笑いながらそう言った。


「いやあ、やっぱり、小戸森と一緒に飯を食べると癒されるなあ。疲れも知らない

 間に吹き飛んでいったよ。ありがとう」


「え? あ、はい……どういたしまして。先輩のお役に立てたなら嬉しいです」


少し、恥ずかしそうにしながら小戸森は小さな声で呟く。


「というか、お前は最近、悩みとかないのか?」


「はい。お陰様で。佐藤先輩からの嫌がらせをめっきり無くなりましたし」


「ああ、それはお前の嫌いな有馬のお陰だぞ」


「え?」


「有馬が持ち前の人望を使って虐めが自然と消えるように色々してるんだってさ。

 それの成果が出ている実感があるなら、ありがとうって言ってやったらどうだ?」


「それは嫌です」


俺の提案を小戸森は意図も容易く切り捨てた。


「頑なだな」


「ボクの芋を何度も盗んでるんです。それくらいの慈善活動はやってもらわないと」


「ま、そうか」


どちらかというと、気掛かりなのは小戸森よりも幻中だ。小戸森を虐めていた佐藤恵美は

有馬が起こした虐め撲滅運動によって簡単に虐めを止めるような、周りとの付き合いを

大事にするタイプだったが、幻中を虐めているグループの中でも主犯格の連中には佐藤と

違い、内輪だけで空気を築き、付き合いを完結させてしまうタイプの奴らが多い。

最近はあまり、幻中の口からそう言った話は聞かないが、大丈夫なのだろうか?


「あ、でも、そう言えば一つだけ悩みありました」


俺が此処にはいない銀髪娘のことを憂いでいると、小戸森が思い出したように

ポンと手を叩いた。


「お? 何だ?」


「秘密です」


「だったら言うんじゃありません。気になるでしょうが」


「じゃあ、ヒントをあげますよ」


不満を露にする俺に小戸森はいきなり顔と体をグイッと近付けてきて言った。


「ほう。どんなだ?」


「そうですね。ヒントは『先輩が今、ボクの悩みと言われて薄々気付いて

 いること、です』」


「な......」


「ふふ。ボクとしてはもう、形振り構ってられないんですよ。......先輩

 ボクは待ってますから。それじゃ!」


いつの間にか昼食を食べ終えていたらしい彼女はこの前と同じように妖艶な笑みを

浮かべてその場を去っていった。ああもう!

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