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前科部!  作者: 蛇猫
歪み始める日々と狂気
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蜂須賀梓という少女


二回ほどトラブルに巻き込まれることは有ったが、それ以外の日は比較的

平和に暮らせた夏休み。それは終わりを迎えようとしていた。いや、もう

終わった、と言う方が正しいか。今日は始業式。本来なら憂鬱で仕方がない

日だが、またあの部活に行けると思うと少し楽しみだ。


「あ、少年」


そんなことを考えながら、帰宅しようと校門を通るとその入り口で何者かに

声をかけられた。驚いて振り向くと、其処に居たのは見慣れない制服を着た

ツインテールの少女。見覚えがある。


「どちら様ですか?」


「え、もしや覚えてない......? こんな可愛くて優しくてカッコ良い私を?

 貴様はなんてバチ当たりな奴なんだ」


「山本さんでしたっけ?」


「いや、誰!? 私の名前、珍しくて覚えやすいでしょ!?」


いや、別に。


「生憎、俺の知り合いには幻中、調月、勘解由小路が居るので少し珍しい

 程度の苗字では覚えれません。出直してきてください」


「蜂須賀! 蜂須賀梓! 淡い緑髪のツインテールが萌えポイントの梓たんっ!」


苗字の珍しさでは雪加達の方が珍しいが、キャラの濃さは前科部の

奴らにも負けないな。


「んで、梓たんは此処に何しに来たんですか?」


「あ、気になる?」


「そりゃまあ」


蜂須賀が制服を着ていることから、彼女が自分の高校から直でこの高校に

来たことが分かる。何故、彼女は家にも帰らずこんなところに来たのだろうか。


「ああそう。そっかそっか。梓のこと知りたいよね。分かった分かった。

 教えてあげる」


「ウザ」


「私が自分の高校から此処にわざわざ来たのは何故か。それはズバリ

 玲奈ちゃんに会おうと思ったからなのだ!」


「幻中、もう帰りましたよ?」


「ファッ!?」


驚きの声を漏らし、ポニーテールの尻尾の部分を揺らす蜂須賀。どういう

原理で動いているんだ。髪に神経でも通っているのか?


「まもまも、帰るの滅茶苦茶早いですからね。仕方ないですよ」


「ええ~......」


蜂須賀が溜め息を吐くと、左右にブンブンと揺れていた尻尾がだらーんと

下に垂れ下がった。ヤバい。滅茶苦茶引っ張りたい。


「んで、幻中に何の用だったんですか? 貴方が幻中と接触するのは色々

 危険だと思うんですが。貴方が彼女のトラウマだっていうことは前に

 電話で話しましたよね?」


結局、幻中が医者にどのような診断をされたのかは知らないが蜂須賀に関する

記憶が彼女の原因不明の頭痛や目眩の原因になっていることはほぼ間違いないと

思われる。


「......うん。それでも一度、会って話したいことが有って。駄目かな?」


蜂須賀は落ち込んだ様子で俺を見る。


「うわ、上目遣いとかあざと。無いわあ」


「おいコラ。美少女が困ってんだぞ。どうにかしろや」


「少なくとも普通の美少女はそんなチンピラみたいな口調にはならない」


「それじゃ、私はレアな美少女だね。希少なのは良いことだ」


需要って知ってる?


「その話......どうしても幻中にしなければいけない話なんですか?」


「少なくとも、私はどうしても話しておきたい」


俺は静かに蜂須賀の目を見る。俺のように澱んで腐りきった目ではなく純粋で

美しい目だ。今日幻中から聞いた話だが、どうやら彼女の母親はこの前話して

いた幻中を強制的に引っ越しさせる、という計画をまだ実行していないらしい。

ということは、今幻中が住んでいるのは......。


「一応俺、幻中の家知ってますけど」


「え、マジ?」


「マジ」


「......梓たん、教えてほしーな」


蜂須賀は子供のようにあどけない表情で俺にアピールした。それに

連動して後ろの尻尾もゆっさゆっさと揺れ動く。


「いやまあ、俺としては教えてあげたいんですけどね? 幻中が俺に家の場所を

 教えてくれたのは、俺を信頼してくれてたからだと思うんですよ。そんな

 簡単に人に教える訳には......」


「じゃあ、何でわざわざ『一応俺、幻中の家知ってますけど』とか言ったのよ!?

 少年、犬に肉を見せびらかしときながらあげないタイプの人間でしょ!」


喩えがピンポイント過ぎる。


「いや、俺も悩んでるんですよ。果たして幻中は貴方と会って何を思うのか......。

 もしまた彼女が体調を崩したりしたら、完全に貴方を連れていった俺の責任に

 なるんですからね?」


「い、いや確かに私も玲奈ちゃんに辛い思いはさせたくないけど」


蜂須賀は元気なさげに俯く。幻中と蜂須賀の間に出来た壁は非常に大きい。

当たり前だ。二人は元々、親友と言っても差し支えないほどに仲が良かった。

しかし、ある日突然蜂須賀が幻中を虐めっ子達に売ったのだ。どう考えても

一番悪いのは幻中を虐め、幻中との絶縁を蜂須賀に迫った虐めっ子達だろうが

やはり、幻中としてはショックだっただろう。


「蜂須賀さん悪い人ではないんでしょうけど、どうしようかなあ」


「少年は玲奈ちゃんと連絡先、交換してないの? してるなら前もって連絡を......」


「してないです」


「家の場所まで知ってる仲なのに!?」


「俺、基本的に人と連絡先交換しないタイプの人間なので。梓たんは特別ですよ」


「え、やだ照れる。少年あんまりタイプじゃないけど」


なんか酷い。


「因みにどんなタイプがお好きで?」


「清楚で可愛くて透明感のある銀髪の子かな」


「まもまもじゃねえか」


「そう、まもまもなの。......てか、少年さっきも言ってたけどその渾名滅茶苦茶

 可愛いね。いつか玲奈ちゃんと仲直り出来る日が来たらその渾名で呼んで

 あげたいな」


蜂須賀梓という少女について俺はよく知らない。しかし、一つ分かったことが

有る。彼女には裏表が殆どない。彼女の発する言葉を聞いているとそのことが

よく分かる。言葉から『心と感情』が感じられるのだ。


「取り敢えず、幻中に話そうとしている話を俺にしてくれませんか?

 それで決めます」


本当なら俺は他人に人の家を教えるような真似はしたくない。しかし

蜂須賀の強い想いを聞かされた俺は、そう言ってしまった。

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