嘘吐き
「いやあ、気持ち良いもんだな」
晴れやかな表情を浮かべながら井上は言う。
「上手くいったみたいだな」
「おう。あの一件で心を入れ換えて、新しい人生を歩もうとしているなら
そっとしておいてやろうと思ったんだがな。残念だ」
そんな清々しい顔で残念とか言われてもとてもじゃないが、説得力がない。
「心を入れ換えている様子はなかったのか?」
「ああ。俺が声を掛けたら、露骨に嫌そうな顔をして今の彼氏に『こんな人
知らない』とか言いやがった。ムカつくから調月に貸して貰ったあの動画と
俺と山本のツーショット写真を今カレに見せてやったけどな」
名前も知らぬ山本の今カレが不憫で仕方がない。
「んで、どうなったんだ?」
「喧嘩し始めたから、直ぐにさよなら言って逃げてきた。ありゃもう終わりだな」
言い方が悪役のそれなんだよなあ。
「どうやら、山本夢華への追撃は成功したようね」
「つ、調月? お、おう。この動画、ありがとうな」
突然現れた調月に驚きつつも井上は調月にスマホを返した。
「井上君、めっちゃキョドるね。何? 調月さんのこと好きなの?」
「黙れ。盗人」
「井上君の物は何も盗ってないじゃん!」
「ボクの物は盗りましたけどね」
「あ、それまだ引きずってんの? いい加減、忘れた方が楽だよ。たられば
言っても仕方がないんだしさ......あぶねっ!?
茶番が多い。
「殴らないでよ! 僕はどっかの祐也君と違って普通に殴られたら痛いんだよ!?」
「俺が殴られた痛みを快感に変換できる真性マゾみたいに言うの止めろ」
「違うの」
「……多分。というか、真面目に自然観察している奴が先輩と幻中と
雪加くらいしか居ないってなんだよ」
宗里先生もナンパしてきたチャラ男を追いかけて帰ってこないし。
「楽しいから良いじゃん」
「有馬少年に同じ。私は玲奈ちゃんにちょっかいだせて楽しいし」
「まもまもにイタズラするのも程々にしてやって下さいね」
蜂須賀と幻中の絡みは嫌いじゃないので、止めろとは言わない。
「でも、折角池があるのにカモ類が居ない」
雪加は不満そうに公園の真ん中にある池を見つめる。
「まあ、仕方がないだろ。まだ秋だし」
カモ類の多くは冬鳥と呼ばれる渡り鳥で冬にならないと渡ってこない。
「かくなる上は私の魔法で……!」
「お前の魔法って確か、氷系が主だよな」
雪加の妄想の中で彼女は氷魔法を操る吸血鬼なのだ。
「そう。氷の魔法で無理矢理冬を訪れさせるの。......それにしても寒い」
先程から冷たい風がビュウビュウ吹いており、確かに暖かくはない。
「氷の魔法使いを自称してる奴が秋程度の気温で寒がるなよ」
「ごめん祐也。ドレインする」
そう言うと雪加は俺にギュッと抱き付いてきた。
「熱をドレインするな」
俺の言葉に耳も傾けず、雪加は手を俺の頬にピタリと付けてくる。
「これが氷精の意思」
「冷たっ!?」
「そりゃ、氷精の意思ですし」
「そっちがその気ならこっちにも考えがある。喰らえ、炎王の意思」
俺は即興で作った技名を叫ぶと雪加の頬に手を付ける。
「暖かい」
「そりゃ、炎王の意思ですし」
そんなやり取りをする俺と雪加に有馬が不機嫌そうに
「おい其処、そろそろイチャつくのを止めてくれるかい?」
と、言ってきた。
「イチャついてねえよ」
だって、雪加は幼馴染みだもん。......中々、理論が謎だが。
「ごめん。イチャついてた」
「イチャついてねえって」
「祐也、この気温の中でキンキンに冷えたステンレス製のボトルを私の
頬に押し付けるのはやめて」
「お前ら仲良くて良いよな」
井上が死んだ目を向けてくる。
「井上、誤解だ。俺とコイツは幼馴染みで友人的な関係なんだ。山本に裏切られて
色々、拗らせてるのは分かるがそのネチネチした怨念まみれの視線を俺に
向けないでくれ。さっきの清々しい表情のお前は何処に行ったんだ」
「でも、実は祐也と私は付き合ってたりする」
「冗談はやめろ雪加。井上が死にそうになってる。起きろ井上!」
俺は白目を剥く井上の方を揺すった。
「……少しくらい、気付いてくれても良いのに」
「何か言ったか?」
「別に何も」
雪加はプイッとそっぽを向いてしまった。
「そうか。......悪い」
「何で謝るの?」
「気付かないフリしてるから」
「……っ!?」
「少年! あの鳥何~?」
「悪い。なんか、呼ばれたわ。ちょっと行ってくる」
俺を呼ぶ声の方に走っていくとき、後ろから聞こえてきた
「......バカ」
という声が耳に残った。
もうね、この小説のキャラは自我を持ちすぎて私さえ彼らがどこにいくのか分からないんですよ。
こうなったら、最後まで祐也達の物語を見届けてやってください。




