マフラー
昨日、小戸森と訪れたショッピングモール。其処に俺は翌日も現れた。
しかも、二人の少女を連れて。その二人の少女というのは
「我が名は梓! 少年がご飯を奢ってくれると聞いて、ショッピングモールに
馳せ参じた者である!」
「わ、我が名は白嶺! 横に同じく、祐也君が奢ってくれるご飯を目当てに
馳せ参じた者だよ!」
ネットスラングを連発することから、俺と雪加のヲタクキャラとしての地位を
脅かしつつあるクレイジー娘と優しさと包容力の塊であるウチの部長だ。
「俺の力になりたいからとかそういう理由の人は居ないんですか。そうですか」
「そうだよ」
「今回、貴方を呼んだことには幻中も関係あるんですよ?」
「玲奈ちゃんがっ!? マジで!? おい、詳しく教えろや!」
蜂須賀は目の色を変えて、俺の肩を掴んで揺すった。
「私もご飯奢るから買い物に付き合って、って言われただけで何をすれば
良いのか分からないんだ。教えてくれるかな?」
「ちょ、梓たん揺らさないで......。まあ、端的に言いますと幻中の誕生日が
近いんでプレゼント選びを手伝って欲しいんですよ」
この前、山本夢華を中心とする女子グループに幻中の財布を奪ったという濡れ衣を
着せられたことがあった。その疑いが晴れた後、俺は幻中の家に呼ばれて幾つかの
品物を貰ったのだ。迷惑を掛けたから、という理由と何時も世話になっているから
という理由で。俺はその時、幻中の誕生日にそのお返しをすることを決めたのだ。
俺はその事を二人に伝えた。
「昨日、小戸森と此処に来て思い出したっていうのもありますけどね」
「へえ~。そんなことがあったんだ。あれ、でも何で私達が選ばれたの?
祐也君の女子の知り合いは他にも居るのに」
先輩が首を傾げた。
「女子の知り合いって、爬虫類好きの毒舌女とか俺と対して女子力変わらない
厨二病とかのことですか?」
俺の質問に白嶺先輩は固まった。
「で、でも、小戸森さんは普通に女子力高いし。というか昨日、小戸森さんと
此処に来てたならその時に手伝って貰えば良かったのに」
「いや、昨日の小戸森はshoppingをenjoyしまくってたのでなんか言い出せなくて。
二日連続で同じところに行くのも嫌だろうし、誘いませんでした。それに先輩は
女子力高そうですし」
「な、成る程。そういうことなら手伝わせて貰おうかな」
白嶺先輩が優しく笑うと、突然騒ぎ始めた奴がいた。
「待って、待って、待って! その理屈でいくと、私も女子力高いってことでオケ!?
パーフェクトガール認定キタコレェッ!」
「いや、アンタは幻中の親友だから好みとか知ってるかなと思って呼んだだけであって
女子力に関しては期待して、ないです」
「ファァァァ!」
蜂須賀は抗議するようにポニーテールを回転させる。だからそれ
どういう仕組みなんだよ
「じゃあ、取り敢えず商品を見て回ろうか。プレゼントのジャンルは決めてるの?」
「う~ん。やっぱ喜ばれるのは眼帯ですかね」
「勘解由小路さん基準で考えないでよ。相手はあの幻中さんだよ? 君に貰った
物だから、って無理して日常生活で眼帯を付け始めたらどうするのさ」
「恥ずかしがりながら眼帯を付ける玲奈ちゃん......。カハッ」
なんか死んだ。
「まあ、無難なのはマフラーとかじゃないかな? これからにピッタリだよ」
「ええ、でも形に残る物って大丈夫ですかね。気持ち悪がられたりしません?」
「・・・彼氏面、しないでください。気持ち悪いです」
「おい、テメエ。地味に物真似上手いんだよ。普通に想像しちゃってプレゼントを
渡すのが怖くなったじゃないですか。どうしてくれんだ」
俺は蜂須賀を睨み付ける。いや、マジであの幻中に其処まで拒絶されたら死ねる。
というか、死ぬ。
「い、いや、大丈夫だと思うよ? 形に残る物って言ってもマフラーは其処まで
重い感じじゃないし。仲の良い女友達に渡すのなら違和感ないんじゃないかな。
それに、幻中さんが君に渡された物を嫌がるなんて考えられない」
「悔しいけど少年、玲奈ちゃんのお気に入りだからね~。梓たんも
部長さんと同意見だな」
「さっき、笑えない物真似をしてたのは誰ですか」
「や、アレはギャグだから。ギャグ。ギャグ。イッツジョーク。
ドイツだったら大爆笑やで?」
何処の国をターゲットにしとんじゃ。
「ま、まあ、兎に角、マフラーを売っているところに行こうか」
ショッピングモールの中を少し歩くと、マフラーが並べられている店が
あった。かなり多くの種類を取り揃えているようだ。
「見て見て! これ!」
蜂須賀が指差したのは虎柄のマフラーだった。大阪のおばちゃん風だ。
「何でそんなの売ってるんだよ。うわ、これだけ異様に高いし」
周りのマフラーが3000円~5000円程の比較的安価な物なのに対して
そのマフラーは8000円もした。一体、何処に需要があるのだろうか。
わざわざ大阪のおばちゃんが買いに来るようなことはないだろうし。
......え、買いに来んの?
「玲奈ちゃんだったら似合いそうだけどね」
「必ずしも否定出来ないのが辛いなあ。幻中さん、美人だし」
「部長さんも、美人だと思いますけどね~。あ、因みに私は可愛い系ね。少年」
「いや、聞いてないですけど。何か良いの見つかりました?」
俺は手触りを確かめながら、並べられたマフラーの色を吟味する。蜂須賀じゃないが
はっきり言って幻中は何色でも、どんな柄でも似合ってしまう気がするので余計に
決めづらい。おのれ完璧美少女。
「う~ん。やっぱり王道の赤のチェックじゃないかな? 玲奈ちゃんの
銀髪に似合う気がする」
「そうだね。こっちには白い奴もあるけど、これは逆に幻中さんの銀髪に
似合いすぎて体の一部に見えてしまいそうだし」
白マフラーと同化してしまう程の銀髪を持つ幻中。恐るべし。
「確かにその赤いやつの方が映えそうですね。じゃあ、それにします」
そう言って俺が会計をしようとするとふと、先輩が言葉を溢した。
「そう言えば私、何も買ってなかった......。幻中さんには何時もお世話に
なってるし、何か買わないとね」
「あ、私も忘れてた!」
「というか私、部活の皆の誕生日も知らない......」
確かに俺も雪加と幻中以外の誕生日は知らない。というか、誕生日なんて
気にしたことがなかった。
「よ、よし、全員に電話して聞きましょう!」
蜂須賀が提案する。
「で、でも、私、調月さんの連絡先知らないんだよね。他の子は知ってるけど」
「俺、調月のメアド知ってますよ」
まさか、昨日交換したメアドがこんなところで役に立つとは。
「本当に!? 助かるよ!」
「いや、小戸森と有馬、井上の連絡先は俺も知らなかったので俺も助かりました」
「それなら私も友達に誕生日、聞こうかな」
そして、先輩が小戸森と井上と有馬に俺が調月に誕生日を聞いた結果、見事全員の
誕生日は小戸森が1月14日、井上が9月20日で調月が12月11日でまだ来ていない
ことが分かった。先輩が11月23日で俺は12月22日だしな。いや、厳密に言うと
雪加の誕生日は5月4日でもう過ぎているが、転校してきたのがそれより前なので
仕方がないと言えるだろう。
「てか、井上の誕生日近いなオイ。そんなに金ないぞ」
「ま、少年は玲奈ちゃんに色々貰ったお返しってことでそこそこ高価な物を買ったけど
他はそういう訳でもないんだし、プレゼントは軽い物で良いんじゃない?」
「そうだね~。一応、明日、部活で皆の誕生日の共有をしようかな」
その後、マフラーを買い終えた俺は井上へのプレゼントも買って二人に
飯を奢ることになった。......サイフガカルクナッタヨヤッター。




