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前科部!  作者: 蛇猫
仮面と古傷
63/108

落とせ!井上憂


夏休みの迫った7月の火曜日。事は起こった。


「すまん。今までは、何とか部員の少なさを誤魔化しながらやってきたんだがこの間

 とある生徒から疑問の声が上がったらしくてな。なんで6人しか部員のいない

 自然観察部が潰されないで存続しているんだ、って」

 

「じゃあ......自然観察部は壊されちゃうんですか?」


苦虫を噛み潰したような顔でことの顛末を語る宗里先生に白嶺先輩が悲しそうに聞く。

その瞳は落ち着いているようで、よく見ると濡れていた。


「......どうにか、存続出来るように私は頑張るつもりだが。分からない」


「チッ」


調月は相変わらずのキツイ目付きで宙を睨むと、小さく舌打ちをした。


「・・・部員を増やせば問題ないのでしょうか」


「ああ。部員さえ増えれば、どうにかなると思う......が、最低でも

 二人は要るだろうな」


『二人』普通の部活であれば、友人を少し誘うだけで集まる人数だ。しかし、この

奇妙な部活。自然観察部にその常識は通用しない。二人も集めるのはまず無理だろう。


「......落ち込んだり、事の原因になった生徒に恨み節を吐くのは生産性の欠片もない。

 後から入った私が偉そうに言うのは間違っているかもしれないけれど自然観察部を

 存続させたいのであれば、動くしかない。そして貴方達にはその行動力が有ると

 思っている。違う?」


放課後、理科室に集まった全員が絶望を感じている中、一番最後に入部した

雪加だけが落ち込むことなくそんな言葉で皆を激励した。


「そうは言うけれど勘解由小路さん、事態を打破する考えは有るのかしら?」


「全く」


調月の何処と無く挑発的なその質問に雪加は即答をした。


「......ッ! 考えも無いのに勝手なことを言うなんて無責任極まりないわ。行動力が

 有っても、策が無ければ無意味でしょう? それとも何? 貴方は私達に意味の無い

 悪足掻きをしろと言うの?」


調月は未だかつて見たことのないくらい、目を見開き、感情を露にした。その様子からは

焦りや不安のような感情が見え隠れし、俺の目には雪加に苛立っている訳ではなく、単に

感情の整理が付いていないだけのように見える。どちらにしても調月の珍しい一面だ。


「調月」


俺は静かなトーンでその名前を呼ぶ。


「何!?」


「一旦、落ち着け。お前らしくない」


俺は調月の肩に手のひらを乗せて、出来るだけ優しい口調で言う。


「......ごめんなさい。私としたことが冷静さを失っていたわ。どけて」


調月は俺の手のひらを片方の手で払うと、バツが悪そうに顔を逸らした。


「ま、まあ、まだ本当にこの部活が潰されるかは分かった訳じゃないんだ。あまり

 焦らないでくれ。さっきも言った通り、私も頑張ってみる。そ、それじゃあ私は

 仕事に戻るからな」


調月と同じように宗里先生もバツが悪そうに、手を振りながら理科室から

出ていってしまった。調月が怒鳴って、先生が去った教室には何とも微妙な

雰囲気が漂っている。


「そういえば、小戸森? さっきからずっと黙ってるけど、どうかしたか?」


「・・・・」


俺が心配して、そう聞くと返ってきたのは沈黙だった。......小戸森よ、俺に沈黙は

悪手だぞ。普通の奴なら確かに沈黙を返されると困るだろう。しかし、俺は一昔前の

ラブコメ主人公に多い何の変哲もない普通の高校生でも無ければ、近年ネット小説に多い

ただの陰キャでもない。この際言おう、俺は『変人』だ。殆どの場合において俺は

少数派。マイノリティの更に向こう側の存在である。


そして、そんな変人の俺は小学生の頃から超絶寡黙少女雪加によって鍛えられてきた

甲斐あって無口な奴や無視にはめっぽう強い。最近は幻中と付き合ってるお陰で更に

無口キラーに磨きが掛かってきている気がする。


「......さては俺達に後ろめたいこと、若しくは言いづらいことが有るな?」


「い、いや、そんなことは!」


「白嶺先輩、出番です。小戸森の今の感情を読んで下さい」


必死に俺の言ったことを否定する小戸森を見て、俺は先輩に指示をする。

今の今まで忘れていたが、先輩は人の感情をかなりの精度で読めると言う

特殊能力を持っているのだ。


「え、えと......焦ってる、とかかな?」


「見たら分かる」


折角、先輩の能力の出番が来たと言うのに雪加はあくまでも冷静にツッコみを入れた。


「ほお~? 何を焦ってるんだ? なあ?」


俺は小戸森に詰め寄りながら、問い詰めた。


「......ボク、先輩のこと少し嫌いになりました」


「え」


「その、皆さんすいません。今回の件はボクが原因でも有るんです」


さらっと俺に衝撃的な発言をしておきながら、小戸森は頭を下げてその事に

ついて詳しく説明をし始めた。


「つまり、また佐藤の奴が絡んできて、ウザいから放っといたら何故か

 逆ギレしてこの部活を壊そうと教師に色々言った......と」


「......はい」


如何にも佐藤がやりそうなことだ。


「でも、別に廻るんの責任じゃないでしょ?」


「い、いや、ボクがもっと上手く立ち回っていればこんなことに

 ならなかったかもしれないですし......」


「・・・小戸森さん」


「ひゃ、はい!」


何時も他の部員に自分から話し掛けない幻中に話し掛けられて驚いたらしく

小戸森はすっとんきょうな声で返事をした。


「・・・小戸森さんに非はありません。仮に私達が貴方に非が有るとして

 責めるのならば、私達は部活のために気の進まないことでも強制させるような

 人間、ということになります。皆さんはそのような方ではありませんよね?」


幻中の言葉に全ての小戸森と幻中を除く、全ての部員が頷いた。


「小戸森さんは、全然悪くないから安心して良いよ」


「私も同じことをすると思う」


「......佐藤恵美とかいうのに苛ついてきたわ。山本夢華のように

 退学させてやろうかしら」


「だとよ。責任を感じて涙目になってる小戸森も新鮮で良かったけど

 そろそろ、何時ものジト目に戻ってくれ」


俺達の言葉を聞いた小戸森は小さく笑った。


「皆さん、ありがとうございます。でも......どうしますか?」


「そりゃ、部員を集めるのが一番、手っ取り早いだろうな」


一部の教師や生徒がこの部活を壊そうとしている理由は部員が少ないから

というものだ。部員さえ増やせば文句も出ないなろう。


「・・・ですが、その部員は......」


「俺に一人だけ心当たりが有る。調月、付いてこい」


「何で上から目線なの?」


「お前が何時もやってることだから。ということで、どうにか俺達で

 部員を一人確保してきます」


俺はそう言うと、動きたくなさそうな調月を引っ張りながら目的の

場所へと急いだ。あいつならもしかして......という、希望を抱きながら。


「というかその心当たりとやらは一体、誰なの? 貴方に私達以外の

 知り合いが居るとは思えないのだけど」


「うっせえ。誰かは......まあ、見てからのお楽しみってことで」


「私はサプライズが嫌いなの。早く教えてくれないかしら? それにわざわざ

 私が付いてくる必要性が感じられないわ」


ギャアギャアと喚く調月を無視しながら、俺達が到着したのは2年生の教室前の廊下。

丁度その教室から数人の生徒が出てくるところで、その中には見覚えのある男もいた。


「井上」


「......? ああ、上里か。それに調月も。何か有ったのか?」


「貴方......まさか」


調月が驚愕の表情を浮かべる中、俺は口許を緩ませる。俺は今日、廊下の張り紙を見て

井上が補習だと言うことを知っていたのだ。どうにか、間に合って良かった。


「井上って、帰宅部だよな?」


「......ああ、そうだが?」


その言葉を待っていた。俺は満面の笑みを浮かべて口を開く。


「いや~、やっぱり部活には入っておいた方が良いと思うぞ? でも今から部活に

 入ろうと思ったところで受け入れてくれる部活は殆ど無いよなあ。分かる。

 非常に分かる。其処でお勧めするのが......」


「いや、俺は学校外の習い事でサッカーに」


「其処でお勧めするのがアットホームで楽しい部活。自然観察部だ。

 超個性的な仲間が井上を迎えてくれるぞ! よし、早速入部届けを......」


「待て待て待て! 一体、どうしたんだ急に!?」


勝手に話を進めていく俺を井上は慌てて止めた。ごり押し作戦は失敗だ。

まあ、この作戦が失敗するのは想定内なので別に問題は無い。


「......うちの部活、部員が少ないって理由で廃部にされてしまうかもしれないんだ。

 俺の愛したあの部活を守るためにはお前の力が必要なんだよ!」


ごり押しが通じなければ情に訴えれば良いじゃない。これはそんな作戦だ。

ドラマ仕立ての演技で見事、井上を落として見せる。


「いや、でも......俺はサッカーが」


少し、悩んでくれているようだがこの作戦でも無理か。ならば、虎の子の

必殺作戦を使うまで。


「別に幽霊部員でも問題無いんだ。たまーに、顔さえ出してくれればな。

 そ、れ、に、俺は兎も角として調月にはお前......借りがあるよな?」


俺はまるで悪魔の囁きか何かのように井上を誘う。俺の言った『借り』とは山本夢華の

ことだ。調月が俺の無罪と山本の有罪を証明してくれなかったら今頃井上はとんでも

ない女の彼氏として山本に貢ぎ続けていたことだろう。


「成る程......そのために私を呼んだのね。貴方にしては考えたじゃない」


「だろ?」


俺と調月は二人して下卑た笑いをした。そして、気になる井上の反応はと言うと

何故か小刻みに頷いている。一体、何を考えているのだろうか。


「......それもそうだな。分かった。名前だけで良いなら幾らでも貸す。調月には

 大恩が有るし、上里には悪いことをしたからな。これで借りを全て返済出来る

 なら安いモンだ」


「「......は?」」


俺と調月は驚き、顔をしかめ、言葉を重ねた。井上は今、何と言った?


「いや、何で其処で驚くんだよ。お前らが入れって言ったんだろ?」


「まあ」


「そうなのだけれど......」


「でも」


「そんな軽いノリで」


「入部を決めるのは」


「どうかと思うわよ? しかもただの部活ではなく」


「前科部だぞ?」


俺と調月は互いに言葉を紡ぎ合い、井上に早まるなと伝える。井上は俺と

違って転校生ではない。前科部に入部するリスクはよく理解している筈だ。


「いや、その合わせ技みたいなの何なんだよ......」


井上は呆れたようにそう言うと、真剣な顔で言葉を続けた。


「俺が入部するって言ったのは前科部のことを承知の上でだよ。俺は特定の

 部活に入部しただけで、離れていくような友達と付き合うつもりはない」


そんな潔さに溢れた言葉を宣言する井上の表情はとても爽やかだ。


「......それ、本当に言っているのね?」


「ああ。上里や調月もそんな感じだろ?」


俺の考えとは少し違っているが、必要の無い『友達』との関係を無理に

維持しようと思わないところは、俺とよく似ているように感じた。


「ええ。おおよそ同じよ。私から離れていく者は離れていけば良い。

 友達、とやらにそれ以上の価値を見出だしていないわ」


「毒蛇に同じ」


「なら、別に良いだろ。それに、そもそもお前らが入部しろって言ったんだから。

 ......もう、こんな時間か。俺はサッカーに行くから、明日までに入部届けを

 用意しておいてくれよ!」


井上はそう言い残すと、風のように立ち去っていった。何だか上手く

行きすぎて拍子抜けだ。


「取り敢えず、喜んでいいんだよな?」


「ええ。一先ずわね。後、一人よ」


「二人目は流石に心当たり無いからな......」


こればかりは他の奴らの交友関係に期待するしかないだろうな、と

思いつつ俺は一時の喜びに浸った。

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