調月さんは守りが薄い
「......意外と片付いているのね」
俺の部屋を見渡しながら調月が言う。
「いや、結構散らかってる方だと思うぞ?」
「フッ。この程度の物の散乱、私の部屋には遠く及ばないわ」
「お前は一体何でマウントを取ってるんだよ。後、お前の部屋どれだけ汚いんだ」
何事にも怠惰な調月の部屋だ。きっと、歩くだけで何かを踏んでしまうくらいに
散らかっているのだろう。
「足の踏み場がなく、本や財布、ジャンパーから下着に至るまでありと
あらゆる物が床にちりばめられているわ」
「予想を遥かに越えてきた!?」
何かを踏んでしまう、ではなく足の踏み場がない、ときたか。てか今夏だろ。
何故ジャンパーが散らかってるんだ。クローゼットを有効活用しろよ。
「流石に埃は掃除しているし、脱いだ服は放置してないわ。......基本的には」
「今、不穏な補足が聞こえた気がするんだが?」
「安心しなさい。私が脱いだ服を貴方の部屋に放置したら色々と怖いから
きちんと管理するわ」
「いや、怖くないからね? 俺、そこまでクズじゃないからね? ......まあ
今日から数日は一緒の部屋で暮らすんだ。服の管理はしっかりやってくれ」
俺は溜め息を吐きながら言う。あの冷たく、毒舌な調月が震えながら俺に抱きつき
『酷く迷惑な頼みなのは分かっているわ。だけど、お願い......母の怒りが冷めるまで
此処に泊めて貰えないかしら』
なんて言うから受け入れてしまったが、先が思いやられる。俺の部屋を汚部屋に
変えるのは止めて貰いたいのだが。
「暑い。もっとエアコンの温度下げて」
「ほいほい。確かに今日は暑いよな......あの、当たり前のように服脱ぐの止めて?
君には羞恥心という物が存在しないのかい?」
「中にインナーシャツを着てるから大丈夫よ」
脱いだ上着を床に投げながら調月は言った。成る程。汚部屋はこうやって
作られていくのか。
「人の部屋で服を脱ぎ捨てるな。てか、何でお前暑がりの癖にそんなもの
着てるんだよ。暑いんだったら普通にTシャツ一枚で良いだろ」
「馬鹿ね。私は貴方の家で上着を脱ぐことを前提にインナーシャツを着てきたのよ。
Tシャツとインナーシャツだったら、インナーシャツの方が涼しいでしょ?」
「ああそう......。でもそのインナーシャツ、磨り減ってるせいでお前の肌が
透けて見えるんだよ。目のやり場に困るから上着を着てくれ」
調月の胸がペタンコで良かった。胸の辺りも透けて、かなり見えているが
幸い無乳過ぎて他の肌と区別が付かない。
「ん.......」
「いや、無視してニーソを脱ぐなよ」
「いる?」
調月が脱いだばかりの黒ニーソを持って聞いてくる。
「欲しい」
「うわ......」
「冗談だ。頼むから本気で引くの止めてくれ」
どうやらニーソを脱ぐつもりはあっても、上着を着るつもりはないらしく
調月は欠伸をしながら俺の部屋に寝転がった。
「第二の雪加を自分の部屋に入れてしまったか」
いや、雪加は遠慮と羞恥心がないだけで部屋を汚したりしないどころか
掃除や料理をしてくれたりするので、雪加よりもタチが悪いかもしれない。
「.......家の手伝いくらいはするわ」
「お前、料理とか出来んの?」
「カップラーメンなら」
それは料理とは言わない。
「お前の生活能力のなさどうにかならない?」
周りに雪加や幻中等の生活能力高過ぎ勢がいるせいで調月の生活能力のなさが
余計に際立つ。せめて、部屋くらいは綺麗にしたらどうだろうか。
「貴方には関係ないでしょう? それに、私の家の家庭環境で料理の練習なんて
出来ると思う? 母にキッチンを使わせてくれ、なんて言えないわ。もし
失敗して材料を駄目にしたら......」
母に怒鳴られる様子でも想像したのだろうか。調月の顔はみるみるうちに
青ざめていった。やはり、調月のこういう表情は見たくない。
「変なことを想像させて悪かったな」
「いえ、別に気にしていないわ」
「料理に興味あるんだったら俺が教えるぞ?」
「......メンドイ」
あ、そっすか。
☆
調月が家に着てから2~3時間が経った。現在の調月はゲームにのめり込んでいる。
どうやら調月の家には電子機器が殆ど無かったらしく、かなり興奮気味だ。
「死ねえっ!」
技選択をしたときの掛け声が明らかに可笑しいが......まあ、初めてゲーム
やったらそうなるよな。
「調月、その選択は悪手だぞ? こっちで受けれるからな! ほい。
技無効化で無償降臨」
「チッ」
「お、読み当たったな。ソイツに交換されると思ったんだよ」
「こ、効果抜群で倒れた......?」
「調月、覚えておくと良い。モンスターの属性とそのモンスターが使える技の属性は
必ずしも同じとは限らないんだ。水属性のモンスターを草属性で受けようなんて
考えないことだな。水属性のモンスターの殆どは氷属性の技を持っている」
画面に俺が勝利したことを知らせる文字が浮かび上がる。先程から何度も
調月と対戦しているが、一度も負けていない。敗北を知りたいぜ。
「チッ。初心者相手に大人げないわね」
「手加減無用って言ったのはお前だろ?」
「きっと私のパーティーが悪いのよ。貴方のパーティーを貸しなさい」
「さっきお前がそう言ったから交換したけど、お前負けてただろ。てか、どっちも
俺が貸してるパーティーだし。悔しかったら自分で厳選と育成してこい。その
ゲーム機やるから」
馬鹿みたいな時間を掛けて厳選と育成をし、持ち物と技構成を練るのがこのゲームの
基本だ。それにゲームがあれば調月が帰ったとき、母親から掛けられるストレスを
軽減させることが出来るかもしれない。どうやら調月はゲーオタの素質が有りそうだし。
「......さっきから気になっていたのだけど、何故同じゲーム機が二つ有るの?」
「ん? ああ、お前がさっきから使ってるのは雪加の奴だよ。昔、アイツが俺の
家に遊びに来たときに置いていった」
「要するに盗んだのね。薄汚い盗人め。というか、人から盗んだ物を当たり前の
ように別の人間に渡すなんて神経どうなってるの? 地獄に落ちれば良いのに」
「それ以上言ったらお前が俺に抱きついて離さなかったことを前科部の奴らにバラして
やるからな。後、言っておくが盗んだ訳じゃない。これと同じゲーム機を福引きで
当てたからこれは俺の好きにして良いって雪加に言われたんだよ」
流石に俺と雪加のゆるゆるな関係でも相手の物を盗んだりは......しない、かな?
いや、私物を勝手に使ったり消費することはよくあるな。
「成る程ね。それじゃあ頂くわ。私のような美少女にプレゼントを
出来たことを感謝しなさい」
「あーはいはい。俺のような薄汚い人間のプレゼントを外見だけは美少女の
貴方に受け取って頂けてとても光栄であります。心より感謝を」
「内面も十分美しいと思うけれど。本当の自分を偽ったりしていないし」
「お前は自分の内面をさらけ出し過ぎてるんだよ......って、言いたいところだが
お前がたまに口ごもったり、顔を曇らせてるのを見逃すほど自然観察者の目は
節穴じゃないからな」
俺は少し声のトーンを落として言う。
「......そう」
「数日間は此処に居るんだろ? 悩みくらいなら聞いてやれるから、何か
言いたくなったら言ってくれ」
「.......貴方もね。顔色悪いわよ」
「まあ、昨日と今日で立て続けにトラブルに巻き込まれてるからな」
「昨日?」
「色々あったんだよ。また後で話す」
昨日生まれて初めて救急車に乗ったかと思えば、今日は突然調月に亡命されたのだ。
少しは疲れが顔に出ても不思議ではない
「隈も酷いわね」
「あ、それはゲームのやりすぎによる寝不足」
「今すぐ寝ろ」
「......はい」




