魅力
「とまあ、昨日の夜寝ないで『俺は誰を好きなのか』について考えたんだ。でも
アレだな。考えれば考えるほど、何がなんだかよく分からんくなる」
翌日、教室に着いた俺は雪加がいないことを確認して隣の銀髪娘にそう言った。
「・・・それを何故、私に?」
「いや、昨日の感じからして恋愛相談をするのならまもまもが一番良いかなって。
ほら、なんか達観してる感じだったし。何時もなら雪加に相談するんだが流石に
アレだろ? 幻中は俺のこと男としては見てないみたいだしその点、安心かなと
思いまして」
「・・・成る程」
幻中は溜め息を吐いて、頷いた。
「やっぱ、直感なのかね。少女漫画みたいにキュンっ、てのが来たら分かりやすいのに」
「・・・では、今日一日、皆さんの魅力を探してみては? 何か感じるものが
あるかもしれません」
「お、ナイスアイディア! ありがとうな!」
皆の魅力か。そう言えば意識したことがなかった。
「・・・でしたら、まずは私の......」
「ありがとうな幻中! 早速、試してくりゅっ!」
俺はそう言って教室の外に飛び出した。幻中が何か言おうとしていたが
恐らく、俺の礼に対しての相槌だったのだと思う。
☆
時刻は七時五十分。まだ、登校してない奴もいるかもしれないが調月は何時も
俺と同じくらいの時間に登校してるし、居るか。そんなことを思っていると
思いがけない人物と出会った。
「お、よう佐藤」
「あ? 誰よアンタ、って......上里?」
「おう、上里様だ。久し振りだな」
「な、何の用よ」
佐藤は明らかに怯えた様子で後ずさりをした。
「いや、ただ挨拶してみただけ」
「あ、あ、そう。じゃあさっさと、どっか行ってよ」
「何でお前そんな挙動不審なんだよ。まさか、まだめぐめぐを虐めてるんじゃねえ
だろうな」
「し、してない! してないからそのことを此処で言うのは止めて! お願い!」
佐藤は今にも泣きそうな表情でそう言った。あの強気で性格の悪いコイツに
一体、何があったのだろうか。
「どしたん」
「あ、有馬......」
「は?」
「有馬が前科部に入ってから急に虐め撲滅運動をし出したのよ!」
何それ初耳。
「どういうことだよ」
「有馬は元々、友達が多くて前科部に入ってからも付いてきた友達が結構居たのよ。
それで、その友達と虐めを許さない空気みたいなのをこの学校中にばらまき始めて
それのせいで私は怯えて暮らしているの! アンタのせいだからね!」
良いことじゃないか。
「因果応報だな」
「チッ。クソが」
「ま、精々頑張れ。小戸森の心の痛みはそんなもんじゃねえんだから。
それに比べたらまだマシだろ」
俺は顔をしかめる佐藤に手を振ってその場から立ち去った。......アイツの魅力を
探すのは難しいな。人間、悪いところだけ見るのはよくないというがアイツは
例外だと思う。少なくとも、今の状態では。かといって更正させる義理もないし
放置だ放置。
☆
その後、やはり早めに登校していた調月の姿を廊下で見つけた。
「よう、調月」
「……誰?」
「うわ、朝っぱらからマジかコイツ」
「冗談よ。マゾで頭の可笑しい上里祐太郎君よね」
祐太郎って誰だよ、祐太郎って。
「やっぱり、同じ毒舌でも調月と佐藤だと色々違うな」
「当たり前よ。私をあの狂犬と一緒にしないで」
有馬の件で調月は佐藤に怪我をさせられたんだったか。
「毒蛇も似たようなもんだろ」
「毒は薬にもなるけれど、狂犬は何の役にも立たないじゃない」
「家の前に置いとけば空き巣対策にはなるんじゃねえの」
「狂って家主に噛み付くような犬を門番にするくらいなら、貴方に首輪を付けて
門前に縛り付けておいた方が良いわ」
「確かにマゾで頭の可笑しい上里祐太郎君がそんなことになってたら空き巣も
気分を害して逃げ出すわな」
「私は少し、見たい気もするけど」
「Sめ」
「貴方はMでしょう」
「Nじゃないから引き合うことはないな。良かったじゃないか」
「退けあうことも出来ないけどね。不幸だわ」
そうそう。調月と一緒に居て何時も感じる魅力はこういう会話の楽しさにあるんだ。
なんと言うか、調月と無駄口を叩きあっているときは幸せを身近に感じる。
「調月」
「何?」
「また今度、一緒に対戦しような」
「ええ。あれから私、寝る間も惜しんでモンスターの厳選と育成をしているの。
次は負けないわ」
「それに関しては体に悪いから今すぐ止めて、どうぞ」
☆
「雪加は、そろそろ来てるかな」
思わず考えていたことが声に出てしまったその時、俺の背中に柔らかいものが
二つ押し付けられた。あ、察し。
「おはよう。祐也」
「まあ、居るよな。おはよう。雪加」
俺が振り向くと其処には俺の背中に胸を押し付けている雪加がいた。
「......祐也、何か悩み事?」
「はい?」
普通に......いや、突然背後に現れて胸を押し付けられながらの挨拶は決して
普通ではないかもしれないが、挨拶を交わしただけだというのに彼女は突然
何を言い出すのだろう。
「祐也、何と無く様子が可笑しい。もしかして、この前の郊外学習のことを
気にしてる?」
「......な、何のことだかさっぱりだな」
俺は棒読みでそう言う。雪加に隠し事は出来ない。これすなわち真理。
「あの時はビックリした。祐也って変なところ鈍感だから気付いてないと
思ってたのに。不覚」
雪加は何時もの口調で、何時ものように言う。
「悪かった」
「別に良い。告白とかするつもりもないし。私は祐也が好き、それだけ。それ以上でも
それ以下でもない」
「そ......うか」
「それにしても、幼馴染みデバフは厄介。こんなに胸をくっ付けても何の反応も
して貰えない。ちょっと傷付いたりしなかったりしてる」
雪加の魅力は挙げるとキリがないが、究極的にはこうやってぶっちゃけた話を出来る
ところだと思う。それこそ恋愛に関することでさえも日常会話のように話せるのだ。
「幼馴染み、というよりもお前が自分の体を安売りするせいだと思う」
「祐也が何時でも手を出せるようにしてあげてる」
「出さないから」
俺は溜め息を吐いた。俺はこんな奴のために色々と悩んでいたのか。
「先に言っておくけど、私は祐也のことが人間としても友人としても幼馴染みとしても
恋愛対象としても好きだから別に義務感で付き合ったりしなくて良い。確かに祐也が
他の女に盗られたら、多少は傷付くけど」
「幾らなんでもぶっちゃけ過ぎじゃないか?」
「それが私と貴方の関係だと思っている」
「ま、そうか」
何だか、気分が軽くなった気がした。




