大学芋
「お邪魔しまーす。ほえ~、祐也君の家って結構広いんだね」
「祐也の家はそこそこ金持ち」
「・・・お邪魔します」
「えと、先輩、お邪魔します」
「......チッ。何で私まで」
「どうしてこうなった」
俺の家に入り、口々に話す前科部のメンバーを見て俺は溜め息を吐く。有馬と井上の
歓迎会をしたときに俺は小戸森に手作りの大学芋を振る舞う約束をしたのだが、それが
何故か井上を除く前科部の部員全員に振る舞うことになってしまったのだ。
「・・・急に押し掛けてすみません。やはり、ご迷惑でしたね。帰ります」
幻中は萎縮した様子で言ってきた。やはり、謙虚で常識のある幻中は俺の心を安定
させてくれる。幻中も十分濃いキャラをしているのだが、決して頭可笑しい系では
ないので安心出来るのだ。
「いや、良いよ。幻中には二度も家に行かせて貰ってるし。てか、悪いのは
悪戯に人を誘いまくって俺の家に連れてきた雪加と有馬だ」
雪加と有馬はどちらも面白いこと好きという共通点も有ってか意気投合したようで
半ば強制的に皆を連れてくることを俺に許可させて、このメンバーを集めやがったのだ。
先輩は乗り気みたいだが、幻中は無理矢理連れてこられたみたいだし、調月に至っては
舌打ちをしている。面白がって適当にメンバーを集めたのは明白だ。アイツら......。
「上里君、この干し梅食べて良いかい? 美味そうなんだけど」
「有馬、お前は自重しろ。幻中様の謙虚さが目に入らんか」
というか、前は小戸森の干し芋食ってたしどれだけ干した物が好きなんだよ。
「......祐也、私はレモン風味の炭酸水よりも普通の炭酸水の方が好み」
「お前はお前で人んちの冷蔵庫から飲料を取り出して飲んでんじゃねえよ!
そして、家族みたいな感覚でソファーに寝転ぶな!」
「祐也と私の仲。それぐらい許して」
「親しき仲にも礼儀ありという言葉が有ってだなあ......!」
確かに雪加と俺は長い付き合いなので多少の無礼なら許せるが他人の家に上がり
込むなり、無許可で炭酸水を飲むのは如何なものか。しかも、雪加だから何と無く
許してしまいそうになるので余計に腹立たしい。
「祐也、煩い。祐也も私の家を好きに使ってくれて良いから。ほら、皆も座って」
雪加は慣れた手付きでダイニングテーブルに家の至るところから集めてきた椅子を
並べた。伊達に引っ越してからというもの、近所に住む祖父母の家感覚で俺の家を
出入りしているだけは有る。動きに無駄がない。
「どっちが家主か分からないわね」
「それを言うな。てか、家主は親父だし」
「あ、そういえば......その、先輩」
「どうした? 小戸森」
何かを気にした様子で話し掛けてきた小戸森に俺はそんな返事をする。
「えっと今日、先輩のお母さんは......?」
「ああ、母さんなら居ないよ」
確かに知り合いの家に上がったとき、親が居るかどうかはかなり重要なポイントだ。
それだけでリラックス出来るか出来ないかが決まると言っても良い。
「じゃあ、先輩のお母さんは働いてらっしゃるんですか?」
「いや、働いているのは親父だけ。というか俺は親父と二人で暮らしてる」
「え......あ、そ、そうですか。すいません、悪いことを聞きました」
小戸森は俯いて表情を陰らせた。
「......? 別に謝ることは無いが?」
周りを見るとさっきまで口々に喋っていた奴らは全員黙り込み、ショックを
受けたように下を向いていて、雪加だけが戸惑ったように皆の表情を見ていた。
俺は何か地雷のようなモノを踏んでしまったのだろうか。
「にゃるほど......」
俺が雪加と同じように戸惑っていると、突然雪加がそんなことを呟いた。
「一体、何が『にゃるほど......』なんだ?」
「面白いから敢えて教えない。ほら、祐也そろそろ大学芋作って」
「へいへい。小戸森、作り方教えようか?」
腑に落ちないが、雪加が教えないと言ったときは本当に何を言っても教えて
くれないということを俺は知っていたので取り敢えず、忘れることにした。
「良いんですか? お願いします」
「僕にも教えてよ!」
「テメエは芋を切る雑用係りだ。さっさとやれ。雪加お前もだ」
「僕と勘解由小路さんの扱い酷くない!?」
勝手にメンバーを集め、挙げ句の果てには図々しくも人の家の食料を食べようと
したり、勝手に飲み物を飲んだりしたのだ。これくらいの扱いが妥当だろう。
「......メンドイ」
「天誅」
俺はそう言って雪加の頭を軽くさつま芋で叩く。加減はしたがそこそこ
痛かっただろう。しかし、そんなことは俺の知ったことではない。
「痛い......暴力は何も産み出さない」
「何かを産み出してから言え。ほら、さっさとさつま芋を細長い形に
切ってくれ。ちゃんとお前の分も有るから」
「らじゃー」
雪加はわざとらしく敬礼をすると、慣れた手付きでさつま芋をストンストンと
切っていった。何時か雪加と幻中の料理対決も見てみたいものだ。
「有馬は料理の経験は?」
「レトルトカレーなら」
コイツは料理を何だと思っているのだろう。
「小戸森は?」
「ボクもあまりする方では有りませんね」
「おっしゃ。じゃあ、二人纏めて教える。幻中達は適当に寛いでてくれ」
「『終末之誓約書』? これは何?」
調月は首を傾げながら紫色のノートを見つめていた。一体、何処からそんな物を
見つけ出したのだろうか。
「適当に寛げとは言ったが、漁れとは言ってない。さっさとそれを元の場所に戻せ」
俺は声を荒らげながら調月に叫ぶ。黒歴史ノートを調月に見られるのは
何としても防がなくてはならない。
「んでー? 僕は何したら良いの? 祐也君のエロ本でも探せば良いの?」
「馬鹿。お前は今から教える方法で芋を切れ。後、俺はエロ本みたいに
時代遅れな物は持ってない」
全てはパソコンの中だ。ざまあ見ろ。
「因みに祐也のパソコンのIDとパスワードは......」
「天誅!」
「クラッススッ。......痛い」
いや、何でコイツは殴られたときに共和政ローマの軍人の名を口にしたんだよ。
しかも、カエサルほど有名では無いけど一応メジャーっていう、微妙なところを突くな。
「そしてお前は何故、俺のパソコンのIDとパスワードを知っているんだ」
「祐也の考えるパスワードとIDなんて簡単に突き止めれる」
「いやホント、何なのお前。俺の個人情報とかめっちゃ知ってるし。何?
俺のこと好きなの?」
「あまり高望みはしない方が良い」
「辛辣だなオイ」
俺はそんな風に雪加と軽口を叩き合いながら、有馬と小戸森に芋の切り方を教えて
いった。小戸森は料理の経験がゼロ、という訳では無かったので比較的直ぐに覚えて
くれたのだが有馬が曲者で、調理実習以外の料理は初めてだったらしく包丁の扱い方が
危なっかしくて見ていられなかった。
「先輩、切り終わりました」
「祐也、油が160℃になった」
「了解。......は? まだ、油を出せとも言ってないんだが」
「私は気が利くから先回りして油の温度を上げておいたの。褒めて」
雪加はドヤ顔でパチパチと油の跳ねている天ぷら鍋を見せつけてきた。本当は
今から油を熱するつもりだったのだが。まあ、手間が省けて良かった。
「でもドヤ顔が何と無くムカつくから天誅」
「ブルータスッ......!? 流石に今のは理不尽だったと思う」
「小戸森、油に芋をゆっくり入れていってくれ。有馬と雪加は用済みだ。
向こうで幻中達と寛いでろ」
俺は雪加の抗議をさらりと聞き流し、そう指示をした。
「用が終わったなら、終わったで良いけど、もうちょっと言い方
どうにかならない!?」
「今から油を使うから、あんまり人が居ると危ないんだよ。ほら、しっし」
「あー、陸上部に寝返ってやろうかな」
「半分残しておいてくれるなら干し梅食っても良いぞ」
「前科部大好き」
最早、脊髄反射としか思えないような早さで掌を返す有馬。彼の手はドリルか
何かで出来ているのだろうか。
「それじゃ、私も向こうに行ってくる。祐也は慣れてるから大丈夫だと思うけど
油にはきちんと注意して」
「おう。じゃあな」
さつま芋の素揚げが完了すると、俺は小戸森に大学芋の命と言っても過言ではない
『蜜』の作り方を教えることにした。
「蜜の材料はこちら! みりんと砂糖、そして塩だ」
「みりんと砂糖は分かるんですけど、塩も使うんですか?」
小戸森が不思議そうな表情で俺に聞いてくる。
「ああ。砂糖水みたいな味の蜜が俺は嫌いだからみりんと塩で味を調整するんだよ。
といってもみたらし団子みたいな甘辛にする訳じゃない。塩は悪魔で味に統一感を
持たせて甘味を引き立てるための道具だ」
そのため、塩は最初の段階ではあまり入れない。実食するときに味と相談して
調整していけば良いのだ。
「へえ......そういえば今更ですけど台所に立っている先輩って新鮮ですよね」
「そうか?」
「はい。でも、料理が出来るのは素敵だと思います」
「めぐめぐに褒められた。やったぜ」
料理の達人、雪加に仕込まれた俺の料理の腕はかなりの物だと自分でも思っている。
......まあ、俺は料理よりもお菓子作りの方が得意なのだが。
「先輩、蜜がグツグツしてきました」
「おっしゃ。それじゃあ、芋をぶちこんで絡めてくれ。絡め終わったら完成だ」
「はい。あ、先輩」
小戸森が芋を黄金色の蜜に落としながら話し掛けてきた。
「何だ?」
「この素揚げしたさつま芋、一つ食べても良いですか?」
「プッ......」
俺は思わず吹き出してしまった。
「ちょ、何で笑うんですか!」
「いや、小戸森らしいな......と思って。大学芋の分は残しておけよ?」
「はむはむ......まだ蜜は掛かってないのに甘いですね」
俺が許可すると、小戸森は速攻で素揚げしたさつま芋を口に入れる。
どれだけ芋が好きなのだろうか。
「良し、もう絡まっただろ。出来た大学芋をそっちに並べておいた
皿に入れてくれ」
「了解です」
ということで大学芋が完成したのだが、机に並べてみるとやはり量が多い。
七人分の皿がウチの食卓に出るという光景は親戚や近所との付き合いゼロの
上里家史上、初めてのことだった。そんなことに俺が感動していると......。
「祐也~! 帰ってきましたよっ!」
突然、玄関からそんな声が聞こえてきた。
蛇猫の後書きに高確率で出現する魔物が今宵も現れました。
その名も『評価&ブクマクレクレ何なら感想と評価も置いてけ』です。
......こんな茶番はどうでも良いですね。何卒何卒お恵みを。




