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前科部!  作者: 蛇猫
仮面と古傷
64/108

サワガニ系主人公の決断

皆さん、新型コロナウイルスで大変な時期だと思いますが私は少しでも皆さんに

面白い小説をお届け出来たらなと思っています。外出自粛を心掛けましょう。

外出自粛でお仕事が大変な方もいらっしゃるかとは思いますが、私はそんな方を

応援しています。


「ということで、一人確保しました」


俺は部室に戻ると、胸を張って報告した。


「流石祐也と雹霞」


「......井上先輩って、この前先輩を殴った人ですよね? 大丈夫なんですか?」


「その事については本人もかなり反省してるみたいだったし多分大丈夫。

 俺は結構信用出来る奴だと思ってる。な、調月?」


「ええ、馬鹿では無いわね」


「雹霞はどの立場なの......?」


「まあ、先輩方がそう言うなら大丈夫なんでしょうけど」


小戸森は文句ありげに口を(つぐ)んだ。どうやらこの前のことを未だに怒って

くれているらしい。つくづく、良い後輩を持った物だ。


「そんな簡単に部員って集まるものだったっけ?」


「・・・いえ、違うかと」


先輩と幻中は俺が一瞬で部員を確保してきたことに白目を剥いている。


「言っておくが、俺も井上以外に入部してくれそうな知り合いはいない。

 後は皆に頼んだ。期待してるからな。それじゃ!」


俺はそう言い残すと、部室からさっさと出ていった。必要な部員は二人。

俺が集めたのは一人。必要人数の半分を俺と調月だけで集めたのだ。

どうせ、今日の部活動は無いだろうし俺には帰る権利が有るだろう。

......それなのに。


「待って」


逃げよう......もとい、帰ろうとしていた俺を雪加は廊下まで追いかけてくると

俺の腕をぎゅっと掴んできた。中々の力だ。本気を出しても振りほどけるか

どうか分からない。


「何だよ」


「......私達の交友関係が絶望的なのは知っている筈。逃がしはしない」


「俺はもう、井上を確保したんだが。まだ働けと?」


「そゆこと」


「躊躇することなく、認めたな!?」


俺はそう言いながら掴まれた腕をどうにか振りほどこうと腕に力を入れた。

すると、雪加は何やら微笑を浮かべながら更なる力を加えて俺の腕を自分の

体の方へと引き寄せた。


「よいしょ。祐也、暴れないで」


俺は突然、体の動きを止めた。別に雪加の言葉に従った訳ではない。


「あ、あの雪加さん?」


「ん?」


「俺の腕がご立派なお胸に囚われているんですが.....」


俺の腕は幼馴染みのC以上は有ると思われる大きな胸の谷間に無理矢理

挟まれていた。暴れようにも暴れることが出来ないのはそう言う訳だ。


「当ててんのよ」


「いや、当ててると言うか挟まれてるんだが......何のつもりだよ」


「意外にピュアで童○気質の祐也なら、キョドって言うこと

 聞いてくれるかと思って」


なんつーことをほざいているんだこの厨二病は。


「色仕掛けで誘惑しようとするとかお前、そんなビッチキャラだったか?」


「別に色仕掛けのつもりは無い。手を繋いだり、抱き付いたりの延長。

 後、ビッチは取り消して。私はそんな尻軽キャラじゃない」


「俺の腕を胸に挟みながら言われても説得力無いんだが」


「そうは言っても祐也、意外と動揺してないでしょ?」


「まあ、相手がお前だからな」


流石に腕を胸に挟まれたことは無かったが、今までにも抱きつかれて胸を

押し付けられたことは何度かあった。その辺の奥手なラブコメ主人公より

耐性はある方だと思う。


「だから、胸はあくまでサブウェポン。メインウェポンは......」


雪加は思わせ振りな言葉を放つと、俺のことを『ジーッ』と見つめながら

沈黙してしまった。


「おい、雪加?」


結局メインウェポンとは何だったのか、この時間は何の時間なのか。そんな疑問を

込めて俺は聞く。しかし、雪加は依然として俺を綺麗な紅葉色の片目で見つめるだけで

何も答えなかった。しかし、その瞳の視線をずっと向けられていると何だか無性に

ムズムズというか、ムラムラとした気分になっていく。......コイツまさか。


「気付いた? 祐也って瞳フェチだから、胸より見つめられる方が効果有るの。

 このまま視線を浴びせかけられて生殺しにされたくなかったら私達に協力して」


「お、お、おま、何でそんなことを......!?」


瞳フェチ何て言う超マニアックな性癖まで雪加に知られていたとは......。

コイツは一体、何なんだ。


「祐也のことで知らないことは殆ど無いから」


「......分かった。何でお前が俺の性癖を知ってるんだとかそんなことはもう

 どうでもいい。一応、部室には残ってやるよ」


「祐也ならそう言ってくれると思ってた。ありがとう」


「お前が言わせたんだろうが......」


雪加にはやはり何時まで経っても勝てなさそうだ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ただいま」


「・・・お帰りなさい」


「玲奈、其処はご飯にする? お風呂にする? それとも......って言うところ」


「まもまもに変なこと教えんな」


「・・・まもまも?」


俺の付けた渾名に戸惑う幻中の向こうには困り果てた様子の先輩が居た。


「あ、祐也君......あはは、ごめん。皆で考えたんだけどこの部活に入部して

 くれそうな人の心当たりは無かった。私も昔は結構、友達居たんだけど

 最近は微妙な関係になっちゃって」


虐められたりする訳ではなく、微妙な関係になってしまったというのも珍しい。

先輩の人柄は決して悪くない。いや、俺の主観だがとても良いと思う。だからこそ

前科部の部長という立場になっても虐められることは無かったのだろう。


「先輩が生徒会長になれたのはその微妙な関係の友達のお陰ですか?」


「......うーん、どうなんだろ。私以外に生徒会長をやりたい人が居なかったから

 選挙というより、私を生徒会長として認めるか認めないかの投票だったんだけど

 結構票数は入ってたみたいだからそうかも」


当然だが、前科部の部長ということで先輩のことを蔑むグループは三年生にも

存在するだろう。そんなグループが幅を効かせているから先輩とあまり

関われないだけで本当は仲良くしたいと思っている者もいるのかもしれない。


「でも、そうかあ......後一人の部員、どうする?」


俺はそう言ってドス黒い溜め息を吐く。出来ないと言ったら何事も出来ないという

言葉が有る。確かにそうだ。出来ないと鼻から決めつけて努力しなければ出来ることも

出来ない。しかし、俺はこうも思うのだ。出来ないと言うくらいの物事をはたして

達成するのにどれだけの労力が掛かるのか、と。


例えば万里の長城。普通、あれだけ大きな長城を築くなんて不可能だろう。しかし

秦の始皇帝はそれをやって見せた。民衆をボロ雑巾のように酷使して。不可能に

近いことを可能にするにはこのように規格外の労力が必要なのだ。そして勿論

フェルマーの最終定理を解こうと生涯を捧げても解くことの出来なかった数学者が

大勢いたように、どれだけ頑張っても時の運等によって出来ないことは存在する。


......成し遂げるために注いだ努力は決して無駄ではないのかもしれない。しかし

少なくとも仮に俺がそんなことになったら綺麗事は言わずただただ後悔するだろう。

色々と回りくどい話をしたが、要するに俺は面倒臭そうなことはやりたくないのだ。

居るかも分からない人材を探すなんてまっぴら御免である。


「......てことを多分、祐也は今考えてる」


「何故心読まれたし」


「怠惰は破滅を生むわよ?」


「お前だけには言われたくない」


そんなやり取りを調月と俺がしていると、少し怒った様子で幻中が口を開いた。


「・・・兎に角、皆さんの知人に入部してくれそうな方がいないのであれば

 別の手立てを考える必要がありますね」

 

「と、言っても勧誘ポスターみたいな宣伝じゃ絶対、誰も入ってくれないよな。

 それだけで部員が集まるなら苦労してないし」


この学校の生徒全てが前科部を嫌悪している訳ではない。俺はそう考えている。

前科部を嫌ったり、蔑む風潮があるせいで発言出来ないだけで本心では虐め行為を

どうにかしたいと考えている者もいる筈なのだ。そんな生徒をどうにか入部させる

ことは出来ないだろうか。


「そういえば貴方......この前の朝、妙な男と一緒に居たわよね」


俺達が頭を悩ませていると調月がふと、思い出したように呟いた。

妙な男......とは、有馬のことだろう。俺と違って仮にも一年間同学年として

過ごした生徒なのに名前を知らないとは、実に調月らしい。


「見てたのかよ......通学路から大分外れたつもりだったんだが。

 何で居たんだ? もしかして、ストーカー?」


何時も調月には罵られてばかりいるので、少し仕返しをさせて貰おう。


「......っ」


「え何その反応。図星?」


「いえその......偶々、妙な男と通学路を離れていく貴方を見つけたから

 一体、どんな非行に手を染める気なのかと思って」


「雪加。翻訳プリーズ」


「祐也を通学路で見つけたから一緒に登校しようと思ったけど知らない人が

 祐也の隣にいたから話し掛けづらくて、なし崩し的に祐也を追いかけた」


流石雪加だ。


「話をすり替えないで。私が言いたいのは、あの男をこの部活に

 入部させるのは無理なのか、という話よ」


「因みに祐也君、その男の子は何て言う人なの?」


「先輩もよく知る人ですよ。有馬岬です。前科部に入部させるのは

 まず無理でしょうね」


多数派の中で孤立せずに学校生活を送りたい、そんなことを言う奴に

この前科部を勧めるほど俺も鬼ではない。


「有馬君かあ......無理だね」


「そうなんですか?」


有馬のことをあまり知らない小戸森が尋ねる。有馬と小戸森の接点は

あのメモ帳だけだったか。


「うん。陸上部に所属してるから、井上君みたいに名前だけ貸して作戦も

 通用しないし、周りに取り残されたりするのが嫌いな子だからね」


「陸上部......ですか」


陸上部で虐められた経験のある小戸森は苦い表情を浮かべた。


「小戸森が陸上部にいたとき、有馬は居なかったのか?」


「陸上部と言っても、ボクは女子だったので男子と関わることはあまり

 無かったんです。だから、多分居たんだとは思いますけど記憶には

 あまりないですね」


「成る程......てか、気付いたんだが有馬の所属が佐藤と同じ陸上部ってことは

 あいつが佐藤側の人間という可能性も有るってことだよな」


周りに取り残されないよう、多数派の意見を肯定するのが有馬だ。そしてこの前の

小戸森の話を聞く限り、佐藤はかなり陸上部の中で発言力や影響力のある人間だと

窺える。有馬が周りに煙たく思われないために佐藤側の人間になっている可能性は

非常に高い。


「つまり、その有馬岬という人物を入部させるのは難しいと?」


「ああ。確かに佐藤や近藤よりはマシかもしれないが、あいつが俺達に協力して

 くれる要素がない。それに有馬も俺とは価値観やもろもろの違いで絶対に

 相容れないと認めてた」


「絶対に......無理なの?」


雪加は静かな瞳で俺を見つめながらそう聞いてきた。


「ああ、無理だ。有馬に前科部に入れって言うのは、雪加にこの前

 決別した女子達と復縁しろっていうのと同じだ」


「そう......」


俺の例えが分かりやすかったのか、雪加は返す言葉もないとばかりに

黙りこんでしまった。少し、悪いことをした気分になる。何時もはポジティブな

先輩も今回ばかりは打つ手なしと萎んでいた。......仕方がない。


「んじゃ、ことわざクイズだ。溺れる者は?」


「は?」


俺が場を盛り上げるために楽しいクイズ大会を開催してやったと言うのに

調月は軽蔑したような視線を俺へと向けるだけだった。何て奴だ。

親の顔が見てみたい。いや、一回見たことあるけど。


「だーかーら、ことわざクイズ。後に続く言葉を答えろ。溺れる者は」 


「・・・藁をも掴む、でしょうか? どうにもならない状況になったとき

 人はパニックを起こして無意味なモノにでも縋って助かろうとする物だ

 ということわざだったかと」


「流石、幻中。正解だ。そう、今俺はこの部活が潰れてしまうかもしれないという

 事実を受けて、パニックになっている。ぶっちゃけ言うと俺、この部活好きだから。

 正常な判断を出来なくなっているんだろう。普段の俺なら絶対に出来ない、面倒臭い

 労力の無駄だ、って言うことも今の俺はしようとしている」


俺は困ったように頭をかきながら、数少ない俺が心を許した相手。そして、数少ない

心を開く相手に俺を選んでくれた自然観察部の皆に向かって別段、声を張り上げる

訳でもなく至って普通の声色でこう告げた。


「有馬を前科部に入部させる。泣き落としでも、ごり押しでもだ。先輩は少し

 気まずいだろうし、有馬と初対面の奴もいると思うが全員付いてきてくれ。前科部は

 決して不幸な部活じゃない。灰を被った生徒が三角座りをしている部活でもない。

 お前らは決して可愛そうな悲劇のヒロインなんかではなく、理不尽と日夜戦う最強の

 チートヒロインなんだって、俺は決して救世主なんかではなく異端で変態で頭の

 可笑しい鳥好きアニメ好きのサワガニ主人公なんだって証明して、あの仮面を被った

 道化師に前科部の底力を見せつけてやろう」


俺の放った言葉はまるで魔法のように、辺りを静まり返らせ誰も何も返事を

しなかった。誰も肯定も否定もしなかった。


「フフッ」


そんな中、一番最初に小さな笑い声を溢し、静寂を破ったのは意外な

人物だった。


「上里君......流石ですね」


「え、えと幻中?」


俺が戸惑ったのも無理はない。あの常に無表情で感情を殆ど見せない

無口で人見知りな幻中が静まり返った空気の中、一人笑顔で笑い始めたのだ。

それに、幻中特有の言葉の前の沈黙がない。


「......玲奈、祐也が凄いのは当たり前。私を変えてくれたのも祐也だった」


「そうですね。先輩がボクの前に現れてから、学校生活が本当に楽しくなりました。

 勿論、何時もの罵倒を取り消すつもりは微塵も有りませんが......ありがとございます」


「え、ちょっと待って? 何これ? 俺を誉め殺す流れ? やめてくれない?

 さっきの言葉、今になってだいぶ恥ずかしくなってきてんだから」


「あはは、私が言いたいことはこの前のランチで全部言ったかな~。祐也君

 これからも宜しく。私もずっと有馬君とは話さないといけないと思ってたんだ。

 だけど、ずっと逃げてた。きっかけを作ってくれてありがとう」


本当にこの流れは何なのだろうか。俺のイメージとしては俺が恥ずかしいことを

言って、調月辺りがそれを茶化して、それで有馬を誘うかどうかの議論に入る

感じだと思っていたのだが。俺は予想外の展開に狼狽えながら、まだ一言も

話していない調月の方を見た。


「ごめんなさい。私も貴方を称賛すると思ったかしら? そんなこと有る訳

 無いじゃない。此方を見ても何も無いわよ」


「ひでえ......其処まで言わなくても良いだろ」


まあ、逆に調月が平常運転で安心したが。


「ま、私が貴方をどう思っているかはその足りない頭でよく考えなさい。

 今回は貴方に従っておいてあげるわ。さっさと温泉に行くわよ」


「いやそれ有馬温泉」


兎に角俺の意見に皆、賛成らしい。結果はどうなるか分からないが駄目で元々

成功したらもうけもんの勝負だ。気軽にやろう。失うものも無いわけだし。

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