小戸森廻瑠の憂鬱
「ちょっ、何で無視するんですか!? ボクですよ! 小戸森廻瑠!」
「めぐめぐ? 知らない子ですね」
俺は目を泳がせながらも、静かに小戸森の横を通過して歩を進めた。
ヤバい。絶対に勘違いされた。
「知らない子なんだったら、何で渾名知ってるんですか!」
「はいはい、知らない、不知火」
「夜間の海上に起きる異常屈折現象!?」
小戸森のツッコミにはやはりキレがある。割りと本気で芸人でも
目指して見たらどうだろうか。
「ということで、帰らしてもらいますね」
俺は張り付けた仮面の様な笑顔を浮かべて、そう言った。
「ま、待って下さいよ! 先輩、幻中先輩とこんな夜まで何してたんですか!?
というか、先輩と幻中先輩ってプライベートで会う仲だったんですか!?」
小戸森は慌てた様に聞いてきた。
「安心しろ。俺と幻中が学校以外で会ったのは今回を合わせて2回だけだ」
俺は観念したように歩くのを止め、そう言って小戸森の方に向き直った。
夜の闇と同化している小戸森の髪は艶が出ていて、美しかった。
「そうですか......因みに二人で何をしてたか聞いても?」
「幻中の家で夕飯ご馳走になってた」
下手に話の一部をぼやかすと誤解を招くかもしれない。
別にやましいことなど何も無いのだからいっそのこと全て明かしてしまおう。
「へ~そうなんですか......んんっ!?」
「どうした? 小戸森」
「いや、どうしたもこうしたも無いですって! 先輩、幻中先輩の家に
お邪魔してたんですか!?」
「ああ。凄く綺麗だったぞ、幻中の家」
信じられないとばかりに目を見開く小戸森とは対称的に俺は驚く程冷静だった。
もう、どうなったって良い気がする。
「なななっ!? う、嘘......」
「本当。あの幻中が部屋を散らかしてるように思えるか?」
「いや、そっちじゃなくて......もう良いです」
小戸森は溜め息を吐いてムスッと頬を膨らました。
何やら怒っているようだ。
「何お前、妬いてんの?」
「そういうのじゃありません。先輩が誰の家に行こうがボクはどうでも
良いですから。そんなことより、幻中先輩に先輩手出ししてませんよね?」
「してません。お前は俺のことを何だと思ってるんだよ」
「変人」
小戸森は条件反射としか思えないスピードで即答した。
「ひでえ」
「.......ふんっ、だ。先輩のことなんて知りません」
「いや何で俺が怒られてるんだよ。やっぱり妬いてるだろ、お前」
理解しがたいとばかりに俺は先程の小戸森の様に溜め息を吐き
からかように呟いた。すると、威勢の良かった小戸森は急に黙り込んだ。
「......そうですよ」
そして、数秒間の沈黙の後に小戸森は静かにその言葉を肯定した。
その肯定は俺の予想だにしないものだった。
「はい?」
「ボク、先輩のこと嫌いじゃないですから。嫉妬してるんだと思います。
だって......気になる人が他の女の人の家に行ってたら悔しいじゃないですか。
先輩が好きなのはどうやら異性の人みたいですし」
「こ、小戸森......?」
暗闇でよく見えないが、その声は心細そうに震えていた。
「この気持ちが恋愛感情なのか、はたまた全く別のものなのかは
まだ分からないですけど......ボクは少なからず先輩のことが好きなんです」
此処まではっきりと好意を伝えられたのは恐らく初めてだった。
「それは......」
俺が何と返事をして良いのか、分からず口ごもっていると小戸森は
今にも壊れてしまいそうな愛想笑いをした。
「......ボクにそんなこと言われても困りますよね。先輩がボクのことを本当の
意味で女性、いや恋愛対象になる可能性のある存在と思っていないことは何と無く
知ってますし。困らせてしまってすいません」
「い、いや。そんなことは......」
「さっきも言いましたが、ボク自身まだ本当に先輩のことが好きなのかは分かって
ないんです。何時か、また心の整理が出来たらきちんと告白させて貰いますね」
小戸森は俺が殆ど受け答えをしていないにも関わらず、早口で俺を捲し立てて
勝手に話を纏めてしまった。その様子はまるで俺が発言することを阻止しようと
している様にも見えた。
「小戸森」
「は、はい......」
「俺もまだ、全然回答なんて出ていないから焦らなくて良い。ゆっくりと自分と
向き合ってくれ。向き合ってる内に俺の短所が見えてきたり、他の人間の方が
魅力的に映ってくる可能性だってある。俺もよくよく考えてみるから」
「......はい」
小戸森はうつむきながらコクリと頷いた。思わぬ場面での告白だったが
何とか拗れることなく終息して良かったと思う。
「それで? 小戸森はこんなところに何しに来てたんだ?」
「ああ、幻中先輩のマンションの近くの銭湯に行ってたんですよ。
丁度、今お風呂が故障しちゃってまして」
「つまり、めぐめぐはお風呂上がり......どうりで髪に艶が有るわけだ。
風呂が壊れてるのは大変だな」
「そうなんです。ボク、お風呂大好きなので1日に1回でも
お風呂に入れなかったら嫌なんです」
芋天好きだけでなく、お風呂好きとは.....どれだけ可愛いポイントを
引き上げるつもりなのだろうか。
「でも、めぐめぐの場合男に間違われそうだよな」
「どういうことですか! ......まあ、お客さんに声をかけられたことは
無いわけでも無いですが。ボクってそんなに男の人っぽいですか?
一人称除けば、髪もセミロングですし男の人っぽい要素無いと思うんですが」
「いや~やっぱり、むね」
「センパ~イ?」
「さと先生は男に見間違われなさそうだよな~。アッハッハッ」
この世の物とは思えない鬼のような殺気を感じた。
やはり、めぐめぐの前で胸の話は禁句だ。
「全く......好きで、小さい訳じゃないんですからね?」
「雪加は小さい方が良かったって言ってたぞ?」
「え、何でですか?」
「邪魔だし、貧乳の方が需要があるとかなんとか......」
自分で『貧乳は希少価値。ステータス。つまり、才能』とかほざいてた
奴だからな。それなりに拘りが有るのだろう。
「何ですかそれ」
「まあ、色々有るんだろ。ヲタク界隈では貧乳の需要の方が
高い場合も有るし。俺もどちらかと言うとそうだし」
「あ~何か、前そんなこと宣ってましたね」
小戸森は呆れたように此方を見つめてくるが暗闇のせいで
折角のジト目はあまり見ることが出来なかった。
「ま、人それぞれってことだよ。小戸森も別にコンプレックスは
感じなくても良いと思うぞ?」
「そうですね......って、先輩。それセクハラですからね!」
「ハイハイ、すまん、すまん」
「本当に分かってるんですかね......そういえば先輩、もうすぐ
期末テストですね。自信は有りますか?」
期末テストを受けるのは小戸森も同じだろうに、小戸森の言い方は
何処か他人事のようだった。
「まあまあ、だな。中学時代雪加に色々と叩き込まれたお陰で勉強は
苦手じゃない。特別、得意でも無いが。中の上くらいはいけると思う」
「そうですか。私はあんまり勉強は得意じゃ無いんですよね」
「そうなのか?」
偏見かもしれないが小戸森はあまり馬鹿そうには見えない。どちらかと言うと
成績優秀な優等生のイメージだ。やはり、優等生というところでは先輩&幻中の
タッグには勝てそうに無いが。
「はい。滅茶苦茶勉強が出来ない訳じゃないんですけど、あまり成績の方は
良くないと言うか......勉強はしっかりとやってるつもりなんですが」
「それだったら、優秀な教師の方をお呼びして学習会をするつもりなんだが
小戸森も来ないか?」
「優秀な教師の方、ですか?」
「ああ。優秀な教師。その名も勘解由小路雪加、というのも雪加の奴が幻中とか
調月を誘って学習会するって言い出したんだよ。高1の勉強なら雪加先生に
掛かれば教えるのなんて余裕だろうし、小戸森も来ないか?」
少々、雪加のハードルを上げすぎた感は否めないが恐らく彼女なら大丈夫だろう。
「学習会、ですか......そうですね。じゃあ、お邪魔させて貰いましょうか」
「おう。じゃあ、日程決まったら言うな」
「はい。楽しみにしてますね」
小戸森はそう言うと小さく笑った。今日の夜からでも雪加に連絡をして
日程を決めることにしよう。皆の日程を合わせるのは大変そうだ。
いやあ......ポイントが増えない。あ、滅茶苦茶久しぶりに感想を頂いて目から生理食塩水を流しました!
ありがとうございます! いや、それにしても増えない! 私の執筆能力の低さが原因だとは分かっているのですが。
皆さんが思わず評価やブクマ、感想やレビューを書きたくなるような小説を書ける小説家を蛇猫は
目指しますので、未来への投資の意味も含めてどうか宜しくお願いします。




