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前科部!  作者: 蛇猫
夏の始まり
74/108

海月と少女


様々なトラブルに見舞われながらも俺達は何とか水族館にまでたどり着いた。

係員にチケットを渡して館内に入ると俺達の目には大きな水槽が飛び込んでくる。


「......なんか、凄いな」


水槽の中には大中小様々な魚が悠々と泳いでおり、そのあまりの壮大さに俺の

語彙力は著しく下がった。


「・・・はい。綺麗です」


幻中は水槽に目を奪われた様子でうっとりと言う。


「幻中は魚が好きなのか?」


「・・・はい。とても」


「幻中は魚って言うよりクラゲって感じだけどな」


「・・・海月(くらげ)、ですか?」


幻中は目線を俺の方に向けて、首を傾げた。


「ああ。クールな印象を受けるところとか、掴み所がないところとか結構似てる」


「・・・そうですか。私は海月も嫌いではありませんよ」


「俺も『くらげ』好きだな~」


俺は幻中から顔を逸らし、大水槽を見ながら言う。透き通っていて何処と無く 

ミステリアスな海月には不思議と惹かれるものが有る。


「・・・そろそろ別のエリアに行きましょうか」


「そうだな。俺、チンアナゴが見たい」


「・・・チンアナゴでしたら割と直ぐに見れると思いますよ」


俺達はそんな会話を交わし合いながら、広い水族館を歩いた。俺はあまり動物園や

水族館が好きではないのだが、魚に関する幻中の小話を聞きながらの水族館は非常に

楽しい。中でも傑作だったのはドクターフィッシュのエリアだ。


「ちょ、こしょばい! ううう......」


ドクターフィッシュは古い角質を食べてくれることで有名な魚。この水族館では手を

ドクターフィッシュの水槽に入れても良いことになっているのだが、これが凄く

こしょばいのだ。


「・・・因みにドクターフィッシュは正式な名前ではなく本当の名前は

 ガラ・ルファと言います。西アジアが原産の淡水魚ですね」


俺がこそばゆさに悶えている中、幻中は何時も通りのクールな態度で俺にそんなことを

説明してくれた。彼女の手は水槽に浸かっていない。


「凄くタメになる話をしてくれているとこ悪いんだが幻中、手を水に浸けろ」


「・・・いえ、私は大丈夫......」


「はい、ポチャン」


俺は何か言おうとしていた幻中の白く、細い腕をドクターフィッシュが蠢いている水槽に

浸けた。やはり幻中は人一倍体を清潔にしているせいか、あまり魚が寄って来ない。とは

言っても、何匹かは寄ってきておりその内の一匹が幻中の肌をついばんだ。


「・・・!? あっ、うう、くすぐった......ひゃあっ!」


その一匹に続き他の魚も幻中の肌をついばみ始め、幻中は顔を真っ赤にしながら

そんな声を漏らした。何時も無口で無機質な話し方をする幻中がこんな風に叫んで

いるのは新鮮だ。


「ふぇ......かみひゃとくん。手を、手を放してくらさい。ふぇゃっ」


何これ可愛い。


「すまん。どんな反応するのか見たかったんだよ」


俺は幻中の手を解放すると、バツが悪そうに目を逸らす。見てはいけないものを

見てしまった気分だ。


「・・・それで見たかった物は見れましたか?」


幻中は俺にジト目を向けながら聞いてくる。かなり不機嫌だ。


「うん。まあ、面白い物は見れた」


「・・・私の痛覚は敏感で、他の方よりも痛みやくすぐったさに弱いのです。はしたなく

 騒ぐ様子を貴方に見せたくなかったから、敢えて手を水に浸けなかったのに......」


幻中は静かに、しかし確実に怒った様子でそう言った。小戸森や雪加とは違い常識人で

イジられキャラでもない幻中に責められるのはかなり心に来るものが.......悪くないな。


「・・・心の声が漏れていますが」


「え、マジ? 聞こえてた? 俺君の性癖」


「・・・兎に角、いずれこの借りは返して頂きますからね」


まもまも、スルーしないで。


「幻中には何故か頭が上がらないからな。返せるときがあったら返す」



「・・・そろそろ昼食にしましょうか」


「ああ。幻中が弁当を作って来てくれたんだよな」


「・・・はい。貴方が偏食なことはこの前の一件で知っていたので勘解由小路さんに

 貴方が嫌いな物を教えて貰って作ってきました。なので恐らく貴方の苦手な物は

 一つも入っていない筈です」


幻中はそう言いながら俺に弁当を渡してきた。


「わざわざ其処までしてくれたのか......ありがとな」


「・・・いえ、味は保証出来ませんが」


「幻中の料理が不味い訳ないんだよなあ」


寧ろ、幻中が謙遜したら嫌味になるまである。


「・・・勘解由小路さんは貴方の好みの味付けを心得ているようでしたので

 彼女と比べると劣ると思います」


「いや、そんなことないだろ。雪加の料理は確かに美味しいが、幻中の料理には

 アイツの料理とはまた違った(おもむき)がある」


「・・・私を褒めても何も出ませんよ?」


「褒めてない。事実を言ってるだけ」


「・・・早く食べましょう。頂きます」


幻中は素早く話題を変え、手を合わせて挨拶をした。恐らく恥ずかしかったのだろう。

それにしても冷房の効いた休憩所のテーブルに座れて良かった。この真夏日に外で

弁当は罰ゲーム過ぎる。


「いただきま~す」


幻中に続いて俺も挨拶をして、弁当を開ける。弁当の中にはサバの塩焼きやこの前

幻中の家で振る舞ってもらったあのきんぴらレンコンなどが入っていた。


「・・・彩りのある食材が漬け物のキュウリくらいしかありませんね」


「俺、料理は見た目より味派だから」


食卓が真っ茶色なんてザラにある。その辺の考え方は母さんや雪加によるものだ。


「・・・つい、自分で食べる料理と同じ感覚で作ってしまいました。栄養バランスは

 しっかりしている筈なので許して下さい」


「いや、そもそも怒ってないが......あ、やっぱりこのレンコン美味い」


俺は幻中に教えて貰ったレシピで幻中のきんぴらレンコンを再現しようと

してみたのだがやはり幻中が作った方が美味しい。


「・・・それなら良かったです」


安心したように息をつく幻中に俺は首を傾げる。


「なあ、幻中に欠点って有るの?」


「・・・え?」


「美少女だし、勉強出来るし、料理も出来るし、生活能力も高いし、真面目だし。

 人の欠点ばかり探す癖が俺には有るんだが、幻中には欠点が見つからないんだよ」


完璧な人間など居る筈がない。俺はそう思っていたのだが、彼女にはどうも

欠点という欠点が無いらしい。


「・・・私は口下手です」


「それは欠点というより個性だろ。俺は無口な幻中嫌いじゃないぞ?」


「・・・運動能力が低いです」


「あー、確かに幻中が走ってるのって見たことないもんな。じゃあ、幻中の欠点は

 運動能力が低いことだけか」


まあ、運動能力が低いのは俺もなのだが。


「・・・後、友人が居ないです」


「あ、それは欠点じゃないぞ。個性だ。異論は認めん」


「・・・貴方には勘解由小路さんを始めとする部活の皆さんが居るじゃないですか」


「井上と有馬は知人だし、雪加は友達じゃなくて盟友兼幼馴染みだし、先輩は部長だし

 小戸森は芋天枠で調月は敵だ。俺に友人はいない」


「・・・芋天枠に敵?」


幻中は首を傾げる。何度も言うが友人の定義は非常にあやふやだ。そんな不安定な立場に

知人を置くくらいなら、いっそのこと立場をぼかしておいた方が良い。関係悪化の原因に

なるような『名前』など要らず、必要なのは其処に有る人間関係だけだ。


「因みに幻中は束の間の癒し枠」


「・・・何故ですか?」


「どれだけ濃いメンバーに絡まれてても、常識人の幻中と一緒に居れば心が

 休まるから。ウチの部活には常識人が必要なんだよ」


「・・・私は別に常識人ではないかと」


まもまもが常識人じゃないなら常識は何処にあるんだよ。月か。月なのか。

それとも火星か。


「少なくとも俺からしたら常識人なんだよ。マジで美味いなこの弁当」


「・・・私が常識人なら......もっと友人がいた筈です」


「友人が欲しかったのか?」


「・・・『友人』に拘っていた訳では有りません。ただ、互いに心を許せる

 心の通った間柄の知人が欲しか.......」


「幻中?」


「あ......ああああああああああ」


俺が首を傾げると、幻中が突然狂ったように呻き始めた。

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