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前科部!  作者: 蛇猫
前科者が集う部活
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近藤♀


「うわ、席が殆ど空いてねえ」


 いざ学食に行くと、既に多くの生徒が学食に集まっていた。俺はなるべく早く飯を取りに行った方が良いと判断し、既に三十は並んでいるであろう長蛇の列に並んだ。それから約8分後、後7人程で俺の番が来るであろう時、俺が並んでいる前の列に長身の女が近寄って来た。


「ほら、列から抜けて。アタシが入るわ」


 てっきり俺に向かって放たれた言葉かと思いきや、女の視線と顔は俺より二つ前に並んでいた人に向けられていた。抜けろと言われている人は納得して抜けようとしている様には見えない。

 いじめ、或いは抜けろと言っている女の横暴なのは明白だった。全く、どうして俺はこうも色々なハプニングに遭遇するのだろうか。周りの者は全く気にしていないことを考えると、この学校ではそういうのが

日常的に起こっていると考えるのが自然なのかもしれない。


「あのー、すいません」


 俺は抜けろと要求している女に声を掛けた。正当な理由も無く、他者を虐げて割り込もうとする行為に腹が立った。これは理不尽への反逆であり、偽善ではないはずだ。


「アンタ誰よ」


 女は鋭い睨みを効かしてくるが、俺も『腐敗した瞳』の持ち主だ。睨み系統の脅しは効かない。


「ただ列に並んでいただけの者です」


「ただ列に並んでただけの奴がアタシに何の用?」


「いや、そこの彼? 彼女? 分かりませんが、其処の人をどうして列から抜けさせて割り込もうとしているのか気になりまして。元々、そういう約束で並ぶのを頼んでいたんだったら良いんですけど、あまりそういう風には見えないんでね?」


「別に良いじゃない。コイツは抜けるって言ってるわよ? それに、アンタには関係ないでしょ?」


「いや、ありますよ。俺も、周りの人達も時間を掛けて並んでいるのに、貴方だけ人を追い出して割り込むとか身勝手にも程があると思いませんか? マナーって知ってます?」


「っ......もういいわ」


 不利だと判断したのか、或いは不貞腐れたのか、女は最後尾の方へ歩いていった。俺と女のやりとりを見ていた奴等がガヤガヤ言っている。どうせ、これも近藤の時と同じような内容だろう。近藤の女バージョンみたいな奴だったな。近藤♂と近藤♀がこの世には存在するのか?

 そして、近藤♀に列から抜けろと恫喝されていた人の方に目を向けると、順番が回ってきたらしく、既に定食を受け取っていた。

 それから直ぐに俺の番も回ってきたので、料理を受け取り、席は無いだろうかと辺りを見渡す。と、横から誰かが近寄って来た。近藤♂♀どちらでもないことを祈りながら視線を向けると


「・・・・」


其処には黒髪のセミロングでジト目とも言うべき、淀んだ瞳が特徴的な何処となく暗い雰囲気の少女が立っていた。


「別に助けてくれなんて頼んでませんけど一応、お礼、言っておきます。ありがとうございました......」


「ああ、さっきの人ですか。別に頼まれてませんけど、此方こそ」


 俺が多少の皮肉を込めてそう言うと少女は


「一応、お礼は言いましたけど、これからはあんな真似しないでください」


ゴニョゴニョとそう言ってきた。


「何故に?」


「あんなのは日常茶飯事に起こっている事ですし、 ボクなんかを庇えば貴方の周りの人からの印象も悪くなると思います。あの女、結構、学校でも影響力有りますし」


「残念ながら、俺、どんだけ印象悪くなっても構わないんだよ。そもそも、知り合い居ないから」


「と、兎に角、ボクに関わらないで下さい......」


 そう言ってボクっ娘少女は俺の前から立ち去ろうとしたが、直ぐに足を止めて


「というか、あの、席、確保してます?」


と、聞いてきた。


「え?」


「いや、パッと見回した感じ、何処の席も人が座っているので。席を確保しておいて貰う知り合い、居ないんですよね?」


「・・・・」


「ボクは学食と教室が近いので結構、早めに来れますけど、基本的にこの学食、直ぐに満員になるので知り合いの机に誘って貰うのがセオリーなんですよ」


 何だそのセオリー。


「この上里祐也、最早ここまでか......」


 お盆を持ったまま立って食べるとか地獄以外の何物でもない。浮くだろうし。芦原白嶺は、芦原白嶺は居ないのか。この際、幻中でもいい。誰か助けて。


「ボ、ボクは周りから嫌われていて、ボクなんかと一緒にいたら確実に貴方も周りに悪い印象を持たれると思います」


 少女はブツブツと呟く様に話す。


「ただ......そんな嫌われ者のボクと一緒の席でも良いなら、ボクの席が空いてるので、その、一緒に食べますか?」


「え? 本当に良いんですか!?」


「す、凄い食いつきですね......。い、言っときますけどボクと一緒ですよ? 良いんですか!?」


「勿論です! さあ、そうと決まったら早く席に行きましょう」


 突然舞い降りてきた天使の誘いに俺は嬉々として食い付いた。


「は、はい行きましょうか......」


 そして、俺は少女の案内に従って席に座った。少女は『ちょっと待ってて下さい』と言って、二人分の水を汲んで持って来る。


「自己紹介が、まだでしたよね」


「ああ、そうですね」


「その、先輩って二年ですよね?  ボク、後輩なんでタメ口で結構ですよ?」


「え? 何で二年って......」


 彼女に自分の学年を教えた覚えはないのだが。


「名札です。先輩の奴、銀色ですよね? 一年は赤、二年は銀、三年は金色の名札って決まってるので」


 少女は自分の胸元の名札を触りながら教えてくれた。初耳だ。宗里先生、自然観察部の魅力は良いからそういう事を教えて下さい。


「じゃあ、今からタメ口で行くけど良いか?」


 今まで敬語だった相手にタメ口を使うのは躊躇われるが。


「はい。じゃあボクの自己紹介しますね」


「ああ、宜しく頼む」


「えと、一年四組の小戸森廻瑠(こともり めぐる)です」


「小戸森か。俺は二年三組の上里祐也(かみさと ゆうや)だ。最近、転校して来た」


「だから先輩、この学校の事全然、知らないんですね。友達もいないみたいですし......」


「何か言い方にトゲがある気がするけど、まあ、そういう事だ」


 席を貸してくれたのは助かったが女子と一緒に飯を食う事とか、一部の例外を除いて初めてなのでさっきから緊張しっぱなしだ。


「それ、美味しいですか?」


 それから、数分後、会話を交えながら食事をしていると、不意に小戸森は視線を俺の唐揚げに向けてそう言った。俺の唐揚げの量は既に6つから2つになっていた。


「ああ。美味いぞ。それなりの大きさもあるし。味噌汁と白飯もついて350円とかお得過ぎる」


「・・・・」


 小戸森が俺の唐揚げを『ジー』と見てくる何だよそれ。可愛いけど俺のハートが持ちそうに無いから止めろ。


「食うか?」


 物欲しそうにしていたので一応聞いてみる。


「はい、頂きます」


 すると小戸森は是非と言わんばかりに答えてきた。


「即答かよ」


「じゃあ頂きますね?」


 そう言って小戸森は残り二つの唐揚げを両方とも箸で掴み、頬張った。


「ちょっとおい!?」


「モグモグ、ゴクン。美味しかったです......」


 もう何か緊張するのも馬鹿みたいだし、いっそのこと開き直ってやる。


「ちょっ!? それボクの個別で頼んだ天ぷら!? 止めて下さい!」


 悲痛な叫びを上げる小戸森を他所に芋天を小戸森の皿から奪う。


「モグモグ、ゴクン。うむ大変美味であった」


「ちょっ、何やってるんですか!?」


「俺の唐揚げ二個とも食ったんだからお互い様だろ?」


 俺はショボンとする小戸森にしてやったりと、笑みを浮かべた。


「ボクの芋天......」


「そんな落ちこむなって。また席を確保しててくれれば芋天くらい奢ってやるから」


 予想外に落ち込む小戸森を俺は宥める。


「......本当ですか?」


「ああ」


「本当に、ボクなんかとまた食べてくれますか?」


 恥ずかしそうに言う小戸森に俺は


「ああ」


と、返した。


「ありがとうございます。学校で他の人とご飯食べるのは久しぶりで、楽しかったです」


「いや、俺もこの学校に来てからマトモに話した生徒は小戸森だけだから楽しかった。また明日も一緒に食うか?」


 先程まで明るかった小戸森の顔に突如、影が落ちた。


「あの、先輩、実は......」


「どうせ、お前も自然観察部の部員だとか言うんだろ?」


 当たっていなかったら謝るが、何となくそんな気がした。


「え?」


「違ったか?」


「いや、そうなんですけど何で分かったんですか」


 やっぱりかよ。俺は自然観察部の呪いにでもかかっているのだろうか。


「いや、何となくな」


 女の勘と上里の勘は良く当たる。これは昔から言われている言葉だ。


「何となく、ですか」


「何となく、だ」


「それで......先輩はどうするつもりですか?」


「どうするって、何を?」


俺が聞き返すと小戸森は


「いや、ボク自然観察部の部員なんですよ? 『やっぱりこれからは関わらないでくれ』とか言わないんですか?」


と、少し言いにくそうに言った。

 彼女の声は震えていて、瞳はじんわりと濡れている。今にも泣き出してしまいそうだ。


「お前サア、俺のことをそんな人で無しだと思ってたワケエ? 上里さん結構傷つくんですケド~」


「いや、だって自然観察部ですよ?」


「自然観察部がなんぼのもんじゃい。殺人集団の集まり、とかじゃないんだろ。なら、別にどうでもいいよ」


 そろそろ昼休みが終わる時間だ。俺は定食の盆を持って立ち上がり


「芋天奢るからこれからも席の確保、宜しく頼む」


と言った。

 すると、小戸森がジトーっと、俺にジト目を向けてきた。


「あまりにも締まらない決め台詞ですね......」


 そもそも、俺に格好良い決め台詞を求めるのが間違っている。


「まあ、芋天奢ってくれるなら席くらい幾らでも確保してあげますよ」


 小戸森は控えめで、それでいてとても可愛い柔らかな笑顔でそう言った。

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